夜、急に目が覚めて、ベッドから起き上がった。
時計は既に2時過ぎを指している。いつもならまた布団に潜りこむところだけど、
床に降ろした足は自然とリビングに向かっていた。ひどく喉が渇いている。
見慣れたガラス戸を開くと、テーブルの端に蛍光灯の白い明かりが掛かっていた。
台所からがたがたと、何かがぶつかるような音が聞こえる。
「誰かいるの?」
声をかけると、冷蔵庫の下でもぞもぞと何かが動いた。
「あっユズー」
「…姉ちゃん?!」
パジャマ姿のまま床に座り込んでいた姉は、どうしたのと言ってにこにこ笑った。
やけに機嫌が良い。そっちこそ、と言いかけ、床に転がっている緑の瓶に目を留めた。
まさか――…
「へへー、ユズもどぉ?」
姉ちゃんが嬉しそうに笑って差し出したのは、匂いのきつい安酒だった。
「どう、って…未成年に酒勧めるなよ。…つーか、アンタも高校生だろうが!」
一通り突っ込んだところで、大きくため息を吐きだす。潤しに来たつもりが、ますます喉が乾燥している。
姉ちゃんはけたけたと笑って、鼻歌交じりでグラスに酒を注ぎ始めた。完全に酔いが回っている。
「はーい、どうぞー」
笑顔で酒を手渡され、俺はグラスを受け取るしかなかった。
前にもこんな事があったような気がする。
あの時は酒じゃなくて、ジュースだったけど。
俺のは缶ごと全部床に零しちまって、姉ちゃんは自分の分を分けてくれたんだったか。
そういえば、あの時も笑ってた。
「ユズ、大きくなったよねー」
身長を追い越した頃から、よくこんな事を言われるようになった。
姉ちゃんは中学の頃から、あまり身長が変わっていない。これから伸ばすと言って
何度か苦手な牛乳を飲んだけど、結局身長は中2の頃に止まった。
「大きくなったね…」
嬉しそうにでも少し寂しそうに、目を細めて笑う顔はどこまでも「姉」のもので、泣きそうになる。
ぽんぽんと肩を叩く手がもどかしくて堪らなくて、俺は隣に座っている姉ちゃんを、後ろから抱き締めた。
「んーユズぅ?」
小柄な姉ちゃんの身体を強く抱き締めながら、ほんのり桃色に色づいたうなじに口付ける。
ぴくんと腕に収めた肩が小さく跳ねた。手に持った酒が微かな揺れに音を立てる。
「こらー。ユズ、酔っ払ってるでしょ」
ふざけていると思ったのか、姉ちゃんは笑って俺の腕に手を掛けた。
答えずに細い手首を引っ張って、身体ごと自分の方へと向けさせる。
そのまま俺は、姉ちゃんの背中を散らかった床に押し付けた。
姉ちゃんのことが好きだった。いつも後ろをくっついて離れず、真似ばかりしていた子供の頃。
家族として親しんでいた存在が、性欲の対象に変わったのは幾つの時だっただろう。
何度も妄想の中で姉を犯し、その度罪悪感に苛まれていたのはいつだった?
どれだけ身体を重ねても、俺たちの関係は変わらない。
思い知らされるだけだと分かっていても、それでも俺は姉ちゃんを抱かずにはいられない。
唇を寄せ、赤い痕を刻んでいく。俺が愛した証を、至るところに。
俺は何かを掴む動きを繰り返す姉ちゃんの手を、自分の背中に回した。
「ゆ、ず…」
充血した唇が何度も形を作り、掠れた音を漏らした。
うわ言のように名を呼ぶ声に、突き上げて答えてやる。
「あ、は……ぁ、ユズ、ぁあ…」
あどけない顔に不釣合いな、いやらしい声。もっと、と快楽をねだる言葉。
暗い部屋にきつい安酒の匂いと、卑猥な水音が充満する。
「や…ダメ、も…あた、し…あぁあっ」
下にした身体ががくがくと震え、俺を受け入れている壁が激しく収縮する。
一瞬、目の前が真っ白になって、意識が飛ぶ。ひどく熱くて、気持ちいい。
弛緩する身体を支えながら、ひくつく奥に体液を吐き出す。
「……ばか、だね」
繋がったまま姉ちゃんは乱れた息を整えながら、ぽつりと呟いた。
「ほんと……バカ…みた、い…」
そう言って、姉ちゃんが俺の頭を何度も撫でる。
視界の端に移る、散乱したグラス。床に飛び散ったアルコールが鼻につく匂いを放っている。
母さんが起きる前に全部片付けなきゃならない。でもとりあえず今は何も考えたくなかった。
昔と変わらない優しい手がひどく心地よくて、俺は姉ちゃんを抱き締めながら、目を伏せた。
<おわしっ>