俺の名前は夏目智春、波乱万丈な青春を乗り越えて生きる35歳の男だ。  
青春時代は思い出すだけで過酷な日々だったが、同時に生涯の伴侶を得た貴重なものだった。  
それはまあ、死に掛けた。何回も何回も、理不尽に死に掛けた。  
だがその報酬が女優も霞む美しさで家事万能、母性に溢れるスタイル最高の奴隷妻なら十二分だと思う。  
三人の娘達も妻に似て、とても愛らしい。きっと将来は妻と同じく美しくなって、多くの男どもを泣かせるのだろう。  
そんな幸せの維持にはヤの付く自由業を相手に交渉したり、脅したり、戦ったりしなければいけない。  
別に大したことでもないが。  
正直、今更拳銃や重火器を持ち出されても脅威を感じない。  
妻と同じ悪魔の力を持ち出されても、多少梃子摺る程度だ。  
豊富な実戦経験と理不尽に振り回された経験があれば、その程度は脅威に値しないのだ。  
その程度では三人の愛らしい天使達に下着を別々に洗われたり、避けられたりするかもしれない恐怖に比べるべくもない。  
学生時代にはまるで無頓着だった御洒落には人一倍気を使い、その上で身体を鋼の様に鍛えている。  
それにしても昔を思い出すと、つくづく自分の無警戒さに呆れる。  
身体もまるで鍛えていないし、シングルアクションで使える魔術訓練もまるで行っていない。  
青春時代の死に掛けた経験は、その無警戒さと魔術に対する知識のなさが原因だとも言えるだろう。  
 
しかしそれらも含め、過去は過去。現在は現在で、とても充実したリアルだ。不満は全くない。  
にも関わらず何故過去を回想しているかというと、現在進行形で過去に強制的に遡りそうだからだ。  
現在の自分の充実さを再確認する事で、拡散しつつあった自我を再構成する。  
「こんなに充実している日々を、手放してたまるかぁっ!」  
気合の咆哮を上げ、改めて眼前の宿敵を見据える。  
そう、宿敵。今自分の眼前に相対する、その男の名は塔貴也、R塔貴也がこの騒動の首謀者。  
既に状況は佳境、一対一で決着を付ける状況。  
「くっ、流石は!常人なら、過去への未練から意識を手放すものを!だが君といえど僕の理想、僕の夢、僕の野望は否定させない!」  
「理想だと!冬琉さんの身体を散々に弄んでいるくせに、そんなものに傾倒するなら寝取らせてもらおう!」  
二人の夜の生活については、妻達の技術交換会で御互い熟知している。  
「そう、冬琉は素晴らしい!更に、娘も素晴らしい!だからこそ、諦められないんだよ!」  
「諦めるだと!?この世は美しい女性とSEXすることに比べれば、全て些事だ!娘の鑑賞は除くがっ!」  
思わず、魂の叫びを上げた。  
「その通り!この世の全ては、究極的にはその二つを得る為の過程に過ぎない!」  
一瞬で肯定された。しかし同じ価値観を共有しているなら、今回の行動は矛盾している。  
 
「ならば、何故!?」  
「姉妹丼だよ!」  
全ての疑問が、氷解した。  
「姉妹丼……確かに、それは容易には諦められない道だろう!だが、奏には姉妹はいないから俺には関係ない!」  
「甘い、甘いなっ!記憶を得たまま過去に遡る事で、一巡目の嵩月さんを二巡目の嵩月さんとサンドイッチも可能!」  
その言葉が、魂を炎上させた。  
「なっ、なんだと!そ、そこは盲点だった!本人による、姉妹丼だとおおおぉぉぉっ!この変態め!素晴らしいじゃないかっ!」  
「ありがとう!最高の褒め言葉だよ!この通り!既にアニア君の手によって、ベリアルドールのスケープドールは完成済!テイッ!」  
思わず身体強化と加速の魔術を使い、その手から放たれた物体を掴み取った自分を誰が責められるだろうか。  
神ですら操れるであろう、悪魔を超越した話術。  
そして、その話術が生み出した時間がチェックメイトを許してしまう。  
「しまった!くっ、こうなれば過去で奏相手に鍛えに鍛えた、嵩月流雌奴隷調教術で寝取ってやる!」  
「それは本物だよ!だから、相互不可侵でよろしく!ちゃんと対価を与えないと、君は信用できないから!」  
紳士協定が結ばれた瞬間だった。そしてその直後、空間ごと巻き込んだ巨大な奔流に飲み込まれた。  
「ぐうぅぅぅ、実に良く考えられた計画だった……。ここまで念密で人の感情に訴える策は、流石に初めてだ……」  
こうして夏目智春は、記憶と経験を持ったまま過去に遡ったのだった……。  
 
 

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