超弦重力炉の事件から一週間。僕は結局嵩月をモノに出来なかった。
もともと僕にその気は無いので、樋口の思惑通りにもならず、佐伯兄妹に殺されるような事にもならなかったので助かった。と言いたい所だ。
それなのに操緒は『やっぱりトモはへたれ童貞だ!』と嬉しそうに僕に罰ゲームを提示してきた。その内容というのは…
『うーん。トモと出掛けるのって、久しぶり!』
操緒が頭の上で手を組みながら言う。出掛けるだけなら、つい一週間前に海に行ったじゃないか。と言いたい。
結局、罰ゲームは次の週に僕と操緒の2人だけで遊びに行く事。好きなときに体を操る。だけでは物足りないと思ったらしい。因みにそっちの約束も生きているらしいが…
『トモ―早く―』
操緒はなんだか凄く嬉しそうだ。
僕としてはそんな彼女を見るのも久しぶりなので嬉しい。
なんだかんだで、飛行機の事件からこの間の事件まで、実はギクシャクした関係だったのだと感じる。
しかし問題が解決したわけではない。ペンションのバイトは決して成功とは言えず、サボる結果になった日もちらほら。
アニアの分の経費を出していたら貯金は殆ど残ってはいなかった。
そのアニアは姉のクルスティナの形見のディスクの解析を朱理さんの教会でやっている。鳴桜邸にはパソコンが無いのだ。
耳年増の天才金髪悪魔少女は、「朱理に厄介になっているんだ、これ以上私に気を使わせるな」とか言っていたがつまり、本当に気兼ねなく操緒と2人っきりという事になる。
にしてもはしゃぎ過ぎな気がするが…
『気づいてないの?』
操緒が少し不満げにいう。
『操緒がみんなに見えるようになってから2人っきりで出掛けた事なんてなかったじゃん』
ああ、そうか。最後に2人っきりで出掛けたのは、鳴桜邸が嵩月組と第一生徒会、朱理さんの三つ巴に巻き込まれた日の昼間だった。と思う。
それ以降は良くも悪くも、(実際には悪い方ばかりだが)美少女に囲まれて命掛けの事件に巻き込まれて来た。
こんなふうに素直に楽しめる休みなんてなかなかない。
多分操緒の方も独り言状態になる僕に気を使ってくれて、最低限のわがままを言わないで居てくれたのかもしれない。
しかし、今はスタビライザーがある。操緒は周囲に存在を認知してもらえる。
馬鹿みたいに僕が一人で二枚のチケットを買わなくても間違いなくそこには二人居るのだ。
「わかったよ…」
僕は立ち上がる。操緒が幽霊になって初めてのまともな“デート”それは僕にとっても初めて、“普通”の高校生としての休日だった。
最初に行ったのは映画館だった。
操緒曰わく、この間の“リベンジ”らしい。
チケットを買い、劇場に入る列に並ぶ。
明るすぎる場所では流石に幽霊としての存在感が出てくるが薄暗い映画館なら仲の良い高校生にしか見えない。
それでも後ろの人が操緒を透かしてスクリーンを見る事もありえるので、後ろの席に座る。
『楽しみだね』
その言葉と同時に館内の照明が落ちる。
僕達の見た映画はSFだった。隕石の落下によって地球が滅びの危機に瀕すると言うありがちなもの。
だけど僕達にはそれが人事とは思えなかった。
最初は信じていなかった。
一巡目の世界…二巡目…悪魔…
そして機功魔神。それを見て初めて信じる事が出来た。しかし…
朱理さんや佐伯兄は何故滅びたかは教えてくれなかった。彼らも知らないのかも知れない。
もしかしたらこんな隕石によるものかも知れない。と、思っていた。
あの男、加賀篝隆也に会うまでは。
彼は言った。近い内に異なる世界同士、膜宇宙同士がぶつかる。それが原因で世界が滅びると。
洛高の生徒会とその上部組織。
未だに僕には正体の計りかねる存在だが、彼らが何を持って滅びを回避しようとしているのか。
悪魔、機功魔神の存在の意味はどこに有るのか。解らないことだらけだ。
でも、もし、滅びを回避出来たら、そうすれば機功魔神の存在は必要無い。そうすれば機功魔神も副葬処女を、操緒を解放してくれないだろうか?
いや、そんな事は甘えだ。幻想だ。
もしそうだったとしても確実に後二年間はこの力、機功魔神を黒鐵を使い続けなければいけない。
そうしたら操緒は多分消える。魂をすり減らして。
だから見つけなければならない。副葬処女を機功魔神から救い出す方法を…
確かに僕達には、時間が無い。
それからも僕達は予算の許す限り遊んだ。つまりは余りたいした事は出来ない。せいぜい、ウィンドウショッピングだ。
こればかりは操緒は完全に僕依存だから仕方無い。
しかし、操緒がいるとは言え。幽霊少女と女物の服を見るのはキツい。
何故かしっかり僕に見ろと言っていたし。
『トモ!』
唐突に名前を呼ばれる。
『あれ、乗ろう?』
操緒か指差していたのは観覧車だった。
『うわぁ、きれ―』
操緒は硝子にへばりつくように眼下の街を見下ろす。
「別に初めてって訳じゃ無いだろ?」
『そうだけど、それでも何年振りか解らないよ』
まあ、そんなに何時も乗れる物でも無いけど。それにしても、ガラス通り抜けたりしないのか?
『へーき、へーき』
根拠の無い自信で答える。良く見ると操緒の服装が変わっていた。
さっき店でみた奴だ。どうやって着替えたんだ?
『しっかりトモが頭に焼き付けてくれたからね』
操緒は上機嫌で言う。もしかして毎日変わる服装も、僕の脳内依存なのか?
確かに佐伯兄は哀音に趣味全開のフリフリドレスを着せていたし。
初めて会った時は操緒の着てた制服に対して僕の趣味か?と聞いてきていた気がする。
「操緒…」
不意に気になって名前を呼ぶ。
『何?』
「もし、無事に生き返れたら何がしたい?」
そう、今まで僕の主観で語ってきたが、操緒は僕と一緒で本当に良かったのか?
彼女にも彼女の道が有った筈だ。
しかし操緒は…
「今更いいよ。というか生き返れたら考える」
操緒らしい答えだった。だけど人並みに恋愛とかにも興味ある筈なんだが。
「うーん。ずっとトモに憑いてたせいかな?前に言ったでしょ。トモは女の子に幻想抱きすぎって。逆に私は男の子には幻想抱いてないんだ」
恋愛なんて興味無いよ。と、そう言う。そして続ける。
『それにトモを貰ってあげられる人はそんなに多く無いでしょ?』
どういう意味だ?それは?
『朱理さんから聞いたよ〜操緒が出て来れない間にトイレの処理されたって。それに嵩月さんには薬を入れられたって』
「ちょっと待て!?」
何故知ってる。というか原因は朱理さんや律都さん辺りだろう。検討はつく。それと僕を貰う話はどこで繋がるんだ?
『だって操緒はトモの事、殆ど全部知ってるし。朱理さんや嵩月さんにそんな恥ずかしい目に逢ってる子、彼氏にしたいとは思わないと思うな〜』
久々に自分の不幸体質を思い出す。
せっかく今日ぐらいは普通て居られると期待していたのに…わざわざ思い出させないでほしい。
『ゴメン、ゴメン』
操緒は悪気がなさそうに言う。
『お詫びに良いことしてあげる』
鳴桜邸に帰って来た僕は何故か足を縛られた状態でベッドに寝かされていた。
誰の仕業かと言えばスタビライザーを使った操緒が僕の手で行った物だ。
そして関心の本人は何時もの無防備なパジャマの格好で僕の目のに浮かんで居た。
軽くはだけて居るのはわざとだと思う。
そして僕の両手は未だに彼女に掌握されたまま…
その手はゆっくりと僕のズボンをずらす。そして、一緒にパンツまで。
つまりは僕は彼女の体を見ながら、彼女に掌握されたままの手で事に及ぼうとしている訳で。いや事に及ぼうとさせられているが正しいのか?
僕はまじまじと僕のモノを見られた恥ずかしさで顔を逸らした。
『トモ…かわいっ!』
誉められている訳では無い。だろうな。そんな事を考えていたら突然、操緒は僕のモノをしごきだす。手の感覚は勿論無い。
「あっ…」
情けなくも声が出てしまう。
『もっと喘いで…操緒に聞かせて』
操緒が今まで言った事の無い事を聞いたことの無い声で言う。実際かなりエロい。
これじゃあどっちが女の子か解らない。
「くぅ…」
操緒の愛撫は上手い方では無いのかも知れない。しかし状況がそれを有り余る程カバーする。それに、少しずつ上手くなって居る気も…
「み、さお…止め…」
僕は最後まで言い切る事無く果てた。
『早いよ〜』
文句を言う操緒。僕にしてみれば、知るかという所で有る。
それに操緒からの一方攻撃では男が廃る。しかし、触れないのはな…
一番有力なのは、翡翠戦の様に魔力干渉だろう。しかし、そもそも黒鐵を使わず僕は魔力を行使できない。となれば本末転倒だ。
こうなれば…
『何してるの?』
操緒が怪訝な顔で聞いてくる。
「演操者側から副葬処女に影響を与えられか試してみてる」
簡単に言えばイカガワシイ妄想。そういえば操緒にたいしてそんな事は一度もしてない。だから効果が有るかは解らない。
まずは、そのパジャマを脱がせて…
『ふぇ!?』
操緒が気の抜けた声を出す。つられて見上げると、そこにははだけたパジャマを必死に抑える操緒の姿が…
心なしか真っ赤になって怒っている気がする。
『トモのバカッ―』
その声と同時に僕は自分の左手のアッパーを喰らって気絶した。
それからの記憶は無い。だが操緒がまた少しよそよそしくなったのは別の話。
今度、部長辺りにぬいぐるみの原理を応用してもらって操緒を触れるようにしてもらおう。
〜END〜