そのセリフに、紫浬さんと過ごした短い日々のことを思い出す。そういえば、大人し目な話し方と表情のわりに、大胆でSっ気のある振る舞いをするひとだった。
「ほんとに、可愛い、です……」
言いながら、僕の乳首に舌を這わせてくる。うおっ。
『あん……はあっ』
僕は何とかこらえたというのに、操緒は僕の横で身をよじり、あられもない声を上げた。《K鐵》とじかにつながっている分だけ、僕よりも共鳴効果が強くて深いのかもしれない。それを見た紫浬さんは、うっとりと笑った。
「ふふ……ここが、気持ちいいんですね? 操緒さんも……トモハルくんも」
「あ……」
『や……ああっ……やんっ、やっ……だめえっ』
紫浬さんは容赦なく、舌でくすぐり、舐め、唇全体で吸い立ててくる。女の子に責められてだらしなく喘ぐのだけは避けたくて、僕は懸命に歯を食いしばるのだが、いかんせんそのすぐ横から、抑えきれない風情の嬌声が響いてくるとあっては、努力の甲斐もない。
何とか体を起こして、一方的に握られた主導権のいくらかでも取り戻したいのだが、体の自由がうまく利かなかった。もしかすると、操緒が僕以上に、紫浬さんの愛撫にすっかり酔ってしまっていたからかもしれない。
『あ……はあっ、は、あ、んんっ……しゅ、朱浬……さん……ま、待って……』
「あら」
操緒がそれでも試みる、言葉だけの空しい抵抗は、紫浬さんの嗜虐心をいっそう煽っただけらしく、
「操緒さんは、わたしをちゃんと呼んでくれないんですか……? だめですよ。そんなの」
『で、でもっ』
「これでも……?」
言うなり、白い歯を使って甘噛みされた。さらに、両手で、もう片方の乳首をいじりながら、脇腹から背中をさすってくる。
「ううっ……く……」
『ふ、あ、あう、ああっ、あ、ふ、ん、く、くうっ、あ、あ、は、はうっ』
ひとしきり、唇と舌と指で好き放題に操緒と僕を弄んでから、紫浬さんは上気した美貌を少し持ち上げて、上目遣いに微笑む。
「操緒さん? さあ」
『は……あ……ゆ……ゆか、紫浬、さん……』
「はい。よくできました」
「くうっ」
『う、は、はあんっ……』
今度は操緒だけでなく、僕も一緒に高い声を上げてのけ反った。紫浬さんが、僕の股間に手を這わせたからだ。ここまでのところで、もうすでに十分以上にいきり立っていたそこは、紫浬さんの微妙なタッチに、一段と膨れあがったように思えた。
「ああ、すごい……」
紫浬さんの声も、さっきよりも明らかに情欲に濡れていた。操緒と僕の反応に、向こうもあらためて火がついたらしい。潤んだ瞳で僕の目を覗き込み、
「すごいですよ……トモハルくん……」
「ゆ、紫浬さん……」
「ふふ……うれしい。わたしで感じてくれてるんですね。これから、もっともっと、よくしてあげますから」
鋭い金属音がして、不意に僕の下半身から衣服の感触が消えた。
「え……」
ぼうっとしながら紫浬さんを見ると、少し舌を出しながら、
「ごめんなさい……ベルトとかチャックとか、面倒だから……」
言い訳のように呟くその右手の先に、一瞬だけ銀光が閃いて、消えた。いや……そういう使い方もあるのか。この際、どうでもいいが。
「ふうん……」
紫浬さんは、むき出しになった僕のそれをしげしげと見る。あのう、それはちょっと恥ずかしいのですが。
「こうなるんですか……この間とは、ずいぶん」
そうなのだ。このひとは、あろうことか僕の一物を見て触ったことがある。あれは、風邪で抵抗力の弱った僕の下の世話を強引にしてくれた時だった。考えてみると、今もあの時の状況と、そう変わらないような気もする。
「ふふふ。なんか、もう出てますよ」
紫浬さんは、その細い指を、僕の先端に滑らせた。しみ出していたものをすくい取り、敏感な箇所に塗り広げる。
「おっ……」
『は、あ、ああっ、あ、あ』
僕と操緒が、同時に腰を跳ね上げる。だめだ。もう、保たない。紫浬さんも初めてで興味津々だったのか、遠慮なく掌全体で包み込むようにしていじってきたから、ひとたまりもなかった。
「う、お……」
『や、だ、だめ……っ』
一瞬、意識の全てが吹っ飛ぶ。こらえていたものが全て、勢いよく噴き出すのだけが分かった。それから大きく息を吐き、吸って、薄目を開けた視界の中で、紫浬さんはさすがに少しびっくりした顔をしていたが、すぐに婉然と微笑んだ。
「うふふ……いっぱい、出ましたね……」
「は、はあ…」
こちらは、満足な返事をするだけの余裕もない。横を見ると、操緒に至ってはようやく硬直が解けて、ぐったりと横たわるところだった。
『ふ、あ、は、はあ……ん』
僕の耳のすぐ横で、とろけきった吐息を漏らす。スタイルのよい肢体が全体に紅潮してひくひくと震え、焦点の合わない目が僕をぼんやりと見つめていた。そのあまりに扇情的な姿に、僕の背筋がぞくりとなり、腰の奥にあらためて熱が宿る。
「あ……トモハルくん。また」
紫浬さんが、からかうような喜ぶような声を出した。
そう。僕は復活していた。体の奥から、とめどもない活力が湧いてきて、あっという間に僕の体を満たす。これは……レゾネータによる魔力循環と増幅の結果ということなのか? 呆然とする僕の目の前で、紫浬さんが、いきなりぶるっと体を揺すった。
「あ……そんな……わたしにも……これが……共鳴……?」
紫浬さんはしばらく、その感覚をとっくりと味わうように軽く目を閉じていたが、やがて、僕に向かってあでやかな笑顔を開かせた。
「まだまだですよ……トモハルくん。わたしもさっき一回……ね、ですから、これでやっと、おあいこです。もっともっと……気持ちよくしてあげますから」
「ゆ……紫浬さん」
僕は体を起こそうとしたが、果たせない。もしかして、操緒が脱力しきっているのがこちらにもフィードバックされているせいなのだろうか。紫浬さんは、全てわきまえているかのような余裕の笑みを見せ、
「大丈夫ですよ……やさしくしますから」
えーと、そのセリフを言う立場は逆だと思うのですが。突っ込みを入れようかと思ったが、紫浬さんはそんないとまなど与えてくれない。再び、僕のそれに触れる。
「うっ……」
再び襲ってくる快感に、僕の全身が打ち震えたが、
『は…あ、あああっ』
操緒は、もっと目覚ましい反応を見せた。死人が息を吹き返したかのように、体を跳ね上がらせる。
『だめっだめっそんなっ……あたしっ……そ、そんな、すぐ……だ、だめえ……』
「ふふふ……女の子は、いくらでも、よくなっちゃえるんですよ。だから、ね?」
紫浬さんは、すっかりいじめっ子モードに入ってしまったらしい。僕と操緒の反応を確かめながら、全体をしごき、筋をなぞり、先端をさすり、根元をやわやわと揉みほぐしてくる。さすがに手つきはぎこちないが、かえってそれが微妙なタッチを生んで、気持ちいい。
「こう……こうかしら? あら、これでこう……ふうん……ああ……」
言葉面だけ聞けばけっこう冷静なようだが、自分の行為で自らも興奮しきっているらしく、声音は蜜が滴り落ちんばかりに甘い。僕はその言葉と愛撫の前に、射精を我慢するだけで手一杯だった。操緒はといえば、
『や、や、そ、そこ、だめ、だめ、あ、は、やあっ、あ、あう、ふ、は、い、いや、いやいやいや、そ、それ、あ、はう、お、や、やあっ』
紫浬さんの指使いの一つ一つに敏感に応え、スレンダーな裸体をのたうち回らせている。快感の波にうち寄せられ引きずられる、そのリズムが僕と同調していて、否応なくお互いを高めていく効果があった。
「ふふ……トモハルくんも、操緒さんも、スゴいです……」
紫浬さんも、だんだん余裕がなくなってきたらしい。手つきから容赦がなくなり、有無を言わさずに僕と操緒を追いつめ始めた。
『や……や……あ……は……だ……だめ……だ……め……』
操緒は、もはや途切れ途切れに声を漏らすことしかできない。僕も、限界だった。紫浬さんの手の動きに合わせて腰が動くのを、止められない。紫浬さんが、全てをしぼりだそうとでもするかのように激しくしごいた瞬間、僕は耐えきれずに、ふたたび放った。
『は……く……ううっ』
同時に、操緒のうめくような声がする。だが紫浬さんは、そこで僕たちを解放してくれず、
「だめ……もっと……もっと……わたし、も……」
熱に浮かされたような声を出しながら、僕をしごき続けた。
「う、わ……」
驚いたことに、今し方一回終わったばかりだというのに、軽い射精感が僕を襲う。それも繰り返し。これは……一種の拷問だ。だが、共鳴し増幅された魔力のおかげか、何とか持ちこたえる。
操緒は、声すら立てられないようだった。僕にもそちらの様子を確かめる余裕などなかったが、お互いの感覚共有が進んでいるせいか、繰り返し絶頂に押し上げられて、きつく強張らせて反っくり返った体を、小刻みに痙攣させているのが、気配で感じられる。
どれだけそうしていたのか、そのうちに力つきて一旦ぐったりとなり、そこでようやく声を出せるようになったらしく
『や……は、だめ……もう、だめ……ゆるして……』
息も絶え絶えに懇願するのが聞こえた。僕と操緒の反応が鈍くなったことに気付いたのか、紫浬さんもとりあえず手を止めてくれる。だが、声はやや不満げで、
「もう……まだ、ですよ……わたしも……よくなりたいのに」
僕が荒い息を整えようとしながら、そちらを見ると、紫浬さんは片手を僕に添えながら、もう片手を自分のシャツの裾の中に潜り込ませていた。その手と腰が、微妙に動いている。たまらなく、色っぽい。
「ゆ……紫浬さん……」
頭をもたげてみると、意外に簡単に動いた。さっきより、体に力が戻っている。どういうことだ? 頭を振った僕をどう見て取ったのか、紫浬さんは再びゆるゆると、硬さを保ったままの僕をさすり始めた。
「うふ……また……」
いやに熱っぽい視線で、僕のあそこを凝視する。まさか。そんな、精液まみれのそれを。ありえない、と思う僕の目の前で、紫浬さんは、かすかに頬笑みながら、それにそっと口づけた。その接点から響く感覚が、僕をまたもやのけ反らせる。と同時に、
『は、はああんっ!』
横合いから、操緒の甲高い声がほとばしった。必死な声で、
『や……だ、だめっ、だめっ! 今はほんとにだめっ、それだめっ、だめだめだめええっ!』
そう叫んだが、そんな弱みを見せてしまえば、紫浬さんが簡単に許してくれるわけがない。
「うふふ」
含み笑いとともに、紫浬さんは、舌の先で僕の先端をちろり、と舐めた。
「うおっ」
『あ、お……んっ、は』
指とは全く異なる、柔らかくて暖かくて繊細な刺激に、僕も操緒も、ほとんどうなり声のような喘ぎを放つ。そんな僕たちの耳に、紫浬さんのうっとりした声が流れ込んできた。
「ああ……すっぱあい……うふふ」
「ゆ、紫浬、さん……」
最初の一撃のあと、少し間が空いたので、紫浬さんの方を見る。紫浬さんほどの整った美貌が、真っ赤に上気して妖艶きわまりない微笑を浮かべ、僕のそれに寄り添っている様は、この上なく僕の劣情をそそり立てた。つい、腕を上げて紫浬さんの耳のあたりを撫でる。
「んんっ……」
紫浬さんはむずがるような声を出し、それから、少しだけ咎めるような表情を僕に向けたが、目が疑いようもなく笑っていた。
「トモハルくんたら……まだ足りないんですね……えっち」
いや、休みなく責め立ててくれてるのはそちらなんですが。僕が苦笑いした瞬間、紫浬さんが僕のものを口に含み、舌をそっと這わせてきた。
『は……ん……』
それだけで、操緒は軽く達したのかもしれない。しばらくせっぱ詰まった呼吸音だけがしていたが、紫浬さんの唇と舌の動きが激しくなるにつれ、
『は、や、はあっ……や、や、そこ、いや、いやいややあっ……や、は、あんっあっあっあっ……だめ、だめ、いや、だめえ……だ、……め、……だ……は……あ……あ、あ、また、あ、もう、あ、だめ、いや、だめ、もう、も……う……ん、ん、は』
少しずつ悲鳴のオクターブを上げていっては途切れ、また元に戻るという繰り返しを続けた。もちろん、僕も同じように翻弄され続けていて、操緒のように間断なく頂点を極めるわけではなかったが、ほぼそれに近い状態だった。
紫浬さんの舌使いが妙にツボを心得ているとか、共鳴現象のおかげで体力気分ともに盛り上がっているというのもあったが、そもそも、紫浬さんが僕のものに口でしてくれているという状況そのものが、僕をたまらなく興奮させる。
「ゆ……ゆか……り、さん……もう……」
「んー?」
僕と目を合わせた紫浬さんは、そっと僕から唇を離す。
「なあに? トモハルくん」
「い、いや……だから……」
なんでやめるんだ、そこで。同じように責めから解放された操緒の荒い呼吸音の中で、僕は不意に勘づいた。紫浬さん、まさか。
「なんですか……?」
紫浬さんは触れるか触れないかのタッチで、僕の裏筋を撫でる。操緒が『は……っ』と身をよじるのが感じられた。僕も、その一撫でだけで、こちらには交渉の余地などなくなったことを悟る。
「ゆ、紫浬さん……」
それでも何とか言葉にせず、目だけで訴えてみたが、紫浬さんは素知らぬふうに、
「なにか、言いたいことがあるんですか……?」
ゆっくりと、僕のそれをなぞるようにして舌を上下させながら、訊いてくる。く……くそっ。なにが、Sっ気だ。ドSじゃないか。いつの間にか、また朱浬さんになってしまったとかいうんじゃないだろうな。
「で、ですから……」
「ですから?」
指と舌で僕を生殺しの状態に保ちながら、よくもそんな無邪気な声が出せるものだ。女は、魔物だ。僕は、全面的に降伏せざるをえない。
「つ、続けて……」
「なにを?」
なおも言いながら、僕の先端を舌裏でくるりと一周する。操緒が『はお……うっ』と鳴き、僕もその一撃に思わず達してしまいそうになったが、最後の瞬間に紫浬さんに根元を強く握りしめられて果たせなかった。アンタ、いつそんな技を覚えたんだ。
「なにを、ですか……?」
だめ押しで訊かれて、けれど、こっちには暫く応える余裕なんてない。深呼吸を繰り返すのだけで精一杯だ。そんな僕を見て、紫浬さんは妖しく頬笑む。
「言ってくれないと、わからないです……」
「で、ですから……続けて……僕の……」
「僕の?」
僕にためらいなど持たせないためか、指と舌で全体をつつうっと撫で上げる。おおっ。
「ぼ、僕の……ペ、ペニス……最後まで、続けて……ください……お願い、します」
「ふふ。……ほんとはもうちょっと、ですけど……トモハルくん、可愛いですから、許してあげますね」
そんなことを言って、紫浬さんも限界だったんだと思う。待ちかねたように思い切り、僕の一物を頬張った。
『あっ、ああああっ……は、あ、や、や、や……は……や……もう……ヘンに……な、っちゃ、う……や……も、も……う、だ……だ……めえ……』
とたんに、操緒のソプラノが響き渡る。それも、紫浬さんが情け容赦なく吸い立てなぶってくるうちに、沈黙した。呼吸音すら聞こえないが、僕の方もそれを気遣うことなどできない。目をきつく閉じ、紫浬さんの頭をつかまえると、僕の股間に押しつけた。
「!……っ」
紫浬さんから驚きが如実に伝わってくるが、離したりしない。紫浬さんもすぐに、動きを再開し、それも、より一層加速させた。ああ。もう、ダメだ。
「う……くうっ」
僕の腰が跳ね上がり、そこで凝固する。委細構わず、僕は暖かく湿った中に包まれて、全てを解き放った。それも、三回くらいは波があったと思う。
『ん……あ……は……はあ、はああああっ……』
我に返ったのは、操緒の感極まった後の深いため息を聞いたときだった。少し手の力が緩んだせいか、紫浬さんが急に体をもぎ離すようにして上体を跳ね上げ、それから僕の上に倒れ込んでくる。
「う……げ、げほっ……か……あっ」
背を丸めて、咳き込んでいた。それを見て、少し背筋が冷える。僕は、何をしたんだ。
「あ……す、すみません……大丈夫……ですか……?」
紫浬さんは、口元に手を当てながら、僕を睨んだ。目に、うっすら涙がにじんでいる。真剣に恨みがましい口調と目つきで、
「ひ……ひどいです……け、けほっ……トモハルくん……」
「い、いや……すみません。夢中で……でも、紫浬さんが……」
「わたしが?」
「いや、何でもないです……すみませんでした」
体を起こし、紫浬さんを覗き込む。おや。案外にすんなりと体が動く。
「本当に……大丈夫ですか?」
「だいぶ……飲んじゃいました……もう……」
本当に、申し訳ないことをした。決して美味しいもんじゃない、というか、はっきり言うと、不味いだろうに。お詫びのつもりで、紫浬さんの頭を軽く撫でると、紫浬さんは僕の胸に顔を擦りつけてから、僕を見上げてくる。
「もう……責任、取ってくださいね?」
「えーと……」
ちょっと怖いことを言われた気がする。あのう、責任といっても、いろいろあるのですが。などと考えていると、紫浬さんが背伸びをして僕に顔を近づけてくる。僕は、僕が放出したものにまみれたその口元に、こちらからキスをした。
まあ……何というか、ヘンな匂いと味だった。自分でもそう感じるんだから、他人にこんなことは二度と頼めないなあ、と思う。せめてもの罪滅ぼしのつもりで、できるだけ、紫浬さんの唇や口の中のそれを、舐め取ってあげた。
「ん……ふ」
紫浬さんの体が軽く震え、僕から顔を少し離す。有り難いことに、恥ずかしそうな頬笑みを浮かべてくれていて、こちらもほっとする。
「もう……トモハルくんたら」
「紫浬さん……」
「わたしに……わたしったら、あんなこと……ほんとに……もう」
ああ、ちくしょう。反則的に、可愛い。僕の中で、何かがむくりと頭をもたげた。またか。あの罰当たりなプラグインの影響がどこまで続くのか、良く分からなかったが、今はそれに身を委ねるしかないのか。
「紫浬さん」
「は……はい?」
急に真面目な声を出した僕に、少し戸惑った感じの紫浬さんを、僕は横向きざまに押し倒した。ベッドの上で体を入れ替えるようにして、紫浬さんの上にのしかかる。半ば意外なことに、紫浬さんも目立った抵抗をせず、ぐったりとしどけなくベッドに横たわった。
「トモハル……くん……?」
「紫浬さん……いいですか……?」
紫浬さんは、言葉では答えなかった。ただ、恥ずかしそうに目を細め、僕の首に腕を回してくる。
『ト……智春お……?』
そんな僕たちを、操緒が横から覗き込んできた。ようやっと、忘我の境地から復活してきたらしい。艶やかな髪がほつれて肌にこびりつき、全身が桃色に染まって、これが操緒かと思うくらいに、色っぽかった。
『まだ、するの……?』
「操緒さん……その……」
紫浬さんが目を伏せ、腰をもじもじさせる。あの、済みませんが、こっちと下半身が触れ合った状態でそういうことをされると、正直辛抱たまらんのですが。
「わたし……まだ……」
その上に、こっちの理性を吹き飛ばしてしまいそうな呟きを漏らしてくれる。思わず僕も頷いてしまい、
「操緒……僕も、ガマンできない」
『ふーん』
操緒はジト目で睨み付けてくるが、その表情にも悦楽の余韻がそこかしこに色濃く残っていて、迫力に欠ける。そうするうちに、操緒は、ふっ、と息を吐いて少し肩をすくめた。
『止まんないんだよね……あれのせいなら……仕方ない、ってことにしといたげる』
「ごめんな」
僕が、一応済まなさそうに微笑ってみせると、操緒はそっぽを向いたが、頬から耳にかけてが赤く染まっていた。こいつも、こんなに可愛かっただろうか。プラグインの影響だかなんだか知らないが、今日はいろんなものが日頃と違って見える。
僕は、あらためて紫浬さんに目を落とした。一分の隙もなく整った美貌。おっとりとした笑顔。熱っぽく潤んだ黒い瞳に、紅潮した滑らかな頬。細い首筋。繊細な鎖骨の曲線。半ば以上はだけたワイシャツを持ち上げるふくらみの先端が、はっきりと尖っている。
僕はその光景に息を呑みながら、少し震える指でゆっくりと、ワイシャツの残るボタンを外していった。紫浬さんはその間なすがままになっていたが、ボタンを外し終わった僕が肩口からシャツを引き下ろすと、少し背中を浮かせて袖から腕を抜いてくれた。
綺麗だった。いつぞや、ちらりとだけ見た時にもそう思ったが、今こうしてゆっくりと眺めていると、感動すら覚える。すらりとして、それでいて女性的な曲線に満ちた肢体。程良く豊かで形のよい胸。しみ一つなく最上質の白磁を思わせる肌。全てが神々しかった。
「や……」
僕の視線に耐えきれなかったのか、紫浬さんが少し体を捩る。
「トモハルくん……」
誘うように名を呼ばれて、僕は紫浬さんの胸元に顔を近づけた。細い鎖骨に、そっと口づける。
「あんっ……」
紫浬さんの吐息に力を得て、肩先へと唇をすべらせた。と、そこにうっすらとした線のようなものを見た気がして、僕は自分の動きをいっそう優しくした。
そうなのだ。このひとの体の半分は機械……というか、兵器なのだ。最近は当たり前にすら思っていた事実が、この時だけは、僕の心に突き刺さった。嬉々として膨大な火力を振り回すこのひとが、その裏でどんな想いを抱えているのか、僕は、何も知らない。
あの飛行機事故で致命傷を負った体を黒科学で繕ってまでして、《白銀》の副葬処女となった双子を救い出す術を求めて。なのに哀しみも苦悩も決して表に出さず、自分のことすら偽って、いつもおっとりと余裕な顔で笑って。どうしようもなく悪戯好きで傍迷惑で。
ああ。僕はこのひとを知っている。黒崎紫浬でもあり、黒崎朱浬でもある、このひとを。だが、僕が知っているこのひとは、ままならない世界に向かって精一杯突っ張った挙げ句に、ある名前を高らかに告げるのだ。僕にも、その名前でこのひとを呼べと言うのだ。
「……トモハルくん?」
僕の動きが鈍くなったためか、やや不安げな声がした。機械の部分を前にして、僕がためらったとでも思ったのだろうか。見損なわないでほしい。僕は顔を上げてその双眸を覗き込み、囁いた。
「……綺麗ですよ。朱浬さん」
反応は、速やかだった。瞳が揺れたかと思うと大きく見開かれ、うっとりとした笑みが薄れ、僕の首に回された手がゆるむ。
「え……」
この上なく戸惑ったその表情に向かって、僕はもう一度、その名を呼んだ。
「朱浬さん」
「ええっ……ト……トモハル……くんっ……な……なに……」
「何って……僕の知ってる朱浬さんは……朱浬さん……ですから」
「あ……」
何か言おうとしたらしいが言葉にならず、しばらく口を開けたり閉じたりした後、見る見るうちに耳まで真っ赤になると、いきなり胸を腕でかばい、こちらに背中を向けた。えーと……どうしたんだ、一体。
「や……やあっ……トモハルっ……見ないでっ」
「え、ええと……」
つい今し方までの態度との落差に、僕は呆然とせざるを得ない。
「あの……朱浬さん?」
「あ……や、あたし……あたしっ」
僕の呼びかけに、一層背を丸めて、縮こまる。これは、もしかして。
「……恥ずかしいんですか?」
耳の側で小声で訊いてみる。ぴくりと震えた体が、何よりも返事になっていた。なんてことだ。紫浬さんでいる間は、あれだけ大胆に振る舞った人が、いつもの名前で呼ばれた瞬間に我に返ってしまったらしい。しかしそれにしたって、
「朱浬さん……だって、いつも僕の前じゃ……」
素肌にしろ下着にしろ普通に見せたり触らせたり、恥じらいなど微塵も感じさせたことがないというのに、これは一体どういう風の吹き回しなんだ。
「そ、それは……違っ……あ、あたし……あんな……こんな……」
それでも、身も世もなく体を竦ませる朱浬さんは、ひどく新鮮で可愛かった。この人は、こんなところがあったのか。
『へええ……』
隣から操緒の声がして振り向くと、そっちもかなり驚いた顔をしていた。僕と目を合わせると、だが、にやりと笑ってみせる。
『これはこれは……』
何か、よからぬことを考えてるんじゃあるまいな。ちょっと不安になりながら、
「朱浬さん」
僕が再び耳に囁くと、朱浬さんはびくっとした。そのまま無理にでも体を開かせてしまいたいという、自分の中で荒れ狂う衝動に必死に耐えながら、訊いてみる。
「……嫌、ですか……?」
朱浬さんは、答えない。綺麗な黒髪が顔にかかって、どんな表情をしているのかも良く分からない。僕は、そっとため息をついた。ここで引き返せるかどうか自信など全くなかったが、朱浬さんがどうしても嫌だというなら、努力はしてみよう。
「……嫌なら……」
「……じゃ、ない」
ごくごく小さな、呟きだった。
「はい……?」
「じゃない、けど……あたしも……だけど……」
朱浬さんらしからぬ弱々しい声音に、それ以上何かを言わせるのは、酷だと思った。だから、僕は唇を朱浬さんの首筋へ移した。僕の吐息がかかるだけで感じるらしく、時折ぴくりと反応し、軽い喘ぎ声を漏らしてくれる。
お互いの間の共鳴現象は、まだ僕たちを解放してくれていないのだった。それでも、一気に朱浬さんの肉体を蹂躙してしまいたくなる自分を辛うじてコントロールしながら、ゆるやかに愛撫を続けるうちに、
「は……あうっ」
朱浬さんが鮮烈な反応を示したのは、僕の唇が肩胛骨のあたりをなぞったときだった。丸くなっていた背中がきれいにのけ反る。僕は、同じところに舌を這わせた。
「そ……そこ、だめえぇっ……どうして……生身じゃ……ないのにいっ、うん、んっ、あ、は、あ」
違う。生身ではないから、機巧魔神の部分だからこそ、感じるのだ。僕や操緒と、《K鐵》と、響きあうのだ。ああ。これ以上自分を抑えるのは、僕にとっても無理だ。
「朱浬さん」
僕は、朱浬さんの肩をつかむと、やや強引にその体を仰向かせた。朱浬さんも抗いかけたが、僕の力の方が強い。朱浬さんの心理的な変化を抜きにしても、さっきまでと物理的な力関係が逆になってしまっているのは、どういうわけなんだ。
朱浬さんは、少し眉をひそめながら、それでも僕を真っ直ぐに見た。
「トモハル……」
「すみません……僕も……もう限界です」
『そうですよ……朱浬さん? 智春が、可哀想ですよ』
横合いから、操緒も朱浬さんを覗き込む。
『大丈夫……よくしてあげますから。あたしもついてますって』
その口調にやや不穏なものを感じはしたが、僕は朱浬さんから視線を外さなかった。
「お願いします……このままだと」
「うん……」
朱浬さんは軽く目を閉じて、熱くてかぐわしい息を吐いた。
「あたしも……ダメ、みたい。トモハル……こんなの……でも……」
「……すみません」
朱浬さんは、かぶりを振った。
「謝らないでよ……そんなこと、しないで。トモハルは……あたしのこと……嫌いじゃ、ないでしょ?」
好きか、とは朱浬さんは訊かなかった。僕も、そう訊かれたら、どう答えたらいいか分からなかった。逃げかもしれないが、今の僕たちの間柄には、朱浬さんが口にしたような微妙な表現がぴったりだと思う。だから、僕は答えを迷わなかった。
「嫌いじゃないですよ。もちろん」
「ん……なら、いい」
朱浬さんは、少しだけ唇を尖らせ気味にして、微笑んだ。僕はそこに向かって、自分の唇を寄せる。紫浬さんと交わしたのとは全然違う、軽くて、それでいて熱い口づけだった。
「んっ……」
キスを終えた後も、朱浬さんの表情は何かを堪えるように、妙に固かった。やはり嫌なのか、と少し迷った僕の横に、操緒が顔を出す。
『ふふ……朱浬さん。可愛い』
「操緒……?」
『いーのいーの。智春は続けてっ』
言われるままに、僕は朱浬さんの顎の線をそっとなぞり、柔らかそうな耳へ唇を近づけた。耳にかかる艶やかな黒髪を指でそっとかき分け、真珠みたいに色づく耳たぶをそっと撫でてあげる。
「っ……」
くすぐったいのか、朱浬さんが肩を竦ませた。僕はできるだけ優しく、その耳孔のあたりに舌を触れさせる。
「……っふ……っ」
途端に、朱浬さんが僕から逃げるようにして首筋をそらせた。僕の眼前にさらけ出された、血管さえ透けて見えそうにきめ細かな皮膚が、目に鮮やかだった。特に香水など付けてはいない筈が、えもいわれぬ芳香がにわかに立ち上ってきて、僕の嗅覚を痺れさせる。
頭がくらくらしながらも、僕は乱暴にならない程度に朱浬さんの頭に手を添え、その耳朶と首筋へ軽い口づけを繰り返した。キスマークは……やっぱり、まずいんだろうな。それでも、そんな微かなタッチにも朱浬さんは時折反応して、体を震わせる。
そして、僕が耳元から首筋へ移ろうとして、耳と生え際の間あたりに舌を滑らせたときだった。
「んっ……く、はっ……」
朱浬さんが首を大きくのけ反らせ、堪えきれなかったかのような吐息を漏らした。僕の拙い愛撫でも感じてくれているらしい。それが嬉しくて、再び同じところを唇と舌でくすぐってあげる。
「は、あっ……あ、ん……や、あ……んんっ」
今度は、艶めいた声が上がった。いったん顔を上げて、朱浬さんの表情を覗き込むと、僕とは反対側に反らせた顔は見事に紅潮し、片手の人差し指を唇の間に噛み締めている。どうも紫浬さんとは違って、朱浬さんはあまり大胆に振る舞えないひとらしい。
「朱浬さん……」
耳に囁くと、僕の息がかかるだけで感じるのか、いっそうきつく目を閉じた。
『うふふ。朱浬さんたら。びんかーん』
操緒が嬉しそうに言う。
『これは、やりがいがありそうだわー』
何をするつもりだ、お前。僕が軽く睨むと、操緒は含み笑いで応え、さっ次、と僕に指示した。言われなくたって、続けるさ。しかしこれは……レゾネータの影響で、全身が感じ易くなっているとしか思えない。でなければ、僕の稚拙な愛撫にこうも反応しないだろう。
僕はあらためて、朱浬さんの首筋から肩先へ唇を走らせた。ところどころで鋭い反応を示すポイントを、できるだけ丁寧にケアしてみる。その都度、朱浬さんは呼気を荒くしたが、声を上げるのだけは、どうやら我慢しているらしかった。
だが、その忍耐も、僕が鎖骨の端から、すっきりと絶妙な曲線を描く肩へと移動したとき、破られた。
「く、は、あ……あ、あ、や……やあっ、や……」
単に、二の腕に唇を這わせただけなのだが、朱浬さんは大きく身を捩らせる。そうか。さっきの肩胛骨と同じで、このあたりは機巧魔神の部分なのだ。
僕が、すらりとした腕の背中側を掌と指でなで下ろし、血管の透ける肘の内側や細い指とその間を舌でくすぐってゆくと、朱浬さんは必死に声だけはこらえながら、背中をのけ反らせて体をくねらせた。その痴態はあまりに美しく、僕の理性をじわじわと蚕食する。
ひとわたり腕への愛撫を終えたあたりで、操緒が朱浬さんの顔を覗き込んだ。
『ふふっ。朱浬さん、頑張っちゃって。かわいーい。でも、ムダだよ?』
操緒の声と同時に、僕は浬さんの腕を上へ持ち上げると、白い腋の下が露わになった。
『わ……きれいにしてある』
操緒が感心したような声を上げる。腋毛の処理のことだろうか。ぼんやりと考えながら、僕はその柔らかい肉の上に舌を滑らせた。
「あ……やあっ」
朱浬さんが悲鳴を上げ、腕を下ろそうとする。僕が腕を押さえつけているために、それができないと悟ると、体を横向きにして、僕から逃れようとした。構わずに、僕は腋の下の柔肌を舌でくすぐり、胸筋の付け根のあたりを唇で吸い立てる。
「ん……んんっ……く、は……や……や……ん、あ……や、あ……」
朱浬さんはそれでも、手の甲を口に押し当ててまで、声を必死に押し殺そうとしていた。やっぱり、恥ずかしいのだろう。しかし、こんなところで感じるものなのか。我ながら、どうやってこんなことを思いついたのか不思議だった。その疑問が氷解したのは、
『朱浬さんも粘るねー……でも、ムダだって言ったでしょ。女の子の感じるとこなんて、分かってるんだから』
操緒がそう含み笑いしながら言うとともに、自分が朱浬さんの腋の下から乳房に唇を移したときだった。どうやら、操緒に導かれているらしい。操緒が僕を乗っ取って操っているというわけではなく、僕と操緒が一体になってしまっている感じだった。
朱浬さんの胸は、豊かに丸く張りつめ、その頂点で乳首が真っ直ぐに上を向いていた。これって、興奮して充血してるってことだよな。なんだか感動すら覚えながら、その下側の付け根あたりから頂点に向かって、唇と舌で軽く撫で上げる。
「ふ……あっ」
朱浬さんの体が跳ねた。構わず、両脇から全体を柔らかく揉みほぐすようにしながら、乳首の上にすっぽりと唇をかぶせる。かすかにおののく乳頭にゆっくりと舌を這わせた。
「う、あ……や、や……や……は……ん、く……うぅっ……い……や……あ、ふ」
朱浬さんは、苦悶するように首を左右に打ち振り上体をあちこちへくねらせながら、途切れ途切れの嬌声を漏らす。何というか、大げさに喘がれるよりも、よっぽどこっちの腰の奥底に響いてくる気がした。
そのまま何かに突き動かされるように、僕はいっそう、弾力に富んだふくらみを揉みしだき、乳首を吸い立てながら甘噛みしてみた。その瞬間、朱浬さんの背中が僕を持ち上げるようにしてそっくり返り、
「……っ、は……あ、だ……だめ、そ、ん……な、や、いや、だめ、だめ……え……えぇぇっ……っ」
か細い悲鳴が次第に消え入り、そのままの姿勢でしばらく凝固していたかと思うと、不意に脱力してベッドの上へと崩れ落ちた。これって、もしかして。
『あらー。もう?』
操緒が、胸を大きく上下させるので精一杯な風情の朱浬さんに寄り添うようにして横たわり、囁いた。
『まだまだ序の口なのになー。さっきは、ずいぶんよくしてくれたもんね……お返しだよ。いっぱい、喜んでね』
そう言う操緒の声に込められた情念はちょっと怖かったが、僕は敢えて逆らわないことにした。僕一人なら、ぎこちない愛撫の果てに途方に暮れてしまったのかもしれないのだし、こんな成り行きでも朱浬さんを大事に扱ってあげられるなら、なんだって構わない。
僕は、愛撫の対象を乳房から脇腹へ移した。肋骨さえ透けて見えそうなくらいに贅肉のひとかけらもない肌を舐め、撫で、くすぐり、吸う間も、朱浬さんは声を立てず、ただ絶えず背をのけ反らせ、体をよじって快感に耐えていた。
しかしそれにしても不思議なのは、本来ならこの人が本気になれば、僕を吹っ飛ばすくらいは簡単な筈なのだ。それがさっきから、せいぜいが腕で力無く僕を遠ざけようとするくらいで、それも僕の動きの前にあっさり抵抗力を失うばかりなのは、どういう訳なのか。
訝しく思いつつも、僕はさらにその下へ移動し、へそのあたりをしきりにくすぐって朱浬さんの身体を震わせたあと、ショーツのすぐ上の腰骨の上に唇を当てた。
「あ……は、あっ」
そこで、朱浬さんが声をほとばしらせた。なるほど、ここか。口を少し開いて広めに吸い立ててあげながら、舌で撫で上げる。
「ふ、や、あっ、あ、あ、だ、だめ、や」
朱浬さんの腰がうねるが、僕はがっちりと掴まえて離さなかった。反対側の腰骨のあたりも同じように愛撫してあげてから、ようやく一息入れる。
「は、はあっ……は……ふ……」
朱浬さんも胸を大きく上下させ、荒い呼吸を繰り返す。操緒がその顔を覗き込んで、にんまりと笑った。
『んーん、いい感じ……次は、このきれいな脚かな。腕であんなに喜んでくれたんだから、こっちも、いっぱい可愛がったげるね』
「あ、やあ……」
朱浬さんが少し頭をもたげ、哀願するような視線をこちらに寄越したが、操緒も僕も斟酌などせずに、長くて美しい太腿へと舌を滑らせた。
「んくう……う、は、あ……は、や、やっ……や、あ、あ……ふ、あ……」
身をくねらせる朱浬さんの動きに合わせながら、とても機械とは思えないほど柔らかくて暖くて感じやすい脚を伝い、膝のお皿をひとしきりくすぐり、足の甲にそっと口づけたときだった。
「は……あ、あうっ、あ」
朱浬さんが、高らかな悲鳴とともに、腰を浮かせた。
『ふーん……こんなとこも、なんだ』
僕の横で、操緒の熱に浮かされたような声がする。僕は足の甲からさらに、足の指の股へ舌を差し入れた。そこでの朱浬さんの反応は、さらに鮮烈だった。
「あ、や、やあっ、あ、は、だめそこっ、だめえっ……な、なんで、は、あ、そ……ん……なあっ、とこ、でえっ……ふ、や、だめ……だ……め……い、や……」
自分で責めておきながら言うのも何だが、意外なところが弱いんだなあと感心しながら、続けて指を一本ずつ吸い立て、その間を舌でくすぐる。朱浬さんはそのうちに声さえ出なくなったようで、ただベッドの上で左右に美しい肢体をのたうち回らせていた。
ようやく僕(と、たぶん操緒)が朱浬さんを解放したとき、朱浬さんはただぐったりと横たわり、荒い呼吸を繰り返すだけだった。もしかすると、軽く達していたのかもしれない。
「……ふ……ふ、は……は……あ……」
『朱浬さん、どう……? こっからが、ヤマよ?』
「あ……」
操緒のねっとりした声にも、訝しげな瞳でこっちを見るのが、やっとらしい。それもすぐに、僕が、モデル並にすらりと長くて美しい脚を伝って戻っていきながら、膝の内側の柔らかい部分や内股の張りつめた肌に舌を這わせると、朦朧と閉じられてしまった。
僕は朱浬さんの腰のあたりまで来たところでいったん体を起こし、その脚の間に体を差し入れると、その充実した腰の両側に手をつき、あらためて朱浬さんを見下ろした。滑らかで紅潮した裸身が、前戯による快楽の余韻に浸って息づき、かすかにうねっている。
高校生ばなれした、どころか日本人ばなれしたスタイルの麗しい肢体が、僕と操緒による愛撫と、内側から突き上げてくるものとの板挟みになって震え悶えるその姿は、凶悪なまでに蠱惑的だった。
我ながら、ここまでよく冷静さを失わずにきたと思う。我を失って朱浬さんを傷付けることだけを、僕は怖れていた。ここから先も、何とか持ちこたえられるといいのだが。
「朱浬さん……?」
僕の問いかけに、朱浬さんはうっすらと目を開け、僕の姿を捉えた。僕は、能う限り安心させるような笑みを浮かべてみせて、
「いきますよ……?」
「あ……や、ん……」
承諾なのか拒絶なのか判然としない弱々しい声が聞こえたが、僕はそのまま朱浬さんのすらりと伸びた脚を持ち上げ、押し開いた。ショーツに覆われた恥部が、僕の眼前に広がる。その真ん中には大きくしみが広がっていた。女の人が濡れるというのは、こういうことか。
「やっ……そんな……見ない……で」
少し意識がはっきりしてきたらしい朱浬さんが頭を少しもたげて抗議するが、
「朱浬さんだって……人のをさんざん……でしょ」
僕が言い返すと、真っ赤になって顔をそらした。
「だって……あれは……」
紫浬さんがしたことだ、とでも? そんな言い訳が通用するとでも思ってるのか。僕は容赦なく、ショーツの上から、その中心を指で縦になぞった。
「ふ、あんっ」
朱浬さんがのけぞる。濡れたショーツが、その下にある割れ目にぴったりと張り付いて、頭がくらくらするような眺めだった。その中に、一箇所だけ少し膨らんだところが目に付いたので、指の頭で撫でてみる。途端に、朱浬さんの腰が跳ね上がった。
「や、あ、やあっ……や、そこは」
『んー? なに、かな?』
からかうような操緒の声に、朱浬さんが唇を食いしばる気配がする。僕は気にせず、さらにその突起を指でなぶり続けた。
「あ、や……や、は、い、い、いや、や、は……あ、や、は、んんっ……く、う、や、や、やあ、あ、んん、ん、や、は、や……あっ、あ、あ、あ……や、いや、いや、も、や、は、や、あ……ん、く、あ、ふ、あ、や……あぁっ……」
朱浬さんは僕の頭を手で押しやろうとしたが、僕が頭を振って避けると、しまいにはシーツを掴んできつく絞り立てるようにねじった。僕が適当なところで一旦手を止めると、ずっとブリッジ状態だった背中が、どすんとベッドの上に落ちる。
「はっ……ふっ、は……は……や……トモハル……は……あ……そんなに、したら……あ……あたし」
荒い息の下から、切れ切れに恨み言が聞こえてくるが、その声音は、どう控えめに見ても色っぽすぎた。
『んふふ。まだまだだよ。ね、朱浬さん?』
操緒の声を合図にして、僕はショーツに手をかけた。
「あ……」
朱浬さんは抗うような声を上げたが、僕が内股から膝のお皿にかけて舌を這わると嬌声を上げて腰を左右によじり、そのおかげで、何とかショーツを腰から長い肢に沿って抜き取れた。朱浬さんが軽く閉じようとした両脚を、あらためて左右に押し開く。
「やあっ……」
朱浬さんが顔を横へそらす。僕はため息をつくようにして、言った。
「……きれいですよ。朱浬さん」
それは掛け値なしの本音だった。
柔らかい陰毛が茂る頂の下に、きらきらと光る粘液にまみれて、小刻みにひくつく襞とピンク色の粘膜が息づいていた。ただ、女の人のあそこを、あまりまじまじと見つめているのも男としてどうかという気がして、視線を上へ戻したところで、朱浬さんと視線が合う。
朱浬さんの眼差しは怖いくらいに真剣で、僕を釘付けにした。
「……ほんとに?」
「はい」
「……気持ち、悪くない? 怖く、ない? あたしなんか……こんな半分機械の」
「朱浬さん……」
僕は体を前に進め、朱浬さんの顔を正面から覗き込んだ。
「とっても、綺麗です。いつだって、そう思ってました」
言動がアレだから、いくら外見が魅力的でも普段は到底そんな気を起こしたりしないが、それでも朱浬さんの美しさには、ことある毎に感嘆するのだ。嘘は言ってない。そのつもりだ。僕が目に力を籠めると、朱浬さんはけむるように微笑った。
「そ……ありがと。ありがとね。トモハル」
そう呟くように言うと、僕の下でわずかに体を揺すった。
「ん……あたし……も……なんか……」
『ふふっ。朱浬さんも、ようやく盛り上がってきたねっ。これからが本番だからね』
操緒の口振りすら、何となく優しげだった。僕は再び、朱浬さんの首筋から鎖骨、乳房、お腹を唇でたどり、朱浬さんの最も大事なところへ舞い戻る。
『さ、智春っ』
操緒が促すのに乗って、割れ目の上の方に顔を出している小さな膨らみに、そっと口づけた。少し、ぴりりとする。
「ふ……はあ、あんっ」
朱浬さんの肢体が跳ねた。両手で割れ目を押し広げると、突起が根元から露わになり、下の口に少し溜まっていた粘液がとろりとこぼれ落ちる。なるほど、豆だの真珠だのという形容は言い得て妙だなと思いながら、クリトリスを唇全体で包み込んだ。
「あ、や、だめっ、だめだめだめだめだめええっ」
まだ目立った刺激も与えていないというのに、朱浬さんはあられもない声を上げながら、腰から上を左右に打ち振る。それと共に、僕の中でも抗いがたい何かが膨れあがる。くそっ……落ち着け。いつまでも、あんなプラグインに好きに振り回されてなるものか。
僕は慎重に、唇に含んだものに舌を添えた。かすめるようにして、撫でてみる。その瞬間、
「はっ……や、だ、い……い、い……」
朱浬さんが甲高い一声とともに全身を強ばらせた。少ししてから、腰ががくがくと揺れる。そこから目に見えない回路を伝って、朱浬さんから僕に、何かが渦巻き流れ込んでくる。これが……また、共鳴しているのか。
『うふふ……いいでしょ? まだまだ……あたしと同じになってね』
操緒が言うと同時に、僕の舌が踊る。どこまでが僕の動きで、どこからが操緒によるものなのか、もはやよく分からない。操緒と僕もすでに、分かちがたく融け合ってしまっているのかもしれなかった。
「や……あ、ふ、くう、は……そ、そんな、や……は、や、あう…ま、待って……」
『んー? あたしもそう言ったよねー? ふふふ』
操緒は容赦がない。レゾネータのせいで多少たががはずれてしまっているにしても、女は怖い。僕は、気を抜くと霞の彼方に消えてしまいそうな理性をつなぎ止めるのに一生懸命になりながら、朱浬さんに悦楽を与え続けた。
「う、は、あ……や、や、は、や、あ、あ、ま、また、また、い、あ、い……は……」
僕の舌の動きに翻弄され続けた挙げ句に、再び朱浬さんの全身が硬直し、次いで痙攣する。ちょっと、やりすぎじゃないか、操緒?
『まだまだ……今度はね』
僕は、朱浬さんの中から湧き出たものを自分の指にまぶすと、そのままゆっくり、中指を朱浬さんの中へ沈めていった。
「は……ん、ああっ」
ぐったりとなっていた朱浬さんが息を吹き返す。僕が、ちょうどクリトリスの裏側あたりの中を指の腹で撫でながら、クリトリスを舌でなぶり始めると、
「だ、だめっ! それ、だめだめだめ、だ……めええっ」
それまでにないくらい激しく腰がのたうち、せっぱ詰まった声を放った。あまりに動くものだから、うまく狙いをしぼりきれなくなったが、偶然、僕の舌がぬるりとクリトリスの上で滑った拍子に、なんだか、くるりと何かが剥けた。
「は……い……いやあっ」
朱浬さんの動きが一瞬止まる。腰が高く持ち上がり、おかげで僕はその下に腕を入れて固定し、完全に露出したクリトリスと中への刺激を続けることができた。指も一本から二本に増やしたところ、朱浬さんの中が収縮しうごめく感触が如実に伝わってくる。
「っ……っ……は……っ……んっ……や……や、め……も……も、もう……っ……ま……っ…またっ……や……お……お、あ……っはっ……は、ふ、い、い……や……も……ゆ……ゆる……や……やあ……お、あ、は、ふ……あ……っ……っ……っ……、……」
逃れようもない朱浬さんを、何度絶頂へ押し上げたのだろう。呼吸音すら聞こえなくなってから結構な時間があって、さすがに気になった僕が口と手を離すと、朱浬さんの腰が音を立ててベッドの上へなだれ落ちた。
「は……はっ、はっ、ふ、は、はあっ……ふ……は、はあ……」
激しく上下する朱浬さんの胸は真っ赤に染まり、その頂で屹立する乳首がとんでもなく淫らに映る。
『ふふ……どうだった、朱浬さん? 満足した?』
自らも何かスイッチが入ったのか、操緒が頬を上気させ、何かに濡れた声で訊ねても、朱浬さんは一言も答えない。ただ、荒い呼吸を繰り返すだけだった。
「操緒……やりすぎじゃないか」
『んー』
操緒は僕にぞくりとするような流し目をくれて、微笑む。どうでもいいけど、なんか性格変わってないか、お前。
『大丈夫だよ、これくらい……智春は、優しいなあ』
「いや、でも……」
『ふーん。じゃ、次行こうか』
「……ああ」
そうだな。僕も、そろそろ我慢の限界だ。頷いた僕を見た操緒はふと神妙な顔つきになって、
『嬉しい? 朱浬さんとこうなって』
「……それどころじゃないよ。もう、一杯一杯だ」
正直に言ってみたら、
『ふーん。どうだか』
ジト目で返された。いや、ほんとなんだって。