「プレゼントって、どんなのを考えてるんですか」
ともはちゃんが訊いてきたのは、ショッピングビルの案内板の前。二人してどんなお店があるのかチェックしてたところだった。
「うーん……定番だと、マフラーとか手袋とかかなって考えてるんですけど……でなければ何か置物とか……ともはちゃんだったら、何がいいと思いますか?」
さりげなく質問したけど、ここが今日の本題。どきどきしながら返事を待つ。
ともはちゃんは、指先をおとがいに当てて、考え込んだ。どうでもいいけど、そのふるまいって、どこから見ても女の子以上に女の子らしいね。人って、意外な才能を持ってるものなんだなあ。グランクリユでもいい加減凄かったけど、いっそう磨きがかかってる感じ。
「ぼ……私だったら、もらえる物なら何でも嬉しいですけど」
でも、返事はちょっと期待はずれ。ともはちゃん、それではちっとも参考になりません。少し攻め口を変えてみよう。
「ともはちゃんが、今までもらった中で一番嬉しかったものって、なんですか?」
「一番嬉しかったもの、ですか。うーん……」
ともはちゃんが、目を閉じる。少し唐突な質問なのに、そんなに一生懸命考えてくれるなんて、やっぱり優しいね。などと思って見ていたら、どんどんと、ともはちゃんの表情が暗くなって、顔もうつむき加減になってきちゃった。
「ど……どうしました?」
さすがに気になって訊いてみると、
「いや……その……これまでもらった物って全っ然ロクなものがなくて……プレゼントもらって幸せだった思い出がほとんどない自分ってどうなんだろう、ってちょっと哲学的な疑問が……」
「ええっ……でも、家族とか……操緒さんとか……」
「母親はそういうのあまり気にしない人で……兄はたまに何かくれたかと思うと、使い道がまるで分からなかったり、身に危険が及ぶようなものばっかりでしたし……操緒は、まあ……ちっちゃい頃に毛虫をくれたことがあったきりですかね……」
話しながらも、どんどん声が小さく、くぐもっていってしまう。これは悪いことを訊いちゃったみたい。
「あ、あの……ご、ごめんなさい。変なこと訊いちゃって」
ともはちゃんの腕に私の腕を絡めてあげる。それが少しは慰めになったのか、ともはちゃんは、なんとか弱々しい笑顔を見せてくれた。
「いえ、いいんです。こっちこそ、すみません。参考にならなくて」
「ううん。とっても、参考になりました」
「は?」
「私、がんばりますね」
「あ……そうですね。ひかり先輩からのプレゼントなら、きっと喜んでもらえますよ。その人が、ちょっと羨ましいかな」
ともはちゃん、どうしてそこで人ががっくりするようなことを言うのかなあ。やっぱり、気付いてないんだね。
でも、決めた。絶対ぜったい、ともはちゃんが喜んでくれる贈り物をあげよう。それを見て、ともはちゃんが嬉しそうに笑ってくれたら、私もきっと凄く幸せな気持ちになれるはず。
私は、ともはちゃんの腕を胸にぎゅっと抱き寄せた。ともはちゃん、私がいるからね。
「えー……あのう先輩、あまりくっつかれると……」
それなのに、ともはちゃんは何故だか体を引いて私から離れてしまう。残念。ともはちゃんにくっついてると、とっても安心できるのにな。あの地下迷路のときみたいに。
とりあえず、ともはちゃんへの聞き取り調査はうまくいかなかったので、紳士物のフロアを一巡することにした。ともはちゃんの目が留まったものを見逃さないよう、気合いを入れる。
なのに、誤算が一つ。
「……しっかし、すごい人出ですねえ……」
確かに、クリスマス前の週末だから、買い物のお客さんがすごく多い。その人たちのおかげで、ともはちゃんの視線の行く先を追いかけようとしても、背の低い私の視野がさえぎられてしまうのだ。
それどころか、油断すると人混みの中でともはちゃんとはぐれてしまいかねない。ともはちゃんの手をしっかり握りしめて、離れないようにするのが精一杯。
ともはちゃんも気を使ってくれて、人とぶつかりそうになる度に手を引いてくれたり、自分の体を入れて庇ってくれたり。やっぱり優しいなあ。
「あ……どこか、お店に入りましょうか。ちょっとは空いてるかもしれませんし」
「そ、そうですね」
ともはちゃんが私を連れて入ったのは、メンズカジュアルのお店だった。そこにも沢山お客さんはいたけど、通路ほどではなくて、ようやく一息つく。少し余裕ができて周りを見回すと、なかなか趣味のよさそうなお店だった。さすが、ともはちゃん。
「ともはちゃん、こういうのが好みなんですか?」
「え……いや、たまたまで……」
とか言いながら、ともはちゃんも結構興味がありそう。そのまま二人で手をつなぎながら、ぶらぶらと見て回る。でもね、ともはちゃん、その革ジャンはちょっと……きっと、着てくれたらカッコいいに違いないけど、私のお財布にはとっても優しくないかも……。
ともはちゃんを、それとなくお手頃な小物のコーナーに誘導しようとした時、お店の入り口がざわついているのに気付いた。そちらを見ると、場違いな黒服の大柄な男の人たちが何人も強引に入ってきて、誰かを通そうとしてるみたいにスペースを確保しようとしていた。
「はた迷惑だなあ……」
ともはちゃんが呟く。私もうなずこうとした時、背後からせっぱ詰まった声がした。
『トモっ……はちゃんっ』
びっくりして振り向くと、操緒さんだった。えっ……離れてくれてるはずじゃなかったの? ともはちゃんもびっくりした顔で、
「操緒? なんだよ、離れてろって……」
『それどころじゃないよっ。あれ、あれっ』
操緒さんが指さしたのは、黒服の男の人たちの方。あの人たちが何なんだろう、と思って見るうちに、男の人たちが確保した隙間を通って、カップルが現れた。遠目からでも分かるくらい、とっても美男美女の組み合わせだった。
すごいなあ。世の中、ああいう人たちもいるんだ。などと感心して見ていると、
「げ……」
横合いから、年頃の女の子らしからぬ呻き声がした。
「ともはちゃん?」
そちらを見ると、みごとに青ざめて立ち尽くすともはちゃんがいた。なに、何なの?
「知ってる人……なんですか?」
ともはちゃんは硬直したまま、答えてくれない。操緒さんに目を向けても、なんだかため息をついて首を振ってるばかり。どうしたんだろ。
もう一度、入ってきたカップルに視線を戻した私は、男の人の方に見覚えがあることに気付いた。確か、あの人って、私たちと同じ洛高の二年生で、第一生徒会会長の、佐伯くん、じゃなかったっけ。いつもの制服じゃないから、分からなかった。
その佐伯くんが、隣の女の子に話しかけるのが聞こえてくる。
「玲子、こんな店でいいのか」
「はい、お兄様。でも、付き合っていただかなくっても、よかったのに」
あ、兄妹なんだ。道理で、どちらも美形揃いだと思った。
「ふむ。たまには、こういう庶民的な店を見てみるのも悪くない……が、もしやここで私へのプレゼントを探そうとしているわけではあるまいね」
「まさか。お兄様には、ちゃんと相応しいものを整えるよう命じてあります。……ただ、えっと、その……学校の、お友だちには、こういったところの品物の方がいいかな、って……」
「ふむ」
なんだか知らないけどはにかんでいる妹さんと、それを見つめるお兄さん。微笑ましい光景だった。周囲のごつい黒服のおじさんたちは別にして、だけど。
「せ……先輩」
一方こちらでは、ともはちゃんがようやっと復活して、私の肩に手をかけてきた。ともはちゃん、何だか手が震えてるよ?
「い……行きましょう。出ましょう。この店」
「え……」
でも、まだほとんど何も見てないし、それに入り口のところはあの人たちがふさいでしまってるし、今のところは、ここにいた方がいいんじゃないかな。それより、あの二人の会話がちょっと気になって、つい耳を傾けてしまう。
「そうか。クラスメイトにか。まあ、確かに、手頃かもしれないな。しかし、男物ということは……」
「べべべ別に、深い意味はありませんっ。たまたま、たまたまですっ」
女の子が赤くなって叫んだので、ぴんと来た。そっか、あの子も好きな相手へのプレゼントを選びに来てるんだ。私と同じだ。思わず親近感を覚える。
「そうか。そうだな。まあ、彼にはいろいろと世話にもなっているからな。感謝の気持ちを示しておくには、いい機会かもしれないな」
含み笑いをしながらそう言う佐伯くんは、明らかに妹さんをからかっていて、
「かかか彼って、私、べべべ別にそんな……もうっ、お兄様ったらっ」
妹さんは耳まで真っ赤になって、そっぽを向いた。その拍子に、視線がこちらに向く。
そして、その目がまん丸に見開かれた。
『あちゃー……』
嘆息したのは、操緒さんだ。私はといえば、訳も分からず、妹さんと見つめ合うばかりだった。
いや、違った。妹さんが見つめていたのは私じゃなくて……ともはちゃん?
「どうしたんだ、玲子」
佐伯くんが、妹さんの様子がおかしいのに気付いたのか、声をかける。そして妹さんの視線を追って、こちらに目を向けようとした、矢先。
妹さんが、両手で、近くの商品棚を思いっきりなぎ倒した。と思うと、自分自身もその上に倒れ込む。派手な轟音とともに、セーターだのシャツだのが周囲に舞い飛んだ。え……ええっ、いったい、なんなの?
「玲子っ。大丈夫かっ」
当然、佐伯くんが大慌てで妹さんを助け起こす。
「どうしたんだっ。怪我はないのかっ」
「ご……ごめんなさい。大丈夫です。ちょっとよろけてしまって」
ええっ? 何それ? あれはどう見ても、わざとやったとしか見えなかったよ? どういうことなの?
「そ、そうか」
あの、佐伯くんも、それで納得しちゃうの? 私、もう何がなんだかわけ分かんないよう。佐伯くんは妹さんの肩を抱き、駆け寄ってきたお店の人たちに向かって、
「ああ、妹が迷惑をかけて申し訳ない。散らかした品物は全てこちらで買い上げるので、許してくれたまえ。おい、お前たち」
呆然とする店員さんたちの前で、黒服のおじさんたちがわらわらと立ち働いて、商品棚を元に戻し、床に落ちた衣類を荷物にまとめてしまった。リーダーらしい人が、クレジットカードか何かを出して支払いの話もしてるみたい。
「はー……」
こっちは、ため息しか出ない。どういう人たちなんだろ、佐伯くん家って。首を傾げていると、いきなり横に引っ張られて、危うくこけそうになった。ともはちゃんが、生死の境をぎりぎりでくぐり抜けた人みたいな顔で、私の腕をつかんでる。
「と、ともはちゃん?」
「しいっ」
鋭い声で黙らされる。あのっ、あっちもこっちも、何がなんなのー!
「行きますよ。この隙に」
この隙って、どういうこと? もしかして、佐伯くんたちと何か関係があるの?
訊きたいことはいくつもあったけど、ともはちゃんが有無を言わせず私をひきずっていくので、どうしようもない。
姿勢を低くして、あの兄妹から遠ざかるように人垣の後ろを回り込もうとしているところを見ると、佐伯さんたちを避けてることは間違いなさそうだけど、でも、どうして?
混乱しきった私を連れて、ともはちゃんは何とかお店を脱出すると、足早に歩き始めた。
「……あの。ともはちゃん」
おそるおそる声をかけてみたけど、ともはちゃんは振り向きもしない。私の腕をつかむ力の強さが、ともはちゃんの焦燥を語っているようだった。私は、思い切って足を踏ん張った。
「痛いです。ともはちゃんっ」
「……あ」
そこでようやく、ともはちゃんが足を止め、こちらに顔を向ける。私の顔を見て、済まなさそうな表情になった。
「あ……あの。すみません。乱暴に引っ張り回しちゃって」
「いえ……いいんですけど。あの、これはいったいどういうことなんですか」
「え、えーと……」
ともはちゃんの目が泳ぐ。言っとくけど、ちゃんと説明してくれるまで、動かないからねっ。
『ともはちゃん、まずったねえ……』
いつの間にか、操緒さんも側に来ていて、そんなことを言う。操緒さんには、事情が飲み込めているらしい。私だけ、のけ者ってこと? ますます、気にくわない。
「ともはちゃん?」
年上としての威厳をこめて、ともはちゃんを睨みつけた時だった。背後から、
「な……つめえええぇっ」
地獄の底から響いてくるような声がすると、ともはちゃんは観念したように目を閉じ、ううううっ……、と、か細い呻き声を漏らした。
異様な状況だった。
女の子が四人、女子トイレの個室の中にひしめきあって、誰も、何もしゃべらない。
ともはちゃんは俯いた姿勢で便座の上に小さくかしこまって、私はその横にぴったりと寄り添って、操緒さんはあさっての方向を見ながら空中に漂っていて、その全てを、佐伯くんの妹さんが腕組みをしながら見下ろしている。
しかし妹さん、美人だけど、怖い。美人だから、怒るといっそう怖いのかな。
それにしても、さっきの呼びかけからすると、ともはちゃんの正体を知ってるってことだよね。ともはちゃんのことを知ってるのって、黒崎さんと操緒さんと私くらいだって思ってたのにな。なんだかちょっとショック。
それに、ともはちゃんのことをそんなに怒っている理由もよく分からない。そろそろ、私から訊いてみようかな。……と思ったところで、ともはちゃんが深いため息をついた。
「佐伯……えと……」
「このド変態」
「……はい」
妹さんの一声で、何か言おうとしたともはちゃんは縮こまってしまう。
「あんた。私の前にまたその恰好で現れるなんて、いい度胸ね? こないだので、元々ゆるい頭のネジが、とうとうどっかへ飛んじゃったのかしら? 今度は、もう物理的社会的に抹殺しちゃっても構わないわよね? 覚悟はできてるってことね?」
「……いや……覚悟って……だいたい、こっちだって好きでやってるわけじゃ……」
「へえ。好きでもないことを、こんな人目のあるところで、大手を振ってするわけ。あんたは」
「いやだから……これには」
「深い事情があるなんて言ったら、殺すわよ。どんな事情があろうと関係ないっ」
「あ、あの!」
私が叫んだのは、見るに見かねてのことだった。
「その、ともはちゃん……」
妹さんが、ぎろりとこちらを睨み付けたので、言い直す。
「……いえ、夏目くんには、私がお願いしたんです」
「あなた。誰」
「えっ……私……沙原ひかり、です。洛高二年の、第二生徒会の」
「第二生徒会?」
妹さんが目を眇める。
「もしかして……またなんか、悪巧みに夏目を巻き込んでるんじゃないでしょうね?」
「いえっ……とんでもない……あの、今日は、お買い物に付き合ってもらってるだけで……」
「買い物? それでなんでこの恰好になるの?」
「え、えっと……」
妹さんの視線が恐ろしすぎて、つい、ともはちゃんの肩口にすがりつく。それを見た妹さんは、いっそう柳眉を逆立たせ、歯を剥いた。
「あんた……その恰好のときまで、女の子とベタベタベタベタベタベタと……」
はい? 妹さん、それって?
「だいたい、私が訊いたときには、週末は用事があるとか言っといて、こんなことって……」
……ということは、妹さんも夏目くんを誘ったってこと?
それで、いきなり分かった。なんだ、そういうことか。
……それはまあ、妹さんが怒るのも、何となく分かる。好きな相手が自分の誘いを断って、女装して、他の女の子と出歩いてたら、面白くないよね。特に妹さん、潔癖な子みたいだから、尚更こういうのが許せないんだろうな。
それにしても、さっき、夏目くんと出歩いてるのを他の女の子に見られたくなかったからだなんて、ほんとの理由を口走らなくて良かった。危ない危ない。
そっと横目で、ともはちゃんを見る。うんざりしたような、諦めたような、鈍い表情。たぶん、この子の気持ちなんて、まるきり気付いてないんだろうな。
そう思うと、なんだか妹さんに対して、とっても親近感が湧いてきた。そうだよね、お互い苦労するよね。
共感したしるしに、がんばって頬笑んでみせたら、すごい目つきで睨み返された。ううう、やっぱり怖いよう。
「……佐伯」
ともはちゃんが再び口を開く。
「黙れ変態」
「さっきは、ありがとな。助かった」
そう言われて、妹さんは言葉に詰まったみたい。しばらく口をもにょもにょさせてから、
「べ別に夏目のためじゃなくて、お兄様のためよ。その恰好のあんたを、お兄様に会わせるわけにはいかないもの」
「そうだよな……こっちだって会いたくないよ」
「何ですって?」
妹さんが再び激昂する。ともはちゃん、佐伯くんとも何かあったの?
「あんた……だれのせいで私がこんな苦労をしてると思ってるのっ。お兄様が、と、ともはさんのことを話題にする度に、私がどんな気持ちで相手してるか分かるっ?」
「ああ……そうだよな。ほんとのことを言うわけにもいかないしな」
「だ、だから、あんたが、その恰好を二度としなければいいのよっ。そうすれば、お兄様もそのうちに自然にお忘れになるわっ。そそそれをっ」
「ああ、佐伯の言うとおりだよ。佐伯にはほんとに、済まないと思ってる。ごめん」
ともはちゃんが真摯な表情で頭を下げたので、妹さんの罵声はとりあえず鳴りやんだ。
「わ、分かればいいのよ……」
少し戸惑ったようすで、かすかに頬が赤くなってる。綺麗な子だから、そんな表情をすると反則的に可愛い。それにしても、ともはちゃんの周りって、なんでこんな美人ばっかりなんだろ。
「うん。二度としないよ。今回は……まあ、人助けみたいなもんで。いろいろあって、断れなかったんだ」
「あの……私が無理にお願いしたんです。きっと、楽しいって思って。ごめんなさい……」
私も神妙に助け舟を出した。事情はよく分からないけど、ともはちゃんと佐伯くんの間に、きっと何かまずいことがあったんだ。ともはちゃんも、そういうことは前もって言ってくれればいいのに……って、私のせいだね。ごめんなさい。
「そ、そう……まあ、仕方ないわね。今回だけは見逃したげる」
妹さんは伏し目がちに呟いた。こっちがきちんと謝ったら、いつまでも怒っていられないなんて、いい子だなあ。こんないい子をやきもきさせるなんて、ともはちゃんも罰当たりだね。
「そ、それにしても……水無月さんも水無月さんよ。なんで止めないの」
照れ隠しなのか、操緒さんに矛先が向く。操緒さんは、えーだって、と手を振った。
『面白そうだったしー。ここで協力したら、好きなときに智春の体を操ってもいいって約束してもらったし』
えっ……その……ともはちゃん、そんな約束まで。えっと……ごめんなさい……。
『それにさ』
操緒さんがにやっと笑う。
『綺麗で可愛いともはちゃんを、もいっぺん見たくってさ。佐伯ちゃんも、実はそう思ってるでしょ?』
「わわ私? 私はそんな……」
妹さんはまた真っ赤になった。
「おおおお姉さまがほしいだなんて、そんなこと思ってないからっ!」
あちゃー。自爆型かあ。うーん、ますます可愛く見えて来ちゃった。さっきまでの怖さが嘘みたい。
何ともいいがたい顔をしているともはちゃんの横で、操緒さんがくっくっと笑って、
『どーでもいいけど、そろそろ出てかないと、お兄さん、不思議に思わないかなあ?』
「そ……それもそうね」
妹さんはちょっと唇を噛んで、
「……いいわ。でも夏目」
「分かってる。二度としないよ。約束する」
「どうだか……」
妹さんはしばらく、どうも信用なさそうな感じで、ともはちゃんのことを半目で見ていたけど、ともはちゃんが視線をそらさずに正面から見返し続けていたおかげか、そのうちに、大きく息を吐いて肩を落とした。
「今日は、お兄様とすぐに引き上げるから。あんたたちも、とっとと帰ってよね」
「分かった」
「じゃ、じゃあ……」
……えーと妹さん。その、どことなく名残惜しげな視線は、どういうことでしょう? なんか、あやしいなあ。というか、何となく分かるけど。
妹さんが立ち去ってからたっぷり二、三分も経ってからだろうか。私たち三人は、示し合わせたように、そろって長い長いため息をついた。