真夏の太陽の下、久遠はホーリーエンジェルへと変身して町外れの廃工場の前に立っていた。  
中からは微弱ながらデスパイアの反応が感じられる。  
1人で町を歩いている最中、ほぼ同時に3箇所で発生したデスパイアの反応。  
すぐさまかのん達と連絡を取り合い、1つ1つの反応の弱さもあって久遠達は3手にわかれてそれぞれ近くにいるデスパイアに対応することに決めたのだ。  
(またここにデスパイアが現れるなんて……)  
デスパイアに初めて敗北し蹂躙された忌まわしき記憶の残るその廃工場を前にするだけで、久遠の心の奥からはあの時の恐怖が蘇ってくる。  
とはいえ、かのん達も今ごろ別の場所で戦っているはずなのだ。  
ここまで来て何もせずに帰れるはずがない。  
(それに、私だってあの頃の私とは違う)  
前回の戦いにおいて、久遠はそれまでとは桁違いの力を手に入れていた。  
その客観的事実と、そこから生まれる自信に後押しされて、久遠は固く閉ざされた扉に手をかけた。  
 
わずかに開いた扉の隙間から、肌にまとわりつくような湿気をはらんだ空気が流れ出してくる。  
だが、久遠が感じたのはそれだけではなかった。  
(この匂い……まさか……)  
真夏の熱気を強調する甘ったるい果実臭。  
それは先日、久遠が相手にしたウツボカズラ型のデスパイアから放たれていたものだ。  
結果的には新たな力を手に入れたことで倒すことが出来たのだが、その前に袋状の器官に飲み込まれて陵辱された感触は今でも生々しく残っている。  
「ようやく来たか」  
怯みそうになる心を叱咤して扉を完全に開いた久遠にかけられた声の主は、正しく彼女の予想した通りの相手だった。  
「確かに倒したはずなのに……」  
思わずそんな言葉を呟いてしまう。  
大きさこそ、建物の2階を越えるほどだった前回に比べ人間と同じくらいまで小さくなってはいる。  
だが、その姿は紛れもなく1度は倒したはずのウツボカズラ型のデスパイアだ。  
「お前も知ってのとおり再生は俺の得意分野でな。一片でも組織が残ってさえいればこの通りだ」  
その言葉に引き摺られるように久遠の脳裏に蘇るのは、先日の戦いで切り落とされてもすぐさま再生した蔦の映像。  
しかし、まさか本体と思われる部分を焼き尽くしても再生を果たすとは思ってもみなかった。  
 
「それなら、こんどこそ欠片も残さず消滅させてあげます。スペル オブ ヒートウェイヴ」  
「なにっ!?」  
半ば不意打ち気味に高めていた魔力を放出する。  
振りかざしたホーリースタッフから炎の帯が一直線に伸び、狙い違わずデスパイアに直撃した。  
「やった!? ううん、違う!」  
目の前のデスパイアは燃え尽きたが、デスパイアの反応はなくなっていない。  
それどころか、全身を包み込むような圧迫感を感じた久遠は反射的に横に跳んでいた。  
直後、それまで久遠が立っていた場所を細長い何かが打ち付ける。  
とっさの行動でわずかに崩れた体勢を立て直しながら天井を振り仰ぐ。  
そこで久遠が見たものは、天井の骨組からぶら下がる無数のデスパイアの姿だった。  
周囲を見渡せば、壁にも数えきれないほどのデスパイアが貼りついており、久遠を包囲するために徐々に下りつつある。  
「勝ったと思って油断するかと思ったが、そこまで甘くはないようだな」  
全く同じ姿をしたデスパイアが一斉に言葉を放つ。  
「バカにしないでください。私だってこれまで何度も戦ってきたんです」  
実際、初めての敗北は数に圧されてのものだった。  
一匹一匹はたいしたことのない、下級呪文の1発で消滅するような雑魚デスパイア。  
だからこそ、そんな存在に良いように蹂躙される屈辱は時が経っても拭いきれるものではなかった。  
だが、今回はその忌まわしい記憶に救われた。  
まだ敗北を知らなかった頃の久遠なら、先ほどの一撃をまともに食らっていただろう。  
(あの時は大量のデスパイアを見た瞬間、勝てないと思ってしまった。でも今なら……)  
近接戦闘型のアサルトエンジェルと違い、攻撃魔法を得意とするホーリーエンジェルの真骨頂は範囲攻撃による敵の一掃だ。  
「もうあの頃の私とは違う! スペル オブ ヒートウェイブ」  
決意の叫びと共に詠唱を開始する。  
 
「バカの1つ覚え……、なっ!?」  
呪文自体は先ほどと同じ物。  
だがそこに込められる魔力の桁が違う。  
爆発的に膨張した魔力を感じ取りデスパイアが怯んだ一瞬を狙って久遠は力を解放した。  
溢れ出した魔力は炎という実体を持って久遠の周囲に渦を巻く。  
ヒートウェイブは任意の場所に炎の壁を発生させる魔法だ。  
故に十分な魔力さえあれば、全方向に対し同時に攻撃することも可能なのである。  
久遠を中心にして咲いた炎の花が一気に花弁を伸ばし、地上の、壁の、天井の、全てのデスパイアを飲み込んだ。  
 
「今度こそ……やった……」  
いかに新たな力を手に入れた久遠であっても、さすがにここまで強力な魔法による消耗は大きかった。  
足に力が入らず、思わずその場にぺたりと座り込んでしまう。  
肩で大きく息をしながら、それでも久遠はまだ休むわけにはいかなかった。  
「……かのんちゃん達の加勢にいかないと」  
かのんや霧香が負けるとは考えたくはないが、万が一という事もある。  
そう考えた久遠がホーリースタッフにすがるようにしながら立ち上がったときだった。  
「え? きゃぁぁぁぁ!」  
足に何かが巻きついたのを感じた瞬間、いきなりの天地逆転と急な加速で平衡感覚が失われる。  
気がついたときには久遠は天井近くで逆さ吊りになっていた。  
逆転した視界の中では、足に巻きついた蔦がいまや遥か頭上にある地面まで長く伸びている。  
その蔦の根元の地面が盛り上がり、そこからウツボカズラ型のデスパイアが姿を現した段になって、ようやく久遠は自らの失敗に気がついた。  
集中してデスパイアの反応を探ってみれば確かにかすかな反応が感じられる。  
だが、直前まで無数のデスパイアの反応に囲まれて慣れてしまったために、1体分のかすかな反応に気付けなかったのだ。  
「さすがの炎も地面の下までは届かなかったな」  
嘲りの色を隠すことなくデスパイアが言う。  
人型のデスパイアだったなら間違いなく笑みを浮かべていただろう。  
「くっ……」  
消耗が激しいとはいえ、全身から魔力をかき集めれば目の前のデスパイア1匹程度なら倒せるだろう。  
しかし魔法の発動させるために必須のホーリースタッフは先ほどの一瞬で手放してしまい、今はデスパイアの横に転がっている。  
予期せぬ出来事だったとはいえ、唯一の武器を手放してしまった自分の不甲斐なさに久遠は唇を噛んだ。  
いや、そもそもこの事態を予測できなかったこと自体が後悔となって久遠の心を責めたてる。  
 
「まったく、ようやくあそこまで再生したというのにまたやり直しだ。だがまあ今回は極上の補給源があるから再生も容易ではあるがな」  
デスパイアの本体部分がスルスルと近づいてくる。  
その袋状の器官が口を開き、甘ったるい匂いがそれまで以上に周囲を満たす。  
そこから垣間見える粘液をまとってうごめく繊毛に、久遠は前回の戦闘で袋の中に飲み込まれた時のことを思い出し身を震わせた。  
「いやっ……こないで……」  
目に涙を浮かべながら懇願するが、そんなことで止めるデスパイアがいないことなど久遠が誰よりも知っていた。  
本体に先んじて伸びてきた蔦が久遠の両手を巻きとり、逆さ吊りになっていた久遠を引っくり返す。  
頭に上りつつあった血液が下がり、わずかに楽になったが  
これから受ける行為のことを考えればその程度で安堵など出来るはずがなかった。  
(またあの中に飲み込まれたら、今度こそおかしくなる……!)  
一度体験してしまったが故に、再びあの責めに晒されれば耐えられないということが嫌でもわかってしまう。  
恐怖に塗りつぶされそうになる思考を必死の思いで繋ぎとめ逃れる術を探した。  
だが、手足を拘束され、魔法の発動媒体をも失った久遠に出来ることなど、首を振り身体を揺することで拒絶の意思を表すことぐらいだ。  
「そんなに腰を振って誘わんでも、すぐに行ってやるわ」  
「なっ……違う!」  
言葉とは裏腹にデスパイアの進みは遅い。  
それがもはや抵抗できない久遠をよりいっそう怯えさせるための演出であることは明白だった。  
空中で磔にされ空しく身を揺する久遠にゆっくりと近づいていくデスパイア。  
それはまさしく蝶と蜘蛛を連想させる光景だ。  
「いやっ!」  
ついにデスパイアの本体が久遠の身体に到達する。  
反射的に足を引き上げようとするが、それすらも今の久遠には適わなかった。  
 
両足の足首のあたりまでを包み込まれる感触。  
そこで久遠のつま先が底にあたり、デスパイアの上昇が一旦止まる。  
「この大きさでは丸ごとは飲み込めぬが、淫乱なホーリーエンジェルならばこれだけでも十分快楽を貪ることができるであろう?」  
「そんなこと……やっ……溶けてる……だめぇ……くすぐったい」  
袋の中に溜まっていた溶解液によってブーツが溶かされ、内側にびっしりと生えた繊毛が直にまとわりつく。  
そしてこの粘液の効果が衣装を溶かすことだけではないことを久遠は身をもって知っていた。  
肌の表面に丹念に塗り込められた粘液に引きずり出されるように、肌の下から痒みが浮き上がってくる。  
「ひゃぅ……だめ、かゆいの……だめぇ」  
そこを繊毛で再び撫でられると、痒みの解消と引き換えに甘い痺れが生み出され身体を駆けあがって来る。  
「足の先だけでこれだけ乱れるとは、相変わらず淫乱なエンジェルだな」  
久遠の反応に気を良くしたのか、繊毛は足の裏や甲だけではなく指の間に至るまで粘液を擦り込んでいく。  
指を1本ごと口に含まれて舐めしゃぶられているかのような感触。  
それが左右全10本分同時に襲ってくる。  
自ら望んだことではないとはいえ、何度もデスパイアに陵辱され開発されてきた久遠の身体が耐えられるはずがなかった。  
(ちがう……私は、淫乱なんかじゃ……)  
どんなに心の中で否定しても、足先から生まれた甘美な電流は、容赦なく思考を白く塗りつぶしていく。  
「いやぁ……こんなので……こんなので、イキたくないぃ……。んんんぅぅぅぅーーー!!」  
久遠の身体がそれまで以上の激しさで前後に揺れ、デスパイアの放つ果実臭にも負けないほどの甘い香汗が全身を滝のように流れ落ちていく。  
「はぁ……はぁ……こんな、こんなの……」  
またしても憎むべきデスパイアによって、しかも足への愛撫だけで絶頂まで導かれてしまったという事実に久遠の中に絶望が広がっていく。  
そんな中、汗とは異なる粘度を持つ液体が内股に一筋の流れを作り、そのままデスパイアの口へと流れ込んだ。  
だが屈辱の絶頂によって吸い取られたのは汗や愛液だけではない。  
久遠の身体からなけなしの魔力が失われ、それと反比例してデスパイアがその大きさを増していく。  
 
容積に余裕ができたデスパイアが上昇を再開する。  
「ひゃぁう……もう、やめて……ゆるひて、くださぃ……」  
足先のわずかな面積だけでも耐えられなかった刺激の発生源が、ふくらはぎ、膝裏、太股と徐々に拡大していく。  
そして――  
「んんぅっ!」  
久遠の声のトーンが一段上がった。  
デスパイアの口がちょうど臍のあたりに感じられる。  
それはつまり女性の最も敏感で神聖な部分がデスパイアに飲み込まれたということだ。  
久遠自身が分泌した液体によって秘部に貼り付いていた下着がスカートもろとも溶かされ、繊毛が直接粘液を塗り込んでくる。  
その刺激から逃れようにも、完全に包囲された久遠の下半身に逃げ道はない。  
そして秘唇と同じく繊毛によって粘液を塗り込められていた双丘に、突然鷲掴みにされたような感触が襲ってきた。  
「ひっ!」  
恐怖のあまり喉が鳴る。  
直接見ることはできないが、久遠はその感触に心当たりがあった。  
このデスパイアは袋状の器官の中に、繊毛とは別に普通の植物の花に似た器官を持っているのだ。  
その花弁が尻肉をぐにぐにと揉み込んでくる。  
だが久遠を怯えさせているのはその花弁ではなかった。  
本当に恐ろしいのは花弁の中心に位置するめしべのような――  
 
「そこ、そこは……だめぇ!」  
恐れていた感触が排泄のための場所へと押し付けられる。  
咄嗟に括約筋に力を込めて閉めようとするが、意識を集中すると下半身を襲う甘い痺れがより一層強く感じられてしまう。  
「ひふあぁぁあ」  
自分でも恥ずかしいほどの甘ったるい声が零れ落ち、込めたはずの力があっけなく霧散してしまう。  
そして守りを失った窄みは、粘液をまとったデスパイアの花芯に対しあっさりと侵入を許してしまった。  
本来排泄するためだけの器官が、繊毛とは違う確かな太さと硬さを兼ね備えたものによってむりやり拡張される。  
本来あるべき痛みや吐き気はほとんどなく、重い痺れが腹の底から湧いてくる。  
「いやぁ……お尻の穴でなんてぇ……」  
粘液と、度重なる陵辱によって痛みを覚えることすらないこと、それが逆に久遠の心を絶望させる。  
(感じたくない……感じたくないのに……)  
腸壁を削り取られるような乱暴な挿入に、体を内側からゴリゴリ擦られる。  
それすらたまらなく心地いい。  
表皮をじわじわと責め立てる繊毛と、体の中心を力強く貫く花芯。  
2種類の刺激は相乗効果となって久遠の意識を高みへと突き上げていく。  
「いや……もう、イキたく、ないぃ」  
狂いそうなほどの快楽の奔流の中で、辛うじて踏みとどまれたことは奇跡と言ってもいいだろう。  
だがそんな久遠の抵抗を嘲笑うように、腸壁を擦り上げていた花芯の先端からドロドロに溶けたマグマのような液体が噴出した。  
 
「いや、いやぁーー!」  
身体を内側から焼き尽くされるその熱さに、わずかに残っていた理性が一瞬で蒸発する。  
頭の中が白濁し、次の瞬間1度目の絶頂の時とは比べ物にならない勢いで魔力が吸い出されていくのが感じられた。  
冷水をかけられたようにわずかに冷えた頭の片隅で、デスパイアに魔力を吸われているのを理解してもそれを止めることができない。  
それどころか全てから解放されたかのような浮遊感に身を委ねてしまいそうになる。  
「はぁ……はぁ……」  
実際の時間にすればそれ程でもなかったであろう精神的な飛翔からようやく降りてくる。  
全身を包むのは2度目の絶頂とそれに伴う魔力の吸収による脱力感。  
けれど感覚だけは普段以上に鋭敏になり、絶えず噴き出す汗が皮膚の上を流れていく感触すらも甘美なものに感じられる。  
「やはりエンジェルの魔力は格別だな」  
満足げなデスパイアの言葉を聞きながら、久遠はバラバラになった理性を必死に掻き集めた。  
「ま、負けない……。諦めさえ……しなければ……」  
朦朧とする意識の中で、久遠は自分に言い聞かせるようにそう呟いた。  
 

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