「教師失格よ・・・」  
 こんな場面でも減らず口を叩きたくなる。私の悪い癖だ。  
 ライルは気にも止めずに首筋に顔を埋め舌を這わせてくる。  
 やんわりと服の上から胸を揉みしだいていた手は、いつの間にか背中に回され  
ドレスを脱がせにかかっている。  
 「あ・・・ン」  
 鎖骨の辺りを甘噛みされて、意識しないまま声をあげてしまう。  
パサッとドレスが足下に落ちた。胸を覆っていた下着もあっさりとはずされ  
裸の胸が外気に晒され、ビクッと揺れる。  
 寒い訳じゃない。怖いわけでもない。でもやっぱり緊張する。  
 そんな私をライルはまじまじと見つめた。恥ずかしくて視線をそらす。  
「本当に成長しましたね。」  
 こういう場面でそういうことをしみじみと感慨深そうに呟かないで欲しい。  
大体、子供の頃に裸を見せた覚えもない。  
 抗議しようと口を開きかけたところに舌を差し入れられた。  
 右手で胸の先端を転がすように弄ばれるうちに文句を言う気が削がれてしまう。  
耳朶を甘噛みされ、首筋から堅くなった胸の突起へと舌を這わされると体の奥が熱く  
なってくる。  
 「ふ・・・あっ・・・ン・・っく。」  
胸の突起を強く吸われ、全身に甘い痺れが走る。膝がガクガクして力が抜ける。  
 しかしライルはそのまま私が崩れ落ちるのを許してくれない。私の体を更に本棚に強く  
押しつけつつ、左腕を腰に巻き付けて体を支えてくれる。  
   (・・・ちょっと待て。)  
甘く霞がかかった頭に警告が響く。  
 ライルはこのまま・・・本棚に私を押しつけたままの状態で最後までコトに及ぶ気じゃ・・・。  
「ちょ、ちょっとライル! 」  
ライルは私の呼びかけを無視して行為を続ける。  
 後が怖い気もするが強硬手段。胸に顔を埋めているライルの髪を引っ張る。  
ライルが顔を上げ睨んでくる。  
「禿げたらどうするんです。私はもう若くないんですよ。髪がいくらでも生えてきて  
 くれるわけじゃない」  
「呼んでいるのを無視するライルが悪いんでしょ」  
「・・・まさか、ここまで来て厭だと言うんじゃないでしょうね。」  
 
「・・・違う・・・けど」  
・・・別に結婚まで清い関係でいたいなんて思っているわけじゃない。  
(第一、言ってしまうならライルいうところの「前の男」とそういう関係を持ってしまって  
いるし。)  
「じゃあ、何なんです?」  
ライルに聞かれて言い淀む。行為がイヤなんじゃない。この体勢・・・立ったままという  
のがイヤなのだ。  
 お互いの想いを確認した後、初めて結ばれる時に立ったままというのはあんまりだ。  
 こんなの絶っっ対に『普通』じゃない。  
 第一、この国でも高位の第一王女に対する扱いとしてどうかと思う。まるで街娼みたいだ。  
でも、それをそのまま口にするのは、なんとなくはばかられる。  
 ライルはそんな私の様子を見て察してくれたらしい。  
「あぁ、この体勢がご不満なんですね。もっと『普通』に・・・例えば寝室に行きたいと。」  
私はホッとして首をブンブン縦に振る。  
 ライルは優しげで・・・それでいて極悪な笑みを浮かべた。  
悪い予感。スーッと背筋を冷たいものが駆け抜ける。  
「申し訳ないのですが、ご希望には添えかねますね。」  
 絶対に申し訳ないと思っているとは思えいない口調で、ライルはきっぱりと言い切った。  
「ど・・・どうして?! 」  
「そんな『普通』な状態でしても面白くないでしょ。初めて二人が結ばれるというのに印象も  
薄くなる。どうせなら、一生、忘れられないように・・・」  
「いいっ!!! 別にそんなに印象深くようとか思ってくれなくてもいいから! ちゃんと覚えてる自信、  
あるからっ! 」  
 ライルの言葉を遮って叫んでしまう。  
「ダメです。第一、そんな『普通』なことは『前の男』で経験済みでしょう?  
私はアイリーン曰く、年寄りですからね。がっついた若い男と比べられるのはご免です。」  
・・・祭りの時の私のセリフを執念深く覚えていたらしい。  
「・・・っつ!」  
 更に文句を言い募ろうとしたが出来なかった。ライルが下着の脇から指を忍び込ませてきた。  
ビクンと背がしなる。  
「おや。文句をつけている割には、悦んでくれているんじゃないですか。」  
ククッとライルが喉の奥で笑う。  
 
 誤魔化しようもない。私の「そこ」は既にトロトロに濡れているのだ。  
ライルは指で秘裂を探り、わざとピチャピチャと卑猥な音を立てている。  
「は・・・ぅん」  
 やんわりと弄ばれる感触とイヤらしい水音とに感じてしまい声が抑えられない。  
 親指で一番敏感な部分を刺激され、中指と人差し指で中をかき回される。  
 もうどうしようもなく焦れったいような甘い感覚に負けてしまい、自然とねだるように  
腰が揺れる。カラダがもっと強い刺激を欲しがるのを抑えられなくなる。  
ー 指なんかじゃ足りない。もっと・・・。 ー  
「一国のプリンセスともあろう方がはしたない。もう少し慎みというものを持っていた  
だきたいですね。発情期の猫の方が今のあなたより、ずっとおしとやかですよ。」  
 心の中で思っただけのはずが、声に出てしまっていたらしい。恥ずかしくなって  
身をよじると、ライルはあっさり指を引き抜く。疼きと焦燥感がつのる。  
「しかし・・・プリンセスのご要望にお応えするのも臣下の努めのうちですよね。」  
 最後に残っていた下着をスルリと脱がされた。それを追うように私の中から溢れ出た  
愛液がトロトロと太腿を伝う。  
片足を太腿から掬うように持ち上げられてバランスを崩しかけ、ライルにしがみついた。  
そのまま一気に貫かれる。ヒクン。持ち上げられている足のつま先が反り返る。  
「うっ・・・あぁ・・・・っっ」  
 引き裂かれるような痛みは、徐々に反転して凄まじいまでの快感に変わる。  
突きあげられるたびに、甘い声で啼きながら腰をすり寄せ揺らし、  
そのまま与えられる快感に溺れて堕ちていく・・・・。  
 
 何度、いかされたのかも覚えていない。  
・・・ようやく解放され、何冊かの本を道連れにズルズルとその場にへたり込む。  
「いけませんね。本は大切に扱わないと。ここにある本はみんな貴重なものばかり  
なんですよ。」  
ライルが膝をつき、獲物をいたぶる猫のような目をしながらクレームをつける。  
 だったら、そもそも、こんな場所を選ばなければいいじゃないかという一言が喉元まで  
出掛かったが、なんとか飲み込んだ。そんなことを言ったら後が怖い。怖すぎる。  
 
「何か、いいたいことがあるなら、はっきりおっしゃったらどうです?」  
「いえ、別に・・・」  
慌てて目を逸らすが顎を掴まれ覗き込まれる。  
「そうですか?だとしたら随分と反抗的ですね。本を大切に、というこんな  
当たり前のことが守れない上に、素直に従えないというなら・・・お仕置きが  
必要ですね。」  
 ー な、なんでそういうことになるの?! ー  
言いがかりも甚だしい。パニックになる。  
「だって、それは先生が・・・・あっ・・。」  
しまったと思ったがもう遅い。  
「先生と呼んだらお仕置きだと言ったはずですよ。余程、お仕置きをされたいようですね。」  
ライルはものすごく嬉しそうに笑いかけてくる。  
絶体絶命。  
 と、その時ドアノブがガチャガチャと回される音がした。  
続けてドンドンと荒っぽくドアが叩かれる。  
「おーい、ライル。人を呼びつけておいて鍵かけて部屋にこもっているって  
どういうことだよ。用がないなら帰るぞ。」  
この不機嫌そうな声は・・・ロベルトだ。  
「忘れていました。ロベルトを呼びだしていたんでした。」  
ライルは素早く身支度を調えながらロベルトに答える。  
「今、行きますからちょっと待っていてください」  
助かったとホッとしたのもつかの間。  
「アイリーン、五分、時間をあげますから身支度が終わったら鍛錬場に来てください。」  
なんで私まで出て行かなくちゃ行けない、と思ったがライルは言葉を挟む余地を与えず  
部屋を出て行ってしまった。  
 これでいう通りにしなかったり、五分を少しでも過ぎたら、きっとまた「お仕置き」  
ということになるのは目に見えている。  
 それはなんとしてでも避けたい。足に力が入らずふらつきそうになるのを、気合いで  
立ち上がりドレスを着る。できるだけ皺をのばし、乱れている髪を手櫛で直した。  
ちゃんと鏡でおかしくないかどうか確認したいところだが、見あたらないし探す猶予もない。  
 目をつぶって数回、深呼吸して気息を整えてから部屋を出た。  
 
鍛錬場に入るとライルがこちら向き、ロベルトが背を向けた状態で話をしていた。  
 内容はというと、相変わらずカジノに引きこもりっぱなしのロベルトに対する説教だ。  
先に私に気がついたライルが言葉を切った。  
 ロベルトが振り返る。  
「やぁ、こんにちは。プリンセスもいらしていたとは・・・」  
と言いかけてロベルトは唐突に黙り込んだ。  
「 ・・・こんにちは、ロベルト」  
ロベルトの態度に不安を感じながらも平静を装って挨拶する。服も髪も大丈夫なはず。  
鍵をかけたライルの自室に二人でいたということは、ちょっと変かもしれないけど  
決定的ではない・・・はずだ。  
 ロベルトは顔を赤らめ私から目を逸らす。これって、やっぱりバレてる?! なんで?!  
「・・・ライル、まさかオレに見せつけるのが目的でよんだんじゃないだろうな?」  
ロベルトの声が低い。  
「いいえ、単なる偶然です。でも折角の機会ですし、あなたにも釘を刺しておこうかと。  
婚約者候補だったわけですし。期間中、何回か二人きりで出かけていましたよね?」  
 一瞬、ライルとロベルトの間に見えない火花が散ったように感じた。  
なんだか私だけが蚊帳の外だ。  
「いったい、とどういうこと?」  
不機嫌に訊いた私にロベルトが目を逸らしたまま、黙って手鏡(多分、イカサマ用)  
をさしだしてきた。それを受け取って覗いた瞬間、硬直してしまう。  
 ドレスから覗く首筋といい、胸元と言い、無数のキスマークがはっきりと。  
「ったく・・・。何が釘差しだよ。馬鹿カップル師弟のプレイにオレを巻き込むな  
っていうの!ライル、近々、奢れよ! プリンセス、お邪魔しました。」  
 ロベルトは私から手鏡を取り上げると、ひらひら手を振って鍛錬場から出て行く。  
顔から火が出そうだ。わかっていてロベルトに引き合わせるなんて、いくらなんでも  
非道すぎる。  
「ライルっ!なんでっ・・・」  
 あまりのことに声が震えるが、ライルは平然としている。  
「言ったはずですよ。あなたが私のものになったとみんなにお披露目すると。」  
絶句する私にライルが微笑みかける。  
「それよりも邪魔ものがいなくなりました。お仕置きしてあげますよ。  
朝までたっぷりとね」  
 
・・・そして私は最難関の宝箱解錠の時以来、久々に鍛錬場で夜を明かす  
ことになった。  
 
 
 

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