ときどき、いや最近はほぼ毎日のように不安になる。
以前にも増して、堕天使との戦いが激しくなり、つい考えてしまう。
自分は、この戦いが終わる頃にはどうなっているのか?
戦いが終わるまで生き延びていられるのだろうか?
そもそも、この戦いが終わることなどあるのだろうか?
そして、世界中の人々の命が全て、自分を含めた仲間達の手にかかっている。
それが誇らしくもあり、すごく重荷になるときもある。自分はこんなにも、重要な任務に関わっているのだということ、しかしそれと同時に人類の将来がかかっている。
戦いの中では、少しの判断ミス、タイミングのズレで大怪我につながり、命を落とすこともあるだろう。
そして最悪の場合人類は…、そして世界は…。
同じ年頃の、普通の子供なら、こんなことで悩んだりしない。
こんな能力を持って産まれたばかりに…。
戦争というものは、あらゆる者達の心に暗い影を落とす。
シルヴィアもまた、例外では無かった。
一度こんなことを考え出すと、闇はどんどん拡がっていく。
こんな自分は自分らしくない、と思い、シルヴィアは自室を後にした。
こんなときはいつも、お兄様が育てている、薔薇園を散歩する。
「さすがお兄様!いつきても手入れのいき届いている、素晴らしい薔薇達だわ。」
しかし、シルヴィアの心に染み付いた、小さな闇は消えることはない。
シルヴィアは日差しを感じ、思わず天を見上げた。
(空はこんなにも綺麗なのに。太陽はこんなにもあたたかいのに。)
太陽のまぶしさに目を細めたとき、近くの茂みががさり、と音を立てた。
そして間髪いれずに、オレンジの髪をした小汚い少年が茂みから飛びだし、シルヴィアとぶつかった。
シルヴィアは突然のことに驚いて転倒し、強く尻餅を着いた。
「…!!
痛いわね、アポロ!!待ちなさい!」
「やだね、獲物が逃げちまう」
そう言ってアポロは、またどこかの茂みに消えていった。
「頭に来た!アポロ、待ちなさい!」
しかし当然、アポロの返事はない。
(アポロのやつ、どこ行ったのよ!見付けたらただじゃおかないから!)
アポロを探し歩き、結局周辺を一周してしまった。
(あーあ、私ってば馬鹿みたい。もうお部屋に戻りましょ)
と思った途端、近くの木から今度は、逆さまになったアポロが現れた。
「よっ!」
「…!!アーポーロー!!よっ!じゃなーい!ったくあんたはいっつもいっつも…」
「そんなことより、これでも食えよ」
指し出されたのは、とかげ。
「キャー!いらないわよこんな物!!」
「お、間違えた間違えた。こっちだ。」
かわりに出されたのは、包みがくしゃくしゃになっているお菓子だった。
「…いらないってば!」
しかし、タイミングよくおなかはなった。
「なんだ、腹へってんじゃねーか。そういやそろそろ飯の時間だ。戻ろーぜ。」
確かにおなかはすいている。
しかし納得のいかないシルヴィア。
「どーした、置いてくぞ!」
「待ちなさいよ、アポロ!」
走って、アポロをおいかける。
そして再び太陽の陽射しを、強く感じた。
自分と同じように太陽の光を浴びるアポロを見てさっき悩んでいたことが、少し軽くなった気がした。
これから先、どうなるかは誰にもわからない。
アポロがいれば、大丈夫なんじゃないか?
根拠はないが、ふとそう思った。
勢いにまかせて、アポロの手に触れてみた。
あたたかさに、一瞬手を引いた。
しかし再び、手に触れた。今度はしっかりと。
「な、なんだよ?」
「な、なによ!?…いいじゃない!今だけ」
「…いいけどよ」
「ねぇ、アポロ」
「さっきからなんだよ!?」
「…ううん、なんでもない」
「なんだよ、やっと元に戻ったと思ったのによ。またおかしいぞ、お前」
(そうよ、これから先どうなるかはわからないけど、今だけはこうして…。)
戦いの中のほんの合間。今となってはもうかえらない、過去の一時。
(終)