今日、アポロニアスは気づいてしまった。
トーマに強くしがみつかれても苦にならなかったのは、そうされるのが好きだったから。
すべすべの肌が押しつけられ、小さな手で体を触られるのが、ただもう気持ちよかった。
そして同じく今日、自分から触れる愉しさも知った。
今まで知らなかったが、トーマはどこもかも柔らかくてすべすべしていいにおいがする。
抱きつかれて抱き返したら、もっと気持ちよくなって胸の奥がぽかぽかした。
思い出すうちに、もう一度したくなってきた。
手を伸ばし、傍らに眠っているはずのトーマを探す。
「………あー?」
か細い思念で眠そうにしているのがわかったが、アポロニアスはやめなかった。
ずりずりとにじりよって、トーマの腹の辺りをなでる。
「あ、う」
身じろぎするトーマに、拒まれるかと危ぶんだが、逆に抱きついてきた。
もそもそと腕の位置を変えるのは、より深く抱き合える姿勢を探しているためか。
「ん」
どうやらトーマが納得できるポジションになったらしく、上体の動きが止まった。
下肢はまだ落ち着けるつもりはないようで、アポロニアスの太股を挟んだり、
脛をからめたりしてくる。
しばらく続きそうだが、構わなかった。トーマが好きなだけやればいい。
こうしているのはアポロニアスだって気持ちがいいのだから。
素肌が触れ合うのにうっとりして目を閉じかけ、トーマの首筋に顔を埋めた。
ほんのりと甘い香りを胸いっぱいに吸い込もうと鼻の穴を広げる。
しかし場所が悪かったらしく、トーマはくすぐったがって身を捩りだし、
アポロニアスも再び目がさえてしまった。
それだけならよかったのだが、トーマが脚をバタつかせたために布越しにチンコが
ぐいぐいと押された。
離れたところから蹴りが入るのと違い、密着した太股が少し動いただけなので、
衝撃も痛みもなかった。けれども、刺激はあった。
何度か押されるうちにチンコがじわりと熱くなり、むずむずしてくる。
未知の感覚に戸惑いながらも、アポロニアスはこれもチンコの痒みと看做し、
おしめに手を入れて掻こうとした。だが、そのとき。
「どうしました?」
オトハが寝台の傍らに佇み、掛け布の上から優しく肩のあたりを叩いた。
「今日は疲れたから、かえって寝つけないのかしら」
「だあ」
無邪気に返事をするトーマにしがみつきながら、アポロニアスはぎゅっと目を閉じた。
楽しい楽しいチンコ弄り。それを見てオトハは慌て、トーマはものすごく痛くした。
だからきっと、今チンコがじんじんしても弄らない方がいい。
オトハに見られたらまずくて、トーマに見られたら危ない。
アポロニアスは息を潜めてオトハが去るのを待った。
やがて、赤子達の頬に優しいキスが落とされた。
「あまり夜更かししてはいけませんよ。おやすみなさい」
オトハの気配が遠ざかり、アポロニアスは緊張を解いてトーマの太股を両足で挟んだ。
「あー」
ただ身を寄せあえたことを喜ぶトーマの肩に手を掛け、上体もきつく抱きしめる。
そしてそのままアポロニアスはへこへこと腰を動かしだした。
「あ、う、う?」
怪訝そうにしたのはほんの一瞬で、トーマは新しい遊びにつきあうように
一緒に体をゆすり始めた。その動きがアポロニアスのチンコをじわじわと炙る。
チンコが熱くなるのと共に、胸に暖かい想いが満ちてくる。
トーマと一緒にいたい。ずっと一緒に。そしてこうやって抱きしめたい。
そんな甘ったるさとは裏腹の、仄暗く凶暴な気持ちも腹の底から滲みだしてくる。
トーマが泣く顔を見たい。泣いて嫌がられてもチンコをぐいぐい押しつけてゆさぶりたい。
笑わせたくて泣かせたくて、くっつきたいのに突き放したい。
相反する想いとチンコの熱に、アポロニアスの心は千々に乱れる
けれど間もなく、股間の熱は一気に引いた。
「ん、きゃ、あう」
はしゃぐトーマの思念に、唐突にアポロニアスは悟った。
この切羽詰ったチンコの痒みがトーマに理解される日は、おそらく永遠にこない。
アポロニアスは腰の動きを止めた。
いきなり大人しくなった許婚を、トーマは怪訝そうに覗き込む。
「う、ちゅ」
額に唇が触れる。嬉しいのに、悲しい。
トーマが気軽にしてくることが、アポロニアスの心を穏やかにし、チンコを熱くもする。
そんなことはトーマにはわからないから仕方ないのだけれど。
だってトーマにはチンコがないから。
そこでアポロニアスは、許婚の股ぐらをまともに見たことがないのに気づいた。
チンコがないのは知っている……つもりだったが、だんだん自信がなくなってきた。
なにしろ、いつもおしめに覆われて、じっと見る機会がない。
風呂は一緒に入っているけれど、お湯につかる気持ちよさでいつもボーッとなってしまって
トーマの股のことまで気が回らなかった。
おしめの外の肌は白い。アポロニアスと肌をくっつけると色が全然違う。
だからきっと、中の肌も白い。股の間も白いのだろうか。
自分のチンコや玉袋は、指よりも少し濃い色をしている。
だからトーマの股の間だって腿や腕ほど白くないかもしれない。
アポロニアスは再びチンコがむずむずする不思議な感覚に襲われた。
もうオトハはいない。さわりたい。いっぱい、チンコを弄りたい。
でもトーマにばれたら。
チンコを弄るに弄れず、その熱を持てあまして膝頭をぎゅっとあわせる。
さっきみたいに一息に収まってほしいのに、どうしたらいいかわからなくて、
焦れて太股をこすり合わせる。
自然と下肢を遠ざけて身を屈める格好になり、トーマは不服そうに距離をつめてきた。
「ん、う」
トーマにぎゅっとしがみつかれて、チンコの痒みはいや増した。
堪えきれなくなったアポロニアスは、トーマにのしかかって再びへこへこと腰を動かした。
偶然トーマが膝を立て、その動きがまた丁度いい具合に股間を刺激する。
アポロニアスがたまらず呻くと、それを面白がってかトーマは何度も繰り返した。
先ほどの遊びの続きと思っているのだろう。
アポロニアスはしたくてたまらないが、トーマはどちらでもいいのだ。
ぴったりくっついているのに、どこか寒くて、チンコの痒みは少しも取れない。
泣きたくなって頭を押しつけると、トーマは優しく撫でてくれた。
少しだけ胸の痛みがやわらぎ、その分だけ腰の動きを緩やかにする。
アポロニアスは目を閉じて、トーマの体をなでまわした。
眠くなるまでへこへこしよう。そして起きたらトーマの股の間を見る。
次の日から、過去の失敗を踏まえ事故を未然に防ごうと燃えたオトハにより、交換時以外は
おしめを外さないこと、風呂も完全に別々に入れられることになった。
もっともアポロニアスは朝起きたときにはトーマの股間のことなどすっかり忘れていたし、
沐浴が別々だったのも気に留めていなかった。
それどころではなかった、と言うべきか。
その日、アポロニアスはオトハに転がされた姿勢のまま、終日身じろぎ一つしなかった。
腰だけでなく、全身がだるくて動けなかったのだ。日ごろの運動不足が祟った。
しかし普段から余り動かないので、とうとうオトハに気づいてはもらえなかった。
―――おしまい―――