今日も今日とて、アポロニアスとトーマはオトハの手でスッポンポンに剥かれていた。  
柔らかな布の上にうつ伏せに転がされて、アポロニアスはそのまま  
おとなしく横たわったが、トーマはすぐに起きあがって、もぞもぞと動きだした。  
時折止まって小さな手でぱふぱふと敷布を叩き、また移動する。  
やがて指先がアポロニアスの爪先に触れると、足指をつまんで軽く引っ張った。  
身じろぎ一つしなかったアポロニアスも、さすがにこれには反応した。  
おもむろに脚を動かし、大儀そうに横にずれる。  
すかさずトーマはその後を追い、アポロニアスの脚に勢いよく抱きついた。  
のしかかったはずみで軽い蹴りが肩や尻に数発入ったが、アポロニアスはゆっくりと  
手足を縮めただけで、その場から逃げもしなければ反撃もしなかった。  
しかし弱くとも蹴りは蹴り。乳児の力も意外と侮れない。  
オトハは慌てて赤子達を引き離し、足が当たった箇所を確かめるように撫でた。  
「痛かったでしょう、よしよし」  
なでさする内に、ぎゅっと縮こまっていたアポロニアスの体から次第に力が抜けていく。  
蹴られた時も今も顔色一つ変えなかったけれど、何も感じていないわけではないのだ。  
当たり前のことだが。  
こんな時、損をしているな、とオトハは思う。  
もとより静かな子だ。よく言えば大らか、ぶっちゃけ無神経で、転んでも泣かない。  
とにかく手がかからない。  
それを理由にしていいはずもないが、トーマがふにゃふにゃと泣きだしでもすると、  
気がつけばアポロニアスを放置してしまっている。  
この赤子達に関しては、誰よりも公平でなくてはならない立場なのに。  
ただでさえ『愛らしいトーマと不細工なアポロニアス』として扱いに差をつけられがちだ。  
アポロニアスとて決して醜くはない。  
むしろ赤子としては可愛らしい部類………なんじゃ、ない、かな………と、  
思ったりすることも、たまには、ある。  
体は丸々として、地黒の肌は張りがあり、見るからに健康そうだ。  
大き目の手足は将来は偉丈夫にと期待させてくれる。気分にむらもなく非常に扱いやすい。  
しかしながらここは麗しの都・アトランディア。  
アポロニアスの泥臭く暑苦しい健康美よりも、トーマの儚げで繊細な美貌が良しとされる。  
己が身の特長を以て異能の証とする強力な天翅達はまた別格だが、この赤子らのように  
スタンダードな体型の天翅は、基本的に顔が命だ。  
トーマが側を離れないから余計にアポロニアスの容姿がけなされている面もある。  
よくアポロニアスに横から抱きついて頬をくっつけるのだが、それを見た心無い天翅は  
まず顔の大きさが違いすぎると笑い、次に造作の違いを指摘する。  
睫の長さや濃さといった細かい箇所までねちねちとあげつらわれたこともある。  
無愛想なのも不利だ。  
トーマは愛想が良い上に、癇癪を起こしても可愛いで済まされる。  
一方アポロニアスは、容姿叩きをしない天翅たちにも、あやしても驚かせても  
表情が変わらないから張り合いがないと極めて不人気である。  
外見も態度も、何から何まで気に入らないという向きには、  
ここまで反応しないのは馬鹿だからじゃないのかと嘲られること度々。  
先日も、妙にむさくるしいわふてぶてしいわで、赤子らしさに欠けると言われた。  
いずれは逞しく育ち、今よりもさらに美しくなったトーマと似合いになるはずだと  
言い返したら、醜い者を側に置けば美しさが引き立つのは当然とやりこめられた。  
思い出しても腹が立つ。  
幸いにも、トーマ自身は今のところ許婚の容姿に不満は無いようだ。  
まあ、この年で文句を言うのも恐ろしいが。  
むしろアポロニアスに夢中といっても差し支えないだろう。  
「うー」  
いまも不本意な別離に機嫌を損ね、唇を尖らせていやいやをしている。  
軽く額をくっつけて、「乱暴はいけません」と言い聞かせてから  
アポロニアスの傍らに下ろした。  
いくら敷布の上を動き回ろうとも、どうせ落ち着く先はここなのだ。  
トーマはアポロニアスの背をぺちぺちと叩いた後、横になって身を寄せた。  
最初からそうすればいいものを、一旦は動き回らないと気がすまないらしい。  
まだ小さな翅を広げて目を細める二人を傍らで見守っていたオトハだったが、  
急に近づいてきた気配に真顔になり、赤子達の裸身を持っていた布で覆った。  
 
案の定、現れたのはモロハだった。  
「ふん、隠すほど大層なものではないだろう」  
憎まれ口を叩くモロハを横目で睨み、オトハは無言で布で包んだトーマを抱き上げた。  
見られないように気をつけながら手早くおしめを当てる。  
「やれやれ、つれないな」  
「こんな幼い子供たちの前で、ひどいことばかりおっしゃるからですわ」  
「幼い、ねえ。ずいぶんと育っているようだが」  
モロハが視線を投げた先には、例によって後回しにされたアポロニアスがいた。  
いつのまにか体を起こし、先ほどオトハが掛けた布を放り投げて肌を晒している。  
こちらに背を向け大人しく座っている様は、一丁前に拗ねているように見えなくもない。  
「ええ。もうああして、ひとりで遊べるようになりましたし」  
「いや、そうではなくて、皮が………まあ、いい。  
生意気にもふてくされているのかと思ったが、違うのか」  
「手が動いてますでしょう。機嫌が悪いわけではありませんわ」  
言えば言うほど白々しい気がしてきた。  
本当にアポロニアスの機嫌が悪かったとしても気づくかどうか、甚だ心許ない。  
今までだって何度も何度も見落としていたかもしれない。  
先ほどもまたトーマを優先してしまった後ろめたさが、オトハから自信を奪っていく。  
「なるほど。で、何をして遊んでいるんだ?」  
モロハは長身を折って背後からアポロニアスを覗き込んだが、次の瞬間、  
腹を抱えて笑い出した。  
「いかがなさいました?」  
「見ればわかる」  
なおも笑うモロハを押しのけ、オトハはトーマを抱いたままアポロニアスの前に回った。  
「何がそんなに………っ!」  
オトハは息を呑み、慌ててトーマの頭を抱えて視界を遮った。見せたくなかったのだ。  
アポロニアスがしていたのは正にひとり遊び。  
胡坐をかいた姿勢で、両手でズル剥けのチンコを弄り回していた。  
まだ不器用な手で、チンコを軽く握って引っ張ってみたり、玉袋を触ってみたり、  
延々と厭きもせずに繰り返している。  
平然とした顔や、柔らかなままのチンコ、非常に緩やかな手の動きからして、  
とりわけ快感を覚えている風でもない。  
純粋に、ただの手遊びとしてやっているのだろうが、オトハは正視に堪えかねて  
真っ赤になった顔を背けた。  
たわわに熟れて見るからに旨そうな肢体と、妖艶な美貌をあわせ持つオトハだが、  
その外見に反して身持ちは固く初心なところがある。己に向けられる欲望にも鈍い。  
いまも、たかが赤子のチンコ弄りに頬を染めるさまを、ねっとり見つめて愉しむ  
モロハの助平心に全く気がついていない。  
「こんな幼い子のすることだ、そう嫌がらずとも。下手に叱れば却って歪む」  
「そ、それは―――トーマ様?」  
狼狽するオトハの腕の中で、不意にトーマが身を捩ってのけぞった。  
軽くとはいえ、頭を抑えられたままなのが気に入らなかったらしい。  
「貸してみろ」  
モロハが半ば強引に抱き取り軽くゆすると、すぐに海老反りが止まった。  
意外と慣れた手つきに感心したのも束の間、モロハはチンコ弄りに余念の無い  
アポロニアスの正面にトーマを降ろした。  
「どうせそのうち番うのだろう。問題はあるまい」  
絶句するオトハにモロハがうそぶく。  
「興味はあるようだな、いい傾向だ」  
モロハの言うとおり、トーマはアポロニアスに近く寄って股間を覗き込んだ。  
手元をやけに熱心に見つめていると思ったら、じきにアポロニアスの手を押しのけた。  
そして、慌てふためくあまり両の腕の動きがなにやら不思議な踊りじみてきたオトハを  
尻目に、大胆にも両手でズル剥けのチンコを握った。  
だが、所詮は乳児。遠慮も会釈もあったものではない。  
寡黙なアポロニアスが久方ぶりに発した思念は、たいそう痛ましいものだった。  
 
 
―――おしまい―――  
 

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