アポロニアスとトーマ、彼ら二人はいわゆる幼馴染と呼ばれる関係であり、
当然歳もさして変わらなかったが、
性的な知識、技術、そして興味に関してはアポロニアスの方が
はるかに勝っていた。
ある日純粋な性的欲求から、アポロニアスはトーマと強引に関係を持った。
それはアポロニアスにとっては特別な意味を持つ行為ではなかったが、
トーマにとっては人生を左右するほどの重大な出来事だったらしい。
結局、たった一度のその既成事実によって二人は将来の伴侶と定められた。
トーマは初めての相手と結ばれることを素直に喜んでいたが、
対してアポロニアスは淡白だった。
彼にとっては婚約など、自分の自由を規制する足かせに過ぎかったからである。
だがていのいい性欲処理用の玩具が手に入ったと思って
アポロニアスはこの婚約を前向きに考えることにした。
アポロニアスはそれこそおもちゃで遊ぶかのように、
そこにトーマの意思などないかのようにいつも乱暴にトーマを抱いた。
それは性交というよりは、
トーマの躯を使って自慰をしていると言った方が正しいかもしれなかった。
それでもトーマは幸せだった。
愛する男が自分の躯で楽しんでくれることが嬉しかったし、
何より彼との行為に自分自身が言いようのない悦びを感じていたからだ。
しかしトーマが心身ともにアポロニアスにのめり込んでいくのと反比例して、
アポロニアスはただ自分に従順なだけのトーマに内心飽きはじめていた
そんなある日、彼は地上で一人の少女に出会う。
女性でありながら戦士であり、王族の出自であるが故に誇り高く、
そしてまだ性的に未熟である彼女。
名前はセリアン。
彼女は翅なしであり、多くの天翅たちがそうであるように
アポロニアスもまたセリアンを食料として以外の興味を持たなかった。
だが、彼女が刺すような視線で鋭く自分を睨み付け、
命乞いはしない、と言ったとき、言いようのない嗜虐心が心を覆った。
彼女を征服したい。屈服させたい。
アポロニアスはその本能から湧き上がってくる欲求にしたがい、
彼女と無理やり関係を持ち、かつてトーマにしたように、
その指で、舌で、技術で絡めとった。
うぶな少女は、たちまち自分よりはるかに齢をかせねた人ならざる男から
与えられる快楽に篭絡され、その未熟な躯に施される愛撫を
愛と錯覚し、怖ろしい殺戮者である彼を愛するまでになった。
アポロニアスは地上で新しく増えた愛玩具との恋人ごっこを楽しみつつ、
天上では変わらずトーマを抱いていた。
年月はあっという間に過ぎ去り、トーマはそれでも変わることはなかったが、
少女だったセリアンは成熟し、女となった。
雌として熟れた彼女の器は、ひとつの変化を彼女にもたらした。
アポロニアスの子供が宿ったのである。
セリアンの告白に、まさか異種間で子供が出来るとは思わなかった
アポロニアスは当初驚き、どうしたものかと考えたが、
すぐに天翅族と決別するいい機会であると結論を出した。
本能の赴くままに女を抱き、思うが侭に殺戮を楽しみたい彼にとって、
すでに天翅族のしきたりも、貪欲であることを禁忌とする風習も、
生まれ育った故郷であるアトランディアも、
押し付けられた許婚も邪魔なもの以外の何物でもなかったのである。
かくして最強の守護天翅アポロニアスは天翅族を裏切り、
それは人間にも天翅にとっても大きな影響をもたらした。
だがそんな周囲の変化はともかく、当事者であるアポロニアスは
まったく変わることはなかった。
せいぜい変わったのは抱く相手が天翅から人へ、
殺戮の対象が人から天翅に変わったくらいであった。