夢の中で、なんて気休めにしか過ぎないけれど。  
 
「シルヴィア!元気だったか?」  
 手を引き寄せてくる彼にシルヴィアはされるがままに抱き寄せられた。彼女もまた、アポロの首に  
齧りつく。  
 何年か前、彼女より小さかった背は伸びて少し見上げるほどになった。心なしか逞しくもなった気  
がする。  
 地中にある本物の彼もこのように成長しているのだろうかとシルヴィアは不思議に思った。  
   
 アクエリオンで地球を繋いだあの最後の戦いから現在、生身で会えない彼らは『夢のかよひじ』で  
逢瀬を重ねている。  
 
「ええ。あんたも元気そうね。お兄様と頭翅も変わりない?」  
 シルヴィアはアポロの金色の眼がしっかりと自分を据ていることにどうしようもない喜びを感じ  
た。夢を見ない夜は、いつも彼女の心を締め付ける。だから夢での逢瀬は彼女にとって何にも代  
え難い。  
「あいつらも元気だぜ、口煩いがな」  
「どうせあんたがお兄様に失礼なことを・・・!」  
 憎まれ口をたたくのは止められなかったが、アポロが皆まで言わせなかった。いきなり口を塞い  
できたからだ。  
 彼らは抱き合ったまま倒れこんだ。下は毛布が一枚敷いてあるだけの硬い地面だ。シルヴィア  
は背中に痛みを覚える。  
 二人が会うのはいつもアポロのイメージの世界らしい、バロンたちと住んだ粗末なテントの中だ。  
けして快適ではないが、彼の大事な思い出の世界に存在を許されているようで、シルヴィアは嬉し  
かった。そう考えるとこの空間は彼女にとって震えがくるほどにいとおしく感じられる。  
 
アポロとの口付けはキスとか、接吻とかいう可愛らしいものではない。噛まれているとか食われ  
ているという表現が正しいようだ。えらく乱暴で、二人の唇はすぐに腫れあがり口元は唾液で泡  
立った。  
「んんん・・・アポロ・・・!」  
 注意すると、不満げな視線を送ってきたが幾分口付けの激しさは和らいだ。アポロはシルヴィ  
アの服を剥ぎ取りながら今度は舌と舌とを擦り合せて唾液を交換した。ぬるぬるする感触が気持  
ちよくもあり甘くもあると彼女は思う。だが、安堵はすぐに破られた。  
 「あっ!痛。・・・掴まないで!」  
 シルヴィアはびくんと体を跳ねさせて抗議する。乳房をひどく握られて彼女の息は上がり目元  
も泣きそうに赤く染まっている。  
「わりい」  
「いたっ・・・全然反省してない・・・いやぁ、噛まないで・・・・・・はあ、ぁ」  
 
 シルヴィアが悶えるままにアポロは乳首を強く噛み、舐めて弄んだ。弱々しく声を上げられては、  
男は挑発されているように感じるだろう。アポロもまた本当に嫌がっていない彼女の心を知ってい  
るのかもしれなかった。  
 彼はシルヴィアが身をくねらせるのを楽しむように手指や舌を体の至るところに滑らせる。その  
度にシルヴィアは甘く声を上げて体を引きつらせた。  
「はぁ、はあ・・・・・・なんであんたばっかり触るのよ!私だってあんたを触りたいんだから!」  
 アポロが攻撃の手を緩めた隙にシルヴィアは身を起こした。しどけない仕草で座り込む体制は彼女  
がすると逆に何だか可愛らしく、色気の一歩手前の表情がアポロを煽るような、驚かせるような、そ  
んな拙さがあった。  
 シルヴィアはリーナがプラーナを吸収する姿が悩ましいのを思い出して、首筋やら耳やらを舌で舐  
めてみる。ほのかに塩辛い汗の味がして、彼女は狼狽した。  
 本当は、彼を愛撫したいという気持ちよりも、撫で回されているうちに、自分の体が、ひどく反応  
しているのが恥ずかしかったのだ。脚を擦り合わせると水音がするのではないかという危惧がある。  
言い訳できないほど、自分が濡れていることをシルヴィアはアポロに気づかれたくなかった。  
 しかし、くすぐったがりながら心地良さそうに眼を細めるアポロを見ていると、見栄やら、年上ぶ  
りたいプライドもどうでもよくなってくるから不思議だ。  
 
「気持ち良い?」  
「お、おう。でもどうせなら一緒にしようぜ」  
 照れたように視線を避けるアポロにシルヴィアは溜飲を下げながら、促されるままに後ろを向  
いた。  
 互いを舐め尽そうというのだ。  
 何だか照れくさいとシルヴィアは思ったけれど、勃ちあがるアポロ自身を目の前に、心ならず  
も鼓動が速くなってしまった。  
 思えば舐めるという行為は原始的で野生を思い出させる。アポロと、そして彼と抱き合う自分  
にはぴったりだとシルヴィアは感じた。  
 ぎゅっと尻を掴まれる。その谷間に吐息を感じながら彼女はアポロを両手で包み込んだ。  
「あ・・・ん、ああぁぁ!・・・んう!」  
 存外に器用な舌に舐めまわされるどころかいきなり自分の胎内にぬめっとしたものが入り込ん  
で、声を封じるためシルヴィアはアポロ自身を飲み込んだ。しかし、これは失策であった。口に  
含んだ途端、熱い脈動が伝わってきてくらくらする。それにさっきよりも怒張したような。  
 頭を動かし、舌を絡めていると口内がまるで膣の中になってしまったかのような錯覚と快感を  
覚える。気を逸らそうとしていたのに胎内をいじるアポロの舌や、指の感覚と相乗効果をもって  
シルヴィアを責めた。  
 アポロは舌で入り口を小突いたり指で核を押しつぶしたりする。時には秘所全体に吸い付いて、  
溢れそうな愛液をすすり、菊座をなぜたりもする。触らないところがないように、念入りに愛さ  
れた。  
 シルヴィアの気持ちよさは止められず、彼を咥えた唇から唾液を垂れ流しながらくぐもった声  
を抑えている。涙がこみ上げてきた。熱が出ている時のように何も考えられなかった。  
 意地の悪い男だったら彼女の腰が揺れていることを揶揄したかもしれないが、アポロも、シル  
ヴィアもお互いしか知らず、彼もまた、彼女の反応や、懸命に吸い付くシルヴィアの奉仕に限界  
に近づいていた。  
 
「あぁ、もう・・・お前の匂い、堪らねえ!」  
 アポロはシルヴィアの口から自身を引き抜くと、いきなり後ろからそのまま挿入した。  
「ああぁあん!・・・だめぇっ・・・」  
 心構えの全く出来ていないシルヴィアは小さな絶頂の波に襲われ粗末な毛布に顔を突っ伏し  
ている。  
 彼女の頂点に胎内の襞は細かく震え、ひくひくと蠕動を繰り返している。  
「わりい。でも駄目だ、動くからな!」  
 シルヴィアの射精を促すような膣の動きに、彼の腰は止まらなかった。眉をひそめるアポロ  
の表情には申し訳なさも見て取れたが、後ろを振り向く余裕のないシルヴィアには見ることは  
できなかった。  
「ひぁ、あっぅ!・・・駄目よ、ちょっと、あんっ!待って」  
 頭が真っ白になって毛布を掴むことくらいしか出来ない。中にある、アポロの形や硬さまで  
はっきりと意識できたし、自分の中が摩擦するたびに甘く痺れるような感覚を残していく。  
「嫌ぁ、アポロぉ・・・んんん」  
 懇願も聞いてはもらえず、シルヴィアは毛布を噛んだ。余りに深く入り込まれて自分が壊れ  
てしまいそうな恐れが、彼女を不安にさせる。  
「シルヴィア!シルヴィア!ああっ」  
 アポロの掠れたような声が、耳に届いたが、呼び返してやる余裕はない。彼の先端が最奥を  
突き、下腹全体に響いた。  
「ぁくぅ・・・あふっぅ」  
 腰だけを高く上げて、内股を愛液が伝う。無残とも言える状態だが、悔しいけれども気持ち  
が良いことだけは確かだった。脳までがとろけそうでアポロの他のことは何も考えられない。  
 不意にぐりっ、と亀頭が子宮口をとらえる。シルヴィアの腰が跳ねた。  
「いきそうか?」  
「うんっうんっ!お願い、私もう・・・!」  
 必死で頷く。本当はもう何度もいっていた。けれども一緒でなければ、最後の壁を越えられな  
い。  
「アポロぉー!やぁああああああ!!」  
「シル、ヴィア!」  
 彼が一際強く、根元までシルヴィアの胎内を貫いて、二人は同時に頂点を極めた。  
 
「ぁついよ・・・・・・」  
 息を整えながら、奥深くに注がれるものに感じ入る。アポロが背中に覆いかぶさってくる。重い、  
けれどもシルヴィアはこの熱さを刻み付けたかった。  
 
少しずつ体をずらして座ったアポロに向かい合わせに抱き合う。まだ繋がったままだ。  
「・・・何で入ったままなのよ」  
「離れたくないんだろ?」  
離れたくない、とシルヴィアは言ったかもしれない。というのも暫く朦朧としていて自分が何を言  
ったか彼女はよく覚えていなかったのだ。  
「じゃ、離れるか?」  
 邪気なくアポロに問われてシルヴィアは言葉に詰まった。  
「う・・・このままでいいわよ」  
 ぷい、と横を向いたが照れ隠しなのはお互い分かっている。ふいに月が西に傾いているのを見  
てしまった。夜が明けたら、夢の世界には居られない。シルヴィアは急に寂しくなった。  
「離れたくない・・・」  
 さっき言った言葉をもう一度口にする。どれだけ抱き合っても、現実の出来事ではない。二人の  
体は遠くはなれ二度と触れ合うことは出来ない。少なくとも今生のうちには。  
「私も皆と合体したかった・・・ずっと一緒に居たかった・・・本当は」  
「シルヴィア」  
 心配するようなアポロの視線に、ふっと微笑んでシルヴィアは彼の赤い髪を撫でた。彼の金色  
の眼が凪ぐように穏やかに視線を合わせる。  
「分かってるわ。私だって普段、寂しくなんかない。世界の全部をあんたやお兄様の欠片だと思っ  
て大切にしてる。でもね、夢の終わりになると悲しいものよ」  
 知らず、こぼれた涙をアポロの舌が拭った。シルヴィアを抱く彼の腕に力が篭る。  
「あ・・・・・・」  
 不意に、伸び上がるようにシルヴィアが体を震わせた。  
「何だ?」  
「今、あんた私のこと、好きだ、って思ったでしょう」  
 
だって『合体』していれば何だって分かる。一つになっているから。  
 
図らずも体を反応させた照れ隠しかアポロは、今度は緩やかに彼女を揺らし始めた。  
    
   おわり  
 
 

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