<……その通りだ、好きにすればいい…わたしはつばさの物だから>
下から抱きつくようにして、トーマの唇がアポロニアスの唇にそっと重ねられる。
アポロニアスはすぐに強く抱き返して応えた。
自分の体の下に抱き込まれたトーマの体は、相変わらず折れそうに華奢だった。
細い二の腕を撫で上げ、薄い筋肉の付いた胸部に指を滑らせ、
微かな胸の尖りにある未発達な乳首に触れた。
<…っ、は、…あ、そ、そこは…っ>
<知っている。乳首だ>
自然交配によって子が出来た時、子は成長して自発的にプラーナを摂取できるようになるまでは、
その母体の乳頭から分泌される『乳』を栄養源として経口摂取するのだとアポロニアスは聞いていた。
指の腹で押すとたやすく平らかになるほどまでに幼さの残るこの器官から
一体どのように乳が分泌されるのか不思議でならなかったアポロニアスは、
しつこく指でまさぐった。指で潰しても潰しても、小さなしこりはたちあがる。
神経が集まっている部位であるのか、そこをくすぐり、押しつぶすたびに
腕の中のトーマはのけぞって体を震わせた。
微かな徴を指先で何度もひねるようにつまむと、そのたびごとにトーマの体が面白いようにはねる。
<このような様で本当に授乳など出来るのか>
<やめ、ろ…そこ、ばかり触るのは…!っ、ゃ、やだだめ…待っ…>
爪の先で抉るようにして、敏感な先端に断続的に刺激を与える。
トーマが身悶え、深い息を吐いた瞬間に、アポロニアスはまた角度を変えて唇を犯した。
半開きの口から舌をねじ込み喉奥まで探ると、慣れない深い口付けの息苦しさにか
トーマが苦しげに唸る。
頓着せずに敏感な粘膜をざらついた舌の腹で何度も嬲る。
敷布をきつく握り締めて震えるトーマの拳に手を重ねてみれば、
かたく強張っていた肢体から徐々に力が抜けていくようだった。
それでも辛そうな時は、快楽の源でもある翅にも触れた。
敏感なトーマはそれだけで熱い息を吐いた。
<なるほど。トーマにわたしだけに意識を向けて欲しい時はこうすれば良かったのかな>
<!!ふざけ…るな、…も、これ以上は、>
指を胸から離し、あばらの浮く脇を滑らせて下ろした。
腰骨から、アポロニアスの体をはさむようにひらかれたトーマの太腿を辿り、内腿を撫でる。
張り詰めた脚が跳ね上がり、アポロニアスの体をきつく挟んだ。
宥めるように脚に手をかけながらアポロニアスは体を下にずらし、
トーマの顎から首筋、鎖骨まで丹念に口付けていく。
軽く歯を立て吸い上げるたびに薄く白い肌には赤い痕が散った。
散々指で焦らした乳首にもアポロニアスは食いついた。
<やだ、そこはもういや…!>
悲鳴を上げながら胎児のようにトーマは体を丸めて逃げようとしたが、
上に乗るアポロニアスの体に邪魔されてそれは叶わなかった。
むしろ反るように足を突っ張らせた下半身が、跳ね起きようとした上半身が、
アポロニアスとより密着する。
アポロニアスは好都合とばかりに背中と腰を引き寄せ、
今はピンク色に充血して立ち上がった部分に唇をつけて吸う。
「っ、ゃあ…!」
思わず、といった風にトーマの喉から声が漏れた。
溺れる者が藁をも掴むような必死さでアポロニアスの髪に縋り付く。
上体が浮いた不自然な状態の体をうまく支えきれないのか、
アポロニアスの頭に掴まる力が徐々に強まっていった。
「あ、ああ、…っ」
<流石にまだ母乳は分泌されないようだな。
乳房は発達する予定は無いのか?このままだと吸いにくいぞ、困る>
ちゅく、と舌先で時折音を立てながら、アポロニアスは目の前の乳首に交互に吸い付いた。
甘噛するとトーマはますますすすり泣くような声をあげてアポロニアスの頭を強く抱きこんだ。
まるでトーマ自らアポロニアスの頭を押し付けているような格好になる。
アポロニアスはトーマの乳首を舌で転がしながら、手を再び下肢へと伸ばしていった。
体の下で、刺激に反り返るたびにアポロニアスの腰を悩ましく挟みつける柔らかい皮膚。
ぴくぴくと痙攣するそこを筋に沿って体の中心へと辿っていく。
アポロニアスは何の躊躇も無く、手探りで見えない中心部分に指で触れた。
「!」
<ここが生殖器か?>
トーマはアポロニアスにしがみ付いたまま腰だけを捩じらせて逃れようとし、
寝台のスプリングに阻まれて叶わなかった。
動いたことで触感が瞬間遠ざかった局部に、再びアポロニアスの指を感じて体を震わせる。
思わず我に返ったトーマは己の体勢に気が付くと、
羞恥を感じてアポロニアスの頭を抱きしめていた腕を離した。
半分上体を起こしたままで、あおむけに寝台に肘をつく。
トーマが恐々と自分の体を見下ろすと、見える範囲にところどころ赤く吸われた痕が散っていた。
その先、へその辺りにはトーマの拘束から自由になったアポロニアスの頭があった。
アポロニアスは先ほどよりもずり下がり、片手でトーマの生殖器周辺に軽く触れながら
体を検分しているようだった。
恥ずかしさの極みにあるトーマは、思わず片手で目を覆った。見ていたくなかった。
<トーマ、ここが生殖器でいいんだな>
<…一々聞くな!>
<聞かなければわからないだろう?
何せわたしとトーマは違う個体だから、体のつくりが違う。
こういうことはきちんと知っておくべきことであるだろうし…
もう伴侶も同然の身だろう、何を恥ずかしがる事がある>
アポロニアスはトーマの脚の付け根を持って強く押し開いた。
<!>
<よく見えないと困る。
ちゃんと脚を大きく開いてはくれないだろうか>
<…わかった>
トーマは顔を手で覆ったまま、言われたとおり限界まで脚を開いた。
顔を近づけているのか、アポロニアスの吐息のようなものを股間に感じる。
今すぐ脚を閉じてシーツに包まり、縮こまってしまいたい衝動と必死に戦いながらトーマは耐えた。
<触るぞ>
再び乾いた指先の感触が敏感な部分に触れた。
産毛に守られた柔肉をなぞるように、一本の指が入り口に触れた。
割れ目を上から下に下ろされた指はまた下から上へと動き、やがて先端を中心部に食い込ませた。
右、左、と動かされ、中の様子を確かめられているようだ。
やがて二本に増やされた指が肉を左右に開き、入り口があらわにされる。
ありえない場所に急に感じる空気の冷たさにトーマは身をすくませた。
<なんだ、寒いのか?>
<…違う>
<ところでトーマ、お前の生殖器だが、自分で見たことあるか>
トーマは恥ずかしさに、
話しかけないで欲しい、もう淡々と最後まで作業をこなして欲しいと思っていたので、黙った。
しかしアポロニアスは黙らなかった。
<割れ目を開くと、その奥に湿った、肉の襞に囲まれた狭そうな洞がある。
色は、生命の木の頭頂部に咲いている薄い紅の花の色に似ている。
匂いも、トーマの匂いのような、そうでないような、何とも心を乱す香りだ。
とりあえずわたしの生殖器がこんな小さなところに納まるとは思えず困惑しているのだが…
…わたしはどうしたらいい?>
<好きにしろ!>
様々な意味で限界を感じたトーマはアポロニアスの手を局部に押し付けた。
同時に、緊張に引きつる脚を限界以上まで開こうと試みる。
彼女は他にもう意思表示のしようがないと思ったからだ。
突然の無茶に、脚が引きつる。恥ずかしさと恐怖に、体が竦む。
<…ほぐせば、徐々に濡れて広がる作りになっていると聞いた…だから>
消え入りそうな思念を飛ばしたトーマは、そのまま仰のいて寝台に沈んだ。
彼女が何より恐れたのは、アポロニアスが性交をやめるなどと言い出すことだった。
アポロニアスは、トーマを欲しい気持ちを恋情からではないと言った。
だが、トーマと繋がりたい、このまま終わりにしたくないと言ってくれた。
そのことが何より嬉しかった。
一時の感情から出た言葉だとしても、嬉しかった。
(同情なんていらない、なんて嘘だ。心の底ではずっと欲しいと思っていたんだ、つばさ)
(例えきみが明日我に返って…今日のことが無かった事になっても、それでも)
全てを諦めていた彼女にとっては、それは信じられないまでの幸福だったのだ。
アポロニアスは押し付けられた手を動かした。
もう一度割れ目を開き、今度は洞の入り口を擽るように触った。
先でつつき、指の腹で擦るとトーマの体が何度も揺れた。
かみ締めた唇から押し殺したような声が聞こえる。
指先をほんの少しでも洞の奥に潜り込ませようとすると、トーマの体が
面白いを通り越して可哀想なほど硬直するので、
しようがなくアポロニアスは延々と表面だけを摩擦し続けた。
いっそいじらしいまでに投げ出され、捧げられたトーマの肢体。
指を局部にだけあてながら、アポロニアスは目の前の体をゆっくりと目で楽しんだ。
汗が滲む肌はまるで光を纏うように薄闇をはじいている。
誘われるように内腿に歯を立てると、体がびくりと揺れ、
そのせいでずれた指の先が偶然にもトーマの奥へ続く入り口を打つ。
「っぃやあああ…!」
急に硬直したトーマの体ががくがくと震えた。
トーマから涙がまた溢れてきて、アポロニアスはどうしたらいいかわからず、抱きしめた。
<おい、大丈夫かトーマ、辛いか、…やめるか?>
<いや、や、や…ぃやだ>
<嫌なのか>
アポロニアスに抱かれながらトーマはひたすら首を横に振った。
<ゃ、やめるの、が、いや、…だ>
<そうか…
まあいい、それではわたしはどうしたらいい?>
<もう一回、……最初から>
<…それではもう一度だけ頑張ってみるが、…辛くなったら名前を呼べ。
手を緩めてやる。
但し次に泣いたら私はやめるぞ、泣かせるつもりはないのだからな>
トーマは頷いて脚を開いた。アポロニアスの指がもう一度狭間に触れる。
今度は先ほどまでよりもう少ししっかりと。
アポロニアスは、トーマの体が震えるのには見ないふりをした。
まさぐり、見つけ出した肉芽の先端をつついてみる。トーマがのけぞる。
敏感な部分を探すようにあちこち触りながら入り口を摩擦し続けると、
トーマがついにあえかな声をこぼした。
<辛いなら名前を呼べ、トーマ。その方が楽だろう。
おまえのいいようにするから>
トーマは寝台に爪を立てながら頭を振った。
何枚かの翅が散ったが、アポロニアスは構わずただ指を動かした。
やがてトーマの息が苦しそうになる頃になって、粘膜の奥のほうからうるみが現れてきた。
一度湧いた粘液は、指を動かすたびに次々生み出されてアポロニアスの指を濡らした。
<これでいいのか?>
アポロニアスは少し深めに指を押し付けた。
<っ…つばさ!>
呼ばれた名に動きを止めると、またトーマが頭を横に振る。
アポロニアスは指を引き戻してまた表面から濡れた指で辿ろうとした。
<違う、そうじゃな、い、…そのま、ま>
トーマは濡れた部分をそっとアポロニアスの指に押し付けた。
「…っ、あ」
先ほど指が差し込まれたより少しだけ深く、指先が埋まる。トーマの腰がゆっくりと揺れた。
<ここが、…何か、へんな感じが、した>
恥ずかしげに頬を染めてトーマが呟いた。
奥の穴から溢れる蜜が絡み付いて滴り、アポロニアスの手のひらにまで雫が到達した。
<なるほど。それは気持ちよかったという解釈でいいのだろうか?
それではわたしはトーマを焦らしていた事になるのだろうか>
アポロニアスは得たとばかりに笑んで、答えも待たずに宛がった指を一気に奥まで差し入れた。
不意を付かれた体はアポロニアスの指を根元までくわえ込んだ。
「っ、く…!」
反射的にきつく締まる粘膜の動きを無視してアポロニアスは指を無理矢理前後に動かす。
溢れかえった膣液が動きを助長させてゆく。
トーマは声無い悲鳴を上げたが、苦痛に呻くよりも
散々に焦らされ嬲られた入り口や中が刺激を快楽に変換しはじめる方が早かった。
体中に火が灯るように、熱が上がっていく。
あまりの衝撃に逃げようと引いていたはずの腰が、
いつの間にか快楽を貪るための揺れに変わっている。
前後する不意の拍子に剥き出された肉芽がアポロニアスの手のどこかに当たるのだ、
そのしびれるような感覚にトーマは酔った。
ぶつかるたびにじんわりとした痺れが腰を取り巻いた。
もっと強く打たれたいような、もっとゆっくり触れていたいような、
どうしようもない飢えを感じてトーマは体を押し付けた。
と、ふいに指が引き抜かれた。
もの足りなさに追いかけかけたトーマの秘所に、また何かが当てられる。
それは倍の質量になってトーマを貫いた。
指が増やされたのだ。先ほどとは違い、半ばまでも入らない。
入り口がいっぱいに広がり、きつい。
それでも何とか先ほどまでと同等の快楽を得ようと腰を振るトーマに、
アポロニアスも力で指をねじ込む事で応えた。
痛みに緊張し収縮する粘膜に、捻りこむように回転をかけながら指を埋めこんでいく。
三分の二の長さほど埋まったところで、指先を内部で動かした。
入り口だけではなく、中も広げた方が良さそうだとアポロニアスは思った。
内壁を刺激しながら、今度はトーマの恥丘に顔を近づける。
指の代わりに舌を使って、再び隠された芽を探し当てる。
ざらりと舐め上げた瞬間に、限界まで広げられたように思われたトーマの入り口が再び蠢いた。
<トーマ、ここが気持ちいいのか>
<ぁあ…っ>
答えのようにゆっくりとトーマの腰が持ち上がり、そしてまたうねる。
<もっと気持ちよくなりたいか>
アポロニアスは指の埋まる入り口に舌を滑らせた。トーマの体がおこりのように震える。
アポロニアスは、肉芽と入り口の間を何度も何度も舌で往復した。
<気持ち良くなりたいのならば、何をやっても怒るなよ>
いつの間に抜き取られたのか、アポロニアスの手の中にはトーマの翅があった。
翅は天翅にとっての感覚器官でもあり、とくに快楽に敏感な部分だ。
本体から切り離されても、そのごく近くならば感覚器として十分に働く器官でもある。
あろうことかその翅の先端で、アポロニアスはトーマの敏感な部分をなぞり、つつきまわした。
「やだ、それ、だめっ、やだ、ほんとに、やだ、い、…やー!」
絶叫とともにトーマの中が痙攣し、再び奥からトロトロと蜜が溢れてくる。
秘所に触れられた衝撃と、翅が同時に嬲られる性感がトーマに容赦なく襲い掛かった。
翅で撫でられた粘膜の表面がじりじりと焼け焦げたようにトーマを苛む。
先ほどまでとは段違いの恐ろしい飢餓感がトーマの中を満たした。
それはもう、もっとしっかり触れて欲しいとなどというレベルではない。
ひたすら強い刺激を求めて、トーマの身体がわなないた。
アポロニアスの指が入ったままの内腔は、指をきつく締め付けたかと思うと
中に誘い込むように柔らかく波打つ。
二本の指が最早簡単にトーマの奥を突くことを確認してから、アポロニアスは指を再度引き抜いた。
<想像以上の効果だな>
腰を押さえつけ、指を三本揃えてその間に翅を挟みこむと、その先端を慎重にトーマの膣にあてがう。
それだけでトーマの身体は歓喜に震えた。
片方の手で入り口を大きく広げると、そこに翅ごと指をずぶずぶと埋め込んでいく。
<待っ、つばさ、…こわれ、る、おかしくなっちゃうよ…!>
<このくらいで壊れてもらっては私の生殖器が入らないのだが…>
<も…何でもいいから、早、くっ>
トーマは激しく首を振る。いつの間にかM字に開かれた太腿が耐えるように震えた。
入り口は妖しくうごめきながらアポロニアスの指と翅を飲み込んでいく。
奥に行けば行くほど抵抗はきついが、比例するように入り口は緩やかになり、滑りも出てきた。
軽く指を引くと引き止めるように入り口が締まるので、
それを堪能しながらまたゆっくり奥まで埋めてゆく。
<あああ、…ああっ、>
自らの翅を使われたのがよほど効いているのか、
嬌声を上げてのた打ち回りながらもトーマは腰を使った。
腹筋を使って浮かせた秘所を、アポロニアスに向かって突き出すように懸命に動かしている。
それでも足りないとばかりにゆるく円を描くような動作が加わり、その動きも次第に早まっていく。
あれだけ狭く、本当に生殖器があるかどうかも怪しい程だった幼い作りの場所に、
トーマはいまや貪欲に三本もの指を飲み込んではよがっていた。
それはトーマの幼く清楚な容姿と相俟って壮絶に淫らに見えた。
<どうしよう、つばさ、つばさ!わたしはおかしい…!>
すすり泣きながら、トーマはおずおずと自分の指を貫かれている場所に伸ばした。
自分で肉芽を探り当ててはその刺激に悶絶する。
息を荒げながらアポロニアスの手を掴んで、指をもっと奥までむりやり押し込ませる。
<おかしくない、翅を使ったから当然のことだ。
トーマがおかしいなら、こんなトーマは誰にも見せたくないと思うわたしは
もっとおかしい>
アポロニアスはトーマの手を振り切り、
もっと速い速度で、もっと乱暴に、もっと奥までトーマを突いた。
トーマが息も絶え絶えに、大きくのけぞる。
内腿の痙攣が激しい。内壁が強く張ってアポロニアスの指を圧迫する。
<おねがい、やめてよつばさ…!>
<ここがいいのか>
アポロニアスは内壁を大きく抉るように穿った。トーマはうわごとのような悲鳴を繰り返す。
<だめ…だめ、つばさ、こわいよ…っ!>
トーマの身体がガクガクと揺れた。引き絞るように身体の中が締まってゆくのを乱暴に刺し貫いた。
たすけて、と呟いてアポロニアスに触れようと伸ばした指が震える。
そして突然力尽きたように落ちた。
汗がどっと出た体が急激に弛緩し、トーマは寝台の上にくずおれた。
目を閉じたまままぶたを震わせ、荒い息を吐くトーマから
アポロニアスは翅だけを残したまま、そっと指を引き抜いた。
大人しく横たわるトーマの上に覆いかぶさって様子を伺うと、トーマが薄目を開いた。
その視線はまだどこかをさまよっている。
<性感を極めたのか>
触れたらとろけてしまいそうなトーマの痴態に、最早アポロニアスの熱も上がっていた。
普段はつんとすましかえった少女が、自分に溺れ、乱れる様にはいやでも支配欲を刺激させられる。
保護欲を軽く飛び越えた衝動は焼き尽くすような熱を伴って体に蓄積されていく。
生殖器を結合させない解消されない類の衝動なのだろう、と彼は冷静に分析した。
ここまで煽られてアポロニアスは止めるつもりも止まるつもりもさらさら無かった。
髪を梳いてやると、トーマがぼんやりと呟いた。
<つばさ、わたしは涙を流してしまった。…もうここで終わり?>
<何を言っている、今はわたしがトーマの中に入りたい。
泣かせても入れたい。いいか>
トーマはアポロニアスに視線をめぐらせると、そっと頷いた。
<翅は?抜くか?それとも入れたまま?>
アポロニアスは再度トーマの脚の間に手を差し込んだ。
秘所に埋め込まれたまま頭を覗かせているトーマの翅に触れ、それをぐるりと回す。
トーマの体がたちまちまた赤く火照った。
<っや!…抜いて、それ抜いて…!>
<いいのか、多分辛いぞ?>
翅が刺さったままの秘所から蜜をひっきりなしにこぼしながらも、トーマはアポロニアスにすがった。
<違う、つばさはわたしを何もわかっていない。わたしは…つばさを感じたいのに>
<…そうか>
アポロニアスは一気に濡れそぼった翅を引き抜いた。
滴った雫を舐め取るだけで、トーマは体を震わせる。
初めて味わった性的な絶頂の余韻からまだ開放されないでいるトーマの体を抱き寄せると、
アポロニアスは自らも衣服を寛げ生殖器を露出させた。
<わたしはさっきトーマに体を見せてもらった。
トーマもわたしの体を見るか?触ってみるか?>
トーマは弱々しくかぶりを振った。
<それでは次のときに見ろ>
アポロニアスはトーマの脚を再度割り開いた。
先ほどの行為で入り口は濡れ、柔らかくほぐれていた。
そこに指をあてがい、また再び入り口を開いていく。
あられもなく開かれた腔口に生殖器の先端を当て、軽く擦ってから狙いを定め、
静かに沈めていった。
散々摩擦で充血させられた場所は痺れていたが、
その感覚すら吹き飛ぶような質量が粘膜を圧迫する。
先端こそ尖りを帯びていたが、かなりの直径に達する生殖器がトーマの肉をめくり上げ、
かきわけながら埋まろうとしていく。
その膜の伸張には果てが無いようだった。
トーマは引き裂かれるような苦痛と内臓が押し上げられるかのような感触に、
アポロニアスにしがみ付きながら耐えた。
「…っ、ぐ……」
<大丈夫か、トーマ>
<…大、丈夫>
どこか甘えるようにすがりつくトーマの手が震えているのを見て、
今すぐ思うさま動いてしまい衝動を何とか治めたアポロニアスは指と唇でそっとトーマの翅に触れた。
トーマの内側が、少しずつだがまた蠢きだす。
アポロニアスは、ついでトーマの肉芽に触れた。
何度かつつきまわすと、わずかながらまた新しい蜜が湧いてくるようだった。
少しずつ、少しずつ慎重に体を進めながら、
アポロニアスはトーマの体に出来るだけ丁寧な愛撫を施していった。
自らの翅も震わせて羽音を聞かせてやると、トーマの体が更に柔らかく色づいた。
<名前を呼べ、翅を共鳴させろ。いくらかはマシだと思う>
トーマは何度も深呼吸をしながら、極力体の力を抜くように努力した。
深く息を吸い込み、痛みに息を詰めてはまた息を吐く。
圧迫されている箇所から鋭い痛みと、
じりじりと身を焦がすような痛みと両方が湧き上がって、
そこから逃れるようにアポロニアスに触れられている翅に意識を集中する。
切羽詰った性的欲求を押し殺し、その上でどこか戸惑うような、
気遣うような優しい感触が自分に触れている。
特殊な翅音がトーマの苦痛を和らげてくれる。
アポロニアスが自分に欲情してくれることに喜びを覚えて、
トーマはアポロニアスの体を可能な限りきつく抱きしめた。
アポロニアスもトーマを抱く腕に翅を重ね合わせた。
抱き合ったままゆったりと翅を振るわせ合っているだけで、
次第にトーマの表情もほぐれて、呼吸も整いだす。
微かな吐息と柔らかな翅がアポロニアスの首筋を擽り、
アポロニアスは自分の情動が強まったのを感じた。
慣れないトーマの締め付けは、滾るアポロニアスにとっても食い千切られそうな痛みだった。
だがそれをゆっくり解していくと、花がほころぶように甘く内が揺らめく。
苦痛がやがてむず痒いような熱に変換され、アポロニアスは自分の性感をよりはっきりと自覚した。
翅が震えるのとは違う、猛々しく狂うような激情を伴う渇望と衝動。欲求。
想像以上のその感覚を作り出す相手が、腕の中にある、
少し乱暴にしただけで抱き壊してしまうような小さな体の持ち主というのが
アポロニアスには不思議でならなかった。
黙って目を閉じて震えるトーマの頬に触れる。
トーマはまだ苦しげに呼吸をしている。
<トーマ、平気か>
<つばさこそ、気分はどう?>
<…いい気分だ。トーマの中は心地良い>
<そう、良かった>
心底嬉しそうに、だがどこか儚げな笑みをトーマが見せた。
アポロニアスは微かに胸の痛みを覚えて視線を逸らした。
トーマに自身を埋め込みながら、トーマはいつか自分から離れていくのではないか、
とアポロニアスはぼんやりと思った。
自分でわかっている。それは後ろめたいからだ。
最初の日にトーマを見下した傲慢。
トーマほどの覚悟も持たぬまま、自分の考えも変えられぬまま、
我に返ってみればただトーマへの興味と執着でその身を犯している自分の浅はかさ。
ただ幼いばかりのまっすぐなトーマは、
その幼さゆえに自分の今まで直視できなかった側面を否応なくあらわにしていく。
子供ができてもいいとは言った。しがらみの中で生きてもいいと思った。
だがそれが真実何を意味することなのか、わたしはよく考えてトーマを犯しているのか?
本当にトーマのことを思うのだったら、あの場で解放してあげるべきではなかったのか?
だがわたしは、…理由は何であれ、わたし自身のエゴを選んだ。
自分の中で何の解決も見出せないままに。
そしてトーマはいつか知るだろう、この醜さを。
その時選ばれるのは、それでも添う未来か、それとも……
トーマの、つくりの細い体は、こうして抱いてみるとますます消えてなくなってもおかしくないような
頼りなさだった。
それはそのまま、関係の頼りなさを見せ付けているようでもあった。
いつか失われゆく繋がり。それを想像して、アポロニアスは予想外の不快感に眉を顰めた。
気に食わない。
生まれてはじめて出会った、自分より能力的に上位になりえる個体だからこそ、
よけいにその想像が現実味を帯びてきたのかもしれない。
繋ぎとめるために抱いたのに、トーマの体はどこまでも知らずアポロニアスの精神を暴き、追い詰める。
何もかも気に食わないのだ。
…だがもう引き返す事は出来ない。体も、心も。
新たに自覚したばかりの飢餓感のようなものに突き動かされて
アポロニアスはトーマを強く抱きしめた。
<動いていいか?>
目をしばたかせたトーマは、ややあってうなずいた。
押さえつける力強い腕に力がこもって、ほんの少しだけ苦しげに眉をしかめる。
中を侵すアポロニアスの生殖器が、狭い内壁の抵抗に抗いながら
やがてゆっくりと前後運動を始めた。
突きこまれ、引かれるたびに揺れてシーツを滑る体。
「あ、…は、っ…」
細い声をもらしながらも、なすがまま蹂躙を受けるために、必死で開かれる小さな体。
気遣う余裕すらもなかった。
痛々しいまでに全てを晒したトーマへと感じる罪悪感を振り切るように、
体の中心を引き絞られる肉体の快感に溺れ、
いつしかトーマを『串刺しにしている』という征服感に酔いしれた。
(好きにしていいというならば、好きにさせてもらう)
翅を折り、天に縫いとめて、いまだけは確かに思いのままに出来る幼い天翅。
上から腰を打ち付けると反射的に跳ね上がる体は、
ただ与えられたものを受け止めるだけで、逃げようがないことを知らしめている。
繋ぎ止めるように、刻み付けるように中を抉った。
震える翅に唇を這わせるとトーマがしがみついた手を震わせる。
不意打ちのように脚を抱えあげると、息づくように収縮していた内側が急に驚くほど締まった。
<…つばさ!>
言葉など発せないように深く貫く。
今は何か意味のある言葉が聞きたい気分ではなかった。
本当ならば考えるべきことを、考えないために性交に集中した。
自分から目を背ければ背けるほどに、トーマと交わり貫く部位は蕩けるほど気持ち良かった。
熱く肉が擦れ、蜜が潤み、泡立ち、ジュプジュプと卑猥な音を立てる。
「…っ、あぁ」
トーマは恥じらいながら、痛苦に顔を歪めながら、それでも必死に縋り付き翅を震わせる。
視覚からも聴覚からも刺激された愉悦は、触覚と混ざり合いプラーナを高めていく。
程なく腰の奥から何かがせりあがっていくような感覚に包まれ、
生殖器をさらに奥までねじ込みたいという気持ちが強くなった。
生殖細胞が、トーマの中に植えつけられる準備だと本能で悟った。
中に出すべきか、外にはずすべきか、逡巡はほんの一瞬。
中に出してしまえば名実ともに、トーマはわたしのものになる、
その誘惑から逃れることはひどく難しかった。
…自ら望んで捧げられた甘い供物を自分のものにすることの、一体何がいけないというのだ?
決して逃げられることなどないようにトーマの腰をきつく掴む。
苦しげな息の下で不思議そうに見上げたトーマが微かに笑ったのを、
勝手に了承のしるしと受け取って、アポロニアスはより張り詰めた生殖器をためらいなく最奥に沈めて
いく。
(…そうだ、これはトーマが望んだことなのだ)
「っ!?」
絡みつく襞に促されるまま、抗わずにアポロニアスは熱を解き放った。
自らの遺伝子と共に解き放たれたプラーナがトーマの体を内から侵食していく。
驚き体を強張らせるトーマを抱きしめ、最後の一滴が搾り出されるまで隙間なく絡み合った。
今自分の一部が、トーマの内臓を、細胞を、侵している。
そして未来さえ侵そうとしている。
……目も眩むような快感だった。
<わたしの胎は一体どうなったのだ>
体の下で、震える自分を抱きしめながらトーマは呟いた。
<…安心するがいい、今のは正常な交配反応だ>
宥めるように翅を何度も撫でると、トーマはただほっとしたように力を抜いて寝台に横たわる。
目的を果たし萎えた生殖器を引き出して辺りを見回すと、汗で濡れた敷布は乱れ、散々な有様だった。
その中心でトーマが力なく横たわっている。顔には慣れぬ苦痛に耐え抜いたことへの疲労の色が濃い。
労わるように頬に触れると、嬉しげに擦り寄って目を閉じた。
<つばさ、このまま眠ってしまっても構わないか?>
<ああ、朝まで抱いていてやる。…ゆっくり寝るがいい>
変わらない幼い仕草に安堵感のようなものを感じながら、アポロニアスはトーマを抱き寄せた。
喉元を擽る呼吸も、翅の感触も変わらない。
だが、自分はたった一度の性交で多くのものが変わってしまったように感じた。
例えばトーマの感触。吐息。わたしを呼ぶ声の甘さ。
…そして胸に落ちた、冷えた塊と。
だが、トーマを手放すつもりはどこにもなかった。
むしろ執着は増す一方だった。
(夜翅め、…全くとんでもないものを押し付けてくれたな)
トーマと信念の間で行き場を失い、矛盾に押しつぶされそうな心の免罪符。
それもまた、今までになく幸せそうな『女』の顔で眠るトーマの笑顔。
ひどいものだ。
舌に苦く残る感情を、アポロニアスは無理矢理飲み下した。
(未来などどうでもいい…考えたくない)
腕の中で小さく温もるトーマの体から自分の体臭がすることに満足して、
アポロニアスは目を閉じる。
すでにプラーナを半分以上トーマに注ぎ込んでいた体は、ひどく休息を欲していた。
しかしそれ以上に、満足感に包まれたままでトーマと眠りたかった。
決着をただ先送りにするだけだとはわかっていても、今夜は忘却を司る夜の帳にその身をまかせて
深い眠りへと落ちてしまいたかった。
寝返りを打った拍子に目が覚めた。
あらぬところがじくじくと痛む。それでも、幸せだった。
自分をしっかりと抱きしめる腕の熱さと強さ。きっと一生忘れる事は無いだろう。
つばさ、眠るままの君はきっと、全く理解できないんだろうね。
<耳に聞こえる言葉で言ってやろうか…>
いつでも。どんなときでも。この先何が、あろうとも。
「…愛している」
わたしの気持ちは、例え一億二千年たったって、きっと変わらないんだ。
夜明けまでは、まだ遠い。