深夜、雲ひとつない夜空に輝く月と星の光が、真昼のようにDEVAの敷地内を照らしている。
その敷地の一角、DEVAの庭の花園から草原にかけての芝生を走る影があった。
幼くも野生動物のようにしなやかな身体と、美しい金髪を左右で輪の形に結った独特の髪型………シルヴィアである。
優雅に舞っているのではなくせわしなく疾走しているというのに、躍動するシルヴィアの姿はまるで妖精か舞神のようだ。
しかし……彼女は何故かスカーフをほっかむりの如く頭に巻き付けて、それを鼻の下で結ぶという怪しさ爆発な姿をしていた!
何でそんなアホみたいな格好をわざわざしているのかとシルヴィアに問えば、
『人目を忍んで行動する時はこういう格好をするって、お兄さまの蔵書に書いてあったのよ!』
という答えが、おそらく鉄拳とともに返ってくるのだろう。
しかし人目を忍んで? そう、彼女はある噂を確かめるために人目を忍んで、というより噂の当事者たちに気付かれぬよう、
こっそり目的地へと近付きたいのである。
ある噂とはエレメント並びにその候補生の間に流れた、非常にくだらない噂だ。
何の証拠もない信憑性の薄い噂。誰が流したかも分からぬ根も葉もない噂。だがシルヴィアは確かめずにはいられなかった。
『アポロとリーナが逢引きしている』というその噂を。
確かにアポロとリーナは「リーナ吸血鬼疑惑事件」の時からなんとなく親密……のように見える。
いや、思い返してみれば、アクエリオンが初めて“立った”時も、何やらアポロはリーナに優しかったではないか!
足が不自由な彼女に気を使っただけだと言えばそれまでだが、普段の自分への態度とは格段に違うその気遣いを考えると、
シルヴィアはどうにも疑ってしまうのである。
いや疑うもなにも、二人がお互い好きで付き合ってんなら何の問題もなく、こそこそ出歯亀的行為をしなくても……と言えば、
『べ、別にアポロの奴が気になるとかじゃないんだからね! 私はエレメント同士がふしだらなことするのが許せないだけよ!!』
という型にはまったツンデレな台詞が、やっぱり鉄拳とともに返ってくるのだろう。
なんて状況を説明しているうちに、シルヴィアは目的地に着いたようだ。