蜂蜜色の長い髪が揺れる。  
鼻歌のリズムに合わせてそれはもう軽快に跳ねる。  
 
「どうしたんですか、シルヴィアさん?」  
「何が?」  
「なんだか随分機嫌が良さそうだけど・・・」  
 
教室に入ったシルヴィアを迎えたのはかつての一軍女子メンバー。  
かつての、といったが彼女達が二軍に落ちたというわけではない。  
そういう区分が無くなったのだ。  
世界の始まりの日から既に二ヶ月。  
ディーバは研究機関となりエレメントスクールは学校となっていた。  
 
「べっつにぃ〜機嫌なんてよくないわよぉ♪」  
「そんな事言ってぇ〜。  
 顔緩んじゃってますよ?」  
「本当にどうしたの?」  
 
麗華が心配そうに聞くと教室にいる生徒達も聴力を研ぎ澄ませていた。  
学校としてエレメントスクールが再開されてから  
教室には二軍でさえ無かった者達もいる。  
実際に堕天使と戦っていた一軍メンバーは尊敬を集め遠巻きに憧れられている存在なのだ。  
その中でも犠牲となって消え、英雄視されているアポロとの悲恋があったと噂され  
いつもどこか翳りのある表情を浮かべるシルヴィアは断トツで注目度が高い。  
そんなシルヴィアが超ご機嫌ですって顔をして鼻歌交じりで登校してきたのだ、  
教室中の人間が何食わぬ顔をしながら聞き耳を立てるのはしょうがない話である。  
 
「まったく、だらしない顔ね」  
「リーナ!」  
「締まりの無い頬、馬鹿みたいに垂れた目尻、膨らみきった鼻の穴・・  
 シルヴィア、緩みすぎよ」  
 
車椅子の少女の、久しぶりな辛らつな言葉に  
シルヴィアは一瞬だけムッとした顔をしたがすぐに自らの頬を両手で張った。  
そのままムニムニと顔をほぐしている。  
どうやら顔が緩んでいた事を自覚したらしい。  
 
「ええっ!?」  
「し、シルヴィアさん怒らないんですか?」  
「こりゃ本格的に何かあったのかぁ?」  
 
離れた所にいたはずのピエールまでが驚きの声を上げた時、  
カツカツと高い音を立てて一人の女性が入ってきた。  
 
「はいはい、みんな席についてー」  
 
手に持った出席簿をぱんぱんと叩きながらソフィアは教卓まで歩いていく。  
シルヴィア達の話に聞き耳を立てていた生徒達もそれぞれ自分の席に戻る。  
 
「今日は転校生を紹介するわ!  
 入ってきて!」  
 
ソフィアの声と同時に開きっ放しだった扉からゆっくりと一人の少年が姿を現した。  
赤い短髪に少年らしいあどけなさと精悍さの混ざる顔つき、  
背は低いが逞しい体は野生味にあふれている。  
彼の姿を視認すると同時に幾人かの生徒が弾けるように立ち上がった。  
他にも声も出ない様子で目を見開く者や呆然とする者もいる。  
そして彼等のうち、比較的早めに現実を認識した者は口を揃えて名を呼んだ。  
 
「「「「アポロ!!」」」と。  
 
「へへっ、久しぶりだな」  
 
アポロがはにかんだように鼻をこすりながら挨拶をすると教室は大騒ぎとなった。  
 
「アポロ!生きてたのか!」  
「アポロさん!」  
「アポロ!」  
 
口々に名を呼びながら駆け寄るのはやはり肩を並べて戦った一軍メンバー達。  
男達は確かめるようにアポロの肩を掴んだり小突きあったりしている。  
麗華とつぐみ、クロエは涙を浮かべながら微笑み素直にアポロの帰還を喜んでいるようだ。  
そして、オペレーターすらやった事の無かった三軍以下の生徒達は  
初めて見る"英雄"の姿に興奮している。  
ソフィアもこうなる事は分かっていたのか微笑を浮かべて見守るだけで何もいわない。  
 
「あれ、シルヴィア?」  
 
いなくなったアポロの事を最も気にしていた少女が近くにいない事に気付き  
麗華が振り返ると、シルヴィアは自分の席に座ったまま潤んだ瞳でアポロを眺めていた。  
 
「・・もしかして、シルヴィアは知ってたの!?」  
 
麗華の声にシルヴィアはぴくっと反応しアポロはほえ?と口を半開きにする。  
 
「なんだぁ?言って無かったのか?  
 俺はシルヴィアとリーナに助けられたんだぜ」  
「えっ!?」  
「いつ!?」  
「あ〜っと三日前ぐらいだ。  
 アクエリオンの中で寝てたらシルヴィアの精神体に起こされて話をした後  
 リーナとテレポートチェンジして帰ってきたんだ」  
「私なら単独テレポート出来るから帰ってこれるしね」  
 
アポロの話を継いだリーナの言葉にそれぞれ驚きつつ納得している。  
テレポートチェンジで助けようという案自体は前にも出たのだ。  
ただ一方通行の出来ないテレポートチェンジではアポロの代わりに  
誰かが地中のアクエリオンに閉じ込められる事になってしまう。  
その為に実行されなかったのだが確かにリーナなら大丈夫だ。  
 
「それで、二人とも昨日休んでたのね」  
「なるほどねぇー、シルヴィアが上機嫌だったのはそういうわけかぁ」  
 
にやにやしながら麗華とクロエが視線を寄越す。  
何よりもこういう話題が好きなピエールがニヤリと歯を光らせた。  
 
「で、悲劇的な別れを乗り越え再開した二人は燃え上がったわけだ?」  
「な、な、な、何言ってるのよ!ピエール!!」  
「そ、そうだぜ!  
 へ、変な事言うんじゃねえよ!」  
 
顔を真っ赤にしてしどろもどろに弁解する二人を見てソフィアがくすくすと笑い出す。  
 
「あら、昨日は同じ部屋に泊まったのに何もしなかったの?」  
「い、」  
「い、」  
「い、」  
「「「い、同じ部屋に泊まったーーー!?!?」」」  
 
生徒達の非常に揃った叫びが上がり教室は爆発したような騒ぎとなった。  
 
 
創世記0011年。  
始まりの日から二ヶ月。  
かつて堕天使から人類を守り地球を救った組織ディーバは一つの役目を終え、その姿を変容させていた。  
 
今のディーバには二つの顔がある。  
一つは研究機関、もう一つは学校である。  
かつて人類にとってオーバーテクノロジーだったアクエリオンを運用していたデータは貴重な物であり  
アクエリオン本体を失った今、残されたデータを研究する事は人類の発展にとって非常に重要な事だと認識された。  
そして、もう一つ忘れてはならなかったのがエレメント達の保護であった。  
 
アクエリオンの搭乗者、もしくは搭乗者候補として集められ鍛えられた若き異能者達は  
平和になった世界で行き先を失っていた。  
力ある故に迫害され疎外され、また力ある故に暴走する。  
堕天使という敵を失った世界が若き異能者達を疎外しようとするのは  
容易に予測される事態であった。  
そのような事態に対処すべく動いたのもまたディーバだった。  
元々エレメントスクールという学校まがいの物を運用していたディーバだったが  
それは能力を鍛え堕天使に対抗させる為であった。  
それを今度は力を抑え完全に操らせる為のエレメントスクールへと転身させたのだった。  
 
 
「なーんだ。  
 じゃあ、アポロ君はちび子ちゃん達の為にシルヴィアの部屋に泊まっただけなんですね」  
「そ、そうよ!  
 ずっと心配してたし早く会わせてあげたかったの!」  
「あ、ああ、そうだぜ!」  
 
顔の色を赤から戻す気配も無い二人はしどろもどろになりつつも何とか弁明を果たした。  
勿論それがそのまま通用しているわけでも無かったが  
二人を取り囲む面子はシルヴィアがあの日から何度アポロの為に  
ため息を吐いていたか知っていたので、それ以上はからかわなかった。  
 
(ちび子ちゃん達は確かにシルヴィアの所にいるけど  
アポロの仲間だった男の子達は別の部屋にいるんだから  
泊まるのはそっちでも良かったんじゃ・・)とか  
 
(大体なんで秘密にしてたの?)とか  
 
(そういえばシルヴィアの歩き方・・・)とか  
 
色んな事を思いはしたが口には出さなかった。  
にやにやはしても言いはしないのだ。  
ただ、男達はアポロに女の子達はシルヴィアに、  
それぞれ一人きりになった時に問いただす事を決意していた。  
 
「まったく、ソフィアったら!」  
 
学校が終わり生徒達がそれぞれ部活に行ったり寮に帰ったりする中  
シルヴィアはぷんぷんと細い肩をいからせて歩いていた。  
今もまた顔は赤い。  
それが怒りによる物なのかかの少年が並んで歩いているからなのかは  
見た感じでは判別できない。  
 
「あれじゃ、みんなにバレちゃうじゃないの・・・!」  
 
今度の声は小声だったが超感覚を持つアポロにはばっちりと届いてしまった。  
ちょっと気まずそうにしていたアポロが固まってしまう。  
言ってしまったシルヴィアは耳まで赤くなり  
あうあうと自分の発言を取り消すように口を押さえる。  
 
「あ、う〜・・い、行こう?  
 もうすぐそこだから・・」  
「あ、ああ・・」  
 
何とか再起動を果たし二人はぎこちなく歩き出す。  
もし見ている者達がいれば彼等の関係はもう完全に決め付けられていたであろう。  
そしてそれは特に間違ってもいない。  
再会を果たした二人は人目が無くなった時に自制する理由を思いつかなかったのだ。  
 
「ここよ!」  
 
バーンと勢い良く扉を開け放つとシルヴィアはアポロを見やった。  
アポロはほえ〜っと口を開けて広い室内をきょろきょろと見渡している。  
 
「ここがあいつの部屋か・・ひれーなぁ」  
「何言ってるの?  
 今日からはあなたの部屋よ」  
 
二人が訪れたのはシリウスの部屋。  
ディーバ基地となった場所は元々アリシア王家の物である。  
つまり、シリウスとシルヴィアの物。  
それを考慮され二人は寮ではなく元々の自分の部屋をそのまま持っていた。  
そして、そのシリウスの部屋は今アポロに受け継がれようとしているのである。  
 
「本当にいいのか?」  
「お兄様がそうして欲しいって言ったのよ?  
 いいに決まってるじゃないの」  
 
戸惑い気味のアポロにシルヴィアは穏やかに微笑んだ。  
精神体となりアポロと話をしに行った時、  
まだ辛うじて意識のあったシリウスは二人に託した。  
持っていた資産の全てを二人に、  
己の分の幸福を己の半身に、  
最愛の妹を親友に。  
 
「いや、そうだけどみんな寮なんだろ?  
 いいのか?」  
「いいのよ。  
 だって、寮じゃあんまり会えないじゃない。  
 ・・・それに」  
 
最後の方をかすれた声で言うとシルヴィアはアポロに倒れ込んだ。  
一瞬だけうろたえてアポロは優しく彼女を抱きとめた。  
 
「こんな風に二人っきりにもなれるし・・」  
 
甘い声がアポロの首筋にかけられる。  
その柔らかい匂いにアポロは抱く力を強める。  
 
「体・・大丈夫か?」  
「うん・・もう平気だよ」  
 
示し合わせたように視線が絡み鼻が触れる。  
瞼がゆっくりと閉じられると唇が重なり合った。  
 
「ん・・・」  
「ふぅ・・」  
 
優しく噛み合い、確かめるように吸い付く。  
力強く求め合う訳ではないが、いつまでも離れない。  
柔らかさに、逞しさに安堵し、温もりに感謝し、腕の中に幸福を捕らえる。  
 
「・・・いなくならないで」  
 
吐息を唇にかけながらシルヴィアが懇願する。  
首に回された腕は恐怖に震え、見上げる瞳は不安に彩られている。  
 
「ずっと一緒にいるって約束して!」  
 
悲痛なまでの叫びにアポロはぐっと腕の力を込めた。  
 
「分かった。  
 俺は、もうお前から離れない。  
 ・・・離さない」  
 
その言葉を割符にするように二人は口を繋ぎ合わせた。  
唾液を飲ませ舌をこすりつけマーキングする。  
あんたはわたしの、お前は俺の。  
やがて二人の手は今以上の接触を求め、邪魔をする布切れの排除へと奔走しはじめた。  
 
上質な布に包まれたベッドにシルヴィアの裸体がふわりと埋まる。  
めり込む手足に苦戦しながらのそのそと不器用にアポロがシルヴィアに覆いかぶさる。  
控えめではあるが雪のように白い乳房がアポロの胸板に潰される。  
黒く筋肉質なアポロの体に圧し掛かられシルヴィアの白く華奢な体はたおやかに支配される。  
 
「んっ・・」  
 
アポロがシルヴィアを舐め始めると敷かれた身体が小さく跳ねる。  
首筋、鎖骨、肩から腕へと舌は這い、  
指の一本一本をしゃぶり尽くす。  
脇の下へを晒された時にあった抵抗も舐め溶かし  
乳房を吸って桃色の頂を美味しそうに転がすと蜂蜜色の髪が振り乱れた。  
啼かされてすぎてかすれた声でシルヴィアが許しを請う。  
中でアポロを感じたい、息も絶え絶えにそう言われアポロは口を離した。  
もっとシルヴィアの身体を舐めしゃぶろうと思っていただけに  
多少残念な気持ちはある。  
が、昨日知ったあれもまたいいものだと思い直す。  
 
「いいのか?  
 痛くは・・」  
「いい・・平気・・」  
 
返事を聞き、アポロはシルヴィアの細い腹に侵入した。  
 
「ぁうっ・・!」  
 
成熟したとは言いがたいシルヴィアの身体は一生懸命にアポロを受け入れる。  
未だほぐれぬ柔肉は汁を分泌し動きを助け  
押し広げられる肉壁はアポロの形へと変わっていく。  
突き上げられる体はアポロへとしがみつき、絡み付いて離れない。  
喉から漏れる空気は甘く彩られて露のように空へ蕩けていく。  
 
「くっ・・!」  
「ぁぁあっ・・」  
 
耐えるすべも知らぬアポロがシルヴィアの中へと放つ。  
シルヴィアも経験値はアポロと同じ。  
率直に胎で受け止めたシルヴィアは中へ吐き出された熱を味わうように目を閉じた。  
 
「・・アポロ変わったね」  
 
余韻に浸るようにシルヴィアの薄い乳房を弄ぶアポロに声をかける。  
 
「そうか?」  
「うん・・なんだか」  
 
胸でも尻でもどこだってシルヴィアの身体を撫でる時  
アポロは優しく壊れ物のように扱う。  
いかにもアポロらしい優しさだけど  
まるで子供だった面影の無い触り方。  
乳首をふにふにと揉まれる感触にシルヴィアは息を途切れさせながら口を開いた。  
 
「大人になった、って感じ」  
「そりゃあ・・まあな。  
 アクエリオンの中でも意識はあったしな。  
 でも、お前も変わったぜ」  
「あたしが?」  
「ああ、なんか・・・可愛くなった」  
 
シルヴィアの口がぽかんと開く。  
アポロは冗談を言った風でもなく真顔である。  
あまりにもストレートな褒め言葉に呆けてからシルヴィアはクスリと微笑んだ。  
 
「あたしは素直になったのよ。  
 意地を張ってる時間がどれほど無駄だったのか実感したから」  
「・・俺もそうかもしんねえ。  
 もっと話しとけば良かった。  
 もっと一緒にいれば良かった。  
 あのゆっくりと溶けていくような感覚の中でそればっかりを考えてた」  
「・・アポロ」  
 
今度はシルヴィアの方がアポロへと覆いかぶさりキスをする。  
 
「もう待てないんだからね?」  
「ああ、俺ももう待てない。  
 一万二千年は長すぎる」  
「今度は一緒に・・」  
「転生するなら二人で・・」  
 
唇を繋げたまま、言われたのか言ったのか分からない程に  
漏れる言葉は溶け合って二人を包む。  
 
この日以来、元シリウスの部屋は愛の巣として蘇り  
エレメントスクールで最も有名な私室となるのだが  
それを堕天王子が喜んでくれたかどうかは定かではない  
 

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