クロエは図書館でレポートに必要な参考文献を探していた。
「なかなか見当たらないわね・・・」
ふと、入り口近くにある鏡を見て思わずため息が出た。
鏡には自分の姿が映っている。
その姿は、実に絵に描いたような優等生ぶりだ。
(これじゃ誰も声掛けないわよね・・・あいつ以外は)
ふとある人物が思い浮かぶ。
その人物とはプロサッカー選手だったピエールである。
女の子なら誰にでもちょっかいを出すような、名うてのプレイボーイだ。
クロエにとっては、『あんな軽い男、大嫌い』・・・のはずだったのだが、
いつの間にか気になる存在になっていた。
こんな、つまらなくてかわいげのない自分に、気さくに話しかけてくれた。
いつも笑いかけてくれて、落ち込んだときには和ませてくれるような。
さっきのため息とは裏腹に、
顔がニヤニヤしていることに気づいて呟いた。
「・・・普段から素直になれれば、もっと仲良くなれるかしら・・・なんてね」
「誰と仲良くなりたいんだい、クロエ?」
「だ、だ誰?!」
誰も居ないと思っていた図書館で自分以外の声が聞こえたクロエは、
心底仰天してしまって、思わず叫んだ。
そしてその声の主を知った途端、
顔から火が出そうになるくらい恥ずかしくなってしまった。
「・・・ピエール!」
「ふぅ〜ん、今日も勉強か?相変わらず真面目だなぁ」
「あ、あ、あなたこそレポートの提出は済んだの?提出期限は明後日よ!?」
「俺はもう提出したぜ〜、今回は楽勝楽勝」
「・・・信じられないわ、あなたに負けるなんて・・・」
正直凹んだクロエ。そのしぐさにすかさずピエールは言う。
「なんだぁクロエ、なんなら俺が手伝ってやろうか〜〜〜?」
「う、うっうるさいわね!あなたに手伝ってもらったりなんかしたら、
とんでもないレポートになってしまうわ!」
いつもの漫才のような馴れ合い。
でも、正直楽しんでやっていることにも気づいていた。
そして、それはピエールにとっても同じだった。
いちいち突っ掛かってくるのが、これまた非常に楽しい。
今までいろんな女性にちょっかいを出してきたが、
その女性達とは違う何かがあった。
そして、初恋の女性のエスペランサとも・・・。
「・・・で、ク・ロ・エ。
もっかい質問するけど、誰と仲良くなりたいんだぁ?」
ピエールは今にも歯が光りそうな笑みを浮かべながら、クロエに尋ねる。
「もしかしてさぁ〜〜〜〜、俺?」
「な、ななな!!」
本当にマジでやばいくらいだ。たぶん本当に顔から火が出てるに違いない。