ふと目を開いた瞬間、飛び込んできたモノに驚いたヤマトだったが、  
どうにも動かし難い現状には、瞼をしばたたかせて息を呑むことしかできなかった。  
しかし、これがまずかった。  
ごくり、と喉を鳴らした事で目を覚ましていると気付かれ、  
硬直していた状況が激しく動き出す。  
 
「え、ヤ、ヤマト?なんで、だって今まで寝て…」  
「あ、あおい………」「あっ、うわわわわわ………!」  
 
ヤマトが身を横たえていたソファからドサリと何か―この場合は誰か、か―が転がり落ち  
た。  
 
「あ…おい………」  
「見ないで、お願いだからっ」  
 
弾かれたようにベッドの端から転がり落ちたのは、なぜか顔を真っ赤に染め上げているあ  
おいだ。  
同じ様に顔を真っ赤にしてベッド上で硬直しているヤマトの視線から逃れるかのように  
うつむいたままでいる。  
 
「見ないでってお前………」  
「タイミング良すぎだよ…なんで起きるかなぁ………」  
 
理不尽といえば理不尽な文句をこぼすあおいの唇と、  
彼女の文句にさらされてポカンと開け放たれたヤマトの唇には  
今も共有する感触が残り、じんじんと身体の芯まで熱くさせる。  
 
起き抜けにヤマトが見たモノは、視界いっぱいに迫る閉じられた二つの瞳。  
そして、唇へ重ねられた熱い感触。  
 
「………………」  
「………………」  
 
さも珍しくない日常生活を送っていて、以上の二点を起床時に感じる事はまず考えられな  
いため、  
ヤマトは驚き、固まってしまったのだが、彼を更に刺激したのは、いつも身近な処にある  
フルーティーな香り――あおいが愛用するシャンプーの香りが  
いつもより近い距離で鼻孔を甘くくすぐった事にあった。  
思えば今日のあおいは最初から様子がおかしかった。  
家族が誰もいないから、とヤマトを自分の家に誘う事自体はさして珍しくもない。  
一晩中、心霊番組やバラエティ番組に付き合わされるのも慣れたものだが、  
今日に限って恋愛映画を観ると言って聞かず、しかも二人並んで腰かけたソファーでは  
映画が始まり終わるまでの間、ぴったりヤマトにくっついて離れないのだ。  
大恋愛がクライマックスを迎えるシーンでは、ピンとヤマトのシャツの袖まで引っ張って  
きた。  
 
『今夜………いいよ』  
 
ここまでお膳立てされようものなら、暗に女性から“許して”いるポーズと認めて大喜び  
するのが世の中の男性というものではあるのだが、  
クールが極まり女心に鈍感なヤマトには、急なあおいの変化を不審に疑る気持が先行し、  
ロマンチックな『今夜………いいよ』などとは毛ほども認識していなかった。  
 

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