ラシーヌでの依頼を終えた頃、太陽は既に大きく傾いていたので
野営をする事になった。月の綺麗な夜だった。
ヒュウガとアンジェリークが互いの心を通わせてから数ヶ月が経つと
いうのに、二人は清い関係のままだった。
こうして二人きりで野営をする事も何度かあったが、そんな時の彼は
何故か堅苦しい態度を崩そうとはしないのだった。
ヒュウガが自分をとても大事にしてくれているのはよく分かっている。
でも必要以上に神聖視されているのがアンジェリークには不満だった。
(私はヒュウガさんが思う程神聖な存在じゃない。普通の女の子よ。
私、ヒュウガさんとキスしたい。 抱きしめられたい。そして…
抱かれたいの…)
「アンジェリーク、俺が火の番をしよう。貴女は先に休むといい。」
「でも、月がとても綺麗なのでもう少し眺めて いてもいいですか?」
「今宵はだいぶ冷える。早く休んだ方がいい。」
有無を言わせぬ言い方にアンジェリークはただ
「…おやすみなさい。」
と言うしかなかった。
アンジェリークは眠ろうとしたがヒュウガの事ばかり考えてしまい、
目が冴えてとても眠れそうになかった。
(ヒュウガさん…まるで私と一緒にいるのが嫌みたい。
好きだと言ってくれたと思ったのに…あれは私の勘違いだったの?)
そう思うと酷く惨めな気持ちになり、涙が溢れた。
ひとしきり泣くと、アンジェリークは意を決して起き上がった。
「ヒュウガさん…」
もう寝たものだと思っていたアンジェリークが姿を現したので、
ヒュウガは驚いた。
「アンジェリーク、どうした?」
「眠れないんです…一人では…とても寒くて…」
「では火の側にくるといい。何か温かい飲み物を用意しよう。」
そう言って立ち上がったヒュウガの腕にアンジェリークが縋り付いた。
「待ってください…飲み物より…ヒュウガさんに温めて欲しいんです。」
アンジェリークは勇気を振り絞ってそう言った。
顔が赤くなるのが自分でも分かった。
「アンジェリーク…?」
「お願い、私を抱いてください…」
ヒュウガは思いも寄らぬ言葉に目を瞠った。
「駄目…ですか? …ヒュウガさんは私に触れようともしてくれなくて…
とても悲しいです。私を好きだと言ってくれたのは嘘だったの?」
アンジェリークの瞳から大粒の涙が零れた。
月明かりに煌くそれは、宝石のように美しかった。
「アンジェリーク…泣かないでくれ。」
ヒュウガはアンジェリークの傍らに跪き、優しく頬に手を添えた。
「俺は…清らかな貴女を汚してはいけないと思っていた。
一度でも貴女に触れてしまえば抑えが効かなくなる。
分かっていたから二人だけの時 は貴女を遠ざけようとしていたのだ。
貴女を悲しませるつもりなど無かったのに…すまない。」
アンジェリークは激しく頭を振った。
「私は…清らかなんかじゃありません…ヒュウガさんのことを想うと
胸が苦しくて…身体が熱くなって…他には何も考えられなくなるんです…。
ヒュウガさん、こんな私を…軽蔑しますか?」
嗚咽を漏らしながら、最後は消え入りそうな声でアンジェリークは言った。
「軽蔑など…貴女が俺を求めてくれる、これ以上に嬉しい事はない。
女王の卵にそのような事をして良いのか分からないが…
それが愛する貴女の望みなら、喜んで答えよう。」
ヒュウガはアンジェリークを強く抱き寄せ、口づけた。
ヒュウガはアンジェリークを一糸纏わぬ姿にすると、
そっと毛布の上に横たえた。
「とても綺麗だ。アンジェリーク…愛している。」
ヒュウガは自分の服を脱ぎ捨てた。
ヒュウガの鍛え上げられた裸体を目の当たりにして、
アンジェリークの鼓動は一気に跳ね上がった。
真っ赤になりながら、アンジェリークの心は期待と不安と緊張で
はちきれそうだった。
ヒュウガがアンジェリークの上に覆い被さり、彼女に優しいキスの
雨を降らせた。
髪に、おでこに、瞼に、頬に、耳に、そして唇に。
始めは合わせるだけのキスがだんだん深くなり、ヒュウガの舌が
アンジェリークの歯列を割って彼女の舌を求めてきた。
舌を吸われて、アンジェリークは眩暈を覚えた。
(キスだけでこんなに気持ちいいなんて…私、おかしくなっちゃう…)
今度はアンジェリークの桜色に色づいた胸の蕾に舌を這わると、
味わうように口に含んで転がした。
そして反対の胸に左手を伸ばし、ゆっくり揉みしだいた。
「はぁ…はっ…あぁっ」
ヒュウガの巧みな舌使いにアンジェリークの身体は敏感に反応し、
熱を帯びた吐息が零れた。
ヒュウガが右手をアンジェリークの泉に伸ばすと
クチュ…という水音が響いた。
「アンジェリーク…感じてくれているのだな?」
「恥ずかしい…です…」
「恥ずかしがることはない。感じやすい貴女はとても魅力的だ。」
ヒュウガはそう言って微笑んだ。
「アンジェリーク…力を抜いて。」
ヒュウガはアンジェリークの泉に指を沈めた。
「あっ…う…ッ」
アンジェリークの中でヒュウガの指が動く度に、アンジェリークの
背筋を甘い痺れが走った。
ヒュウガは身体をずらすと、花芽に舌を伸ばした。
「ひあっ!」
柔らかく蠢く湿った感触に気が遠くなりそうだった。
「貴女は…とても甘い香りがするのだな。」
「やっ、ダメ、そんなとこ…おかしくなりそ…っ」
ヒュウガがアンジェリークの花芽を強く吸い、
泉を掻き回す指に力を込めた時、アンジェリークの頭の中で
白い火花が弾けた。
悲鳴のような高い声をあげながら、彼女の背中が弓のように
反り返ったかと思うと、ぐったりと崩れ落ちた。
荒い息遣いの中、アンジェリークは初めての絶頂に戸惑いながら、
意識が飛びそうになるのを必死で堪えていた。
アンジェリークの呼吸が少し落ち着くのを見計らって、
ヒュウガは彼女の入口に自身を当てがった。
「アンジェリーク…震えているのか? 怖いならここで止めても…」
「嫌です! 止めないで。お願い…」
思いの外強い口調で懇願されて、ヒュウガは彼女の決意を知らされた。
「そんな風に言われたら、余裕を失くしそうだ。」
十分に濡れてはいたが、ヒュウガの先端を埋めただけで
破瓜の印が毛布を紅く染めた。
「っ、痛いっ…」
引き裂かれるような痛みにアンジェリークの目には涙が浮かび、
眉根が寄せられた。
「アンジェリーク、辛いのだろう?」
「いいえ…痛いけど…私、とても幸せです。
嬉しい…やっと一つになれるんですね…」
その言葉に愛しさが込み上げてきて、ヒュウガはアンジェリークを
強く抱きしめ、零れる涙を唇で優しく拭いとった。
「ああ、アンジェリーク。俺も…幸せ過ぎて胸が痛い。」
ゆっくりと時間をかけ、ようやくヒュウガの全てが
アンジェリークに収まった。
奥までいっぱいに、苦しいほどにヒュウガを感じ、
アンジェリークはとても満ち足りた気分だった。
ヒュウガはあまりの締付けに整った顔を歪ませた。
「くっ、アンジェリーク…貴女の中は蕩けるように熱くて…きつい。」
ヒュウガはゆっくりと腰を使いはじめた。
それは彼女のためであり、自分のためでもあった。
気を付けなければあっという間に達してしまうだろう。
アンジェリークは痛みの中からじんわりと快感が
這い上がってくるのを感じていた。
その証拠に、始めは固く食いしばっていた口元が緩み、
苦痛を堪える呻き声も次第に艶めいたものに変わってきていた。
二人が繋がった部分からは淫靡な水音が響く。
やがてアンジェリークの口からはっきりと快感を訴える言葉が紡がれた。
「ああっ…気持ちい…ン…あぁん…」
はしたないと思いながら、アンジェリークは強まっていく快感に
声を抑える事が出来なかった。
アンジェリークの甘い声に煽られ、ヒュウガは自分がますます
昂ぶっていくのを自覚していた。
「アンジェリーク、貴女の声をもっと聞かせてくれ。」
アンジェリークの瞳は潤み、全身が美しい薔薇色に染まっていた。
喘ぎ声も大きくなり、いつの間にかヒュウガの動きに合わせて
腰を揺らしていた。
その様子から限界が近づいている事を悟ると、ヒュウガは
腰をグラインドさせながら打ち付けるスピードを速めて
彼女の最奥を突いた。
「はぁ…っ…ああ…ん、ヒュウガさん、もう…っあ、ああああああぁっ!!」
アンジェリークは2度目の絶頂を迎え、ヒュウガ自身をキュッと締付けた。
「あ、アンジェリーク、俺も…くっ!」
アンジェリークに少し遅れて、ヒュウガも達したのだった。
翌日、陽だまり邸に戻るとニクスが迎えてくれた。
「お帰りなさい、アンジェリーク、ヒュウガ。
おや? 何かいい事でもあったのですか?
お二人ともすっきりした良い表情をしていますよ。」
その言葉に二人が同時に顔を赤らめたのは
言うまでもない。