―そっと触れるだけの優しいキスをした。
私は穏やかな微笑みに見守られて、何も知らずにひと時の幸せに浸っていた。
一番近くにいた私が誰よりも早く貴方の痛みに
気付いてあげなければいけなかったのに。
「アンジェリーク…今すぐ私から離れて下さい」
「そんな!こんなに苦しんでるニクスさんを放っておくなんてできません!」
依頼をこなし、ひだまり邸に帰ってきたアンジェリークとニクスの二人は
ニクスの部屋でティータイムを楽しんでいた。
優雅で優しい休息の時間。
アンジェリークは束の間のこの時間が好きだった。
だが、穏やかに微笑んでいたニクスを突然襲った
発作によってその時間は失われた。
ぜいぜい、と苦しそうな呼吸を繰り返すニクスに
アンジェリークは何も出来ない自分が腹立たしかった。
「っ…いけません、アンジェリーク。早く、早く私から離れ…」
こんなに苦しそうな発作ならば今すぐにでも
医者に見せなければならないのに彼はそれを拒絶した。
「ニクスさん、やっぱりお医者様を呼びましょう?」
「…っ…駄目です、そんなことよりも早く離れなさい!!」
声を荒げて、アンジェリークを自分から引き離そうとするニクス。
そうやって彼は必死に身体の中に潜む暗闇から
アンジェリークを引き離そうとしていた。
「ぐぁ…」
―あともう少しだけ…あともう少しでこの闇から解放されるはずだったのに。
「早くっ…外へ…遠くへ…逃げ…て下さい…」
彼は悟った。
もう、抗えないことに。
今は早く彼女を己から引き離さなくてはならないと考えていた。
誰でもいい、仲間の内誰か一人でもいいから
早く彼女を守りに来て欲しい。
穢れた手が彼女を傷つける前に。
「…なんというおこがましい願いでしょうね…」
もっと早く打ち明けてしまえばよかったのだ。
そして、恋仲になどならなければよかったのだ。
優しい笑顔に満たされていたいと、
アンジェリークが愛しいと、
自分勝手な想いを抱いてしまわらなければよかったのだ。
「ニクスさん!ニクスさんしっかりして下さい!!」
「…っ…すみません…アンジェリーク…」
涙で瞳を濡らしている彼女の無事を祈りながら、
彼の意識は己の中に巣食う闇によって徐々に薄らいでいった。
「ぐぅッ!!!」
ビクンッとニクスの身体が大きく跳ねた後、
先程までの発作に苦しんでいたのが嘘のようにピタリと止んだ。
「………。」
発作が落ち着いたのか、とアンジェリークが安堵したのもつかの間、
静かにこちらを見つめるニクスの雰囲気がいつもと違うことに気がついた。
いつもは穏やかで優しい彼が今は無機質に感じるのだ。
―怖い。
アンジェリークは無意識に後ずさる。
目の前にいるのはニクスではない。
違う『何か』だ。
「あなたは誰…?ニクスさんをどうしたの!?」
その質問に目の前にいるニクスらしき者は唇を歪ませて静かに笑った。
「何を言っているのですか?ワタシはニクスですよ、アンジェリーク。
心配をおかけしましたが、もう大丈夫ですよ。」
その笑みを浮かべた姿がいつものニクスとは余りにも掛け離れていた。
確かに同じように微笑んではいるのだ。
けれど、違う。
彼はこんな風に笑わないことをアンジェリークは知っていた。
「違うっ…あなたはニクスさんじゃないっ」
彼が一歩近付いてくる度に、アンジェリークは一歩後ろに下がる。
そんな行為を何度か繰り返していく内に彼女は壁にぶつかった。
部屋の隅に追いやられ、逃げ場がない。
走り出せばこの部屋から逃げられるだろうかと思ったが
足はガクガクと震えていて立つのがやっとだ。
他のオーブハンターに助けを求めようにも、
彼らは依頼の為に出払っていて、今ひだまり邸には誰もいない。
―どうしよう、どうしよう、どうしよう…
そんな言葉が、頭の中をぐるぐる駆け巡っている。
そんな追い詰められたアンジェリークを見て彼女の目の前に立った
大好きな人の姿をした『何か』は歪んだ笑みを浮かべた。
心底愉しそうに。
その笑みを見たアンジェリークは恐ろしさに身体が震えるのが止まらない。
彼女が大好きなあの人はこんな風には笑わない。
もっと穏やかに、時折少しだけ寂しそうに笑いながら
優しく自分の名前を呼んでくれるのだ。
それなのに何故、どうして。
「…いや…来ないで…」
「何故ですか、愛しいワタシのアンジェリーク。」
「いやっ!!」
近付く彼を拒絶しようと振り上げた腕を掴まれた。
あまりの強さにミシッと腕が軋む音がする。
「痛っ…」
「ふふふ…はははははっ!!!!!!!」
大好きなあの人の声とは思えない狂った笑い声は、
アンジェリークに恐怖を抱かせた。
彼女が恐怖に身を固まらせていると、そのまま近くにあったベッドに
突き倒され、そのまま強い力で組み敷かれる。
抗おうにも身体を抑える力が強すぎて身動きが出来ない。
「離して下さいッ」
アンジェリークが逃げようと必死になっていると、
突然、場の空気が変わった。
しん、と静まりかえるようなこの特有の雰囲気は
『あれ』が出現する時のものだ。
「…タナトス!」
組み敷かれているアンジェリークの図上で時空の亀裂が出現し
そこから何体ものタナトスが出てきたのだ。
なんということだ。
こんな状況下では浄化するどころか逃げることすら出来はしない。
タナトスに襲われる事を覚悟したアンジェリークだが
予想に反してタナトスは襲ってはこなかった。
「恐がらなくても大丈夫ですよ、アンジェリーク。
このタナトスたちは、ワタシの命令通りにしか動きませんからね。」
「どうして…?あなたは…一体何者なの…」
その言葉に目の前の『何か』は衝撃的な言葉を口にした。
「ワタシは『エレボス』ですよ。」
自分達が倒さなくてはならない真の敵。
何故そんなものがニクスの姿をして
目の前で会話しているのか、
アンジェリークには信じられなかった。
「な…」
「この入れ物…ニクスは200年程前にワタシが見つけましてね。
こちらの世界に干渉するのに都合がいいので手に入れたのです。
だが、この入れ物は予想以上に意志が強く、
ワタシを自分の中に押さえつけていたのですよ。
しまいには女王を見つけて
ワタシごと浄化してもらおうなどと考えていた。」
くつくつと喉の奥で笑うエレボス。
「ただの入れ物のくせになんと生意気なことでしょう。
そうは思いませんか、女王の卵。
ワタシがそんなことさせるはずもないのに。」
そう言ってアンジェリークの首を絞めるエレボスは愉快だと呟いた。
「ぐっ…かはッ…」
「ですが、さすがに女王の卵を見つけた時には
このワタシでさえも焦りましたよ。
万が一とはいえ、せっかく手に入れた心地の良い
入れ物ごと消されてはたまりませんのでね。
少し本気を出してこの入れ物の精神を乗っ取ることにしたのです。」
苦しみを与えるが、決して死にはしないような力加減で
彼女の首を抑えていたエレボスはふいに手を放した。
ゴホゴホと咳き込むアンジェリークを心底愉しそうに見ている。
「…っじゃあ、ニクスさんがあんなに発作で苦しんでいたのは
エレボス、あなたが…」
「抗わずにいれば楽にいられたものを、抵抗などするからですよ。」
冷たく言い放ったエレボスにアンジェリークは
言い知れぬ怒りが沸いてきた。
あんなにもニクスが苦しんでいたのは全てエレボスのせいだったのだ。
花が枯れてしまうのも、あんなに苦しそうな発作も。
今ならニクスが言っていたいくつもの意味深な言葉の意味がわかる。
何故、あんなに近くにいたのに気づいてあげられなかったのだろう、
とアンジェリークは後悔でいっぱいだった。
「まあ生意気なことをしていたとはいえ、
長年入れ物として働いてきたニクスには
『イイオモイ』とやらをさせてあげましょう。」
すっとアンジェリークの顎を持ち、震える彼女を見つめながら囁いた。
「あなたの大好きな『ニクス』は常日頃あなたに対して、
このような欲望を抱いていたんです。
女王の存在を信じながらなんとも浅ましい人間でしょう?
ワタシはそんな欲深さが気に入ったのですが。」
「そんなことっ…」
彼女が否定の言葉を発する前に、その薄紅の艶やかな唇は塞がれた。
口の中でぬめった感触が蠢いて思考が鈍る。
この身体に触れているのは大好きな人なのに、
中身が彼ではないだけで、なんとも気持ちが悪いのだろう。
少し前に交わしたニクスとの触れるだけの口づけは、
優しくて甘くて、幸せでいっぱいだったのに。
今はただ息苦しくて、悲しいだけだ。
「うんっ…く…」
馴れぬ口づけに息苦しくなってきたアンジェリークは
自分を抑える者の胸元をドンドンと叩いた。
だが自分の身体を抑える力が強まるだけで解放などされない。
せめて侵入した舌からは逃れようとするが、無駄なあがきだった。
絡められた舌先が自分の口の中を蹂躙する。
まるで汚さぬ場所など残さぬように、咥内を犯されていくのがわかった。
「んんぅ…む……う…」
舌がうごめく度に、唇の僅かな隙間からはしたなくよだれが零れ落ちる。
その感覚が酷く気持ち悪い。
拭い取りたいのにそれも出来ないまま、
なすすべもなくニクスの姿をした者に組み敷かれている。
「……んっ…んんーっ!!」
限界を見計らうように、ようやく解放された彼女の舌先から
銀色の糸が引いていた。
「っはぁ…はあ…はっ…」
力が上手く入らないアンジェリークはベットの上で
ただ横たわるしか出来ずにいた。
その上へと覆い被さる男は、愉快を喜劇を見ていたかのような笑みを浮かべていた。
「嬉しいでしょう?『ニクス』にこんなことをされて。」
アンジェリークは首を横に振る。
「ニクスさんは…こんな酷いことしません…!」
涙が溢れそうになるのを堪えながら、アンジェリークは目の前の男を睨みつけた。
「エレボス、今すぐニクスさんを返しなさい!!!」
自分の上に覆い被さる男はニクスでは無いと拒絶して、彼女はエレボスを睨みつけた。
その言葉を聞いて、部屋中に笑い声が響きわたった。
「ふっははははははは…!!!ははははは!!!さすが女王の卵だ!!!
今の状況を理解して言葉を発しているのでしょうね?!」
そう言ってアンジェリークを睨みつけると、
それまで動きのなかったタナトスが触手を伸ばし彼女の身体に巻きつきはじめた。
「きゃああああああ!!!」
「これだから女王なんて存在は嫌いなのですよ。遠い昔のいまいましい金色の髪の女王も!
栗色の髪の女王も!漆黒の髪の女王も!そして…」
タナトスの触手がアンジェリークの身体を宙へと浮かせ、
生贄を捧げるかのようにエレボスの目の前へと差し出した。
「今にも女王になりそうなあなたも。」
ぞっとする、冷え切った瞳。
優しい眼差しを失ってしまったニクスにアンジェリークは悲しみが溢れそうになる。
それでもほんの僅かな可能性を信じて、彼女は精一杯の力を込めて祈りを捧げようとした。
このままエレボスの浄化はできずとも、せめてニクスの意識は取り戻せるかもしれない。
光がアンジェリークの身体から溢れ、身体に巻きついたタナトスが透けていくかと思われたその瞬間、
新たに現れたタナトスの触手がアンジェリークの身体を絞めつけた。
「きゃああああああ!!!」
「いけませんよ、愉快な遊戯の時間を終わらせてしまおうなどしては。
次からはやめて下さいね。
まあ…もうこの状態じゃ祈ることなど出来ませんでしょうけど」
ギリギリと強く締め付けれて、身体中が悲鳴をあげていた。
「さあ…もっともっと素敵な姿にしてあげましょう。」
その囁きが余りにも怖くて、アンジェリークは身を強張らせた。
いつも優しく触れてくれるはずの手は、
アンジェリークを凌辱する男の手に変わり果てた。
彼女を包む服を乱暴に破り捨てて、彼女をこれ以上もなく無防備で弱々しい姿へと変えていく。
白い肌が露わになり、胸元にはべっとりとした触手が這う。
その姿は化け物にささげられた哀れな生贄そのもの。
「いやぁっーーーーーー!!!!」
誰にも見せた事の無い姿を、無防備に晒している事に
アンジェリークは恥ずかしさで気が狂いそうだった。
触手に囚われている状態では、身体を手で隠す事すら出来ない。
そんなアンジェリークの様子を楽しそうに眺めるエレボスは
身体を値踏みするように、白い肌の上に手を滑らせる。
「女王の卵は清らかな存在であろうに、なんともいやらしい身体つきをしているのですね。」
胸の形を確かめるように掴まれ、アンジェリークは身体を震わせた。
「これではこの入れ物の『ニクス』も欲望に苦しんでしまうのも仕方ない。
おや、顔が真っ赤ですねアンジェリーク。気持ち良いのですか?」
「気持ちいい訳ありません…っ…離してっ…」
精一杯の虚勢を張って、エレボスを睨みつけるアンジェリーク。
だが、それはエレボスにとっては挑発的な視線で誘っているかのようにしか見えなかった。
「やれやれ、では素直になれるように美味しい飲み物でもあげましょうか。」
パチンと合図がすると、身体を絞めつけていたタナトスの触手の内一本が
アンジェリークの唇を無理矢理割り、口の中へ侵入する。
「ん…んぐっ…」
太く大きいそれは徐々に膨らんで、咥内に隙間なくぎっちりと詰められた。
吐き戻そうにも触手は奥へ奥へと進もうとしていて、苦しさが募るだけだった。
「んんー!!!ぐっ!!ううっ!!!」
触手が膨らんだ事で咥内いっぱいに広がり、息が出来ない。
閉じられた瞳から涙が溢れて出して、止まらない。
限界まで膨らんだ触手は甘い液を大量に放出しそれを喉奥へと押し込んだ。
「美味しいでしょう?ワタシからのせめてもの配慮ですよ。
これであなたは苦痛を感じなくなる。全てが甘美な快感へとなることでしょう。」
液を飲むものかとアンジェリークは必死に抵抗するが、鼻も塞がれ、液を飲み込まなくては息が出来ない。
飲んではいけないと解っているのに、ただそれを飲み込むしかなかった。
ごくんっ…ごくんっ…
甘ったるい液がアンジェリークの中へと入っていく。
充分な量を排出した触手は咥内からずるり、と抜け出ていった。
「…っは…」
サラサラだった水色の髪が涙と汗で顔に張り付く。
その張り付く髪をかきあげて、目の前の男は頑張った子供を褒めるように頭を撫でた。
「よく出来ましたね。ふふ…その表情、とてもいやらしいですよ、アンジェリーク。」
「……触ら…ない…で…」
「…ニクスさんの…手で触らないで…。ニクスさんの…その声で…酷い事を言わないで…」
「ふふ、違うでしょう?嬉しい事ですよ、アンジェリーク。」
そっと愛の言葉を捧げるように耳元で囁かれたのは、絶望の言葉だった。
「愛おしい者の手と声で愛撫されて幸せでしょう?
愛おしい者の姿に犯されようとしているなんて幸せでしょう?
よかったですね、アンジェリーク。」
その言葉にアンジェリークは、涙が止まらなかった。
こんな事が幸せであろうものか。
愛しい人の手で傷つけられ、
愛しい人の声で、絶望の言葉を告げられるなんて。
「…おや、どうなさったのですか。」
意地の悪い声で、エレボスはアンジェリークに尋ねる。
彼女の行為の原因が先ほどの粘液と知っていながら。
「腿をまた随分といやらしい動きで擦り合わているようですが。」
「違う…そんなこ…としてません…! 違うっ!違います!!」
そう訴えたアンジェリークの言葉とは裏腹に、身体は熱を帯びて快楽を欲していた。
無意識にすり合わせていた脚の付け根からは透明な液体が滴りはじめていた。
「や…だっ…なんで…身体があつい…!!」
「それはそうですよ。媚薬効果が存分に入った美味しいタナトスの粘液をたっぷりと飲んだのですから。」
その言葉に絶望を感じたのはほんの一瞬で、
アンジェリークは身体を襲う熱と痒みでもう何も考えられなくなってきた。
「あっ…あああっ熱いっあついぃっ…」
「あぁ、アンジェリーク。大丈夫ですか?ここが熱いのですか?」
後ろから抱きすくめられ、そっと太腿を撫でる手が焦れったい。
触手もただ彼女の肌を上を這うだけで、アンジェリークの欲しいところに刺激が来ない。
胸の先端は固く張り詰め、震えている。
「あ…あああ…やっ…感じては…いけないのにっ…」
「さあ、その口でワタシにどうして欲しいのか教えて下さい。」
耳元で囁かれる誘惑の言葉。
喉から出かかっている『快楽を与えて欲しい』と訴える言葉を飲み込み
残っている理性を振り絞って彼女は首を横に振った。
「離してっ…あなたになんて触られたくないっ!!」
「おや、女王の卵は案外、頑固なのですね。…まあ素直になるのも時間の問題でしょう。」
エレボスが触手に目配せをすると、触手はアンジェリークの身体に絡み付き、
その身体を持ち上げて空中で横に寝かせつける。
そしてエレボスの目の前で脚を広げさせる為に左右の足首に新たな触手が絡みついた。
「きゃあああああっ!!!!」
両足を拘束したそれは、少しづつ左右に引き離そうとしている。
アンジェリークは必死に両脚を閉じようとするが、
触手の力はあまりにも強く、か弱い女性の力では到底抗えない。
脚は少しずつ、ゆっくりゆっくりと開かれていく。
それとともに、レースで縁取れられたスカートが捲れあがり、透き通るような白さの太腿が晒し出されていく。
「いやっ、やめて…やめてぇぇ!!」
必死の抵抗も空しく、足は限界まで広げられた。
アンジェリークは途方もない羞恥に震え、子供のように首を左右に振って嫌がった。
「いや…いやっ…見ないで…見ないでっ!!!!!」
そんな彼女の様子を愉しそうに観察するエレボス。
笑いながら開かれた脚の中心へと指を滑らせた。
「下着越しにも分かるくらいに濡れているとは…。貴方もまんざらではないのでは?」
秘所から溢れ出した大量の愛液によって、純白の下着には大きな染みが出来ていた。
「ちがいますっ…濡れてなんかいません…っ!!」
大きく左右に首を振り、否定するアンジェリークをエレボスは侮蔑の言葉を使って追い詰めていく。
「…ふふふ、こんなに下着濡らしてしまう、いやらしい娘が女王の卵とは信じられませんね。
あなたは淫乱なのですよ。 そうでなければタナトス相手にこんなに感じたりしませんからね。」
「いやっ…淫乱なんかじゃない…っ…違うっ違うの…」
蠱惑的な低音で囁かれるのは、悪魔の囁き。
何度も否定をするが確かめるように男の指が軽く触れただけで、とてつもない快感が生まれる。
頭の隅でエレボスの言う通り、自分はおかしいのではないかという考えが浮かんで来た。
そうでなければ、何故己はこのおぞましいタナトス相手にこんなにも快感を覚えてしまうのだろう。
「おや、もっと触って欲しいのですか?」
無意識のうちに秘所を弄る指に、もっととおねだりするように腰がその動きを追う。
「ちがう…っ…触らないでぇ…いやっいや…あ…ああっ…」
熱さと痒みを和らげたい。
楽になりたい。
もっと快感が欲しい。
否定の言葉を発しながら、そんな考えが頭の中を占拠し始める。
どうしようも無い熱がじんじんと身体中をまわり、
エレボスの誘いに答えてしまいそうな自分を必死に律し、
唇を噛みしめる。
「…んんッ!!…ッ…」
「…ああ、ワタシとしたことが気がつかずに申し訳ありません。
指で触られるのが嫌なのでしょう?こんな細いものではどうしようもない、と。
そうですね、タナトスに触ってもらいましょう。」
「えっ?!い…いや…っ!!!」
必死に抗おうと腰を動かすが、四肢を拘束されていてはどうすることもできない。
しゅるるる、と音を立てて蔦のようなタナトスの触手はアンジェリークの全身に絡み付く。
抵抗を愉しむかのようにゆっくりと下着の中に侵入した触手は、
粘液を垂れ流しながら、もぞもぞと彼女の秘所の表面を這いずり回る。
「あああぅ…… いやああ、やあ、もう…… やめてえええ」
おぞましいタナトスの触手の粘膜が、柔肌と擦り合わせられ、卑猥な音が奏でられる。
少女は悲痛そのものの叫び声をあげ続けた。
濡れた下着に潜り込んで、陰部を嘗め回すおぞましい触手の存在は、
少女を絶望の淵に 陥らせるには十分であった。
「あぁっ!!!!やっ…やああ!!!!!」
愛らしい顔立ちを歪めて苦悶の表情を浮かべながら、
タナトス相手に腰を振っているアンジェリークを、
エレボスは愉快な喜劇を観覧するように優雅に椅子に座り眺めている。
股間から溢れ出た愛液で、太腿の裏までをぐっしょりと濡らしながら、
それでもアンジェリークは頑なに己から快楽を拒み続ける。
「あぁ、下着が濡れてしまっていては邪魔でしょうがないでしょう。
取ってしまいましょう。」
「え?やあああっ!!」
エレボスの言葉に従うように触手は、白い布地を取り去り、
それは床に落とされた。
未だ薄い陰毛と、開き始めた花びらが容赦なく晒される。
充血した赤い媚肉から湧き出る透明な液が太腿にまで
滴り落ちるその光景は淫猥としか言いようがなかった。
「見ない…で…おねがいっ見ないでぇ…!!」
「なんと素晴らしい光景でしょう!
あなたのここはひくひくと蠢いて物欲しそうにしていますよ。」
「ちがう…っ…触らないでぇ…いやっいや…あ…ああっ…」
ただどうしようも無い熱がじんじんと身体中をまわる。
それと同時に頭の片隅で微かな理性が警鐘を鳴らす。
解っていた。
このまま快楽にまかせれば、きっともう戻れなくなることを。
「苦しそうですね、楽になりたいですか?」
秘所の上をゆっくりと這い回っていた指が一本差し込まれた。
ぐちゅ……
聞くに耐えない、いやらしい水音が響く。
ゆっくり、ゆっくりと細長い指がアンジェリークの中を確かめるようにかき回す。
「んう…あっ…」
感じてはいけないと必死に言い聞かせているのに、
アンジェリークの身体は言うことを聞かない。
時折、指がつんと固くなった突起を弄ると、あまりの快感に唇を噛みしめ、
はしたない声を出さぬようにと耐え忍ぶ。
「んぅぅぅうっ!!」
そのアンジェリークの姿が気に入ったのか、
エレボスはアンジェリークの感じる箇所を狙って指を遊ばせる。
何度も何度も指を出し入れし、突起を弄んで、絶え間なく与えられる快感は絶頂までは至らない。
いつまでも終わらないその行為はアンジェリークにとって拷問そのものだった。
気が狂いそうな程の時間が経過した頃、突如指が引き抜かれた。
「…あ…」
「そろそろ頃合いでしょう。この『入れ物』も貴女の中に入りたいと懇願しているようですし…
本当は触手に無理矢理純潔を奪わせるつもりでしたが、
ワタシ自ら女王の卵の純潔を汚すというのも捨てがたいですからね。」
椅子に腰かけたエレボスは触手に目配せをし、対面座位の体勢にするようにアンジェリークの身体を運ばせた。
エレボスは彼女の細い腰を掴み、硬くなったそれを、閉ざされた膣口の中へとゆっくりと押し込み始めた。
ぐちゅ……
ぼんやりとしていたアンジェリークは自分の置かれている状況に気が付き逃げ出そうと暴れだした。
「やあああああーっ!!!!離してぇぇ!!!」
暴れ狂うアンジェリークを触手はしっかりと固定し、エレボスから逃れることを許さない。
先程飲んだ粘液のせいで痛みは感じないものの酷い違和感がアンジェリークの下腹部を襲う。
おぞましい侵入者を拒もうと膣をぎゅっと締めるが、
必死の抵抗も空しくじりじりと 中をこじ開けられていった。
そして、ズンッという衝撃とともに、それは奥深くへと差し込まれていく。
「やめ、やだぁ、いやあ、やあああああ」
エレボスは椅子に腰掛けながら、アンジェリークの腰を掴み、律動を繰り返す。
淡々とその作業を繰り返し行い目の前で悶え苦しむアンジェリークの痴態を眺める。
膣の奥深くへの突き上げが繰り返されるうちに、激しい苦痛の中から 仄かな快楽が芽生え、
喘ぎ声にも艶めいたものが混ざり始めた。
グチュッグチュッ
「あっ…あっ…やああっ!」
エレボスの身体の動きに合わせてぐちゅぐちゅといやらしい水音が響き渡る。
汚された膣口からは愛液に混じり、幾筋の紅い液体が流れて出している。
「初めてのお相手が愛する『ニクス』でよかったですね?」
快楽に喘ぐアンジェリークを侮蔑しきった口調でエレボスは言った。
「ううっ……ああっ…こんなの、こんなの違うっ…!!!!!」
絶望に打ちひしがれながらアンジェリークは激しく突き上げられる度に嬌声をあげた。
激しい快感がアンジェリークを襲う。
さっきまでとは桁違いの快感。瞳から大粒の涙が零れ落ちる。
「ひあっ…んんんっ、助けて…助けてニクスさ…ん…っ!!!」
目の前の身体にしがみつき、泣きながらその身体の持ち主の名を叫ぶ。
滑稽だとばかりに目の前のエレボスは嘲笑う。
「ニクスは目の前ではありませんか。」
「ちが…っニク…スさんじゃないっ…」
「違いませんよ。この身体はニクスで貴方を愉悦へ導くコレも確かにニクスのモノですよ?」
そう言ってぐっ、と一層奥深くに差し込んだ。
「んんッ…」
「気持ち良いでしょう?愛する『ニクス』に犯されて幸せでしょう?」
「ちがっ…あああッ…ニク…スさ…っ…た…すけ…」
涙を零しながら必死に首を横に振るアンジェリーク。
そうやって否定し続けていないと、狂ってしまいそうだった。
「ふふふ…狂ってしまえばいい。
ワタシを『ニクス』だと思うだけで楽になれますよ。ジョオウサマ?」
与えられる快楽と理性の間でもがき苦しむ彼女の頭の中は既にグチャグチャだった。
「ちがうちがうっやあっあああっあああっー!!!!!!」
脚をぴんとはり彼女は初めて絶頂に達した。
ニクスの身体にもたれ掛かるようにうな垂れるが、純潔を奪った悪魔は彼女に束の間の休息すら許さない。
息つく暇もなく、破瓜の血を外に零しながら更に奥へと進んでいく。
「こんな程度で終わると思ったら、大間違いですよ。
さあここからは貴方の大好きなタナトスにも手伝ってもらいましょう。」
パチン、と指を鳴らす音がしたかと思うとタナトスの触手が汗に濡れた身体にまとわりつく。
細かいひだに覆われた粘膜と、触手の表面を覆う細かい繊毛が擦れあう音が部屋に響いている。
「んんッ!!!!」
突然アンジェリークは声を荒げた。
それもそうだろう、太い触手が本来ならば使うことの無い
『後ろの穴』に潜りこもうとしていたのだから。
「いやああっ、そこだけはやああ! 」
絶叫するアンジェリークはぎゅっと肛門を締めるが、触手の先端から溢れるとろとろとした粘液が、
彼女の小さな門をほぐして行く。
「いや……来な…い…で…… 」
どんなに必死にあがいても逃げられないとは解っていても、
身を包む恐ろしい感覚に拒まずにはいられなかった。
「前は良いのに、後ろは駄目なんてことはありませんよ。」
「やっ……やめて…や…めて…ひっ……」
侵入した触手による激しい圧迫感に、アンジェリークの瞳は
これ以上開きようが無いほどに大きく開かれた。
吐き気が込み上げて、幾度も噎せ返る。
「やああッ、ああああ!!ダメっダメッ!!」
限界まで拡げられ侵入してくる触手にアンジェリークは、
苦悶の表情を浮かべ、助けを求めるように目の前のエレボスに縋りつく。
「お願い助けて!それだけはっそれだけはやめて下さいっ…」
「ワタシに助けを求めるのですか。ふふ…哀れなジョオウサマですね。」
彼女の意志に反して、触手は卑猥な音を立てながら、奥へ奥へと押し入ってゆく。
「や…めて…や…めて………」
「仕方ありませんね。哀れなジョオウサマを助けてあげましょう。」
その言葉に少しだけ希望を抱いたアンジェリークは次の瞬間、
再び絶望の中に突き落とされた。
「徐々によりも、一気に貫かれてしまう方が楽でしょうから。」
「え…」
彼が笑ったと同時に太い触手はメリメリと、異様な音を立てながら肛内に入った。
「きゃゃあああっ!!!」
アンジェリークの脳内で無数の火花が飛び散る。
真っ白な滑らかな尻を左右に振りながら、彼女は悲鳴をあげる。
しかし、四肢の自由を失っている彼女には、このまま激しい陵辱を耐えることしか道は残されていなかった。
生まれて初めて受ける苦しみに、アンジェリークは身を固くして耐え続ける。
エレボスと無数の触手によって開発されつつある彼女の身体と心は、もう限界を迎えつつあった。
アンジェリークの全身は細かく震え、それに合わせるように
膣内に挿入されたままになっている、エレボスも再び動き始める。
それと同時に後ろに入り込んだ太い触手は少しづつ動きを速め、より奥へと突き進んでいく。
違う動きで快感を与えるそれぞれの動きによって
身体中から噴き出した汗に濡れたアンジェリークの白い身体が跳ねる。
「んんっ…… んくっ」
一度絶頂を体感した身体は、燃え尽きる前の蝋燭のように 再び激しく燃え上がっていく。
アンジェリークは蕩けるような熱い快感の前に
今まで必死に自分を縛りつけていた理性を手放すことを決めた。
どうせもう逃げられないのだ。
大人しくエレボスの与える快感に身を委ねてしまえば、きっともう苦しくないのだろうと考えた。
―いくら逃げようとしても、助けを求めてもどうにもならないのだから
エレボスの言うとおり、大好きなニクスさんに抱かれていると思えばいい。
抗うことに疲れ果てたアンジェリークは、エレボスの与える快楽を受け入れ始めた。
ぴんと張り詰めて己を律していた理性が途切れたことで、アンジェリークに与えられる快感は何倍にも膨れ上がった。
「ああっきもち…気持ちいいよッ…ニクスさんっ…」
アンジェリークの変化に気づいたエレボスは緩急をつけながら確かめるように語りかけた。
「気持ち良いのですかアンジェリーク。もっとして欲しいのですか?」
「あぁあぁ…… もっと、もっとお願いですっ!して…して下さい!!」
弱くなる刺激に不満の声すらあげながら、アンジェリークはあれ程嫌悪していたはずの口づけをせばむ。
「んむ……んぅっ」
彼女の求めに応じるように、エレボスは口づけを交わす。
先ほどの口付けとは真逆の、アンジェリークが全てを貪るような口づけ。
堕ちた彼女のその姿にエレボスは満悦の笑みを浮かべた。
普段は絶対に口にしない言葉を、幾度も紡ぎながら、
少女はエレボスと触手の動きに合わせるように腰を動かし、
膣に力をこめて中に入ったそれをきつく締めつける。
「わたし、わたし、いっちゃうっ、いっちゃうよぉ」
その行動を喜ぶように無数の触手達は陰唇やクリトリスのみならず、
乳首、脇下等、あらゆる場所を丁寧に撫でまわしていく。
絶頂が間近に迫ったアンジェリークは、
さらさらの水色の髪を振り乱してよがり続ける。
一方、後ろの穴からの出入りを続けている触手も、
規則的な脈動から、小さく細かい震動へと 動きを変えている。
「あくっ、やあっ、んああああ…」
急激に高まる快楽を逃さないように、アンジェリークは身体を硬直させた。
「んあああっ、ああああっー!!!!!!!」
彼女がニ度目の頂点を極めた時、奥深くを突き続けていた触手の先端から
噴き出した熱い液体が腸内を満たし、それとほぼ同時に熱い精液が子宮に向かって迸った。
「あ…あああっ…」
子宮の入り口と腸内に注ぎ込まれる液体に、焼けるような熱さを感じて、
少女はビクンビクンと身体を震わせた。
激しく脈打ちながら流し込まれる精液と粘液の勢いはとどまる事を知らず、
瞬く間に子宮と肛内を満たしてしまう。
精液を存分に放ったエレボスは、ようやく膣内への侵入をやめてゆっくりと先端を抜き出した。
それと同時に、後ろの穴に差し込まれていた触手や
乳首や陰唇を愛撫していた他の触手達も、ゆっくりと 離れていった。
薄い毛に覆われただけの秘所からはどろりとした白濁の液体が溢れ出し、
少女の愛液で濡れた床に重なるように染みていった。
「はあっ…… はあっ」
どさり、と音を立てて床の上に投げ出された
精液と愛液、粘液にまみれたアンジェリークは、
荒い息を継ぎながら心地よい弛緩の波に身を委ねた。
頭の中は真っ白。
もう、何も考えていたくなかった。
「アンジェリーク、ニクス!!無事か!!」
レインを始めとしたオーブハンターの皆がひだまり邸に戻ってきた頃、
そこはタナトスが蔓延る場所となっていた。
リースの街で二人が先にひだまり邸に戻っていたことを知っていた三人は
彼らの無事を祈りながら、ニクスの部屋のドアを開けた。
だが、ドアを開けた向こう側には直視したくない現実が待っていた。
「おやおや、来客ですか。」
にこやかな笑みでその部屋に佇んでいたのはニクス。
彼らの知っているこのひだまり邸の主人。
そして大切な、家族のような仲間。
彼はいつもと変わらぬ、いつもと同じ対応をとっていたが、それがおかしいのだ。
何故、そんな場所でそうして笑っていられるのか。
ニクスのまわりにはタナトスが存在し、
その近くには、彼らの愛する大切な少女が裸体で白い液体にまみれた無残な姿になって床に横たわっているというのに。
「なっ…」
三人は言葉を失った。
この間まであんなに無邪気に笑っていた彼女が、
どうしてあんな姿になってしまったのか理解出来ない。
いつも自分たちに光を与えてくれる愛らしい少女の瞳からは光が失われていた。
「どうしたんですか、女王の卵のこんな姿は見たくありませんでしたか?」
呆然と立ち尽くす彼らの前で、嘲笑いながら彼女を足先で突く男に怒りが向けられる。
「どういうことだ!!!!ニクス、てめえ裏切ったのか!!!!!」
「ニクス…なんで!!!!なんでアンジェがそんな姿になって…!!!!」
「…返答次第では、お前を即刻切り捨てる!!」
言い知れぬ怒りを抱く彼らを嘲る男は、もう自分たちの知っている仲間ではなかった。
「心外ですね、『入れ物』の名で呼ばれるとは。」
そう言った彼のまわりには彼らがよく知る特有の禍々しい空気が漂う。
「ニクス、お前まさかタナトスが憑いてっ…」
「違いますよレイン君。ワタシはそんなどうしようもない小さな存在ではありませんよ。
ワタシは…そう、あなた達の世界で『エレボス』と呼ばれるものです。
あなた達に出会う前からずっとこの入れ物の中にいましてね。
ようやく挨拶が出来て嬉しいかぎりですよ。」
その言葉に、誰もが耳を疑った。
自分たちの倒すべきエレボスがニクスに取り憑いていたなんて。
誰も考えなどしなかった。
「ふふっ、女王の卵はなんとも脆いことでしょう。
たった一度嬲られただけで、もうこんな風になってしまいました。」
そう言ってアンジェリークに触れようとしたその手に弾丸が撃ち込まれる。
弾丸は手のひらを貫通し、左手に風穴が広がった。
「アンジェリークから離れろ!!!!」
武器を構える三人は、かつての仲間の姿をした男を睨みつけた。
「やれやれ、皆さんそろって無粋ですね。」
風穴が広がった左手は、みるみる内に治癒されていった。
「…どうするんだい、レイン、ヒュウガ。」
「どうするもこうするも、ないだろ」
「まずはアンジェリークを救出しなくては!
彼女は我らの…アルカディアの希望なのだから!」
先陣を切り込み、ニクスの姿で笑う男に向かってヒュウガの槍が唸る。
確かな手ごたえを感じたのに目の前の攻撃対象は苦しむどころか、
ぞっとするような笑みを浮かべた。
「おやおや、女王の卵の手助けがなくてはこんなにも手ごたえのない輩だったとは。
ワタシの影となったあなたの元ご友人もさぞや悲しんでおられることでしょう。」
「貴様っ…!!!」
かつての仲間の口調で囁かれた侮蔑に少しだけヒュウガの集中が乱れた。
その瞬間を狙って新たに空間から現れたタナトスが横から攻撃をしかける。
「ぐうッ!!!」
脇腹に勢いよくめり込む触手。
その衝撃は肋骨にも達するほどだった。激痛にヒュウガは思わずその場に蹲る。
「騎士の役割、御苦労様でした。女王の卵はワタシがこのまま連れていきますから
あなたはもう必要ありませんよ。」
「そんなことさせない!!!」
冷たく笑う男にジェイドが攻撃をしかけ、アンジェリークをエレボスから引き離そうと試みる。
「アンジェは俺達の…みんなの大切な女の子なんだ!!エレボス、君には渡せないよ!」
トンファーに渾身の力を込めて彼の身体に衝撃を与えた。
「…くだらない。そんな程度の力にタナトスが浄化されていたとは。
生憎ですが、ワタシはジャスパードールなんて玩具には興味無いんです。」
エレボスに与えた衝撃の何倍もの力がジェイドの腹部に与えられる。
「がはっ!!」
そのまま後方へと吹き飛ぶジェイドを見て、レインはギリッと歯を噛み締めた。
「くそっエレボス、てめぇぇぇ!!!!」
レインの拳銃から何発もの光の弾丸が間髪入れずエレボスへと打ち込まれる。
「おやおや、これでも身体は『ニクス』のままだというのに。
容赦ありませんね、レイン君。」
だが、今まで何体ものタナトスを浄化してきた弾丸は、
この瞬間はただの石つぶてにも劣る攻撃と化していた。
「くそっ、何故効かないんだ!!」
「当たり前のことでしょう。貴方がたがこれまでワタシの影と対等に戦えたのも
『アンジェリーク』という存在があってこそ。
その存在がこんな風になっては…あなたたちはただの役立たずですね。」
「貴様っ!!」
怒りに震えるレインの背後から、タナトスが襲い掛かる。
エレボスに気を取られていたレインはいとも簡単に宙へと吹き飛ばされた。
「ぐはっ…!!!!!」
そのまま下に打ちつけられ、レインは床に倒れこんだ。
そんな彼など興味がないとばかりに
横たわったアンジェリークを抱き上げたエレボスは嗤う。
「ほらアンジェリーク、彼らにお別れを言わないと。」
「…ぁ……」
何もわからない状態のアンジェリークは己を抱き上げたその腕に縋りついた。
それがニクスなのかエレボスなのか判別がつかない程に彼女は壊れてしまっていた。
「…さようなら、オーブハンターの諸君。もう二度と会う事も無いでしょう。」
そう言ってエレボスはタナトスととも時空の狭間へと消えていった。
彼らの大切な少女も奪い去って。
「ちくしょう…ちくしょーーーーー!!!!!!!」
静まり返ったひだまり邸にはレインの悲痛な叫び声だけがその場に虚しく響いたのだった。
暗闇の中で響く声。
それはその空間に存在する主を愉しませる音楽だった。
「あっあああっ…ああっ…やあっ!!!」
タナトスの触手が絡まる、白い液まみれの四つん這いになった
少女からはもう女王としての輝きは感じらなかった。
ただただ与えられる快楽に嬌声をあげ、
時折弱々しく愛しい者の名前を繰り返すばかり。
そんな少女の頬を愛おしそうに撫で、彼は唇を歪ませて嗤う。
「…ニク…スさ…ん…」
「ええ、ワタシはここにいますよ。」
「…よ…かっ…たあ…」
正気を失った瞳は焦点も定まらず、呆然と宙を見つめながら壊れた笑みを浮かべた。
それでもなお美しい、宝石のような瞳から一筋の涙が零れ落ちて、
下に広がる深淵の暗闇の中に消えていく。
その悲しい光景を前に、男は狂ったように笑い出した。
「ふふふ…はははははは…ははははは!!!!!
これで女王はもう誕生しない!!これでアルカディアは…世界はおしまいだ!!!
ふははははは!!!ははははは!!!!」
狂った笑い声を発するニクス『だった』者の瞳からは、
何故か涙が溢れて止まらなかった。
終