(今、何時かな?)
昼食を食べた覚えがないエンジュは、まだ完全に去っていない睡魔の訪れを
歓迎するか、食事をしに行くか、目を閉じて少し考えた。
どれくらいの時間眠っていたのかよくわからないが、寝たりないらしく、
まだ頭がぼんやりしている。今日は土の曜日。レイチェルのところに報告は
行ってきたから、多少食事の時間が不規則になっても問題はないように思えるし、
眠いは眠い。でも、空腹なのも確かで。
とりあえず食堂に行くことにして体を起こそうとした時、それができないことに
エンジュは気がついた。
(・・・!?ここは、どこ・・・?どうして体が?)
腕が拘束されている。のみならず、体にはかろうじてブランケットがかけられて
いたが、服はおろか下着すら身につけていなかった。
慌ててしゃにむに腕を動かすと、手首のそばでじゃらりと細い鎖が鳴った。万歳を
するような格好で、右手首のベルトについた鎖はベッドの柱の左側、左手首の鎖は
右側に括りつけられているようだった。
ベッドの天蓋にも見覚えがなく、ここがどこかもわからない。混乱したエンジュが
助けを呼ぼうと口を開いたその時、天蓋の中に人が入ってきた。
「お目覚めですか?レディ」
「フランシス様。あの・・・」
「よく眠っていらっしゃいましたね。可愛らしい寝顔でしたよ」
いつもと変わりのない口調や表情だが、それがエンジュには怖かった。頬に
伸びてくる手を避けようとすると、それを見たフランシスが微笑んだ。
「そう怖がらなくても大丈夫です」
「だ、誰か・・・!!」
フランシスは添い寝をするようにエンジュの隣に横になり、エンジュの額に
キスをする。エンジュは助けを呼ぼうとするものの、声がほとんど出せない
ばかりか出た声まで上擦って言葉にならない。
「くす。いくら叫んでいただいても構いませんよ。防音設備はしっかりしている
ので、どんな大きな声でも隣の部屋に聞こえることはありません」
ブランケットを床に落としながら、フランシスはエンジュの体のそこここに手を
滑らせていく。無駄だとわかっていながらも、なんとか抵抗しようと体を捩る
エンジュはフランシスの執務室を訪れた時のことをはっきりと思いだした。
いくつかの星系をまわって流現をしてきたエンジュは、2、3日前からなんとなく
喉の渇きを感じていた。10日程の行程が終わって帰ってきたのは今日、ちょうど
土の曜日。帰ってきた足でレイチェルへの報告は済ませた後に、なんとはなしに
向かったのがフランシスの執務室だった。
いつもしてくれるように朝摘みのバラと香りのよい紅茶でもてなしてくれた
フランシスに喉の渇きのことを話した時、2杯目に入れてもらった紅茶を飲んで
眩暈がして・・・、その後の記憶がない。
「はな、して。離して!」
「いけませんよ。暴れては」
状況が把握できたことで、エンジュの頭にわずかにではあるが落ち着きが
戻ってきた。喉の奥から搾り出すように声をあげ、なんとか拘束が緩まない
ものかと手足に力を入れる。
だが既にエンジュの足は開かされてフランシスの足で固定されており、
抵抗もたいして気にしない様子で、フランシスの手はエンジュの内腿を滑っている。
「さっきの、紅茶・・・」
「ええ、少し睡眠薬を入れました。大丈夫ですよ。いつもの紅茶も、2杯目の
紅茶も、ただ依存性があるだけですから。もっとも、2杯目の方は慣れるまで
少し大変かもしれませんね」
「え?」
跳ね除けられないと、心のどこかで諦めを感じながら、それでも疑問が
口をついて出てくる。そして、その疑問の答えはなんともあっさりと返ってきた。
「身も心も、完全に私のものになっていただくための準備です。私の、レディ」
「そんな・・・。っ!?」
疑問の答えに付随してきた言葉の理不尽さに、抗議しようとした瞬間、エンジュの
秘所にフランシスの指が触れた。胸の膨らみにも舌先が到達する。
「ほら、体は喜んでいますよ?」
ほころんできた秘所全体に、少しずつあふれはじめた滴を塗り広げるように、
フランシスの指先が行き来して、エンジュの体が震えた。それは明らかに逃げる
ためではなく、与えられた刺激に反応してのものだった。
「いや!やめて・・・!やめてください!」
「素直になりましょうね」
絶妙に動く指先が、肉芽を愛撫した。エンジュは懸命に声を殺そうとするものの、
フランシスの指が動くたびに、どうしても声をあげてしまう。
「もっと、鳴いてみてください」
フランシスが喋る時に胸の尖りに感じる吐息も、緩やかな快感をエンジュに
伝えた。そこをまた吸い上げられて、エンジュは仰け反った。もはや、暴れようと
しているのは逃げたいという気持ちだけで、エンジュの体は拘束を解かれたと
しても、逃げられる状態ではなくなっている。
「あっ。あぁ・・・んっ」
「ほら、こんなに」
滴に濡れた指先で、フランシスはエンジュの頬に触れた。頬から顎のラインを、
その指先で辿る。
「やぁっ・・・」
羞恥に頬を染めるエンジュの唇を奪うと、フランシスは体を起こした。そのまま
下へ移動して、エンジュの足を抱え上げるようにして大きく開かせる。エンジュが
慌てて足をばたつかせるのを難なく押さえ、フランシスは肉芽に舌を這わせた。
「は、あっ。くぅっ。あ、あぁぁぁっ」
ちろちろと舌先だけで弄られる感覚に、エンジュの声は次第に大きくなって
いく。無意識にではあるだろうが、腰がゆるゆると動くのを見て、フランシスは舌の
速度を上げた。
「あっ、あっ、ダメぇっ!」
一際大きな声を上げ、エンジュの体からくたりと力が抜ける。大きく息をついて
いるエンジュの唇にまたひとつキスをして、フランシスは指を秘所に潜り込ませた。
「痛っ!」
「少しの我慢です」
もう片方の手と唇で両方の胸を愛撫しながら、ゆっくりと指を出し入れする。
エンジュは時折痛みに顔をしかめるが、徐々に快楽の方が勝りはじめているらしく、
嬌声がまた聞こえ始めた。
フランシスは鎖骨の上や胸の谷間をきつく吸い上げ、赤い印をつけながら、
エンジュを再び頂上へと導いていく。
「そろそろ大丈夫そうですね」
指の本数を増やし、しばらくエンジュの体を慣らしたところで、フランシスは着て
いた服を脱ぎ落す。そして限界まで硬くなったモノが、ゆっくりと進入を開始した。
「ひっ!きゃあぁぁぁぁぁっ!!」
ぎゅっと眉根を寄せて耐えているエンジュに幾度もキスを落としながら、それでも
フランシスは進入を止めはしなかった。全てをおさめて軽く息をつき、今度は深く
エンジュにキスをする。
「優しくして差し上げたいとは思うのですが・・・」
エンジュの耳元で囁いて、フランシスは体を動かし始めた。そして最初は
ゆっくりだった注挿は、すぐに速度が増していく。
そのままの状態で1度。次にうつ伏せにされ、後ろから腰を抱え上げられた
状態でもう1度。胎内に熱いものがはじけた感覚を最後に、エンジュは意識を
手放した。
しかし泥のように沈みこもうとする意識は、頬を軽く叩かれて引き戻された。
「もう・・・、やめてください・・・」
「くす。お楽しみはこれからですよ?」
体がだるく、重い。これ以上何をしようというのか。力なく懇願するエンジュの
言葉を言外に却下して、フランシスはサイドテーブルの引き出しから小さな
小瓶を取り出した。そして小瓶の中身を少量指に取り、エンジュの秘所に
塗りこんでいく。
その短い作業が終わると、フランシスはエンジュに戯れにキスしたり、腿を撫で
あげたりして何かを待っているようだった。
と、エンジュの体の中が、突然疼き始めた。先ほどフランシスに与えられた
快感を、再び感じたくて仕方がない。とうに体力は使い果たしたと思っていたのに、
また秘所から滴が滲み出すのがわかった。
エンジュがもじもじと腿を擦り合わせるのを見たフランシスは、ごく軽く、
エンジュの胸に手を触れる。
「ひあっ」
びくびくと体が跳ねて、エンジュは自らの反応に困惑した。だが、疼きはますます
強くなっていく。
「さて、どうしますか?」
「・・・え?」
時折エンジュの体に触れ、その反応を楽しみながらフランシスは微笑んだ。
「私としては、もっと気持ちよくなっていただきたいのですが、請われもしないのに
そんなことをするのはどうかと思うのですよ」
白々しい。エンジュはフランシスを睨みつけるものの、快楽に溺れた瞳では
迫力はない。快楽を得たいという焦燥感は、もどかしさと悔しさとを同時に
生じさせた。
「ああ、この薬は催淫性は強いですが、依存性は全くありませんから、心配は
いりません。薬が抜けるまで我慢しますか?それとも・・・」
不意にフランシスがエンジュに覆いかぶさる。ことさらゆっくりと首筋を舐めあげて、
耳をかみ、そこで息を吹きかける。為すすべなく体を跳ねさせるエンジュは奥歯を
噛み締めた。
「一言でいいんですよ?「欲しい」と」
真赤になったエンジュが、何度も首を横に振る。だが、小刻みに愛撫を繰り返され、
ついに我慢の限界が訪れた。蚊の鳴くような声が陥落を告げる。
「ほ、しい・・・」
初めての時には激痛しかなかったが、秘所に塗られた薬の効果なのか、もう痛みを
感じることはなかった。
フランシスのモノが、ぎりぎりまで引き抜かれてからまた深く押し入るのを
繰り返し、エンジュの喘ぎがそれに呼応する。恍惚と羞恥の狭間で、貪るように
快感を求め、みだらに腰を動かしているエンジュの胎内に、フランシスはまた
己の欲望を放った。
エンジュが目を覚ますと、そこはいつも通されるフランシスの執務室、奥の間の
ソファの上だった。きちんと服も着ているし、髪も乱れていない。
「よくお休みでしたね、レディ」
さらに、いつもと変わりない様子のフランシスを見て、エンジュは少し混乱した。
あまりにもいつもどおりすぎるフランシスの言葉を聞いていると、先程のことを
夢だったのかと疑いたくなってくる。
フランシスの勧める紅茶を丁重に断って、二言三言のやりとりをしただけで、
エンジュは狐につままれたような気持ちでフランシスの執務室を辞した。
西の空が赤い。やはり、かなりの時間執務室にいたことになる。夕食を一緒に
どうかとフランシスは言っていたが、そうするのは怖かったからそそくさと
執務室を出てきた。
そういえば最初に紅茶を淹れてくれた時、昼食を一緒に食べながら明日の
予定を決める話もしていたが、もうそれは保護にしてしまおう。
とにかく、今は早くアウローラ号に帰りたい。夕闇の迫る中、エンジュは足早に
帰路についた。
The End