私…夢を見ている。  
 
 
 
神々しく君臨する神鳥の宇宙。  
 
敬愛する女王陛下。  
聡明な補佐官様。  
神々しい守護聖様方。  
 
教官・協力者の方々のお力をお借りし、導かれ…  
新たなる宇宙の女王の座を巡り、競い合い、時に励ましあったレイチェル。  
 
聖地は夢見るように美しく、眩いばかりに光輝いていた。  
遠い遠い、もう戻らない、美しい私の記憶たち…。  
 
 
「アンジェ…。」  
 
お願い…まだ私を呼ばないで…。  
私が本当に見たい夢は、この先にあるのだから。  
 
 
故郷の宇宙が、突如現れた「皇帝」と名のる男に蹂躙され  
我が母なる女王陛下をお救いする為に旅立ったのは何時の事だったか?  
 
その旅で、出会った。  
 
アリオス。  
 
自由に旅をしている剣士だと言っていた。  
最初の印象は憧れにも似た感情だったと思う。  
自由…最早自分には許されない事。  
どこまでも、どこへでも駆けていける、そんな自由な彼が羨ましく、そして憧れた。  
 
乱暴な口調とは裏腹に、最後はいつだって私に助言してくれた。  
投げやりな態度とは裏腹に、最後はいつだって私を守ってくれた。  
 
 
そんな彼に恋をするのに時間は掛からなかった。  
私の目はいつだって彼を追った。  
 
今はそんな時ではない!それが許される立場ではない!  
と、頭の中ではいつだって警鐘が鳴り響いていた。  
でも心が彼を欲するのをどうして止められよう。  
…初めての恋だった。  
 
旅の途中、降りだした雨をやり過ごすのに立ち寄った鄙びた小屋。  
暫くは互いにぼんやりと、俄かに酷くなっていく雨足と煙る景色を眺めていた。  
やがて雷の轟音が鳴り響く。  
 
薄暗く黴臭いその小屋の中で…  
 
唇を寄せたのはどちらが先だったか。  
 
けっして優しいキスなんかじゃなかった。  
 
彼はまるで私を喰らいつくすかの様に貪った。私もそれに喜んで応える。  
壁に押し付けられ、痛いほどに後髪を掴まれ、仰け反る様に上向かせられ、  
何度も何度も角度を変えて接吻を交し合う。  
 
息も止まりそうなその最中、私は必死に彼の首に縋っていた。  
唾液が絡まる音、火傷しそうに熱く滑らかで、いやらしい舌の動き。  
興奮している彼の息使い。  
 
初めての接吻だった。  
 
その感覚に、閉じた目の奥が真っ赤に染まったのを覚えている。  
 
床へ押し倒され、喉もとに喰らいつかれる。  
 
そのまま息の根を止めて…この一瞬を永遠にして欲しいとさえ願った。  
 
私達は何かに急かされる様に互いの衣服を剥ぎ取り、  
その温もりと存在を確かめ合う様に素肌で抱き合った。  
ぴったりと胸は重なり合い、解けない鎖の様に足と足とを絡ませる。  
 
鼓動が早いのが私だけでない事に安堵した。  
 
だって彼は。  
いつだって私を見つめる彼は。  
 
…私ではない誰かを探し求める様に、  
…哀しい瞳をしていたのを知っていたから。  
 
喉もとにキスの愛撫を受けながら、  
冷たい手で乳房を掴まれ捏ねまわされる。  
その先端を爪で弾かれた瞬間、ビクリと身体に電流が走った。  
爪弾いた乳首を労わる様に丹念に舐め回し強く吸う。  
そうされると、まだ触れられていない部分が何かを期待しているのか、  
痒い様な、もどかしい様な、不思議な感覚に襲われた。  
 
私の胸に顔を埋めたまま、腰のラインをなぞりヒップを揉みしだく。  
そのまま後ろから足の付け根に指が這わされた時、  
自分の声とは思えない嬌声を上げてしまった。  
 
 
「クッ……いやらしい身体だな。…もうこんなに濡れてるぜ、女王陛下?」  
 
 
今まで無言だった彼が喉の奥で笑いながら、  
吐息混じりに淫猥な言葉を囁いてくる。  
あまりの恥ずかしさに我に返った私は、  
口角を上げて意地悪く見下ろしている彼を睨んだ。  
 
「そんな目をするな。……押さえが利かなくなる。」  
 
…あの哀しい瞳は…  
今この時は熱く情欲に塗れ、私だけを見つめていた。  
 
ふいに前に回された指が身体の中へとねじ込まれ、  
突然の異物感に息が止まる。  
やがてゆっくりと内部を確かめる様に擦られ、  
中を突かれ、かき回され、徐々に本数を増やした指が  
別の生き物のように違う動きで壁を刺激してくる。  
 
床板に滴り落ちる程、私のその部分と彼の指が、手が愛液に塗れた頃、  
ずるりと指が引き抜かれた。  
急に訪れた切ない物足りなさに大きく息をつくと、  
先程よりも強く割れ目を擦り上げ、何度も何度も上下に動かされる。  
クチュクチュとしたいやらしい水音が大きくなっていき、  
余りの快感に私の口からはもう意味を成さない声しか発せない。  
暴かれた花芽をくるくると捏ねられた時、  
その強すぎる刺激によって、私の身体に異変が起きた。  
 
未知の感覚に脅え助けを求め、何度も何度も彼の名を呼んだ。  
だけど彼は物苦おしい様な、喜んでいる様な表情で私に告げる。  
…指の動きはそのままに。  
 
「イけよ。」…と。  
 
その瞬間、頭の中が真っ白に染まり…弾けた。  
そして意識は深く深く堕ちて行った。  
 
暫くは指一本動かす事もできず、息を荒げていた。  
隣に寝そべり、そんな私の頭を優しく撫で、  
ゆるゆると身体をなぞり愛撫する彼の手に指を絡ませる。  
 
彼が再び私の上に乗ってきた。  
両足を左右に大きく割り、そのまま肩へ抱え上げられた。  
 
肉棒の先端が私のソコにあてがわれ、数回上下する。  
その刺激に身体がピクリと跳ねた。  
 
彼の視線は私の瞳を捉えたまま放さない。  
その強い視線は覚悟を促している。  
 
「…力、抜いてろ。」  
 
遠慮の欠片も無い力で彼が突き刺さる。  
 
激痛。  
叫び声すら出ないほどの激痛。  
縋る物を求めて彼の腕にきつく指を食い込ませる。  
 
でも、それでも。  
確かに私の中に存在する彼の凶暴な熱が愛しかった。  
 
腰と腰がぶつかり合う音が響く。  
 
眩暈を起こす程に揺さぶられながら、必死で目を開けた。  
眉を寄せ、終わりを耐える彼の表情の何と美しいことか。  
 
強靭な筋肉を使って律動させていた腰の動きが  
一層激しく、早く、強くなり、そして。  
 
「……っ、アンジェリーク!」  
 
喉を仰け反らせ、しゃくり上げる様に何度も腰を痙攣させ、  
彼は果てた。  
私の中で。  
 
…私の名を呼びながら。  
 
 
 
簡単に身支度をすませた後、言葉を交わす事はなかった。  
私達はまるで何もなかったかの如く、  
今あるべき場所へと、  
戦いの日々へと戻っていった。  
 
 
そして  
月が爛々と輝いていたあの夜…。  
 
髪と瞳の色の違う彼が、冷笑を浮かべながら私達を見下ろし…そして。  
 
己こそがこの宇宙の侵略者、  
皇帝 レヴィアス・ラグナ・アルヴィースであると、告げた。  
 
 
怒り、悲しみ、落胆。  
信じられないと言う方。  
何かを感じていたのかそれほどの驚きを見せない方。  
感情を抑えている方。  
 
皇帝と名乗った彼が去った後、  
共に旅をし、時間を共有してきた仲間が敵であったという事実に  
皆様方には様々な感情が渦巻いていた様だ。  
 
私に悲しみは訪れなかった。  
…何かを予感していたのかもしれない。  
 
初めて彼と身体を繋げた、あの瞬間から。  
 
その後私達一行は東塔に幽閉されていた  
女王陛下とロザリア様を無事救出する事となる。  
 
あるいはわざと見張りの手を緩めたのかもしれない。  
 
彼は待っている。  
私を、待っているのだ。  
互いの行道を決するその瞬間を。  
 
その時は…近い。  
全身でそれを感じていた。  
 
 
その夜。  
 
静かにも感情は高ぶっていたのか、なかなか眠りは訪れてくれない。  
今は心にわだかまる、何かに縋りたくなる様な、  
逃げ出したくなる様な感情を封じて眠りたい。  
 
そしてようやくウトウトとし、ゆっくりと寝返りをうった時。  
それは訪れた。  
 
魔導の波動…。  
その波動の中心からゆっくりと人の形が立ち現れる。  
 
誰よりも愛しい男が。  
漆黒の髪とオッドアイのアリオスが。  
…皇帝が。  
 
微動だにせず寝台からただ静かに見つめ続ける私の元へ  
ゆっくりと、ゆっくりと近づいてくる。  
 
そしてブランケットが跳ね上げられたと思うのと同時に  
私の上に馬乗りになった彼は、今まで見たことも無い様な  
どこまでも暗く、冷たい瞳で私を見下ろしていた。  
蔑む様な笑みも湛えて。  
 
そのまますっと首に両手が添えられ…親指に力がかけられる。  
 
苦しさに眉が寄るのがわかるが…それでも私はただただ彼を見つめ続けた。  
その手を振り払わなかった。  
彼を拒絶したくなかった。  
 
ふいに両手が放され、私は咳き込む。  
それでも一言も発せずに涙目で見つめ続ける私に、  
彼の方が耐えられなくなった様だ。  
 
「…無様なものだな、新たなる宇宙の女王よ。」  
 
グイっと夜着の胸元を掴み上げられ、間近で罵倒された。  
 
「裏切り者の…我に抱かれた気分はどうだ?」  
 
彼の罵倒は様々に続く。  
 
「宇宙の女王ともあろうものが一介の剣士に逆上せ上がるなど笑止!」  
 
とても楽しそうに喉の奥で笑いを湛えている。  
そのままビリリと音を立て夜着の前が裂かれた。  
下着を身に着けていなかった私の胸が露になる。  
 
延々と続きそうなその罵倒の数々を微笑む事で制した。  
 
私は言った。  
我が母なる女王陛下の統べる宇宙、そして数々の荒業。  
それは何より許し難い事実。  
 
でも…私は貴方を愛した。…あなたの前でのみただの女になった。  
…それも事実。  
でもそれが、けっして罪だとは思わない、と。  
身も心も唯一人の人に捧げる事の悦びを、  
貴方に教えてもらったのだと。  
 
貴方が私達を、…私を裏切ったのは貴方の勝手だと。  
…貴方が受け入れ様が受け入れまいが、  
…貴方を愛し続けるのも……それもまた私の勝手だ、と。  
 
はっきりと言ってやった。  
 
罵倒をやめた彼。  
そこには最早皮肉めいた笑みも冷たい瞳も…存在しなかった。  
私の愛したアリオスが立っていた。  
 
少し俯いた彼の前髪が落ち、その瞳は見えない。  
 
「お前は…本当に馬鹿な女だな…。」  
 
私は微笑んで頷いた。  
そして俯く彼の両頬に手を添え…上向かせた。  
じっと見つめあい、無防備な貴方にそっと口付けた。  
 
そのまま彼の頭を胸に抱き、その背を何度も何度も摩った。  
 
そして私は思い出していた。  
…ほんの数刻前の、その出来事を。  
 
女王陛下がお休みになられる前、  
人払いを済ませた寝室へ私をお呼びになられた。  
華奢な肩にブランケットを羽織って起き上がっているその姿は、  
記憶の中の彼女とは別人だった。  
 
明るく溌剌とした、黄金の太陽を連想させる神々しいまでの彼女の輝き。  
でもその時の陛下は儚げで、例えるならそっと差し込まれる月の光を連想させた。  
 
皇帝の魔導は強力なもの。  
塔へ幽閉されサクリアを吸い上げられる苦痛に耐えてこられたのだ。  
早くお休みになって頂かなくては、と口を開こうとした時。  
 
彼女から別の感情が見えた、気がした。  
同情ではない。  
哀れみではない。  
 
ふいに女王の手が差し伸べられた。  
世界を紡ぐその細く白い指先が、  
私の頬をゆっくりと撫ぜた。  
ただ無言で。  
何度も、何度も。  
労わる様に。癒す様に。  
 
これは、慈愛だ。  
 
私は、貴女の様になれるだろうか…。  
愛する男を救いたい、でも救えない…  
本当はどうしたらいいのか解らず何も見えなくなっている私が。  
 
一瞬でもただの女でありたいと。  
全てを脱ぎ捨てただの女になってしまった私が。  
 
陛下はゆっくりと頷いた。  
 
…何もかも知っておられる…  
その上で全てを私に託されている…そう感じた。  
 
私は…。  
 
後悔はしたくない。  
自分自身である為に、人として、女として。…女王として。  
 
どうあるべきかではなく、どうありたいか、なのだ。  
 
その上で問われる責があるならどの様な断罪とて受けよう。  
 
私が彼に抱いた感情は一時のものなのではない。  
そんな生易しいものではない。  
 
私はもう…自分の心に嘘はつけない。  
 
あの時の陛下の暖かな指先の感触を思い出しては  
彼の背を摩り続けた。  
 
私には…恐らく彼も。私達の行く末が見えている。  
 
彼は己を許さないだろう。  
そういう人だ。  
その気高さごと私が愛した人だ。  
 
私が彼の罪を裁くこと。  
それを何よりも待ち望んでいるのは彼。  
 
ならば…  
 
私以外の存在が彼に触れるのは許さない。  
 
そして私は…私自身に断罪を下す。  
愛する男をこの手に掛ける罪を。その罰を。生涯背負っていこう。  
 
陛下に全てを託された。  
その瞬間私の心は決まった。  
最早嘘はつくまいと。甘い幻想の中へなど逃げまいと。  
 
彼は…この宇宙を手に入れたいともがいている彼は。  
何よりも滅びを望んでいるのだ。それしか今の彼には救いがないのだ。  
 
…気付くまいとしていたその想いに。  
認めたくないと逸らしていたその想いに。  
私は正面から立ち向かう決意をした。  
 
背を撫ぜる手をそのままに、  
どちらの名で呼ばれたいか、と問うた。  
彼はどちらでも構わないと、そう言った。  
でもその後にポツンと。  
…アリオスという男の存在はレヴィアスが見た夢の姿なのだと。  
そう言った。  
 
何者にも縛られず…  
どこまでも、どこへでも駆けていける、そんな自由な己の姿こそ、アリオスなのだと。  
 
 
私は彼の名を、アリオスの名を呼び…抱いて欲しいとせがみ、夜着を肩から滑らせた。  
 
 
前戯など必要なかった。  
 
 
互いに汗を飛び散らせながら、無言で腰を擦り合わせる行為に没頭する。  
これはもはや愛の交歓というよりも…  
悠久の昔から延々と続けられてきた人間の本能、獣の性を剥き出しにした行為。  
 
必死で彼の名を呼ぶ。  
彼も私の名を呼び続ける。  
 
今繋いでいるその存在を確かめる様に…。  
 
 
 
 
 
 
 
私は言った。  
宇宙を捨てても貴方を選ぶ、と。  
 
でもそれは嘘。  
貴方も気付いている。うっすらと笑みを浮かべている。  
全てを受け入れている、そんな表情で。  
 
何故なら私は…一度は宇宙を捨ててしまった女だから。  
雨の中。薄暗い小屋の中で初めて貴方に抱かれたあの時。  
貴方とのあのひと時を永遠のものにしてしまいたいと、心底願った。  
その想いの中には…私と貴方以外の何者も存在しなかったのだから。  
 
宇宙も、何もかも。  
 
でもね、アリオス。  
本当は、本当は。  
私も…連れて行って欲しかった。  
 
 
 
戦いは終わった。  
 
 
 
気付いていた?アリオス。  
その言葉は、私が口にした、初めての愛の言葉だったのよ。  
 
 
「…アンジェ…?」  
 
 
ゆっくりと瞳をあける。  
 
長く長く、苦しくもけっして忘れることの無い甘美な夢の記憶たち。  
 
「とても苦しそうだったから心配したんだよ?」  
 
今や私の半身とも呼べるレイチェルが  
以前の如くまた体調を崩しているのではないかと心配している。  
その言葉通り心配そうに顔を覗き込んでいだ。  
 
 
 
あの後。  
再び私は転生した彼と出会い、別れる事になる。  
そして…。  
 
「エンジュとヤツ。視察からさっき帰って来たみたいだよ。  
報告があるから謁見したいって申し出があったらしいから  
アンジェも早く支度しておいてよね?」  
 
私の唯一度の恋は…まだこの聖獣の宇宙で紡がれている。  
 

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