「……あなたは…何も解ってはおられない…。」  
 
「……え?」  
 
散策先の糺の森でボソリと呟かれた男の言葉が聞き取れずに振り向いた花梨は…  
 
既に唇を塞がれていた。  
 
突然の事で一瞬何が起きたのか、何が行われているのか、頭が真っ白になり理解できなかった。  
最初に理解できたのは、男の切れ長の眼を縁取る睫毛が以外にも長いこと…  
そして唇の熱さだった。  
 
 
頼忠は花梨に覆いかぶさり、柔らかい唇を己の唇で塞ぎながら、昨夜の出来事に思いを馳せていた。  
 
 
院御所、泉殿の一角 ―――  
 
 
「参ったか、頼忠。」  
「……は。」  
 
某かの文献を読み耽っている源氏の棟梁が、文机から眼をそらさず頼忠に問う。  
 
「…四条の客人、その後の動向はいかに?」  
「…。」  
 
現時点で院に害を及ぼすような振る舞いには出ていないこと。  
それは星の一族である四条の姫も同様であること。  
だがこれからも監視の必要性はある、ということ。  
それらを簡潔に伝えた。  
 
頭を垂れ、場を辞そうとした頼忠に対し、棟梁が一言放った。  
 
 
「…その娘に…仕掛けてみるのも手やもしれぬな。」  
 
 
ちらりと視線だけを流すと、房を訪れた時と変わらぬ風情で文机に向かう棟梁の姿があった。  
それを感じたのか、黙すると片手のひらを翻し、頼忠に退出を促した。  
 
「!!!!!」  
 
抵抗することすら忘れてされるがままになっていた花梨だが、  
事態を把握するやいなや激しく抵抗を見せた。  
 
だが両の腕を突っ張ってみても屈強な武士の身体はビクともせず、  
頭を打ち振ってみても、男の大きな手で押さえつけられている為に振りほどくことができない。  
 
―――なんで、どう、して…っ!?  
 
頼忠に何か失礼なことでもしてしまったのだろうか?  
頼忠を怒らせるようなことを言ってしまったのだろうか?  
 
考えを巡らせては見るが何も思い当たらず…。  
その間も男の舌は容赦なく口内を犯し続けていた。  
 
歯列の裏を擽る様に舐めたかと思えば、逃げ惑う舌を追いかけ、絡ませる。  
 
「…んっ、……っ!は、…ふ…」  
 
激しく舌の絡み合う厭らしい水音の中から、  
いつしか完全に力の抜けてしまった花梨の小さな声が漏れる。  
 
―――苦しい…。  
 
このキスは愛撫などではない…  
このまま息の根を止められてしまいそうな…  
 
もう意識を保っているのが精一杯で。  
あともう少しで気を失いそうだ、そんな予感が脳裏を掠めた頃ようやく接吻から解放されたのだった。  
 
だがもう立ってなどいられず、ヨロヨロと後ずさった先にあった大木に背を預けた。  
 
息を整え、反論反撃する間もなく、忍び寄るように近づいた頼忠の膝が花梨の膝を割り、  
先程の口付けの嵐によって知らず熱を帯び始めていた股間をぐいと押し上げて来る。  
 
「んあっ!…っ!」  
 
押し上げられた膝を擦り付けられ、スカートとショーツの上からグリグリと秘所へ刺激が送り込まれる。  
その間にも頼忠の片手は休まることなく花梨の体中を彷徨っている。  
 
もはや何も考えられず、されるがままになりつつある。  
あともう一押しされてしまえば己の意志に反して更にあられもない声をあげてしまう、  
そんな予感の風情の花梨を見遣ると頼忠はふ、と身体を離した。  
 
 
「……日暮れも近い。そろそろ四条までお送りいたしましょう。」  
 
 
眉一つ動かさずに自分を見下ろすその男を、呆然と見上げるしかない花梨だった。  
 
 
四条邸―――  
 
散策から帰った神子が傍目にわかるほど疲労困憊の様相であった為に、  
それを心配した星の姫が命じ、邸の者総出で早々に褥を設えさせ、今に至る。  
 
 
花梨は今日あった忌まわしい…でもどこか痛ましい出来事に思いを馳せる。  
 
――頼忠さん…何?いったい何だっていうの?  
――わたしが帝側の人間だと言われているせい?  
 
憤り、落胆、悲しみ…  
形容のしがたい感情が褥の中の花梨の脳裏を巡っていた。  
 
 
同時刻  
 
四条邸の庭で花梨の対の房室を凝視している男の、強い想いを秘めた双眼があった。  
 
――このまま去れ、と。  
――このまま去ってくれ、と。  
 
さもなくば…今宵己は…  
決定的な裁断を下さなければならなくなる、と。  
 
頭が冴え、なかなか眠りに就くことのできなかった花梨であったが  
流石にこの世界に来てからの様々な疲労が残っていたのか、  
今日あった出来事に反して眠りの兆しが訪れた。  
 
どこからか吹き込んだ風により大殿油がジっと音を立てて吹き消される――  
 
星さえも雲居に隠れた闇夜。神子の房室の更に奥。  
 
 
「―――。」  
 
足音もなく忍びよる男の手によってばさりと御簾が払われた。  
 
 
「…う……ん…?」  
 
何か、…何だろう???  
違和感が…ある。誰かが…い…る!?  
 
 
寝ぼけた思考でありながらそこまで思い至った時。  
 
「!」  
 
暗闇の中で自分に今まさに圧し掛かろうとしている男の存在を目に捉え、  
花梨は咄嗟に身を翻した。  
 
男はふいをつかれたのか花梨を捉えようとした手が宙を切る。  
もつれた足で男の脇をすり抜け、御簾を掻い潜り、幾重にも立てかけられた几帳を倒して  
あと、あともう少しで妻戸の入り口にさしかかろうとしたその時、  
 
花梨の足は地に根が生えた様に固まった。  
いつのまに自分より先に回ったのか、格子から差す月明かりを背に妻戸を塞ぐ頼忠の姿があった。  
 
逃げ出した褥に連れ戻される訳でもなく、  
花梨はその場で全裸にされ、板間に強く引き倒された。  
 
対して頼忠はと言えば、闇の中表情を伺い知ることはできないが  
着衣を乱すこともなく、片手で花梨の口を塞ぎ、片手で露にされた秘所をもて遊んでいる。  
ぬめりがないと見ると、呼び唾とばかりに自身の唾液を指に絡め、そこをぬちゃぬちゃと弄くっていた。  
 
「う…んっ!ん〜〜〜〜〜っ!!」  
 
両手足をバタつかせ、必死に抵抗を試みるが  
感情とは裏腹に、今指が到達し、つまみあげられている花芯がうずく。  
 
花梨は悔しかった。  
出会って日は浅い。言葉を交わしたことなど殆どないと言って等しい。  
だからこそこの男が知りたかった。…そして自分が判断したのは…  
 
この男は自身の欲望からこのような暴挙にでるなど絶対にないという事。  
 
なればその理由を…  
 
何かに思い至った花梨は一切の抵抗をやめ、瞳をゆっくりと閉じた。  
 
 
 

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