どうしてこうなるのかしら…  
ロザリアは森の湖の近くの静かな森の中でひとり佇んでいた。  
本当は湖の水音でも聞きながら落ちつこうと思ったのだが、思ったよりも人がいたので  
人々を避けるように森の中に入ったのだった。  
何より今だけはひとりの時間を過ごしたいと思った。ここなら誰もいない。  
 
ここでなら泣いても良いかしら?  
 
ロザリアは決して人前では涙を見せる事などしなかった。  
それは子供の頃から厳しい教育が関係しており、人前で涙を見せる事は恥じだと  
ずっと教えられていた。  
なので、ロザリアは泣きたい時は誰にも見られないようにひとりきりで泣いた。  
いくら何でも完璧にこなせるロザリアでも、否、そんなロザリアだからこそ涙を流したい  
事が多々あった。  
 
さかのぼる事1時間前。  
この日は土の曜日で大陸の育成を見てきた帰りだった。  
思っていた以上にアンジェリークが追い上げてきているのを目の当たりにして、正直  
ロザリアはやっとライバルらしくなったと言う喜びと同時に、急成長を遂げたアンジェリークの  
大陸を見て焦りを感じた。今日は部屋に戻ったら今後の育成計画を練り直そうとロザリアは  
庭園を通り抜けているその時だった。  
 
「ロザリア〜」  
不意に声をかけられ、ロザリアは声の方へ振り向くとそこにはアンジェリークが笑顔で立っていた。  
その数歩後ろにはある守護聖がひとり。  
ロザリアは絶句した。この子は何をやっているのか?そう言えば今日はパスハの所では彼女は  
見かけなかった。大陸の様子も見ずにここで何をやっているのか。  
しかもあの方と一緒に…。  
「ロザリア?」  
無邪気なアンジェリークの笑顔にカッと頭に血が上った。  
「アンジェリーク、あんた随分余裕のようね?そうよね、あんたはワタクシと違ってそうやって  
守護聖様達に取り入っていれば勝手に大陸は成長するんですものね。恐れ入ったわ。ワタクシ  
新しい育成方法を学ばせて頂いたわ!ワタクシは絶対に真似できないけれど!」  
思わず感情のままそう口走ってしまった。  
アンジェリークとその傍らの守護聖の悲しげに歪む表情を見てロザリアは我にかえったが、きゅっと  
唇を噛締めるとその場を足早に立ち去っていた。  
 
ワタクシって最低だわ…。  
ロザリアは静かな森の中、その場に力なく膝をついた。  
どうしてあんな事言ってしまったんだろう。あの方のはきっと嫌な女だと思ったに違いない。  
アンジェリークもきっとワタクシの事そう思っているでしょうね。  
本当はあんな事口走るつもりは無かった。よく頑張っているわねとどうして言えなかったのか。  
本当はあの方やアンジェリークの様に優しくなりたい。なのに…  
ロザリアは己が情けなくて、悔しくて、悲しくて、涙を零した。  
こんな事くらいで泣けてくるなんて…とロザリアは思ったが、一度箍が外れると後から溢れ出す涙を  
止める事は出来なかった。  
こうなったら泣くだけ泣いてしまおう。そして明日はアンジェリークに謝ろう。素直に言えるか自信は  
無いけれど。  
零れる涙も拭わずにロザリアは静かに泣き続けた。  
と、小さく震えるロザリアの肩が暖かい感触に包まれた。  
ロザリアは驚いて、俯いていた顔を上げてみるとリュミエールがロザリアを見下ろしていた。  
「ロザリア…。」  
リュミエールはその後に言葉を続けようとしたが、ロザリアはそれを遮るように再び俯いて言った。  
「リュ…リュミエール様、どうしてここに?アンジェリークはもうよろしいんですの?」  
こんな情け無い自分を見られたくなくて、ロザリアは立ち上がってその場を駆け出そうとした。  
「ロザリア、待ってください!」  
 
リュミエールはロザリアの腕を掴んで引きとめた。  
しかしロザリアはリュミエールの方を見ようともせず背を向けたままだった。  
「ロザリア、泣いているのですか?」  
「…泣いてなどいません。その手を離して頂けますか?」  
ロザリアは声の震えを抑えるように言った。  
「ロザリア、こちらを向いてください。」  
ロザリアを掴む手にぎゅっと力が入った。  
「いっ…痛い…。」  
「あ、申し訳ありません。」  
リュミエールはハッとしてロザリアの腕を解放した。ロザリアはまた駆け出すのではないかと  
思ったが、そのままリュミエールに背を向けて立っていた。  
「ワタクシにお説教をしに来たのですか?ならお詫びいたします。先程は無礼な事を口走って  
しまい申し訳ありませんでした…。もうよろしいでしょう?」  
最悪だ。と、ロザリアは思った。  
どうしてまたこんな言い方しか出来ないのだろう?きっと今振り向いたならリュミエール様は悲しそう  
な瞳をしているに違いない。お優しい方はワタクシを責める事などしない。  
それが余計に辛かった。早くひとりになりたかった。  
「いいえ、ロザリア。」  
リュミエールはロザリアを背中からそっと抱きしめて、腕の中のロザリアを自分の方へ向かせた。  
 
リュミエールの腕の中でロザリアは身動きをとる事が出来なかった。  
普段物腰も柔らかく華奢なイメージのあるリュミエールだが、その力は女であるロザリアを封じ込め  
めるのは容易い事であった。  
ふたりの身体は抱き合う形で密着しており、互いの顔を見る事は出来なかったがロザリアの背中に  
回ったリュミエールの手が優しく背中をさすり、その優しい感触に一度は止まったロザリアの涙が再  
び零れ落ちた。  
「何故、何故そんなにワタクシに優しく触れてくれるのですか?同情ですか?アンジェリークのように  
優しく出来ない、嫌な事ばかり言うワタクシを可哀相な娘だと思っているのですか?ワタクシ…ワタク  
シはあなたのその優しさが辛いのです。」  
「ああ、ロザリア違います。」  
リュミエールはロザリアの両肩を掴んでそっと身体を離した。  
ロザリアの顔は予想通り涙に濡れていた。大きな瞳を潤ませて頬を紅潮させ、その形の良い唇は  
小さく震えていた。  
ロザリアはいつもこんな風にひとりで泣いていたのだろうか、素直になれない自分を責めて誰にすが  
るでも無く、ひとりで涙を流していたのだろうか?  
リュミエールはそう思った途端、愛しさと胸の小さな痛みが溢れ出した。  
ロザリアの頬をそっと両手で挟むと親指で涙の跡を拭って、柔らかな唇に触れた。  
その途端、リュミエールの身体に甘美な痺れが走り、何かを思う前にロザリアの唇に吸い寄せられる  
様に己の唇を重ねた。  
 
 
つづく  
 

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