ワタシ、見ちゃったんです。大切なトモダチと、秘かに憧れていた年上のヒトとの、禁断  
の秘め事を……。  
ワタシの名前はレイチェル。現在、新宇宙の女王候補に選ばれて、試験を受けている女子  
高生です。アンジェリークは、ワタシと同じく女王候補に選ばれた、いわばワタシのライ  
バル。初対面の時のおどおどした印象もあって、最初は「なんでこんなコが女王候補に選  
ばれたワケ?」なんて思ったりもしていましたが、試験が進むうちに、彼女の内面の優し  
さや力強さに触れ、いつしかワタシたちは、何でも話し合える親友どうしになっていまし  
た。  
変わったのは、ワタシとアンジェの関係だけではありませんでした。今回の女王試験に  
は、守護聖サマや教官の方々などの、ステキな男性が協力してくださっているのですが、  
その中のひとり――王立研究院の主任研究員、エルンストに、ワタシは生まれて初めての  
「恋」をしてしまったのです。  
もともとワタシとエルンストは研究仲間でしたが、専門が違うこともあり、彼のウワサを  
耳にすることはあっても、実際に顔を会わせることはほとんどありませんでした。  
しかし、試験の間、親身になって話を聞いてくれたり、適格なアドバイスをしてくれた彼  
は、ウワサでの冷徹なイメージとは違って、不器用で優しい青年でした。そんな彼にワタ  
シが恋をするまでには、そう長くはかからなかったのです。  
 
見た目は「軽そう」と言われるコトの多いワタシですが、実際は研究や勉強にあけくれて  
いたため、人を好きになったことすらありませんでした。迷ったあげくワタシは、一番の  
親友であるアンジェに相談してみることにしました。  
「うわあ、そうなんだあ! レイチェル、おめでとう!」  
「おめでとう……って、アナタ、両思いなワケじゃないんだよ?」  
「いいじゃない、レイチェル! 人を好きになるって、とっても素敵なことだもの!   
私、応援するからね!」  
そう言ってにこにこと笑う彼女に、ワタシは少し呆れつつも、気持ちが楽になっていくの  
を感じました。  
それから彼女は、自分も緑の守護聖オスカー様に片思い中であることを、はにかみながら  
教えてくれました。でも実を言うと、ワタシはそのことにはうすうす気が付いていたので  
す。毎週日の曜日に、公園の露店で一時間もかけて選んだプレゼントを、嬉しそうにオス  
カー様のところに持っていく姿は、端で見ていても微笑ましい光景でしたから。  
でも、新しい宇宙の創生の女王に選ばれてしまえば、守護聖様はもちろん、普通のヒトと  
の恋愛だって許されなくなります。だからワタシは、この恋は女王試験期間中だけの淡い  
思い出として、胸の中にひっそりとしまっておくつもりでした。――あの、運命の土の曜  
日までは。  
 
その夜は、少し曇ってはいたものの、星がとてもキレイに見えていました。だからワタシ  
は、こっそり寮を抜け出して、公園の東屋まで天体観測に行くことにしたんです。  
携帯用の小型望遠鏡を持って東屋に近付いていくと、そこにはふたつの人影が見えます。  
こんな夜にどうしたんだろう、と覗きこんで、ワタシは思わず顔を赤らめました。  
そこにいたのは、今まさにお楽しみの最中といった感じの、一組の男女でした。向き合う  
形で抱き合っているうえ、月が雲に隠れているのもあって、顔まではわかりませんが、互  
いの手足を絡ませている様子は、ここからでもはっきり見て取れます。  
(あちゃー、…まずいトキに来ちゃったなあ…)  
とりあえず近くの茂みに身を隠しながら、ワタシは溜め息をつきました。幸いまだこちら  
には気付いていないようですが、立ち上がったり音を出したりすれば、この距離ではすぐ  
に彼らに気付かれてしまいます。  
帰るに帰れず悶々としているワタシの気持ちをまるで無視して、彼らはますます行為に没  
頭している様子でした。なるべく目を反らして見ないようにしていたのですが、見ちゃい  
けない、見ちゃいけないと思うほど、意識はそっちのほうに向かってしまいます。  
「……ぁ、ん……、んんっ」  
快感に耐えきれなくなったかのように、女のほうがか細い喘ぎ声を漏らしはじめました。  
それに元気づけられるように、男の手の動きもまた、いちだんと妖しさを増していきま  
す。  
 
「ぁ、あん……はぁん……、ぅくぅ……」  
まるで泣いているかのようなその声を聞いているうちに、ワタシは、なんだか熱いような  
むず痒いような、不思議な感覚に襲われはじめました。  
自分の秘密の部分が濡れはじめ、何かを求めているのがわかります。その感覚に導かれる  
まま、ワタシは自然とその部分に指先を移していました。  
「……ん、……やぁぁ……、……さぁんっ」  
「っく……、……はぁ……っ」  
周囲に誰もいないと信じきっているのでしょう、ふたりの声はますます大きさを増してい  
きます。それに釣られるようにワタシは秘密の部分に指を潜り込ませ、くちゅくちゅとい  
やらしい音を立てて動かしていきました。  
「ぁ、……はっ」  
こういう「ヒトリアソビ」を、したことがないとは言いません。ただ、初めて他人の行為  
を覗き見てしまった罪悪感、それにこんな時間にこんな場所でしているという羞恥心か  
ら、その行為は普段とは比べ物にならないくらいの快楽を引き出してくれているように感  
じました。  
「んっ……、……はぁ、ん……」  
堪えきれずに声が漏れてしまった瞬間、ワタシはハッと我に返りました。  
(な、なにやってんのワタシ! 知らないヒトのSEXで発情するなんて……!)  
恥ずかしさと焦りで頭がパニックになり、何も考えず立ち上がろうとしたそのときです。  
 
いままで月を隠していた雲が流れ、辺りがさあっと明るくなりました。同時に、睦みあう  
ふたりの顔が、ここからでもはっきりと見えるようになったのです。  
(……え……っ?)  
一瞬、自分の目が信じられませんでした。  
そこで愛を交わしあっていたのは、ワタシの親友であるアンジェリークと、ワタシの初恋  
の人……エルンストだったのです。  
(う、嘘……!な、なんで!?どうしてアンジェとエルンストが……!?)  
あまりの展開に、ワタシは逃げることも忘れて呆然とふたりを見つめていました。そんな  
ワタシに、もちろん気付くはずもなく、ふたりは我を忘れたように激しくからみ合いつづ  
けます。  
「や、ぁぁんっ、エルンストさぁん……きもち、いいよぅ……」  
「はっ、ぁあっ、……アンジェ……っ、……っ」  
うっとりと陶酔したような表情で、エルンストに体を預けるアンジェと、そんなアンジェ  
を強く抱きしめ、激しい抽送をくり返すエルンスト。……それはどこからどう見ても、仲  
睦まじい恋人の姿でした。  
「あぁんっ、いいっ、大きいっ」  
繋がった部分から、ここまで漏れ聞こえてくるぐちゅぐちゅという音に、ワタシは生々し  
い嫌悪を覚えました――自分がさっきそれに欲情していたことも忘れて。  
手足を絡ませ、くちづけを交わす彼らを、どれくらい見つめつづけた頃でしょうか。濡れ  
た音が激しさを増し、彼らの動きもより大きくなったので、ああ、そろそろ終わりなんだ  
ろうな、と、やけに冷静にワタシは思いました。  
 
「あぁっ、あっ、あっ、イクっ……ああぁぁっ!!」  
「くっ、ぁあっ……アンジェっ……!」  
ひときわ高い声を上げて、影が重なり合い――動きが止まって、やがてふたりはからみ  
合った肢体をほどきました。大きい影が小さい影を抱き上げて、茂みに隠れたワタシに気  
付くこともなく帰っていきます。そして、ふたりの姿が完全に見えなくなった頃、ワタシ  
は初めて、自分が涙を流していることに気付いたのです。  
 
その後もワタシは、あの夜のことをふたりに告げることはありませんでした。ワタシの中  
にあった何か暖かいものは、あの夜完全に冷たい激情の炎に変わってしまったんだと思い  
ます。  
アンジェを憎む気持ちは、不思議とあまり起こりませんでした。もちろん、エルンストを  
憎む気持ちも。――アンジェが言った、ワタシを応援するという言葉、それからオスカー  
様が好きだという言葉は、たぶん嘘ではなかったのでしょう。それがどうして、あの日あ  
あいうことになっていたのかは、今のワタシには知る由もありませんが。ただ、絶対女王  
になってやるという決意は、前とは比べ物にならないほど強くなりました。  
だからワタシは、今この豪華な扉のまえに立っています。お気に入りの下着と、冷たい決  
意を胸に、ワタシは執務室の扉をノックして、部屋の中へと足を踏み入れました。  
「失礼します、オスカー様。……ちょっとお話があるんですが……今夜、東屋まで来ても  
らえませんか?」  
 
 
おわり  
 

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