とうとう…か…
執務室にあるカレンダーに目をやりながら、クラヴィスはつぶやいた。
‐三月‐
あの夢のような日から半月がすぎた。
想いを寄せていたあの少女が身をもって素晴らしいプレゼントをしてくれたあの日。
しかし、自らのプライドから、ソレを最後まで受け取ることができなかった。
あと半月で、自分に素直になれる日がくる…
しかし…
クラヴィスは大きなため息を一つついた。
「クラヴィス様、どうなさいました?」
側で優しいメロディを奏でていた水の守護聖が穏やかな笑みを浮かべる。
「なんでもない…。続けてくれ」
「かしこまりました」
再び部屋に優しいハープの調べが響き始めた。
14日は、先月の14日に愛を受け取った男性がソレに対する答えを渡す日である。
もちろん、答えは決まっている。愛には愛で答える。
クラヴィスは彼女の愛に対し「次は自分から誘う」とその日は答えた。
そしてその“次”にふさわしい日が近づいている。
クラヴィスもそのつもりで人知れず楽しみにしていた。
しかし14日が近づくにつれ、ある矛盾に気が付いてしまったのだ。
どうしたものか…
クラヴィスはまた大きなため息を一つついた。
彼女は多分、初めてであろう。
だからこそ女性の一番大事な初めてを私に捧げてくれようとしたのだろう。
だから私は、W.D.にその愛に答えようと思い、最後まではしなかった。
しかし考えてみれば、W.D.とは男性から女性に愛を捧げる日である。
その日に一つになるということは、またもや彼女から愛を受け取ることになり、
私からは何も捧げていないことになるのではないか?
すると先月、自分を抑えたのは全く意味がなくなるのではないか?
クラヴィスは頭を抱え机に突っ伏した。
「クラヴィス様、具合でも?」水の守護聖が心配気に見つめる。
「すまぬ、リュミエール…。…しばらく一人にしてくれないか?」
「クラヴィス様…」
リュミエールは物憂げな表情を浮かべ、静かに部屋から出ていった。
クラヴィスは立ち上がり、カレンダーの近くまで気だるそうに歩く。
そして、14の数字に指を這わせながら、再度ため息を吐いた。
「どうしたらよいのだ…」
刻々と迫り来る時間に少しの戸惑いと恐怖を感じながら、
闇の守護聖は静かにたたずんでいた。
To Be Continued...