―もう、夜になったんだ。  
鈍く痛む頭を持ち上げ、マルセルは窓の向こう、暗い夜空に目を向けた。  
泣き腫らした瞼は熱を持って、視界をひどくぼやけさせる。  
昨日から水をやり忘れてしおれかけた鉢植えの花が、その可憐なひとひらの花弁を落としていた。  
 
『女王様になんかならないで、ぼくだけの君でいて』  
精一杯の想いを込めてそう訴えたマルセルの告白に、アンジェリークは静かに首を横に振った。  
涙をはらはらとこぼしながら、小さな声でそれでもはっきりと、  
『私は、女王にならないといけないから』  
そう告げて。  
 
昨日の、すでに遠い時間のような出来事が再びマルセルの目に涙を浮かべさせる。  
 
女王様にならなきゃいけないから、なの?  
ぼくが嫌いだから、じゃなくて。  
 
彼女が自分を想っていないから答えられないというのなら、悲しいが諦めもつく。  
だが、女王になるために彼女は恋を捨てるという。  
そしてそれは『なりたい』からではなく『ならなければならない』からだと、彼女は言った。  
 
「全然わかんないよ……」  
いつだって素直に己の感情を出し、それにそぐわない事は否としてきたマルセルには、  
アンジェリークが自分の気持ちを殺してまで女王になろうとしている理由がわからなかった。  
 
こつこつ、と控えめなノックの音が、静かな部屋に響いた。  
―誰だろう?  
ランディやゼフェルが心配して様子を見に来たのかもしれない、そう思いマルセルは涙に濡れた目元をぐいと拭った。  
だが、そっとドアを開けて入って来たのは。  
つい昨日彼を振ったアンジェリークその人だった。  
 
「アンジェ……」  
驚くとともに、暗い気持ちが胸に広がる。昨日の今日で、何事もなく振舞えるわけもない。  
アンジェリークは後ろ手でドアを閉め、ゆっくりと部屋の中へと進んできた。  
俯く彼女の表情を、栗色の髪が隠す。  
アンジェリークが何をしたいのか掴めず、言うべき言葉も見つからず、マルセルはただ黙って彼女の次の動向を待った。  
 
月が、凛とした鋭い光を投げて寄越す。  
その明かりだけが映し出す室内で、アンジェリークはしばらく身じろぎもせず、口をつぐみ突っ立っていた。  
やがて、彼女はゆっくりと面を上げる。  
「マルセル様……」  
彼の名を呼ぶ声は、涙に濡れていた。  
 
「どうしたの?アンジェ、どうして泣いてるの?」  
つい先ほどまで自分も散々泣いていたのが丸わかりな顔のマルセルが、慌てて尋ねる。  
想いを受け入れられなかったからといって、まだ好きな彼女が泣いているのを見て心配しないでいられるわけがない。  
マルセルはアンジェリークの肩に手を置き、彼女の顔を覗き込んだ。  
優しいすみれ色の瞳と、穏やかな海の色を湛えた瞳とが互いをみとめ合う。  
青の瞳が揺らめいたかと思うと、それは限りなく近づきマルセルの視界いっぱいに広がった。  
 
唇が捕らえられるのは、一瞬だった。  
身長差の殆どない二人の唇を見詰め合った状態から重ねるのはあまりに容易であり、  
マルセルの唇はアンジェリークのそれによっていとも簡単に塞がれた。  
アンジェリークの腕がマルセルの首に回され、力を込めて彼の肩を抱きしめる。  
何が起こったのかようやく理解したマルセルは、何とか彼女を離そうとするが、  
柔らかな唇と押し付けられる身体の心地よさに抗えない。  
どちらも唇を硬く結びただ合わせるだけの口付けだが、初めてのそれはとても甘い。  
 
不器用なキスが終わり、アンジェリークの唇がマルセルの唇から離れる。  
「……っはぁっ……」  
マルセルは詰めていた息を大きく吐き出すと、目の前の少女を驚きを持って見つめる。  
確かに、彼女は自分の想いを拒んだはずだ。  
それなのに、どうしてこんな事をするというのか、皆目見当もつかず混乱するばかりだ。  
熱に浮かされたようにぼぉっとする頭で必死に考えようとするが、彼の思考は彼女によって遮られた。  
アンジェリークの手が、マルセルのショートパンツの前へと当てられたのだ。  
 
「!!」  
まだ成長途中、幼さを存分に感じさせる容姿とはいえ、マルセルは間違うことなく男であり、  
彼女の手が覆う布の下、そこはキスの快感によって熱く高まり、屹立する場を求めていた。  
手の中で硬さを増してゆくそこを、アンジェリークは頬を赤らめつつもゆっくりと刺激し始める。  
おずおずと緩やかに滑る手のひらが、マルセルに初めての快楽を与える。  
「!…っアンジェ……」  
痺れとも疼きともつかぬ、確かな快感がマルセルを襲う。  
だが彼は、渾身の力でアンジェリークの肩を掴み、いささか乱暴に引き離した。  
拍子、彼の身体はテーブルにぶつかり、鉢植えから花弁がハラハラと舞った。  
 
「ひどいよアンジェ、何で、何でこんなことするの…?」  
ぼろぼろと大粒の涙をこぼし、マルセルはアンジェリークをなじる。  
身体は快楽を得ようとも、経験も知識も殆どないマルセルには、未だそれは未知であり少しの恐れと罪悪感を感じさせるものである。  
さらに、何も告げずにそれを煽ろうとするアンジェリークに、彼は少年らしい潔癖さで嫌悪すら覚えていた。  
マルセルに突き飛ばされた彼女は、やはり涙を溢れさせながら、ずるずると壁を滑り落ち、ぺたんと床に座り込んでしまった。  
 
「私だって、わからないんです……」  
小さくしゃくり上げつつ、彼女は呟いた。  
月明かりしか頼るもののない部屋の中、彼女の顔は暗がりに隠されている。  
だがその悲痛に響く声は、雄弁に彼女の苦しみを届け、マルセルの言葉を封じた。  
 
強張った体をどうにか動かし、マルセルはアンジェリークの前にしゃがむ。  
つい先ほど感じた嫌悪は綺麗に消え去り、目の前の彼女を切なくも愛しく思う思慕だけがマルセルを支配していた。  
「……アンジェリーク、僕のこと、好き?」  
嫌いならキスなどしないだろうと至極シンプルな発想で、マルセルはそう尋ねる。  
彼の問いに顔を上げたアンジェリークは、しばらく躊躇ったのちに、こくんと小さく肯いた。  
 
「でも、私、女王にならなきゃいけないんです、だから、だめなんです」  
嗚咽を交えながらそう繰り返す彼女。  
「……ならなくちゃ、駄目、なの?」  
軽い苛立ちと、深い悲しみが胸を刺す。  
女王という使命がどれほど大切なものか、マルセルは理解しているつもりでいた。  
それでも、彼女と共にありたいと願う気持ちはどうにも抑えられるものではなく、  
すでに一緒にあることを諦めてしまった彼女をともすれば責めてしまいそうになる。  
この恋には、使命を超えるほどの力はないんだろうか?  
「ごめんなさい、マルセル様……」  
止め処なく溢れる涙を抑えることもなく、アンジェリークは同じ言葉を何度も口にする。  
「マルセル様が、好き、です、本当に、好きです……」  
「僕だって、君のこと好きだよ……大好きだよ、アンジェリーク。だからずっと一緒にいたいんだ」  
マルセルがそう答えても、アンジェリークは泣きながら  
「ごめんなさい」「女王にならなくちゃいけないんです」  
そう繰り返すばかりだった。  
 
いつしか、二人手を重ねて。  
向かい合い額を寄せ、少年と少女は、玉の涙をほろほろとこぼす。  
三日月と星のささやかな光の中、二人はひたすら泣いた。  
 
どのくらいか、時間が流れて。夜空はその色を一層濃くする。  
さすがに涙もほぼ止まり、時折どちらかのしゃくり上げる声が聞こえるくらいだ。  
「……マルセル様、お願いがあるんです」  
アンジェリークの涙で上ずった声に、マルセルは面を上げた。  
 
ふわり。  
柔らかな身体が、腕の中へ飛び込んできた。  
甘い香りが、マルセルの鼻腔を微かにくすぐる。  
抱きとめた彼女の肢体は思っていた以上に華奢で、頼りない。  
この小さく震える肩に、宇宙の女王という重責を背負おうとしているのかと、マルセルは驚きを隠せない。  
――女の子、なんだ。  
今さらながらそれを直に感じ、甘えた我侭放題の自分を省みて恥ずかしくなる。  
少し年上の少女を抱きしめる腕に力を込める。  
柔らかい彼女の身体は、彼のかたちに沿うようにそのラインを変えた。  
 
マルセルの胸に埋めたアンジェリークの口元から、微かな声が届く。  
「……ずっと、一緒にはいられないから……だから、今夜だけ、一緒にいさせてください」  
 
そう言うとアンジェリークは顔を上げ、再びマルセルの唇に自分の唇を重ねた。  
今度はマルセルも、自然にそれを受け入れる。  
ふわふわとした感触を味わうように、何度も唇を重ね合わせる。  
舌を絡めることなど思いもつかず寄せるだけのキスは、それでも二人の頬を、身体を熱くさせた。  
 
向かい合い、互いの服を剥がしていく。  
男にしては華奢なつくりで、女の子と間違えられがちなマルセル。  
そのマルセルとそう身長差も体格差もないように思えるアンジェリーク。  
それでもやはり、マルセルは「男」で、アンジェリークは「女」なのだと。  
自身を包む布が一枚一枚と取り払われ、素肌が晒されていくうちに、それを強く意識することとなった。  
 
なだらかなカーブの、肩のライン。当然肩幅だって随分狭くて。  
胸の丸み。柔らかく重そうな、張りのある乳房。  
ウエストのくびれや、臀部の曲線も自分にはないもので。  
薄い脂肪が包むしなやかでふわりと柔らかい肉体は、紛れもなく女のそれであり。  
筋肉も薄く、骨だってそう太くない、全体的に男らしくない自分の身体も、  
彼女の体に比べたらゴツゴツして直線的に思える。  
 
下着も全て取り去り、生まれたままの姿を互いに晒す。  
月光に白く浮かび上がる、愛しい人の裸体は艶やかで、劣情を覚えるというよりはむしろ神聖なものと思えた。  
「アンジェ、すごく綺麗だね……」  
感じたままを素直に口にするマルセルに、彼女は顔をますます赤らめ、俯く。  
「は、恥ずかしいからあまり見ないでください……」  
「だって見たいんだもん。ちゃんと見せて」  
マルセルはアンジェリークの頬にかかる栗色の髪をすくい上げ、目元にキスをする。  
その唇はするするとアンジェリークの肌を滑り、柔らかな感触を落としてゆく。  
 
初めて本当に恋をした、その彼女の裸体を目の前にして。  
どうしていいのかなんて、頭では全然わからないのに。  
それでも彼の中に眠る本能が、アンジェリークを好きだという想いが、マルセルを衝き動かしてゆく。  
マルセルの唇や手、指がアンジェリークの身体を奔放に弄り始めた。  
 
「は、ぁあ……」  
マルセルが触れるごとに、アンジェリークの肌は内側から熱を帯び、紅く色づく。  
桃色の唇から漏れる切ない吐息が、マルセルの鼓動を速める。  
吸い付くようにしっとりとして、柔らかい彼女の肢体をマルセルは夢中で貪る。  
彼の手の動きに合わせその形を変える双の柔肉を一心不乱で揉みしだく。  
「いた……」  
びく、と彼女の体が強張り、否定の声が漏れる。  
「ご、ごめんアンジェ、痛かった?ごめんね」  
夢中になるあまり、力の加減がわからなくなる。マルセルは慌てて詫びた。  
「大丈夫です……でも、もう少し、優しくしてくださいますか……?」  
顔を真っ赤に染めてそういう彼女に、マルセルもまた真っ赤になって、こくりと頷いた。  
 
今度はそっと、彼女の乳房を包む。  
温かく滑らかな肌、ふっくらとした肉、その下で激しく鳴る心臓の鼓動が彼の手に伝わる。  
大きく円を描くように手を動かすと、再び彼女の口から喘ぎ声が零れた。  
しだいに、手で覆われた先端が硬くしこり、存在を自己主張し始める。  
マルセルは恐る恐る、尖った薄紅色の突起を口に含んだ。  
「あぁっ……」  
アンジェリークがひときわ高い声を上げる。  
――気持ち、いいんだ……  
自分が与える快楽を彼女が感じていることに、一種の達成感に似た感情を覚え、マルセルは嬉しくなった。  
咥えた蕾を慈しむように愛撫する。舌で転がし、強弱をつけて吸う。  
そのたびにアンジェリークの唇からは甘い嬌声が生まれた。  
 
アンジェリークがマルセルの手を取り、導く。  
「ここに、触ってください……」  
彼女が彼の手を誘ったその場所は、溢れんばかりの蜜を湛えた、茨の奥の泉。  
女性の秘所を始めて目の当たりにして、マルセルは驚くばかりだ。  
アンジェリークは羞恥をこらえ、ゆっくりと彼に向けて脚を開き、そこを彼の視線に晒す。  
「すごい……濡れてる……」  
「……気持ちいいと、濡れるんですよ?」  
興奮を必死に抑え、マルセルはその泉へとそっと指を付けた。  
 
「んあっ……」  
身を震わせ、喉を仰け反らせてアンジェリークは快感にわななく。  
ぬるぬると絡みつく蜜が、マルセルの指を濡らしていく。  
彼は溢れくる蜜を掬い取るように、秘裂を緩やかに撫で上げた。  
花びらをめくり上げ、口を開いたそこはマルセルの愛撫に過敏に反応する。  
「はっ…あ、んぅ……ふ、ぅうん……」  
滴るほどに蜜を垂らし、ひくひくと震え徐々に開いてきた彼女の花に、彼は釘付けになった。  
 
「マルセル、様、ここも……」  
アンジェリークは目元を朱に染め、熱を持って充血した小さな膨らみを指し示す。  
柔らかなひだに覆われ、ちょこんと顔を覗かせたそれは、幾重もの花びらに守られた雌しべを思い起こさせた。  
秘所が花に似ているとマルセルが告げるとアンジェリークは、やっと寛いだように笑った。  
その笑顔を、随分と久しぶりに見た気が、した。  
 
触れたら、弾けてしまいそうで。  
細心の注意を払い、そぅっと、そぅっと、張り詰めたそれに触れる。  
ひときわ甲高い声を上げ、身をくねらせてアンジェリークが強く甘い刺激を訴える。  
「アンジェ、気持ちいい?」  
マルセルの問いにも、彼女は喘ぎ声で答えるばかりだ。  
 
トロトロと、際限なく蜜が溢れかえる。  
アンジェリークの秘部は今や大きく口を広げ、誘うように妖しく蠢いている。  
マルセルが入り口に指を添えると、まるでそれは飲み込むように彼の指を中へと導きいれた。  
「ひぁあ…っ……」  
またもアンジェリークの顔が快楽に歪む。  
初めて触れた女性の内部は熱く、絡みつくぬめった襞が彼の指を溶かしてしまいそうだ。  
―――ここに、僕が入るんだ。  
それは一体どのような心地なのだろう、痛くはないのだろうか、様々な疑問がマルセルの脳裏をよぎる。  
 
そんなマルセルの様子に気づいたのか、アンジェリークは起き上がると、今度は彼に横たわるよう促した。  
言われるままにベッドも横たわる。天を仰ぎそびえる彼自身が目に入り、少し恥ずかしい。  
アンジェリークはマルセルに跨ると、そっと上体を倒した。  
「……っあっ……!」  
自身に走った快楽に、マルセルの身体は大きく震えた。  
アンジェリークがその可憐な唇で、彼の昂りを咥えたのだ。  
ざらついた舌が、彼を舐め上げる。温かな口内の感触が、彼を刺激する。  
痺れるような熱が、急速にその一点を目指し高まっていく。  
 
たっぷりと舐られ、ようやく彼女の口が離れたころには、それははちきれんばかりに大きく怒張していた。  
彼女の唾液が流れ落ち、てらてらと光っている。  
「マルセル様、動かないで……」  
そう言うとアンジェリークは彼自身に手を添え、ゆっくりと腰を沈め彼女の内部へと彼を受け入れた。  
 
狭い膣内を押し広げ、マルセルはアンジェリークへと進む。  
トロトロに蕩けきったそこは彼を滑らかに導く。  
口内よりもずっと熱くぬめった彼女の襞は這うように彼に纏わりつき離れない。  
初めて味わう極上の快感に、マルセルは抗うことも出来ずその身を震わせるばかりだった。  
 
ようやく刺激に慣れ、瞑っていた目を開く。  
上に乗る彼女を見上げる。何から何までリードされてしまい、少し気恥ずかしいような気もする。  
マルセルの上でアンジェリークは、泣いていた。  
 
「アンジェ、泣かないで……」  
彼女の涙に、マルセルは現実に引き戻された。繋がったまま上体を起こし、彼女と向かい合う。  
「アンジェ、痛い?苦しいの?」  
的外れだとはわかっていても、そう聞くことしかできない。  
アンジェリークはふるふると首を横に振ると、涙に濡れた声で答えた。  
「……嬉しくて、悲しい、です……」  
「……僕も、僕も同じだよ、アンジェリーク……」  
互いには、今しかない。この手を取って、未来へと進むことはできない。  
この逢瀬は、きっと最初で最後。どんなに心地よくても、幸せでも、先へ続くと甘い幻想を抱くことなど出来ない。  
「アンジェリーク、好き、大好きだよ……」  
それでも今を。精一杯の想いで、彼女を愛そうと。  
せめて今夜が、幸せな記憶として互いの胸に永遠と残るように。  
唇を寄せ、ゆっくりと、やがては激しく腰を打ち付けあう。  
それはきっと短い時間で、だが確かに永遠と成りうるものだった。  
 
隣で眠る彼女の手に、マルセルはそっと唇を寄せる。  
例え一時でも、愛する人と身体を重ね、想いを通わせることができた自分はきっと幸せなのだと、  
そう、信じようとしながら。  
彼はベッドからするりと抜け出ると、夜着を羽織り部屋を後にした。  
 
王立研究院。いつもここの空気は少しひんやりとしている。  
マルセルは育成の間で、遥か別の時空に広がる宇宙を眺めていた。  
初めは何もなかったその空間にも、今は沢山の星が瞬いている。  
星々の間に流れる、すでに女王のサクリアに近しい力。  
それは間違いなく彼女のものであり、星の数や数値など知らなくとも、宇宙は確実に彼女を欲しているのだと。  
マルセルは守護聖として、それをはっきりと感じ取っていた。  
――僕が守護聖となったように、アンジェリーク、君も。  
決して抗えない流れを受け入れた、選ばれし者の共感をもって、マルセルは彼女の決断を理解した。  
 
宇宙に向かって、両手を挙げる。  
目を閉じて、両の手のひらに、マルセルは自身のサクリアをゆっくりと集中させる。  
 
今だって本当は、大好きな君と離れたくないけど。  
だけどそれを言ったら、君は悲しい顔をするでしょう?  
僕が君の笑顔を曇らせるなんて、そんなの嫌だから。  
君の、僕を好きだと全身で言ってくれた君の笑顔が、僕は大好きだから。  
 
集められたサクリアが、胎動を繰り返す宇宙へと注ぎ込まれる。  
若草色の光はやがてひとところへと集まり、豊饒を約束された大地が広がる美しい惑星へと姿を変える。  
 
一緒にいられる『今』はなくても。  
大丈夫、僕は信じ続けることが出来る。  
君と再び巡り合う未来を。  
アンジェリーク、君と重なる未来を。  
 
少年の身体から生まれた力が星になり、宇宙を構成する糠星のひとつに加わる。  
そして闇は彼女の力に満ち、空は新たな生命の予感に震え、宇宙が産声を上げる。  
 
大空をまっすぐに見上げる少年の頬を、一筋の涙が伝った。  
 

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