七咲と付き合い始めて一ヶ月。  
僕はいつものように校門で七咲の部活が終わるのを待っていた。  
風が強い。肌を切られるような冷たい風が容赦なく僕に吹きつける。  
温まろうと思って買ったホットコーヒーの空の缶がキンキンに冷え切って、僕の手から体温を奪う逆カイロとして機能し始めていた。  
寒い、寒すぎる。  
こんなところに先輩を待たせるなんて、なんて無礼な奴だ。  
そして、ふと思った。  
ひょっとして、僕は七咲にかなり舐められているんじゃないか?  
考えてみると、七咲は僕に対して、どこか小馬鹿にしているような、見下しているような態度を取っている気がする。  
だとしたら、このままではまずい。  
恋人として時を重ね、いずれは結婚もするだろう。  
その過程で七咲>僕という方程式が成立してしまえば、僕は七咲の尻に敷かれて一生を過ごすことになってしまう。  
一生懸命働いて帰ってきても労いの言葉はなく、月の小遣いはたったの1万5000円(食費込み)とか。  
となると、昼の食事代は500円以下に抑えなくては……  
牛丼かハンバーガーか。しかし、ハンバーガーはセットを頼むと軽く600円を超えてくる。やはり牛丼か。毎日、牛丼はきついな……  
って、そうじゃないだろ。そうならないためにどうするかだ。  
まずは、僕が七咲をリードしていくんだという意志が必要だろう。  
そして「僕は男だ!」ってところを見せつけることも必要だろう。  
舐められ続けて一ヶ月ともなると、それを覆すには、七咲がちょっと怯えるくらいの、言わばショック療法が必要になってくる。  
多少強引でも、僕の将来のために、今から手を打っておかなければ……  
よし。やるぞ。生意気な後輩に、男の強さを思い知らせてやる。  
「誰に、何を、思い知らせるんですか?」  
突然の声。気がつくと、目の前に首を傾げた七咲がいた。どうやら考えていたことを口に出していたらしい。  
「へ……な、七咲ぃ?!」  
驚いて情けない声を出してしまう。  
「はい、七咲です」  
フフフと笑って答える七咲。なんてかわいいんだ……じゃない、やっぱり馬鹿にされてるじゃないか。  
「今日はどこに行きましょうか?」  
決めた。健全かつ対等な恋人関係のため、幸せな結婚生活のため、僕は今日、七咲に男を見せてやる。  
「今日は……僕の部屋に行こう」  
「え、先輩の部屋……ですか?いいですけど、何をするんです?」  
「なんでもいいから、来るんだ!」  
僕は強めの口調で言うと、七咲の腕を掴んで家へと向かった。  
 
七咲は強引に部屋まで連れてきた僕に、最初は戸惑い、今はちょっと怒っていた。  
「腕を引っ張るなんて、ちょっと乱暴すぎます。用事があるなら言ってもらえればわかります」  
ご、ごめん……とか言いそうになってぐっと堪える。  
弱気になっちゃダメだ。脳内AIをガンガンいこうぜに設定して、僕は話を切り出した。  
「七咲……お前、僕を馬鹿にしているだろう」  
「何を言い出すんです?突然」  
「ほらその態度。冷静そのもの。僕がこんなに低い、怒りのこもった声で話をしているのに。どう考えても馬鹿にしてる」  
「馬鹿になんかしてないですよ」  
「もういい、黙れ。お前が僕を馬鹿にしてるのはよ〜くわかった。今日はその態度を改めさせてやる」  
「なんなんですか、一体」  
「さんざん僕のことを舐めてくれたね……そんな七咲には、僕のこれを舐めて、服従を誓ってもらうよ!」  
そう言って僕はベルトを外し、制服のズボンとパンツを一緒に下ろして、七咲に裸の下半身を見せつけた。どうだ!これが男だ!まいったか!  
恐らく処女であろう七咲は、これを見てビビるはずだ。  
しかし、そんな七咲に容赦なくフェラを要求する。  
七咲にご奉仕させることで、主従関係をはっきりさせる計画だ。  
まぁ、僕も童貞なのだが、アダルトビデオやエロ本で得た知識は経験者のそれにも劣らないはずだ。  
エロイ展開なら、そんなものとは縁遠いはずの七咲を相手に、圧倒的な優位に立てるという確信があった。  
「さあ、咥えてもらおうか!僕のアソコを!」  
「いやです」  
……え。  
拒否された。いや、それが問題なのではない。  
拒否するにしたって「いやっ、先輩、そんなもの見せないでくださいっ!」とかあたふたしてくれよ。  
なんでちょっと引いた感じで、冷たい声で「いやです」とか言っちゃうんだよ。  
「あの……驚かないの?」  
「驚きました。先輩が、そんなに欲望に忠実な人だったなんて」  
「いや、そうじゃなくて……僕の、これ、見て、なんとも思わないの?」  
「まぁ、恥ずかしい人だな、とは思いますけど。弟と一緒にお風呂に入ったりしてましたから、それ自体は見慣れていますし」  
「えっと……弟さんは、おいくつでしたっけ?」  
「小学生ですけど」  
ガーン、ガーン、ガーン……  
七咲に引かれた挙句、アソコが小学生並だと言われてしまった……  
服従させるどころじゃない……  
僕は何をやってるんだ……年下の彼女の前で、突然下半身を晒して、しかもそれを小学生の弟のと一緒だと言われるなんて……  
僕は屈辱に打ちひしがれ、呆然と立ちすくんでいた。僕をこれ以上馬鹿にさせないための行動だったはずが、馬鹿にされるどころか完全に軽蔑されてしまっただろう。  
七咲は僕の方を向いている。  
きっと汚いゴミでも見るような目で、僕を見ているに違いない。  
しかし、彼女の目を見ることはできなかった。  
恥ずかしくて、情けなくて、彼女の視線が痛かった。  
なんだか涙が溢れてきた。僕は泣き顔だけは見せたくないと後ろを向いてしゃがみこんだ。  
なんだか世界が終わったような気分だった。  
「七咲……別れよう」  
僕の口から、自然と別れの言葉が零れていた。  
 
「と、突然何を……」  
「僕はダメだ……ダメダメだ……こんな僕に、七咲と対等に付き合っていく資格なんかないんだ……」  
「そんなこと……」  
「いや!そんなことあるね!大体、七咲がずっと僕のことを馬鹿にするから……」  
「そ、そんな……」  
「いいからもう出ていってくれ!惨めな僕を見ないでくれよ!僕を蔑んだ目で見る七咲の顔を見たくないんだよ!」  
勝手に連れてきて、勝手に帰れだなんて、僕は無茶苦茶なことを言っているんだろう。  
粗末な下半身を晒した挙句に、帰れとわめき散らす……まるで子供だな。  
「……わかりました。帰ります……」  
七咲が呟くように言った。  
これで良かったんだ。  
僕は恋愛をするにはあまりに未熟だったし、僕なんかと付き合うのは七咲にとっても良くないことだ。  
これで良かったんだ。これで……  
それから一分ほど、僕は壁に向かってしゃがんでいたのだが、七咲が部屋から出て行く気配がない。  
振り向くと、僕を見つめる七咲と目があった。  
目にはうっすらと涙が浮かび、悲しそうな目で僕を見ていた。  
彼女の瞳には僕を蔑んだり、哀れんだりする印象は全くなかった。  
どうしたんだ?なんで泣いてるんだ?  
「……帰らないの?」  
わけもわからず、とりあえず七咲に言葉をかける。  
泣いてる恋人(いや、元恋人か)にとっさにかけた言葉がこれとは、やっぱり僕はダメダメだな……  
「……いやです……」  
震える声で七咲は答えた。  
「別れるなんて……絶対にいやです……」  
潤んだ七咲の目から、一筋の涙が零れた。  
それを合図にしたかのように、七咲は怒ったような表情になり、大きな声でまくし立てた。  
「私はずっと先輩と一緒にいたいですっ!そう伝えたはずです!ずっと言いたくて、でも怖くて、勇気を出してやっと想いを伝えたのに……なのに、全然伝わってなかった!」  
七咲の目から涙が溢れだした。それでも瞳を僕から逸らすことはなかった。  
「馬鹿になんかしてません……蔑んでなんかいません……ちょっとおかしなところもあるけど、それも含めて先輩が好きなのに……なのに……」  
よくよく考えたら、恋愛に不慣れな七咲が、普段からわかりやすい態度で僕に接することができるわけがなかった。  
恥ずかしさから素っ気無い態度を取ってしまっていたのだと、ようやく気づいた。  
改めて僕は未熟者なんだと思った。  
そして、一段と七咲が愛おしくなった。  
別れたくない。一緒にいたい。ずっと。  
七咲の真っ直ぐな気持ちは、僕のねじれ曲がった心から、本心を呼び起こしてくれた。  
「ごめん、七咲」  
伝えたい気持ちが整理できずに、とっさに出た言葉がこれとは。ほんとうに僕はダメダメだな……でも……  
「僕は七咲が好きで、七咲が僕のことをどう思っているのかが気になって、普段の態度がどこか素っ気無いって言うか、冷たい気がして……男として、ちょっとは尊敬してほしいな、とか思ったりして……」  
「先輩……」  
「それでこんなこと……いやぁ、ほんとうにダメな奴だな、僕は。そんな僕でも、好きでいてくれるの?」  
七咲は制服の袖で涙を拭うと、笑顔で言った。  
「私は、そんな先輩が好きなんです」  
 
勝手に盛り上がって、勝手に萎んだ僕の反乱は、七咲の笑顔によって完全に終息した。  
それと同時に、僕が下半身丸出しの格好だったことを思い出す。  
「ご、ごめん、今、履くから!」  
慌ててズボンを先に履こうとするも、足首で丸まったトランクスが引っかかる。  
先にトランクスを履かねば……急いで引っ張ったら足がもつれた。  
「うわっ!」  
「きゃあっ!」  
僕は下半身を露出したまま七咲の上に倒れこんでしまった。  
「いたたた……ご、ごめん、ななさ……」  
七咲の顔がすぐ目の前にあって、僕は言葉を失ってしまった。  
その表情は怒っているのでも、驚いているのでもなく、ただ僕の顔をじっと見ているだけだった。  
僕も七咲も動かない。  
数秒の間をおいて、七咲はクスッと笑った。  
「先輩。あんまり『それ』押し付けないでください」  
そう言って、下半身を指差す。  
指差す方を見てみると、僕のアレが七咲の手のひらに押し付けられていた。  
「うわっ、ごめ……」  
慌てて離れようとする僕の首に、七咲が腕を絡めた。  
後方に倒れこむ僕の上に、七咲が降ってきた。  
僕が下、七咲が上のマウントポジション。一気に形勢逆転?違うか。  
僕のお腹の上に七咲が跨る格好で、シャツ越しに七咲の体温が伝わってくる。  
って、これって、スカートの中が僕の体に触れてるってことだよな……  
ということは……  
混乱する僕に、七咲はゆっくりと顔を近づけてきた。  
そして、何も言わずにキスをした。  
短かったが、僕の唇を包み込むような大胆なキスだった。  
僕らはまた見つめ合う。  
七咲の表情は憎たらしいほど冷静で、今にも「どうかしましたか、先輩?」と言い出しそうだ。  
僕はますます混乱していた。  
「押し付けないでとは言いましたけど、離れてなんて言ってませんよ」  
頬をほんのり紅く染めて、七咲は言った。  
「と、突然何するんだよ……」  
「先輩だって、突然部屋に連れ込んで、突然脱ぎだしたじゃないですか。そのお返しです……嫌でしたか?」  
七咲はちょっと不安げな表情を見せた。  
「嫌じゃないけど……ビックリした」  
僕の言葉に、七咲の表情は再び緩んだ。  
「私、さっきの先輩の言葉を聞いて思ったんです。もっと素直になろうって。先輩が好きだってこと、言葉で、体で、先輩に伝えなくちゃって」  
そう言うと、七咲は体を起こし、右腕を背中の方へ動かした。  
その手が、僕のアソコに触れた。  
僕は驚きと快感で体を仰け反った。  
「……まだ、舐めるのはちょっと恐いけど、でも、先輩を気持ち良くするくらいはできると思うんです。だから……」  
跨った右足を左へ、僕に寄り添うように寝そべる七咲。そして、右手で僕のアソコを掴んで上下に動かしだした。  
「私の気持ち、受け取ってください」  
 
僕のアソコに七咲の細い指が絡まり、上下に小刻みに動かされる。  
その刺激はとてつもない快感を僕に与えた。  
股間だけでなく腰のあたりも痺れるような快感に、僕は一分も経たないうちにいきそうになっていた。  
決して七咲のテクニックが素晴らしいというわけではない。  
動きだけなら僕の右手のほうが上だと思う。  
しかし、僕の表情と、アソコとを行き来する七咲の視線が、その一生懸命な表情が、僕を快感の渦へと巻き込んでいく。  
「……どうですか、先輩?」  
不安そうな声。  
無反応(に見える)の僕が、感じているかどうか不安になっているのだろう。  
しかし、僕に答える余裕はなかった。  
本当なら「気持ち良いよ。そのまま続けて」とか言ってあげたいところだが、ちょっと油断したらもういきそうな状況で、言葉を発することはできなかった。  
七咲は手の動きをさらにスピードアップした。  
「うおっ!」  
思わず声を上げてしまった。それくらい強烈な刺激だった。  
「動きだけなら僕の右手のほうが上だと思う」と言ったが、あれは撤回したい。  
七咲の右手が繰り出す微振動は、例えるなら歯ブラシを持たせたらどんな歯垢でも取り除いてくれそうな勢いで、僕の下半身の感覚はその振動が与える快感によってほとんど麻痺していた。  
その上、必死に手を動かす七咲の「はぁはぁ」という息遣い。  
「せ、んぱ……い。気持ちいい、ですか?」と尋ねる声。その表情。  
全てが相まって、極上の快感を僕に与えてくれた。  
一人では、決して味わえない感覚だ。  
もっとこの快感を味わっていたい。  
だから、我慢。  
しかし、それにも限界がある。  
体中が痺れ、頭が真っ白になる。  
「い、いくっ」  
僕のアソコが脈打ち、精液が勢いよく吐き出されるのがわかった。  
「きゃっ」  
七咲の悲鳴が聞こえた気がした。  
それを気遣うこともなく、僕は眼を閉じて溜まっていたものを吐き出す快感に浸っていた。  
 
「ふうっ」  
一息ついて、目を開ける。  
七咲は困った表情で僕を見ていた。  
よくよく見ると、制服のあちこちに白いシミがついていた。  
「こんなに出るなんて、知らなかったです」  
「僕も、こんなに出たの、初めてだよ」  
「ティッシュペーパーありますか?」  
「そこの棚のところ」  
二人とも疲れていて、あっさりとした会話だった。  
でも、オナニーした後のような脱力感とは違っていた。  
かわいい後輩。  
かわいい彼女。  
そんな彼女が僕のために、一生懸命してくれた。  
僕は、とても幸せな気分だった。  
「先輩」  
ちょっと冷めた声。  
ティッシュペーパーで飛び散った僕の精液を拭き取ろうとしていた七咲が、こちらを振り返った。少し不機嫌な感じだ。  
「落ちないんですけど……どうすればいいんでしょう」  
どうすればって、そんなの知らない。  
そんなことより、不機嫌な顔もかわいいなぁ。  
今日は手だったけど、いつかはその口でしてもらえるのかなぁ。  
浮かれ気分でそんなことを考えていたら、なんと僕のアソコは再び勃起し始めた。  
それを見ていた七咲は、不機嫌というより怒った表情になっていく。  
「先輩」  
冷たい言い方。  
「明日も学校なんです。制服を着ていかなきゃいけないんです。私、真剣に困ってるんです」  
そうは言っても、僕にはどうしようもないし。  
そんなことより、怒った顔もかわいいなぁ。  
アソコも回復したことだし、もう一回やってもらいたいなぁ。  
「そうだ!七咲はもう一回僕にご奉仕してくれよ。そうしたら僕がその制服に満遍なくかけてあげるから。全体がうっすら白くなれば、汚れが目立たなくなるっていうか、むしろもともとそういうカラーってことに……」  
僕が言い終わる前に、つかつかと歩み寄る七咲。  
またご奉仕してくれる?いや、そんな雰囲気じゃないね。  
僕をスルーして、鞄を持つと「帰ります」と部屋を出ていこうとする。  
どうやら本気で怒ってしまったらしい。  
「ご、ごめん、七咲。許してくれ。今度は僕が七咲を気持ち良く……」  
バタン。  
行ってしまった。  
僕は下半身を露出したまま、一人部屋に取り残された。  
なんという慌ただしい一日だ。  
七咲の喜怒哀楽が全部見られたという意味では良い一日だったのか。  
でも最後が「怒」じゃなぁ。明日、謝ったら許してくれるだろうか。  
「まいったなぁ」  
僕は独り言を言った。  
でも、本当はまいってなんかいなかった。  
怒った七咲をどうやってなだめるのかを考えるのも楽しい。  
「舐められてる」とかうじうじ考えていたのが嘘のようだ。  
早く明日にならないかなぁ。早く七咲に会いたい。  
いや、今から追いかけようか。  
僕は急いでズボンを履いて、外へ出た。  
夕日が空を赤く染め、あまりにもゆっくり歩く七咲に長い影をつけていた。  
影はまるで「早く来て」と言っているようで、僕は少し嬉しくなった。  
「ごめん、七咲!待ってくれよ!」  
僕は叫んだ。  
七咲が、ゆっくりと振り返った。  
 
 

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