純一「塚原先輩、何ですかその大きな紙袋は」  
 
塚原「これ? チョコレートを入れるための袋よ」  
 
純一「え!? うわ…すごい、20個以上入ってるんじゃ…。もしかして今からこれを配るんですか」  
 
塚原「違うわよ。これは貰ったの。同級生と後輩の女の子達から」  
 
純一「えぇ!! そ、それ全部、貰ったんですか」  
 
塚原「そうよ」  
 
純一「…先輩、今日は女性が男性にカカオと操を捧げるギブ&テイクアウトの日だとご存知ですか」  
 
塚原「そんな男性が一方的にお得なハッピーセットではないと記憶してるけど」  
 
純一「言ってはなんですけど、もらい過ぎですよ…。男陣の立つ瀬がないです」  
 
塚原「でも女の子同士なら普通じゃない? 今じゃ男が女に上げる逆チョコってのまで…」  
 
純一「ダメです先輩。携帯が無い時代設定なので、その発言は未来過ぎます」  
 
塚原「そう、ごめんね。とにかく女の子同士は気負わなくていいから気楽に上げちゃうのよ」  
 
純一「先輩もチョコ上げたんですか?」  
 
塚原「うん、貰った人にその場で返す用にね。今年はそれだけで無くなっちゃったけど」  
 
純一「そうですか…」  
 
塚原「あ、待って。うん、まだ一個余ってたわ。…橘君、良ければもらってくれる?」  
 
純一「え! いいんですか」  
 
塚原「ええ。余りもので悪いんだけど…」  
 
純一「いえいえ! ありがたく頂きます!! やったー!」  
 
塚原「ふふ。そんなに喜んでもらえて嬉しいわ」  
 
純一「そりゃ喜びますよ。今年は一個ももらえないかと思ってたので」  
 
塚原「へぇ、そうなんだ。橘君はもっともらってるのかと思ってたけど」  
 
純一「いや、さっぱりですよ。義理チョコすらないですから」  
 
塚原「ああ、それは多分、今年はそういうのが流行ってるからよ」  
 
純一「そういうのって何ですか?」  
 
塚原「同性に15個以上、異性は本命だけにチョコを上げると、恋が成就する、ってジンクスがあるの」  
 
純一「あぁ、なるほど。それでこんなにももらえない男子が多いんですね」  
 
塚原「同性の方が上げやすい心理を付いた、製菓会社の陰謀っぽいけどね」  
 
純一「ははっ、女の子ってそういうの好きですよね。塚原先輩はそういうの興味なさそうですけど」  
 
塚原「んー、そうでもないわよ。私だって、占いとかおまじないは、やっぱり気になるもの」  
 
純一「へぇ、そうなんですか。ちょっと意外、って言ったら悪いですね、すみません」  
 
塚原「ふふ、いいわよ。じゃ、私の用は済んだし、そろそろ帰るから」  
 
純一「あ、はい。またです」  
 
 
 
 
純一(――――――あれ?)  
 
純一(塚原先輩、確か女の子と20個ぐらいチョコを交換したんだよな?)  
 
純一(それで、最後の一個を…僕にくれた)  
 
純一(…ジンクス…占いは気にする……あ、『私の用は済んだ』って、用ってなんだ!?)  
 
純一(……と、とりあえず、大事に食べよう、うん…)  
 
 
 

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