期末テストを来週にひかえたある金曜日。美也が七咲に声をかけた。
「ねぇねえ。逢ちゃん期末テストの勉強進んでる?」
「えっ。まあまあだけど、やっぱり数学でちょっとわからないとこがあって、、、」
うんうん。美也が腕を組み、七咲の返事に納得する。そして、ある提案を出してきた。
「今日、部活休止になったんでしょ?じゃあさ、今からみーやの家に来て一緒に勉強しない?私、英語がわかんなくってさー。」
「えっ?」
突然の提案に、七咲はとまどった。しかし、美也の家ということは、淳一に会える。もちろん行きたい。
「い、いいよ。美也ちゃん家に行く。」
「ふふふ、やっぱり。逢ちゃんにぃにに逢いたいんでしょう!」
核心に迫られ、七咲の頬が赤らんだ。
「えっ、そんなつもりじゃ、、」
「隠さなくてもいいからいいから。ちゃんとにぃに捕まえておくからね!」
淳一を捕まえておく、想像しただけで、七咲はドキドキした。
「と、言う訳で、にぃには逢ちゃんに数学教えてあげてね。」
居間のテーブルに教科書を広げて3人が集まった。
「どういう訳か分からないけど、僕もテスト勉強中だぞ。」
「あの、橘先輩、ご迷惑でしたら結構ですから、、」
七咲のツンツンな視線が純一に刺さる。
「あ、そんなことないよ。七咲のためなら何でも協力するよ!」
「本当ですか?わざとらしくないですか?」
「本当!」
純一の真剣な眼差しに見つめられ、七咲は自分のほほが赤らむのがわかった。
「じゃあ、、ここのところお願いします。」
「んー、ああ、ここはねー。、、、」
純一の顔がすぐそばにまで近づく。男性特有の匂いがする。クラクラして、何も考えられない。
しかし、真面目に解説する純一。
(ふーん。真面目な橘先輩もいいかも、、)
心を入れ換え、純一の説明に集中した。
「なるほど、先輩の説明でよくわかりました。さすがですね、見直しました。」
「はっはっは、そう言われると嬉しいな。でも七咲も飲み込みが早いぞ。美也なんか3回も説明して、図まで書いてやっとわかったんだからな。」
「えっ?そうなんですか?ふふふっ」
「はいこそぉ!勉強中にいちゃいちゃしなぃぃ!」
美也がふくれ顔で割って入ってきた。
有意義な時間はあっという間に過ぎる。
今回の範囲のポイントを一通り教えてもらうと、純一は自分の勉強に集中するために、部屋へ戻ってしまった。
寂しい気もするが、とりあえず別の友達からもらった過去問にとりかかる。
「わぁぁ!こんな時間になっちゃった!明日土曜日だし、逢ちゃんもう遅いから泊まっていきなよ〜。」
「えっ?でも、、」
「いいよ、いいよ、お家の人に連絡してみなよ。一緒にお風呂入ろよー。」
「う、うん。じゃあ聞いてみる。」
電話を借りて家に電話する。女の子のクラスメイトの家に泊まるのだ、美也のお母さんも説明してくれたので、難なく許してもらえた。でも、ここは純一の家でもある。七咲は何か熱くなるものを感じた。
「あ、、私あとここだけ分からないんだけど、、橘先輩に聞いて来ていいかな?」
「もー、逢ちゃん真面目だなー。にぃにの部屋は2階の奥だよ。」
「うん、ちょっと聞いてくる。」
なぜか足が震えてなかなか立てない。
「逢ちゃん!」
「えっ?」
「きゃーーーっ」
突然叫ぶ美也。
「!!!?」
「って叫ぶんだよ、にぃにに襲われたら。助けに行くから。」
「ははは、ありがと。」
美也のおかげで緊張が溶けた。ありがと美也。
七咲は純一の部屋に向かった。
コンコン。純一の部屋をノックする。
「せ、先輩。いいですか?」
返事はない。
明かりは点いているようだが、もう寝てしまったのだろうか?
いけないとは思いつつ、ドアのノブをひねる。鍵はかかっていない。そのままスッとドアが開いた。
「先輩?」
机に向かう純一の横顔が見える。ヘッドホンを着けたまま、真剣な表情で問題に取り込んでいるようだ。
邪魔しちゃ悪いかな、、
そう思ってゆっくりと後ろに下がろうとした時、隣の本棚の参考書を取ろうとして顔を向けた純一と目が会った。
「う、うわーーーっ!」
大声に飛んできたのは美也だった。
「こらー、にぃに、逢ちゃんに何をしたーーって?あれ?今の叫び声はにぃに???」
「びっくりした!びっくりした!気配が無かったのに、いきなり七咲が部屋にいた!」
「ぷっ。ぷはははっははは。おかしい。」
七咲はおかしくなって笑いころげた。
ひとしきり笑った後で、美也に詰め寄る。
「って、いうか、美也ちゃん踏み込むの早いよ。つけて来たでしょ。」
「ありゃ。ばれた?ごめんごめん。今度は邪魔しないからさ。にぃに、逢ちゃん教えて欲しいところがあるんだって。よろしくね。あ、お風呂の準備してくるね。」
そういいながら下の階に降りていった。
「な、なんだそうだったのか。早く言ってくれればよかったのに。」
「ノックしたんですが、先輩ヘッドホンしてたし、なんか真剣そうだったので、邪魔しちゃ悪いと思いまして。」
「いやいや、いいんだよ。こっちこそオーバーリアクションで悪かった。で、何処が分かんないの?」
「あ、えーっと、嘘です。わからない所はありません。」
「へっ?」
「ただ、先輩とお話したかったんです。」
「あっ?えっ?じゃあ何の話しようか、、、」
お互い向き合ったまま見つめる。静かな静寂の時間が流れる。
「また、嘘です。本当は先輩に聞きたいことがあります。」
「あ、そうなんだ。どの問題?」
純一は立ち上がり七咲が持っていた問題集に手をのばした。
彼女はさっと問題集を後ろに隠す。
二人の顔が近づく。
七咲はしぼりだすような声でささやく。
「ち、違います。わからないのは数学じゃありません。」
「じ、じゃあなに?」
純一も小声になる。
「せ、先輩の気持ちです。」
「…」
「先輩は私の事、どう思っているんですか?」
七咲は勇気を振り絞って聞いた。
ふっ、と柔らかな表情になり、純一は答えた。
「、、好きだよ、、、」
「本当に?」
「本当に」
「紗江ちゃんみたいに胸大きくないでますよ?」
「七咲のがいい。」
「水泳で筋肉付いてますよ?」
「そこもいい」
「そ、それに、、子供っぽいし、、、」
「そうか?七咲はしっかりしてると思うけど、、」
「そ、そんなんじゃなくて、、その、、」
七咲は顔を真っ赤にしてうつむく。
「ん?何か困ったことでもあるの?何でも相談に乗るぞ。」
「あの、その、私まだ、、」
「ん?、」
震える手でゆっくりとスカートをめくる。しかし、以前の教訓をいかして純一は慌てない。
やはりスカートの下は紺のスイミングウェアであった。
「七咲の水着も好きだよ。」
ちょっと冗談っぽく答える。しかし次の瞬間、七咲は予想外行動をとった。
スカートを持つ手と反対の手で、水着のVラインを思いっきりずらした。
「あ?えっ?」
純一は突然目の前にあらわになった綺麗なタテスジに目を奪われた。
「ま、まだ生えないの。こんな子供みたいだと、興奮しないでしょ。」
「いやいやいや!ありあり!有です。もっと好きになった!」
「ほ、本当ですか?」
涙ぐみながら首をかしげる七咲。
「本当!大丈夫。そのうちちゃんと生えてくるから。いや、逆にずっとそのままでもいい!!」
「そう、、よかった。」
七咲の顔から緊張がとけ、微笑みが表れた。
「さ、さあ、みーやが下で待ってるから、お風呂いってきなよ。」
「はい、、先輩。」
「ん?」
「この事は二人の秘密ですからね。」
「わ、わかった。でも、これからはたまに確認させてくれ。」
「変態!」
七咲は笑いながら下に降りていった。
それから数分後、お風呂場からみーやの興奮の叫び声が聞こえる。
なんだ、二人の秘密をもうばらしてるじゃないかよ。
おしまい