結局僕は、高校二年のクリスマスを女の子と過ごすことは出来なかった。
年が明けて一月。
僕は寒空の下、駅前を当ても無くぶらぶらしていた。
年末年始に家でひたすら特訓したゲームの腕試しをゲーセンのアーケード版でしようと思ったら、
まさかゲーセンが休みだとは。
「もう三が日は終わってるのに…暇で死にそうだよ…」
溜息をつこうとすると、ふと目に入るポニーテール。
あの人は―――
「塚原先輩」
僕はその後ろ姿に声をかけた。
「?」
こちらを振り向くと同時に、ふわりとゆれるポニーテール。
「あら、橘君」
見慣れない私服姿、ポニーテールじゃなかったら気付かなかったかもしれない。
「新年あけましておめでとう。こんなところで何をしてるの?」
「あけましておめでとうございます。いえ、暇なので少し散歩でもしようかと。」
ゲーセンが閉まってて落ち込んでいる、とは言えなかった。
「先輩は何をしてるんですか?」
「私も君と同じよ。時間を持て余しててね。お正月のセールに行こうとも思ったんだけど、
やっぱり一人だと気分が乗らなくて、ね」
なるほど、本来なら三年生はセンター試験直前、推薦ですでに合格している塚原先輩のような生徒を除けば、
自宅で必死に勉強しているのだろう。
森島先輩もその例に漏れずという事か。
「三年生は受験ですもんね」
「そうね。頑張ってるかしら、はるか。
年末までは一緒に勉強してたんだけど、『あとは一人で出来るわっ!合格間違いなしねっ!』って…」
塚原先輩が心配そうな顔をする。
友達思いの人だ、森島先輩の事が本気で心配なんだと思う。
僕は、塚原先輩のそういう所が―――
「塚原先輩に見てもらったなら、絶対大丈夫です。僕が保障します!」
「ふふ。ありがとう。頼もしいわね、橘くん」
塚原先輩が微笑む。
「かわいい…」
「え?」
思わず口に出てしまった。
「い、いや、なんでもないです!そ、それより先輩!このあと時間ありますか?」
「時間?さっき持て余してるって言ったはずだけど…」
「そ、そうですよねっ!えっと、それじゃあ、その、僕と…」
言おう、勇気を出して、言おう。
「僕と一緒に初詣に行きませんか?」
「初詣?君はまだ行ってないの?」
「美也と…いや、家族とは行きましたけど…その、三年生の先輩方の合格を祈願しに行こうかと…だめ、ですか?」
「ふーん。なるほど…そういうことね。じゃあ、一緒に行きましょうか」
アタック成功、じゃないが、心の中でガッツポーズをした。
「君との初詣デートもなかなか楽しそう。」
「え?今なんて?」
塚原先輩の言葉が聞き取れなかった。
「ふふふ、なんでもないわ。行きましょう」
塚原先輩と仲良くなれるきっかけをつかめた様な気がした。
終