雨がしとしとと優しく降り続く放課後。  
僕、橘純一は、一人で廊下を歩いていた。  
橘「ふぅ、まいったなぁ」  
ついうっかり跳び箱の中でくつろいでたら、まさか6時を回っているとは。  
時間の感覚を忘れさせるとは、さすがお宝本。侮れないな。  
それにしてもお宝本のあの場面……衝撃的だったなぁ……。  
僕も見てみたいなぁ……。例えば……。  
 
……。  
おっとっと、自分の世界に耽っている場合じゃなかった。  
早く家に帰らないと……ん? あれ?  
あそこにいるのは……。  
 
「おーい、七咲!」  
前方に廊下を小走りで走る後輩、七咲の姿を認めて僕は彼女に声をかけた。  
「あ、先輩。こんにちは」  
七咲もすぐに僕に気がついたらしい。  
その場に立ち止まり、僕に挨拶をしてくれた。  
 
「こんな時間にどうしたんですか?」  
「うん、今から帰りなんだ」  
僕の言葉に、怪訝そうな表情を向ける七咲。  
「……何だか随分と遅いですね?」  
「ははっ……。ま、まあいろいろあってね。七咲は部活の帰りかい?」  
「あ、はい。たった今終わった所です」  
「急いでたみたいだけど、どうかしたの?」  
「え? それは、その……」  
僕の質問に、なぜか七咲は頬を染め、そわそわとしだした。  
しばらくもじもじしていた七咲だったが、やがてはっきりと自分の意思を口にした。  
「ちょっと、お手洗いです」  
 
「え、お手洗い!? つまりおしっこ!?」  
七咲の衝撃の告白に、僕は思わず大声を出してしまった。  
「せ、先輩! そんなに大きな声を出さないでください!」  
僕の声の大きさに、眉をしかめて抗議する七咲。  
「……あ。ご、ごめんごめんごめん」  
思わず謝る僕。  
だけど、仕方がないだろう。  
あの七咲がお手洗いを我慢しているのだ。  
いくら紳士な僕でも、少々興奮してしまうのはやむを得ない所だと思う。  
 
「……とにかく。そういう訳ですので、失礼します」  
そう言って踵を返し、女子トイレに小走りで向かう七咲。  
うーん。あの様子だと、七咲結構我慢してるみたいだな。  
……。  
…………。  
待てよ。  
 
僕はきょろきょろと辺りを見回した。  
人の気配は感じない。  
 
もしかすると。  
これは、さっきのお宝本のシチュエーションを再現させるチャンスかもしれないぞ。  
 
……。  
……。  
……よし。  
ここはひとつ、勇気を出して七咲に思いの丈をぶつけてみよう。  
クールでありながらも心優しい七咲ならば、断られることはないだろう。  
「待った七咲!」  
僕は大声で七咲を呼び止めた。  
「え?」  
今まさに女子トイレに飛び込もうとしていた七咲は、僕の声に足を止めた。  
すかさず僕はダッシュで七咲に駆け寄ると、真剣な表情でその瞳を覗き込んだ。  
「キリッ。七咲、一生のお願いがある」  
 
「な、何ですか……?」  
動揺しているのか、七咲の目は落ち着きなく動いている。  
そんな七咲を安心させるように、僕は微笑んだ。  
「ニコッ」  
そして僕は大きく息を吸い込み、朗々とした声で言った。  
 
「七咲がおしっこする所を鑑賞したい」  
 
「…………」  
僕の言葉に、七咲の表情は凍りついた。  
しかし、すぐにその顔は真っ赤に染まる。  
そして七咲の口からは、僕の予想だにしなかった言葉が飛び出した。  
「絶対にイヤです」  
ナイフのような鋭さを持った否定の言葉に、僕は面食らった。  
「えっ、嘘!?」  
そんな!? まさか、まさか断られるとは!?  
心優しい七咲なら絶対、イエスという答えが返ってくると思ってたのに!  
 
「何で、どうして!?」  
「どうして? じゃないです! 当り前じゃないですか! イヤに決まってます!」  
な、なぜ!? なぜなんだ!?  
 
ハッ、そうか、そういうことか!  
「ごめん七咲。言い方が紳士じゃなかったね。つまり七咲のお手洗いを鑑賞したいわけなんだけど」  
「言い方の問題じゃないです! 本気でそこが問題だと思ってるんですか!?」  
ま……まさか。全力で否定されている!?  
 
「ま、まあ、待てって七咲。話を聞いてくれよ」  
どうにかして七咲を説得しようと、冴えわたる頭をフル回転させる僕。  
「聞く必要はないと思いますけど」  
冷めた目で僕を見つめる七咲。  
くっ……ここで引く訳にはいかない!  
 
「いいから聞けって! 七咲」  
どうにかして七咲を丸めこむ……ゴフンゴフン!  
説得せねば!  
よ、よし。  
「いいか七咲。人間誰でも食事はするし、睡眠はするし、トイレにも行く」  
「……」  
「食事する姿とか、寝てる姿とか、見られてそこまで恥ずかしいと思うかい?」  
「…………」  
「だったら、だったらさ! トイレだって同じことじゃないか!?」  
「変態」  
「…………」  
パリーン。  
僕の説得は、絢辻さんに負けずとも劣らない冷やかな七咲ボイスにより粉々に打ち砕かれてしまった。  
 
「はぁ……。先輩、もう変なことは言い出さないで下さいね。失礼します」  
七咲は呆れ顔でため息をつくと、改めて女子トイレに入ろうとする。  
くっ……このままではせっかくのチャンスが……。  
くそっ、諦めてたまるか!  
仕方がない、最後の手段だ!  
人間、時には非情にならなければならない時もある!  
言葉がダメなら、力づくだ!  
 
「あ、七咲、あれなんだ!?」  
そう言って、僕はいきなり虚空の一点を指さした。  
「え?」  
思わず振り返る七咲。  
 
七咲、隙あり!  
いまだ!  
「くらえ僕の必殺技パート1、ヒザカックン! てぇい!」  
カックン!  
「あっ?」  
不意打ちヒザカックンの前に、たまらずバランスを崩し尻もちをつく七咲。  
 
「もらった!」  
すかさず七咲に背後から組みつく僕。  
七咲の脚に自分の脚を絡め、右手で七咲の両手を後ろ手に押さえつけた。  
「ちょ、ちょ、ちょ、な、何するんですか先輩!」  
「ふはははははっ、かかったな七咲!」  
高らかに勝利宣言をする僕。  
「せ、先輩! 放してください!」  
焦った様子でジタバタし、僕の拘束を振りほどこうとする七咲。  
しかし、男の僕と女の子の七咲では力の差は歴然。  
七咲の抵抗は全くの無力だ。  
 
「さあ、放してほしければ、僕と一緒にお手洗いに入るんだ!」  
「イヤです! 絶対にイヤです!」  
僕の紳士的説得にも全く耳を貸さない七咲。  
 
仕方がない、最後の手段その2だ!  
人間時には非情にならなければならない時もある!  
言葉がダメなら、再び力づくだ!  
「そうか……それじゃあしょうがないな」  
僕は再度、右手でしっかりと七咲の体を押さえつける。  
そして七咲の脇腹に、空いた左手の5本の指をあてがった。  
 
「くらえ僕の必殺技パート2、コチョコチョ地獄!」  
そう叫ぶと、僕は七咲の脇腹を縦横無尽にくすぐり出した。  
「コチョコチョコチョ〜ッ!」  
「うくっ! ダメです、あうっ!」  
僕の指が蠢き始めた瞬間、ヒクヒクと身悶え始める七咲。  
「ほれほれほれ〜」  
「ううっ! うふふふ……はひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」  
そして七咲はたちまち苦しそうに笑い始めた。  
クールな後輩、七咲遙といえども、やはり年頃の女の子。  
脇腹こちょこちょ攻撃の前には、成すすべもないようだ。  
 
「はっはっはっ! どうだ七咲! 諦めろ! 諦めるんだ!!」  
「ひゃっはは!! ひゃ、ひゃめて! やめてください!!」  
「さあ観念するんだ七咲! 早くしないとおもらしさせちゃうぞ!」  
僕は今度は七咲のアバラに手を当て、クリクリと揉み始めた!。  
「ひあああああっ! それはダメです!!」  
七咲の体の反応がさっきに増して激しくなった。  
どうやらうまいことに、指が七咲のツボに入ったらしい。  
これ幸いとばかりに、僕は指をクリクリクリッと激しく動かす。  
「ひゃひゃひゃひゃひゃ……苦しぃ……ひひひひひひ!!」  
 
密かに七咲のお尻が僕の股間に密着しているため、僕の股間のシンボルは大いに勃起している。  
僕が真の紳士でなかったら、今頃七咲はもっと大変なことになってるに違いないな。  
「ああっダメ!! もれちゃう!! もれちゃううぅぅぅ!!」  
そうこうしてる間にも、七咲の尿意は相当危険なラインに達してるようだ。  
恥ずかしい悲鳴をあげ、のたうち回っている。  
それにしても……やっぱり七咲ももれちゃう、って言うんだな。  
森島先輩や絢辻さん、紗江ちゃんなんかも、限界ギリギリになったら言うんだろうか?  
興味深いな……。  
「ああっ!! ああああああああーっ!!」  
そんなことを考える間も、七咲の悲鳴は止まらない。  
そしてついに。  
 
「も、もう限界!! 見せます!! 見せるからもうひゃめてぇぇぇ!!」  
七咲、陥落。  
 
「よっしゃぁぁぁ!!」  
歓喜の叫びをあげる僕だった。  
 
周辺に人がいないのを確認し、僕と七咲は女子トイレに入った。  
もちろん七咲に逃げられないように、手首をしっかりと掴んでおくことは忘れない。  
「ふーん、女子トイレの中って、男子トイレとそんなにに変らないな」  
「先輩、そんな感想はどうでもいいです!」  
七咲は激しく足踏みをしている。  
脚もしっかりと内股だ。  
僕のテクニシャンフィンガーにより、相当切羽詰まった状態に追い込まれたようだ。  
 
「あ、そうだ七咲。使うトイレは和式でお願い」  
「ど、どうしてですか!?」  
その場でピョンピョン跳ねながら、疑問の声をあげる七咲。  
そんな七咲のあられもない姿を正面から見据え、僕は堂々と答えた。  
「七咲のウンコ座りが見たいから」  
「…………〜〜〜〜っ!!」  
涙目の七咲は僕の答えを聞いているのかいないのか、声にならない叫びをあげる。  
 
「も、もう、何でもいいです! もう我慢できない……!」  
そう言うと、七咲は僕を引っ張るくらいの勢いで、奥から2番目の個室に駆け込んだ。  
すかさず僕も滑り込む。  
キィィ……バタン。カチャッ。  
僕は扉を閉め、カギを掛けた。  
その個室の便器は、れっきとした和式だった。  
さすがは七咲。妙な所で義理固い。  
 
扉が閉まってすぐ、七咲は地団駄を踏みながら僕をキッ、と睨みつけた。  
「恥ずかしいから、はっきり見ないでください!」  
七咲はそう叫ぶと、一気に下着を下ろした。  
それは、シンプルな純白の下着。  
僕は再び、自らの股間がそそり立っていくのを感じた。  
 
そして七咲はすぐに和式便器をまたぎ、ウンコ座りになる。  
一切迷いのない七咲の動きは、いかにぎりぎりな状態かを物語っているようだ。  
「お願いです!! 絶対まじまじと見つめないで!!」  
涙ながらにそう叫ぶと、七咲は体をプルプルプルっと震わせた。  
 
……そして。  
 
シャァァァァ…………  
 
個室に、七咲の音が響き渡った。  
 
 
「…………」  
「…………」  
「……ごめんね、七咲。僕って最低だよな」  
「…………」  
「本当に……ごめん」  
「今更謝るんですか? それなら、最初からこんなことしないでください」  
「……そう……だね」  
「…………」  
「ありがとう、七咲。……何というか、すごく綺麗だったよ」  
「どういたしまして……先輩」  
 
  <了>  
 

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