あれから僕たちは付き合うようになり、1ヶ月の時が過ぎた。  
僕の隣にはいつでも七咲がいるし、七咲の隣は僕の指定席になっている。  
 
 
「先輩知ってますか?」  
「そうなんですよ先輩」  
「すごいです先輩!」  
「ねぇ、先輩!先輩!」  
「やだ……先輩のえっち……」  
「……んっ……先輩……」  
「先輩!、先輩?、先輩…、先輩、」  
「 せ ん ぱ い 」  
 
 
 
「はぁ……」  
 
久しぶりに僕は一人で休み時間を過ごしている。  
今いる場所はというと、屋上の秘密扉から入る開かずの部屋だ。  
ココは学校中の誰も知らない僕だけの秘密の空間。  
七咲にだって教えていない。  
まぁ、教えたらここに保管してあるお宝本も処分されてしまうだろうから、絶対に教えるわけにはいかないけどね。  
 
しかし……七咲にはまいった。  
 
クリスマスのあの日から今日で1ヶ月が経過する。  
初めのうちはとても嬉しかった。  
昼の休みや放課後はもちろんの事、授業の間の短い休み時間でも互いの階を行き来して顔をあわせる。  
朝の登校の時には、七咲は僕を迎えに来てくれるし、放課後は時には高校生が出歩いてはいけない時間ギリギリまで遊んでいる事もある。  
クラスどころか学年も違う僕らにとって、学校の授業という時間は長く感じられた。  
 
ところが最近、七咲の行動に少し気になる所がある。  
休み時間のチャイムが鳴ったと思えば、七咲はもう僕のクラスの扉の前に居たり。  
移動教室の時に梅原と教室から移動していると、なぜか七咲がその移動先の教室に先に居たり……。  
さすがに梅原も気になったのか、七咲にこんな事を言っていた。  
 
「お前らいつでも一緒にいるよな。移動教室先でも一緒だなんて、本当に仲がよろしいこって」  
「当たりまえですよ。私は先輩の彼女なんですから当然じゃないですか」  
「あ、あぁ、そうだよな……ははは」  
 
間髪いれずに真顔で即答した七咲に、梅原は何も言えず乾いた笑いをするしかなかったようだ。  
そして極めつけは、昨夜、美也から聞いた話だ。  
 
「最近さ、逢ちゃん体調悪いみたいなんだよね。授業を途中で抜け出して保健室行ったりしてるんだよ」  
「え?」  
「部活もあまり出てないみたいだし、心配だなぁ……」  
「……」  
 
どういう事なんだ?  
七咲とは頻繁に会っているけど、体調が悪いそぶりなんてまったく見せないのに。  
無理をしてるのか?  
そんな様子は無いよな…。  
僕と少しでも長く一緒にいるために…?  
まさか、それこそありえない。  
いや、それでも……しかし。  
 
そして今日、昼休みが終わった瞬間に教室から出ると、そこには七咲が居た。  
昨日の美也の話が頭に浮かぶ。  
いつも通りの七咲の笑顔なのに、今日はなんだか―――怖い。  
 
「あ、や、やぁ 逢」  
「今日もお弁当もってきたんですよ」  
「そ、そう、……僕はちょっとトイレに寄ってくるから、逢は先にテラスに行っててよ」  
「……わかりました。先に行ってるので、早く来てくださいね」  
 
こうして僕は、七咲の待つテラスにすぐに行く気になれず、この開かずの部屋に来てしまったというわけだ。  
 
「そういえば最近、放課後はいつも一緒に遊ばっかりいたけど、水泳部は大丈夫なのかな……」  
 
カーテンの閉められた薄暗い部屋の中で椅子に座り考える。  
考えを巡らせていると、いつのまにか僕はため息をついていた。  
時計を見ると、昼休みの残り時間は20分を切っていた。  
 
「はぁ、いつまでも七咲をテラスで待たせるわけにはいかないよな…」  
 
ふと、頭の上から、コツンと、音が、聞こえた。  
 
「――――っ!」  
 
誰か来た?  
ここの部屋の入口は、屋上でも隅の死角になっているのに?  
まさか……七咲が……。  
……おちつけ僕、そんなはず無いじゃないか。七咲はテラスに居るはずだ。  
それに入口には鍵が掛かっている、誰も入ってこれない。  
 
コツン コツン  
 
入口の上をを歩いているのか?  
 
コツコツ コツコツ  
 
このままじゃこの部屋から出れないぞ……。  
 
 
ダアン!!!!  
 
 
―――――――っ!  
 
心臓が止まるかと思った。  
いまのは入口の扉が叩かれた……のか?  
やばい、ここの部屋がばれたか?  
けど入口は鍵が掛かっているから、入ってはこれないはずだ。  
しばらく様子を見るか…・・・。  
 
どうしよう、もう昼休みも終わるぞ。  
キーンコーンカーンコーン  
このままじゃ授業に遅れてしまう……。  
仕方ない、一か八か出てみるしかないか!  
 
カチャ  
 
そっと扉を開けて周りを見回してみるが、扉付近に人影は無かった。  
素早く秘密の部屋から屋上に這い出て、鍵を掛ける。  
そうして立ち上がり、屋上全体を見回してみると、屋上の入口にバレーボールを持った女子が何人かいた。  
その子たちは校舎内へ戻ろうとしているようだ。  
 
さっきの音は、あの子達か?  
そ、そうだよな。僕がこの学校に入学してから2年近く誰にも見つからなかったんだ!  
そう簡単にばれるはずないよな。  
ふー、やれやれ、早く教室に戻らなきゃ。  
 
 
そして、屋上へ続く階段の踊り場で、七咲に会った。  
 
 
「なっ!あ、逢、―――どうしたんだこんな、所で」  
「もう、私ずっと先輩を探してて、いまココに来たんですよ」  
「え?あ、ああ、ごめん」  
「先輩は屋上で何をしていたんですか?」  
「いや、その、梅原がさ、ど、どうしても手伝って欲しい用事があるっていうから……」  
「そうだったんですか、梅原先輩が……」  
「そうなんだよ!ははは」  
「で?梅原先輩の姿が無いようですけど」  
「う、え、えっと、それは―――途中で教室へ戻ったんだ」  
「ふうん……」  
「まったく仕方の無い奴だよ」  
「クス……駄目ですよ『親友』の事をそんな風に言うなんて」  
「あ、ああ、そうだよな、ははは」  
「クスクスクス」  
「それじゃあ、チャイムも鳴ったし、僕らも教室にもどろうか」  
「ええ、そうですね先輩」  
 
ふー、危なかった。  
七咲には悪い事したけど、まぁ大丈夫だよな。  
秘密の部屋もばれてないみたいだし、気にしすぎだったかな。  
 
「よーう橘!昼休みはどこで行ってたんだ」  
「あー、ちょっとな」  
「屋上で七咲がお前の事を探してたみたいだけど、会えたのか?」  
「……え?」  
「いやさ、クラスの奴らと昼休みにバレーしようって事になって屋上に行ったら、弁当箱持った七咲が屋上の階段に居たんだ。  
それで何をしてるのか聞いたら、『先輩を待ってるところです。』って言ってたからな」  
「それは、昼休みのいつくらいに?」  
「メシ食って速攻屋上に行ったから―――10分くらいかな」  
 
10分  
 
僕と別れた後すぐに七咲はテラスに行ったはずだ。  
それなのに昼休み開始10分の時に屋上の階段に居た……?  
僕を探してにしては早すぎないか?  
別れた後、僕の後をつけた?  
いや、七咲は僕を探していたはず……探す?  
 
「梅原!七咲は僕を『待っている』って言ったのか?」  
「ああ、そうだぜ。大きな弁当箱抱えちゃってさー。あれ?でも、教室に戻る時にも、階段にまだ居たような……」  
 
『待っている』  
七咲は屋上への階段で、僕を待っていたという事か。  
つまり七咲は、僕が屋上にいるという事を知っていた?  
なぜ?  
―――というか!!!  
 
「梅原!昼休みに七咲に会ったのか!?」  
「なんだよ、だからさっきからそう言ってるだろ?おかしな奴だな」  
 
違う!そうじゃない!  
僕はさっき七咲に『梅原に頼まれて屋上に居た』と嘘を付いた。  
そして梅原が言うように、昼休み中ずっと屋上への階段に居たとしたら―――。  
僕の嘘は、ばれている。  
 
それなら、あの秘密の部屋の扉での音は……。  
 
「梅原、七咲は昼休み中に屋上に登ってきたか?」  
「え?あーそこまでは気にしてなかったな」  
「…そうか」  
「なにかあったのか?」  
「いや、なんでもないよ」  
 
結局、午後の授業はまったく頭に入ってこなかった。  
なぜ七咲は僕の後をつけたのか。  
屋上の秘密の部屋はばれているのか。  
なぜ七咲は僕の嘘をあっさりと信じたのか。  
そして、美也から聞いた七咲の最近の行動。  
この4つの疑問が僕の頭の中でぐるぐると渦巻いていた。  
 
 
 
「さぁ、帰りましょう先輩!」  
「あ、ああ」  
 
今日も放課後のHRが終わったばかりだというのに、七咲は僕の教室の前に居た。  
あまりにも早すぎる。  
特に今日は、僕のクラスは帰りのHRが比較的早く終わったというのに……。  
 
「ところで逢、部活はいいのか?」  
「ええ」  
「そうなのか?ここ最近ずっと参加してないみたいだけど」  
「そんなのはどうでもいいんです」  
「……へ?」  
「それより、今日はどこで遊びましょうか」  
 
七咲は部活動を、『そんなものはどうでもいい』と言い捨て、僕の腕に自分の腕を絡ませてくる。  
まさか、水泳部で何かあったのか?  
それでここ最近様子がおかしかったのか?  
七咲が大好きな水泳を『どうでもいい』なんていうはずが無いんだ!  
 
「ちょっと待って逢、水泳がどうでもいいって、どういうこと?何かあったのか?」  
「別に、何もないですよ。そろそろ退部するつもりですし」  
「なっ!?嘘だろ、いったい何があったんだ」  
「だから何もないですって」  
「そんな!何かあったんだろ?僕に相談してくれよ!」  
 
七咲の言葉には、なにも感情をが含まれていない。  
そうする事が当然という態度で言葉を発している。  
 
「塚原先輩には相談したのか?それに逢だって、強化選手に選ばれて、僕に報告するって約束したじゃないか!」  
「……だって、時間がなくなるじゃないですか」  
「え?」  
「部活なんかしてたら、先輩と一緒に居る時間が少なくなるじゃないですかっ!」  
「なっ!」  
「私は先輩と一緒に居たいんです!片時も離れたくないんです!学校の授業も嫌!部活も嫌!  
会える時間が休み時間や登下校の時だけなんて少なすぎる!家にも帰りたくない!ずっと先輩と一緒に居たい!  
先輩と話をして居たい!先輩と触れ合って居たい!先輩の言う事なら何だって信じられる!」  
 
いっきにまくし立てた七咲は、肩で息をしながら続ける。  
 
「私は、先輩と居られるなら、何だって、出来るんです」  
 
気が付けば、僕たちの周りには人だかりが出来ていた。  
人だかりだけでなく、教室に残ったクラスメイト達も「痴話喧嘩か?」「なんかすごい事言ってない?」などとざわめいている。  
僕はというと、七咲のあまりの告白にその場に立っていることがやっとだった。  
 
「ちょっと橘君、あまり大きな声で騒がないほうがいいわ、他のクラスはまだHRしている所もあるんだし」  
 
そう言って僕らの間に割って入ってきてくれたのは、クラスメイトの絢辻さんだった。  
絢辻さんは人だかりに向かって 解散解散 と促し、他のクラスメイトもそれに従い散っていく。  
当事者である僕らに対しても 貴方たちも帰りなさい と言い、喧騒の収まった教室へ戻っていった。  
しかし七咲はその場から動こうとはせず、僕をじっと見つめている。  
 
「……逢、今日は別々に帰ろう」  
「……」  
 
しばらく無言で僕のほうを見ていたが、 お先に失礼します。 と一言だけ残して去っていった。  
さて、今日はこれからどうしよう。  
 
 
1.絢辻さんにお礼を言ったほうがいいな  
2.水泳部の先輩に相談してみよう  
3.やっぱり七咲の後を追ってしっかり話し合おう  
 
 
別々に帰ろうとは言ったけれど、七咲のさっきの異常な告白が頭から離れないよ……。  
やっぱり七咲の後を追ってしっかり話し合おう。  
僕は自分のカバンを持って、七咲の後を追いかけた。  
 
「あの後ろ姿は……」  
 
階段で見つけた姿は七咲だった。  
2年の階から更に上の階に向かっているみたいだけど、帰るんじゃないのか?  
でも丁度いいかもしれない。  
このままなら多分屋上へ行くルートだ。  
今の時間の屋上なら人気も少ないし、七咲とゆっくり話しをする事が出来る。  
案の定 七咲は3年の階から屋上へ続く階段を上っていった。  
よし、僕も後を追うぞ。  
 
周りに人気の無いことを確認して、いっきに階段を上る。  
ドアを開いて屋上へ出るとそこには――――七咲の姿は無かった。  
 
「あれ?確かに屋上に行ったと思ったのに……」  
 
周囲を見回すが、どこにも七咲の姿は無い。  
 
「おかしいな、まさか見間違え―――――」  
「やっぱり追いかけてくれたんですね先輩」  
 
ドゴッ!  
 
後頭部に走る激痛と共に、僕の意識は暗闇に沈んでいった。  
薄れ行く視界の中で最後に目に映ったものは、能面のような笑みを浮かべた七咲の姿だった。  
 
 
「―――ん―――痛っ!!」  
「あ、おはようございます先輩」  
「…あ……い?………ここは……僕は、一体……」  
「こんな素敵な場所があったんですね。もしかして食堂の屋根にいた猫を助けた時も、ここから行ったんですか?」  
 
目を覚ますと僕は秘密の部屋に居た。  
いまいち自分の置かれている状況が理解できない。  
目の前の七咲は椅子に座って、ダンボール箱に隠してあった僕のお宝本を読んでいる。  
 
「あ、逢!その本は!っていうか、どうやってここに!?」  
「先輩ってば、こんな場所にこんな本を隠してたんですね。まったく……」  
 
七咲の読んでいる本を取り上げようとしたが、体が動かない。  
殴られた後遺症だとかそんな理由ではなく、ただ単に物理的に手足を縛り上げられているようだ。  
 
「ちょ、ちょっと逢!なんで僕が縛られてるんだ」  
「ふぅん、ローアングル探偵団ですか……ところで先輩」  
「先輩はこの眺めが好きみたいだから、と……えっと、順番に答えていきますね」  
 
七咲は椅子から立ち上がり、手足を縛られ床に寝ている僕のそばで立ち止まった。  
必然的に見上げる視線になるが、その視線の先にはスカート姿の七咲がいる。  
このアングルはっ!ローアングル探偵団28ページの2コマ目じゃないかっ!  
自然とスカートの中に視線が釘付けになるが、部屋の薄暗さでいまいち奥まで見えない。  
なんでカーテンが閉まってるんだよこの部屋はっ!  
 
「ふふ、先輩ってばこんな状況なのに相変わらず私のスカートの中が気になるんですか」  
「ち、違うよ。それよりこの状況は……」  
「えーっと、この場所は先輩の方が良くご存知ですよね?やっぱり屋上の隅にある扉から入るんですね」  
「頭がズキズキするんだけど……」  
「さっき私が屋上に行くフリをしたら、先輩が追いかけてきてくれたので、屋上のドアの影でやり過ごして、備え付けの消火器で後ろから殴ってここに連れ込んだんです」  
「しょ、消火器で殴ったのか……通りで十分な重みがあったはずだよ」  
「もう手当てしてあるんで平気ですよ。ちなみにここへの鍵は先輩のカバンの中から失敬しました」  
「で、縛られている理由なんだけど……」  
「先輩、私、気付いたんです!」  
 
最後の疑問に対して出された回答は。  
七咲は、すでに、どこか壊れているみたいだ。  
 
「今の状況って最高だと思いませんか?見たところ、ここの部屋は先輩以外の人の出入りは無いみたいですね。  
つまり、ここにいつでも先輩が居れば、私はいつでも先輩に会えるんです。先輩の身の回りの世話は私がやります。  
ご飯だって用意しますし、掃除も洗濯も全部やります。着替えだって用意します。全部私に任せてください。  
……運動不足にはなっちゃいそうですけど……、私と沢山運動すれば大丈夫ですよね」  
「逢……」  
「それじゃあ、少し買い物と必要な荷物を持ってきます。この本はもう処分しちゃいます………先輩、くれぐれも騒いだり、逃げようとしたらダメですよ?」  
 
七咲はそう言うと、この部屋から出て行った。  
 
手足を縛られているのに逃げられるはず無いだろ……。  
それにここの部屋の位置は僕が一番良く知っている。  
多少の声や音なら外に漏れやしないんだ。  
 
なす術もなく、時間だけが過ぎていく。  
そういえば今日はお昼ご飯も食べてない。  
縛られているおかげで時間の確認も出来やしない。  
けどカーテンの隙間から差し込む光から判断しても6時を回っているだろう。  
どうにかして七咲を説得する方法を考えなきゃ……。  
 
「このまま夜遅くになれば、きっと美也だって心配する……よな」  
 
 
「ただいま戻りました」  
 
結局、何も良い案は浮かばないうちに、七咲は戻ってきた。  
両手に大きなビニール袋を2つも抱えて……。  
 
「じゃーん、お寿司ですよ。私達二人の新生活ですから、ちょっと奮発しちゃいました。本当はラーメンがよかったんですけど、  
ここの部屋ってお湯がないと思ったんで。今度ポットを用意しますね。それと、先輩の歯ブラシに先輩の――――」  
 
袋から生活必需品を次々と取り出す。  
本当にここで生活するつもりらしい。  
 
「夕飯にしましょう、先輩お昼食べてないからお腹すいてますよね。はい、召し上がれ―――ってそんな状態じゃ食べられませんよね」  
 
七咲はパック寿司を片手に、床に仰向けのまま寝転がっている僕の上に腹部に座り込む。  
 
「私が、食べさせてあげますね―――――んむ」  
「ん!?ぐむっ!」  
 
口移しで寿司を食べさせられるなんて体験は初めてだ。  
というより、口移しで物を食べること自体が初めてだったが、思った以上に食べづらい。  
固形状だった寿司ネタとシャリが、七咲が咀嚼したことでドロドロの半固形物に変わっている。  
舌で無理やり口を開かされて、次々に口内に送り込まれる。  
しかも仰向けという姿勢のおかげで、飲み込むことも簡単にいかない。  
 
ん!ぐ!―――っ!げほっ!  
 
無理な姿勢のまま飲み込もうとしたおかげで、半固形物のそれが軌道に入りかけ咳き込んでしまった。  
七咲の唾液と僕の唾液の入り混じった寿司だった物を軽く吐き出してしまう。  
 
「こんなに汚しちゃって、まったく先輩は私が居ないとダメですね」  
 
僕の口の端から垂れ流れている物を、七咲は舐め取る。  
それは幼い子猫に対する母猫の行為のようにも見えた。  
 
「好き嫌いはダメですよ先輩」  
 
違う、そうじゃない。  
こんな格好のまま食事が取れるか!  
 
こうして食事を摂り、食後に七咲の膝枕で歯を磨かれた。  
 
そして今僕は、すぅすぅと寝息をたてる七咲に抱きしめられながら布団の中に居る。  
この布団は保健室から持ってきたのだろうか?  
そもそも、他の先生や生徒に見つからなかったのか?  
いろいろと思うところはあったのだが、僕は考えることを放棄して、眠りに付いた。  
 
 
そしてこんな生活がそんなに長く続くはずなく。  
僕が監禁されてから2日目の夕方、唐突に終わりを告げた。  
 
助けに来てくれた美也や絢辻さんや塚原先輩には感謝している。  
もう1日発見が遅かったら警察に捜索願を出していたらしい。  
 
七咲はというと、屋上から飛び降りた。  
幸い命は取り留めたらしいが、いまだ病院で意識が戻っていないという。  
 
 
一体、何が悪かったのかなぁ。  
 
BAD END  

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル