――小さい頃から、ずっと一緒だったし、これから先もずっと一緒だと  
思っていた。  
 それを人は恋愛感情と呼ぶのだと教えてくれたのは、パパでもママでも  
友達でもなく、まして自分で自覚した訳でもなく、わたしが好きな人と一緒  
にいる少女だった――。  
 
 中学に入って、クラスが別れると純一とわたしは朝の登校を共にする  
くらいで、妙に疎遠になっていた。それが寂しくて、彼の教室の前をうろ  
うろしている内に、わたしは気付いた。  
 梅原くんと純一と――そして、もう一人。女の子がいつもいることに。  
 棚町薫。彼女はなぜだかわたしの幼馴染みと……うまが合う、らしい。  
 
 弾けるような笑顔、とはああいう笑顔を呼ぶのだろう。  
 背中を叩く強い力も、彼の隣にいる勇気も、何もかもわたしにないもので。  
 
 それはなんだか、とても胸が痛い事実だった。  
 だって。  
 わたしにないものを、純一はあの子に求めている。  
 わたしはあんなに強く背中を叩けない、わたしはあんなに堂々と彼の隣を歩けない。  
 
 胸が、苦しい。ずきずき、いたい。  
 毎朝毎朝、いつものように登校するたびに怖くなる。  
「ねえ。やっぱり、棚町さんと一緒に登校したい?」  
 そんな質問を、爆弾のように弄ぶ。答えを聞いてしまったら、終わってしまうような気  
がしたけど、決着をつけなくちゃという気持ちもあった。  
 わたしはただの幼馴染みで、棚町さんは純一の彼女で。だったら、わたしがいつまでも  
この登校に固執する理由はない。  
「……梨穂子、どうした? 眠いのか?」  
「え? あ、うん。えっと……中学になってから、勉強とか厳しくなったよね」  
「だよなー。テストがこんなにダルい行事だったなんて思わなかったよ。うち、テスト一週間  
前はゲーム禁止なんだ」  
「へー」  
 
 他愛ない会話を一つ交わすたびに、それを大切に記憶の宝石箱にしまいこむ。  
 もうすぐ、こんな日も消えてなくなる。  
 きっと、もうすぐ……。  
「おーっす純一ぃっ!」  
 そんな声が背後から聞こえたかと思った途端、幼馴染みが飛んでいた。  
「だっ、おまっ、薫ぅっ!」  
「さーらーばーだー!」  
 ……え、いま、何が起こったの?  
 とにかく、慌てて彼に駆け寄った。  
「だ、大丈夫?」「薫め……僕の背中を思いっきり蹴りやがった……おのれ……  
復讐してやる……」  
「ぶ、物騒なこと言ってないで。ほら、よいしょっと」  
 手を貸して、立ち上がらせる。背中に蹴り跡がついているのがなんだか悔しくて、  
ぱんぱんと払ってかき消した。  
「さんきゅ」「どういたしまして……。ね、純一。今のは……」  
「棚町流の挨拶だろ、たぶん……」わたしより、よっぽど疲れた表情でそう呟いた。  
「へ、へぇ……」  
 わたしは、なんだか自分が負け犬みたいに惨めで、ひがむように言う。  
「純一の、彼女って過激なんだ」  
 反応が怖くて思わず目をつむる。照れたり、はにかまれたら、もう今日は学校行くの  
やめようなんて決意をしてしまう。  
 
 ところが彼の反応は、  
「………………は?」  
 関心がないというか、淡泊というか、とにかくわたしの考えていた最悪の反応からは  
大きく外れていた。  
「あんな乱暴な彼女はちょっと遠慮したいなぁ……。彼氏になる奴に同情はするけど」  
「で、でも。一緒にいて、楽しいって」  
「遊ぶ分には楽しいよ。そりゃ。でも、彼女となるとちょっとなぁ……」  
「へ、へぇ〜」あ、まずい。なんかスキップしてしまいそう。  
「第一、僕の理想はだな……」「り、理想は?」  
 純一が、何となく照れくさそうにそっぽを向いて答えた。  
「よく考えたみたら、なんで朝っぱらから梨穂子相手にそんなこと言わなくちゃいけないんだ」  
「えー、ずるいよーっ」ずるい、それはずるい。ここまでわたしの心を掻き乱していたんだから  
責任は取るべきだと思う。  
「ずるいったってなぁ……」  
「純一の理想、知っておきたいの」……本音が思わず、ぽろりとまろびでた。  
 彼は、頬を赤くしてぷいすとそっぽを向いて呟いた。  
「と、年上の。大人の魅力とかそういう感じの。や、優しいタイプ」  
 ………………あ、わたし、年上だ!  
 途端に、胸をぐいぐいと締め付けていた何かが音を立てて外れた。なんだか一気に、  
生きているのが楽になった気さえする。  
「そーかー」  
「り、梨穂子だって理想のタイプとかあるだろ。僕も言ったから、お前も言え」  
「えぇぇぇっ」り、理想のタイプ? ええっと、あの、その、ええと……。  
「ほら、早く!」  
 せかす彼に、わたしはほとんど反射的に口を滑らせていた。  
「い――」  
 
 
 いつもそばに、いてくれる人。  
 
 
 

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