か、薫が男になった……。なんて事だ……。  
 
「待てって!逃げるなよ!」  
「く、来るなあぁぁぁぁ!!」  
薄暗いアトラクションの中、所々体をぶつけながら必死に走る。  
気が付けば、スタート地点近くまで戻ってきてしまっていた。  
二人で息を切らしながら壁に寄り掛かり、呼吸を整える。  
「はあ、はあ……」  
「ふう、はあ……。おい、逃げるなって」  
「む、無理言うな……はあ」  
そりゃ、いきなり女の子が男になって追いかけて来たら逃げるに決まっている。  
しかもそれが親しい友人であるならなおさらだ。  
……いかん。取りあえず冷静にならねば。  
 
「あー……。やっと落ち着いてきた……。  
 しかし驚いたな。一体何がどうなってるんだ?」  
「あはは。さあな。でもおもしれーから良いんじゃねぇ?」  
「お前な……」  
困惑する僕を尻目にあっけらかんとしている薫。もっと驚くとか反応は無いのか。  
「はぁ〜〜……。うん、これは貴重な体験だな。まさか男になっちまうとは予想してなかったぜ」  
「僕もだよ……。なんか心なしか声も低くなってる気がするし」  
男姿の薫……。こうして見ると驚くくらい違和感が無い。なんだか昔からの親友のような雰囲気だ。  
……ん?男?という事はやっぱり……  
 
そういう事なのだろうか。……気になる。今は男同士なワケだし、多分大丈夫だろう。……よし。  
「薫……。お前は今、男の身体になっている。そうだな?」  
「あ?あぁ、そうだな。見れば分かると思うけど」  
……うん、我ながら良い事を思い付いたぞ。ふふふ。  
日頃の仕返しだ。薫に目に物を見せてやろう。  
 
「なあ、薫。この貴重な体験を良い思い出にしたくないか?」  
「おいおい、当然だろ?だからさっきから手つなごうぜ〜とか提案してるんじゃないか」  
「よし。じゃあそれに先駆けて確認したい事があるんだ。良いよな?」  
「?……おう、別に良いぜ。何を確認したいんだ?」  
その言葉が言い終わった直後、僕は目にも留まらぬ速度で  
薫の股間に手を差し込み、そこにあった異物を握り締めた。  
「ひぅ!!?」  
「おー……。これは中々……」  
刹那、顔面に強い衝撃があり足がふらついた。薫のストレートが頬にクリーンヒットしたのだった。  
 
「い、いきなり何すんだよ!!」  
「ぬおぉぉぉぉ〜〜……。普段の二割増し効くなぁ……。流石男のパンチだ……。  
 だが薫。この程度で慌ててちゃ駄目だよ。男の間ではこのくらいのスキンシップは当たり前なんだから」  
「そ、そうなのか?」  
嘘ではないはずだ。梅原とも似たような事をした記憶があるし、女の子だって  
女の子同士で胸を触りあったりしているらしいではないか。まあ、実際に美也と中多さんのアレを見たから自信を持って言える事なのだが。  
 
「ああ、そうだよ。確認したかった事ってのはコレさ。立派な物持ってるじゃないか」  
「お、おお……ありがとう、で良いのか?」  
「うん、良いと思うよ」  
今の感じ……僕のより大きい気がする……。軽い劣等感に襲われるが、気にしない事にしよう。  
さて、ここからが本番だ。薫がどんな反応をするか楽しみだな。  
 
「で、だ。そんな男になってしまった薫くんに見せたい物があるんだ」  
「ん?見せたい物?なんだ?」  
ごそごそと自分のバッグを漁る。そして一冊の本を取り出した。  
「それは……これだ!!」「こ、これは……『チラリの殿堂 ちらりずむ・てんぺすと』……?」  
僕のお気に入りのお宝本だ。かなり際どい表現があるんだよなぁ。  
「そうだ。この本を今の薫に読んでみて欲しい。そして感想を聞かせて欲しいんだ」  
「そ、それは構わないけど……一つ聞いても良いか?」  
「なんだ?」  
 
「なんでデートにそんなもん持ってきてんだよ……」……うっ。痛い所を突かれた。正直、自分でも何故だか分からない。  
「そ、それは……。――そ、そうだ!  
 この前梅原と遊んだ時から中身の整理をしてなくて。だからだよ!決して変な目的で持ってたワケじゃないから!」  
 
「ふ〜ん……。まぁいいや。取りあえず見せてみろよ。俺もちょっと興味あるし」  
お、『俺』か……。いまさらながら、今、薫は男なんだなと実感する。  
「う、うん。見てみてどんな具合か教えてくれ」  
「どれどれ……」  
以外と薫もノリノリだ。まあ、そちらの方が僕にとっても都合が良いからこの流れに任せておこう。  
ぺらり、とページをめくる音がやけに大きく聞こえる。その様子を横から眺める僕。何故だかすごくドキドキするな……。  
 
すると、早速反応があった。  
「うおおっ!これはかなりキてるな」  
「おっ、このページは僕も好きなんだ。危うい布の位置とかたまらないよな」  
「ああ、そうだな」  
その後も『ああっ』とか『おおっ』とか感嘆の声を上げる薫。  
どうやら興奮していると言うより楽しんでいるようだ。しかし、いつまで楽しんでいられるかな?  
 
……と、ついにその時が来たようだ。  
「ぬあああっ!!こ、これは!!」  
「ははっ、やっと辿り着いたか。どうだ!この破壊力!!」  
そこに写し出されたTシャツ一枚姿のグラビアアイドルの……アレが……  
「見えてね!?これ見えてね!?なあ純一!!」  
「お、落ち着けよ。確かにかなりの上物だけどさ……」  
 
「だって!お前これはどう考えてもアウト……あっ……?」  
来た。ついに来た。僕の期待していた変化の時が。  
 
薫のアレ……ムスコがズボンを窮屈そうに押し上げている。その様は何処から見ても一般的な健康男子のそれだった。  
「ふふふ、どうしたのかな?薫くん。様子がおかしいけど……」  
「え、あ、いやなんでもなあっ……」  
未知の感覚に翻弄されているらしいのが伝わって来る。かわいい奴だ。  
「いやらしい気持ちになってきちゃった?」  
「ま、まあ多少は……な。こんな本見てればそりゃ……」  
「勃ちもする、と」  
「え……ええっ!?」  
どうやら、自分の状態に今気付いたようだ。顔を真っ赤にして何かを否定する。  
「い、いや!ちげぇよ!違うんだ!!これは……」  
「良いんだよ、薫。恥ずかしがらなくても。この反応は当然の事だからな」  
「そういう問題じゃなくて……うあっ!?」  
 
僕は薫のムスコに手を置きぐりぐりと動かす。  
男同士で一体何をやってるんだろう……と一瞬考えたが、薫の表情があまりにもかわいくてそんな冷静な考えはすぐに崩れ去った。  
そう、これはいつもの仕返しなのだ。こんなに自分が優位な状態は滅多に無い。今しかチャンスはないんだ。  
 
「じゃあ、取りあえずズボンのチャック開けようか」  
「え、おい!ちょっと待っ……」  
有無を言わさずチャックを開けると、男物のトランクスが目に入ってきた。  
おお、さすがファラオマジック。こんな所まで影響が出ているとは。恐れ入るな。  
 
「じゅ、純一!もうやめてくれ!!勘弁して……」  
「でも、こんな状態じゃ歩くのも大変だと思うけどな」  
「うっ……」  
薫のそれは見ていて可哀相なくらいに腫れ上がっていて、僕だったら辛抱ならないであろうモノだった。  
「じゃ、じゃあどうすれば……?」  
ひっぱたかれるかもしれないと思ったが、ここまで来て後には引けない。意を決して言った。  
「簡単な事だよ……オナニーで全部吐き出しちゃえば良いんだ」  
 
「うえぇっ!?オ、オナ……って……。お前、なんか調子に乗ってないか……?」  
「とんでもない。僕は薫の為を思って言ってるんだよ。  
 せっかく男になったんだ。……男の悦びを味わいたくはないか?」  
「お、男の悦び……」  
揺らぐ彼女の……いや、彼の心が手に取るように伝わってくる。  
「普段とは違う快楽が味わえる事間違い無しだ。僕が保障する」  
「ア、アレとはまた違う……ゴクッ……」  
普段も自分を慰めている事を、さりげなくカミングアウトする薫。本人がそれに気付いていない所がまた興奮を煽る。  
 
「そう、アレとは違う気持ち良さだ。この機を逃したら  
 もう一生体験する事が出来ない気持ち良さだ。……どうだ?やってみる気にはなったか?」  
 
彼……は、しばらく眉間にシワを寄せた難しい顔をしていたが、決意をしたように一気に喋りだした。  
「しっ、仕方ないな!仕方ないからやってやろうじゃないか!  
 良いか!?お前に言われたからするんであって決して自分の意思でするんじゃないんだからな!!」  
明らかに強がりな言葉が愛おしい。  
思いのほか事が上手く運んで満足な純一であった。  
 
「じゃあ……す、するぞ……」  
そう言いながら恐る恐る自分のモノを取り出す薫。  
見慣れぬ異形を観察するかのようにまじまじと見つめるその様は、見ていて少し可笑しい。  
「で……どうやってするんだ?」  
「う〜ん、そうだな……。取りあえずぐっと掴んで上下に手を動かせば良いと思うよ」  
「こ、こうか?」  
 
しゅっ、しゅっと音を立てて扱き始める。すると、すぐに反応が現れた。  
「んあっ!!な、なんかキュンってなった……」  
「良いね。その調子でどんどん扱くと気持ちいいかもな」  
「そ、そうか……んんっ!!」  
ピストン運動はどんどんと加速していく。もはや自分でも制御仕切れないようだ。  
我慢汁が指と亀頭を濡らし、それが潤滑油となってさらに運動速度は上がって行く。  
「あ、あ、あ!!なんか……なんか来るっ!!!」  
「よし!そのままイッちゃえ!!」  
「あ……んああぁぁぁっ!!!!」  
 
その瞬間、激しく精液が飛び散り辺りを汚した。  
……純一秘蔵のお宝本も例外無く。  
「あぁっ!!僕の『ちらりずむ・てんぺすと』が!!」  
「はあっ、はあっ……それくらい、多めにみろよな……」  
 
 
 
僕達は、再びアトラクションの出口へと向かっていた。その道すがら感想を聞いてみる。  
「どうだった?」  
聞くと、恥ずかしそうに小さな声で答えた。  
「……良かった」  
こんなに素直でしおらしい薫を見るのは初めてかもしれない。  
これが女の子の状態の時だったら凄く可愛いんだろうな、と思った。  
 
と、その時……。またしても奴が現れた。  
『ウォォオオオオォォ〜〜ン!!!』  
「うあああああぁぁ〜〜〜っ!!!」  
キ、キング……。くっ、二度目なのに思い切り叫んでしまった……。  
「おっ、また出たな!」  
なんでお前はそんなに平気でいられるんだ……。  
『我の眠りを妨げる者よ、千年王国の呪いを受けるがいい!!』  
え?呪い?また?今の状態で喰らったらどうなっちゃうんだ?  
『ウォォォオオオオォォ〜〜〜ン!!!』  
「うわぁぁっ!!」  
「うおおっ!?」  
 
 
「あ、あれ……何ともない。……という事は!」  
薫がまたおかしな事になってるに違いない!しかし僕はもう何が来ても驚かないぞ!!  
さぁ、何だ!?例え幼女になろうとラーメンになろうと辞書になろうとっ!!僕は驚かないっ!!!  
 
「……あ、戻った!」  
……え?  
そこにはこのアトラクションに入る前の……女の子の薫がいた。  
「なによ〜、もう終わり?『次はどうなるんだろ?』って期待しちゃったじゃない!」  
「あ、薫。元に戻ったんだ。良かったね」  
「ああ、そうね。純……一……」  
薫の喋りが止まる。顔付きも驚愕と言った具合だ。  
「? どうしたの?」  
「あ、あんた!そこの鏡見てみなさいよ!早く!!」  
「鏡?……あ」  
……まさか。まさかとは思ったけど……。さっきからなんか声は高いし髪は耳に掛かってるし……。  
鏡には、ボブヘアーの女子制服を来た女の子が写っていた。明らかに薫ではない。と言う事は……。  
 
「えええええぇぇぇぇ!!!!」  
「あっはっはっは!!可愛い!可愛いわよ純一!いや、純子ちゃんかな?」  
「な、なんてこと……」  
なんてことだ、なんてことだ、なんて事だ!恐れていた事態に陥ってしまった!!  
「……ふふふ。さっきは男の悦びを教えてくれてありがとう、純子ちゃん?」  
びくりと身体が震えた。背筋がぞくぞくする。これが戦慄するという事だろうか。  
「あ、あああ……」  
「今度はあたしが女の悦びを教えてあ・げ・る♪」  
「き、きゃーーーーーーっ!!!!」  
今日が終わるまでまだまだ時間がかかりそうだ……。  
 
                                    End  
 

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