赤毛はもう目の前だというのに、なんだこの様は
やっと見つけた弟の仇。殺さねばならない人間
あともう一歩というところで乱入してきたこの男…
なんだコイツは
さっさと殺してしまいたいが、厄介なことにコイツの能力に捕まってしまった
木々を粉砕するシャボン玉。それが正に今自分の体のすぐ側を取り囲んでいる
目の前のシャボン玉など、虹色に妖しく光るのがはっきり見えるほど顔に接近している
体を少しでも動かせば、ひとたまりもない
せめてもの抵抗と、ギッと蓬髪の男を睨みつけてやるが「おお怖っ!」なんてふざけるばかりで動じない
まったくなんて厄介なヤツだ
男はゆっくりと動きを止められ何も出来ない私に近付いてくる
「ふぅん…」
じっと身を固める私の周りを、ゆっくり、ゆっくりと歩き観察する
なんか、嫌だ。嫌な感じだ。
視線がちくちく刺さるのが直に感じられた
ただ見られている、それだけなのに、このくすぐったさはなんだろう
男が背後に立った。こちらからは全く様子がうかがえないのに、何故か首の辺りを見られているのがわかった
首筋がくすぐったい…痒い
嫌だ
「…悪くない」
ぼそりと男が呟いたのがハッキリと聴こえた
ぞわり、と首筋が粟立つのがわかる
悪くない、だと?それはどういう意味だ
2男はいきなりしゃがみこんだ
「…っ!」
私の脚をつっ、と指の先で触れた
思わずがくりと脚が崩れそうになり、慌てて体勢を立て直す
「な、何だ」
「いい動きするもんなぁ〜筋肉ついたキレーな脚だな」
うるさいお前なんかに褒められたって嬉しくない…と噛みついてやるつもりが、男の次の行動にそれはかき消された
かぷっ
「……ぅあッ!?」
噛まれた。
やたら並びの悪い歯が私の膝の裏辺りに柔らかく食い込んだ
「ななな何をしている!!」
「あっはは驚いてやんの」
「当たり前だ!放せッ!私はあの女を」
「まぁいいじゃんそれは後でで」
「…はぁ?」
「ちょっと俺と遊んでよ」
意味がわからない。コイツはいったい何がしたいんだ?
赤毛を助けたいんじゃないのか?私を殺したいんじゃないのか?
「…っあ!?やッ…!」
するりと隙間から服の下に手が滑り込んできた
ぎゅーっと上から男の身体が乗しかかってくる
はねのけようとするが頬に冷たい感触を感じて手を止めた
シャボン玉を頬に押し付けられていた
横目で男の顔を覗くと、ニヤニヤ笑っていてすごく不快だ
「んっ…!やだやだやめろっ…ぅ…!」
異様に器用な指が下着と肌の隙間に侵入してくる
ゆっくり、焦らすように、私の肌の感触を確かめるように
どんどん私の身体が侵蝕されてゆく
嫌だ嫌だ不愉快だ
私の中に侵入ってくるな!
あぁ、かきてぇ〜…男のうっとりとした声が耳の側で聴こえて、くすぐったさに身をよじる
かきたいって何!何を!?何が!?
私の疑問など露知らず、さらに指は私の深くへと侵入し、私の肌の上を這う
「ふぁっ!?」
「んん?どうかした?」
「っあんっ…やっ、そこっ」
「…あー、ここが気持ちいいんだ」
耳元に囁かれる。耳の端に歯が辺り、舌が穴の中へいれられる感触。唾液の絡む音が大音量で聴こえた
身体中の血が、怒りとは違う理由で、一気に頭にかけのぼる
自分でもわかるほど顔が熱い
「ちッ…ちがっ…ぅ」
違う!気持ちよくて堪るもんか!
こんな…恥ずかしいことをされて…!
そうだ。私はこんなことをしている暇はない
今は…今は赤毛を追う!
「ん?」
指先に氷の爪を産み出す。
「!」
気付いた蓬髪の男は後ろに飛び退いた
忌まわしいシャボン玉共を全て叩き破る
余波を受けて体のあちこちが痛いが、そんなことどうでも良い。これで邪魔者はいなくなった
とにかく一刻も早くこの場から逃げ出したい
嫌なんだ!あの男も、あの男の能力も…少しでも気持ちいいなんて感じてしまった自分も!!
必死で走りながら振り向くと、ガチャガチャの歯を見せて愉しそうに笑う男が見えた
心底私との「遊び」が楽しかったとでも言いたげな表情がむしょうに腹が立った
待っていろ、また「遊ぶ」ことになるだろう
その時は…必ずお前も赤毛と一緒に息の根を止めてやる!
「…ううっ」
アイツが見えなくなっても、赤毛を追うことに意識を集中させても、
あの指の感触が、いつまでもいつまでも身体にまとわりついて
なんだかすごく、嫌だった