「わ、悪かったよ岡田ぁ。もう、お前の友達なんか苛めないようぅ」  
「岡田君って強いよね。」  
「友達思い出しねぇ。」  
「カッコイイよ岡田君!」  
 
 ・・・嘘だ  
 
「あ、ありがとうね。岡田君。」  
 
「まさに岡田君はヒーローだよ!」  
 
 ・・・違う、止めろ  
 
「何時だって助けてあげるよ!なんたってボクは」  
 
 ヤメロッ!!  
 
 
「ッ!!」  
 何かにはじかれた様に、僕は起き上がった。  
 目の前に広がるのは、白い壁と西洋風の額縁に収められた一体何を書いたのか分かりもしない絵。  
 そして、その隣には僕のお気に入りのポスターが一枚・・・だが、生憎眺めている余裕はなかった。  
「っはぁ・・・っはぁ・・・」  
 呼吸が荒い。眠気も完全にすっ飛んでる。  
 それに全身汗まみれ・・・ってこれは何時もの事か。  
 外を見ればまだ、日が昇ってから間もないらしく、外は薄明るい。  
 軽く汗を拭い、呼吸を落ち着かせようとする。  
 
 物すっごく嫌な夢だった。  
 思い出したくも無い、小学校時代のボク。  
 自分を『ヒーロ』なんて言ってた、胸糞悪い記憶・・・  
 嗚呼嫌だ嫌だ!言葉にするだけでも気分が悪くなる。  
 取り合えず落ち着こう、目の前のポスターを見つめてれば自然と気分も・・・  
 
「うわっ!?」  
 俯いていた顔を上げた途端、目の前に突然一人の少女の顔が映る。  
 驚いて体を仰け反らせようとして、僕の体は、無様にもベットから転げ落ちる。  
 体が床に落ちた瞬間、岩でも落ちてきたような音と地震でも起きたような揺れが同時に起こり、目の前の額縁と僕のコレクションが幾つか崩れ落ちる・・・  
 糞ッ、ボロ屋敷め。  
 
 心の中で悪態をつきながら、重く上半身を起こす。  
 そして、再び少女の顔がややぼやけ気味に現れる。今度はさっきの事を考慮してか、横から覗く様に此方を見ているようだった。  
 片手でベットの眼鏡を手探りで見つけ、それをかける。  
 ぼやけ気味だったこの子の顔が鮮明に映る。その顔は僕を心配そうに見つめていた。  
「っはぁ・・・だ、大丈夫、心配しなくてもいいよ死神ちゃん。」  
 汗だくのまま、ニッコリと微笑む、彼女も安心したのか、愛らしく微笑んでくれた。  
 嗚呼、癒される。その微笑のお陰でさっきの夢がなんだったか頭から消えちゃったよぅ♪  
 
 僕の能力、『死神の約束』。  
 相手と約束を交わし、その約束を破った相手を殺すことができる、他の奴らよりもとっても良心的な能力♪  
 そして、目の前にいる漆黒の布一枚のみを身にまとっているだけの、白髪で可愛いこの子こそ、僕の『死神の約束』の化身である死神ちゃん♪  
 僕の一番大切な子。  
 
「今日も可愛いよぉ、死神ちゃん♪」  
 暫くの間、この和やかな空気を浸っていたときだった・・・  
 
 
 突然、轟音と共に、僕の部屋のドアが吹っ飛ぶ。  
 いきなりの出来事に、僕はビビリ、飛び上がった。  
「っせぇなぁ・・・・・」  
 吹っ飛ばされたドアから現れたのは、もじゃもじゃな蓬髪のいかにも不機嫌そうな顔だった。  
 確か、コイツは由良・・・僕がここに来る前からいた僕と同じ能力者。  
 正直、この男は嫌いだ(もっと正直言えば、好きな奴なんていないが)。  
 何考えてるか分からないし、こんな風に時々、菓子を漁りに僕の部屋に勝手に入ってくる。  
 この前も、『期間限定 ガーリックハバネロ ポテト』を取られた上に、「何だよコレ!辛ぇじゃネェか」って八つ当たりしてきやがった。  
 
「こんな時間から、でけぇ音なんかたてんじゃねぇよ・・・ふぁぁぁぁ、ねみぃぃ」  
 眠そうな顔で、不潔そうな頭をボリボリと掻きながら、由良は僕を睨めつけた。  
 僕はと言えば、完全にビビってしまい、返す言葉が見つからず、鯉みたいに口をパクパクさせるのみ・・・  
 そんな僕を見て、由良は怒る気が失せたのか、つまんなそうな顔で軽く僕の部屋を見渡し、自分の目の前にあった物を手に取った。  
「あ」  
 思わず声が出た。  
 由良が手にしたのは、昨日近くの店で買った『期間限定 キュウイペフシ(カロリーゼロ)』。  
 そう言えば、それを買ったコンビニの間抜けそうなレジ打ちが気に入らなかったから『今度からレジ打ち間違わないでね』って約束したけど、どうなったかなぁ  
 あの調子だと、もう死んじゃったかなぁ、ぶへへへへw  
 あぁ、余計な事思いだしちゃった。  
 
 僕が声を上げた理由は、単に由良が僕のペフシを取ったっていう訳じゃなくて・・・いや、それも若干あるけど  
 原因は、由良の持ってるボトルの『美少女フィギュア ボトルキャップ』だ!  
 しかも、ただのボトルキャップじゃない!シークレットだ。  
 あのすっばらしぃフォルム、綺麗〜な容姿。GJなデザイン、フィギュアっていうよりも、まさに芸術!  
 ミケランジェロだのダヴィンチだなんて目じゃないね。  
 その奇跡の功績とも言える僕の、僕の大事なボトルキャップがぁぁぁぁあ  
 
「何だコレ、邪魔くせぇな。」  
 手にとって早々、由良の手がボトルのフィギュアの部分を掴む。  
 あぁ、未来予知ができるわけじゃないけど、この先由良が何をするかが手に取るように分かる。  
 や、やめろ、やめてくれ、やめてください!それだけは、それだけはぁぁぁああああ!?  
 そう心で血の涙でも流しそうな勢いで叫んでいたが、実際は由良にビビっていた僕の口から出たのは「ちょ、ま」の一言。  
 勿論、そんなのこの男が耳に入れるわけも無く、由良の手に力が込められる。  
 
ベキッ!?  
 
 生々しい音がした・・・いや、実際はポキッとか軽い音だったのかもしれなけど、僕の耳にはそれこそ本当の人間の足がもげた様な生々しい音が聞えた。  
「あぁ〜、足だけ残っちまったか、まぁいいか。ホラよ。」  
 そう言って由良は僕の目の前にフィギュアを放った。  
 僕の目に映る、足を奪われた美少女・・・フィギュアなのに、その瞳は何故か悲痛さを帯びていた。  
「ぁ・・・ぁぁ・・・あ。」  
 何か言おうと、口を開くが、喉に何かが引っかかったように、出てくるのは情けない変な声のみ。  
「コレ、もうらうわ、じゃあなぁ。」  
 こんな僕に見向きもしないで由良はペフシ片手に、僕の部屋から出て行った。  
 
 由良がいなくなった瞬間、喉にあったつっかえが消え、奥に溜まっていたモノが溢れ出る。  
 
「NOOOOOOOOOOOOOOooooooooooooooooォォォォォォォォオォ!?」  
 屋敷全体に響き渡るような絶叫だった。  
 僕の隣にいた、死神ちゃんはやや怯え気味に僕を見つめていた。  
 その姿は目に入っていたが、そんなもので僕の悲しみを阻むことなどできはしない。  
 未だ続く、この絶叫から号泣に入ろうとしたその時だった。  
「うるさぁぁぁぁぁぁあい!!」  
 そんな僕の絶叫と互角ともいえる叫び声が聞えたかと思うと、僕の目の前で、僕のP○3が・・・・爆発した。  
 
 機体の上に爆弾でも置かれたように、上部が吹っ飛び、上に置いていたCDは跡形も無く消え去っている。  
 もはや、使用不能なのは言うまでも無い・・・まだ一回しか使ったこと無いのに、僕の六万円が・・・ただの鉄クズに  
 驚愕と恐怖と絶望とかが、僕を金縛りにした。  
 もう、まさに魂が抜け出たって感じ・・・死神ちゃんがアワアワしてる、可愛らしいんだけど、萌える気力すらない。  
 
 声と未だ微妙に黒煙立ち上らせる爆発したMy P○Vにより、未だ見えぬこの暴挙の犯人が誰かはわかってるんだぁ  
 壊れたドアから、またもや顔が出てきた。  
 嗚呼、やっぱりテメェか華音!この糞アマァァァァア!  
 ピンク色のロングヘアーの、いかにも馬鹿そうなチャラチャラした馬鹿女・・・コイツは大っ嫌いだ。  
 入ってきて早々、耳障りな声で叫ぶ。  
「こんな時間から、うっさいのよこのっデブッ!・・・って、キタナ!?」  
 それは、お前が吹っ飛ばしたせいだ、この馬鹿女!!  
 っと言ってやりたい・・・だけど、前の一件もあって、そんな事言える勇気が僕にあるわけなく  
 ただ、僕は放心したフリをして華麗にスルー・・・してるつもりだが、僕の思考と相反して  
 こんな馬鹿女相手に、僕の体は震えていた。  
 
 あの女には、僕の部屋がゴミ溜めにでも見えるのか、鼻つまんで部屋に入ろうとしない。  
 臭いって言いたいの?テメェにはあの消臭剤が見えないのかと。  
 アァ!?このイカレ女何しようとしてる!?伸ばされた手の先にはぁ・・・・NO!?それは駄目!まだ開封もしてn  
「キタナァ〜イ♪アレも、コレも、全部キタナァァ〜イ♪」  
 
 次の瞬間、僕の目の前で何度も小規模な爆発が起こった。  
 今、僕の頬をかすめたのは、きっとお気に入り『萌メイドさん 30/1スケール』の生首・・・体は、今さっき僕の目の前で完璧に砕け散った。  
 嗚呼、次々と吹っ飛んで行く・・・僕の宝物・・・ゲーム機、パソ、CD、フィギュア・・・そしてお気に入りのエ○ゲ。  
 嗚呼、全部粉微塵になってゆく・・・何がなんだか分からないモノへと化して行く・・  
 死神ちゃん・・・あのアママジ殺して・・・いや、能力者相手には効かないとか、どうでもいいから・・・  
 
 
「・・・・(´・ω・`)」  
 いや、そんな困った顔されても困るからw  
 

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