「こんな面倒、もううんざりだわ」
「私だってそうだ」
ベッドの上で、唇をかわしながら、体に触れながら、相手を面罵する。
多分私は頭がおかしい。そして彼も。
「君のような面倒な女ははじめてだ」
「今までの情婦は、そりゃあお手軽だったんでしょうね」
ブラッドの今までの女の話なんて、想像するだけで吐き気がする。
私は多分、彼を罵りながら自分自身を傷つけている。
なんてマゾヒスティック。
「あなたなんて、顔も見たくない」
でも触れていてほしい。自分自身を傷つけるだけの言葉の刃を、あなたに止めてほしい。
「好きな顔なんだろう」
もちろん好きよ。でもそれはあなたの顔だから。
「帰ればあなたの顔を見なくていい。せいせいするわ」
帰らなければならないのに、帰ったらあなたがいない。
帰ってしまえば、私はきっとあなたを忘れてしまう。
帰らなければいけない。あなたを忘れたくない。気が狂いそう。
「その言葉を口にするな」
ブラッドが苛立ちも顕に私の唇をふさぐ。私はうっとりと目を閉じる。
噛みつくみたいなキスの痛みがある間は、私もあなたもここにいるから、私は安心して目を閉じることができる。
もっとして。もっと痛くして。血が滲むくらい。
「だって私、帰らなきゃ」
ブラッドが私を少し乱暴に突き飛ばした。うつ伏せに倒れた私の上に、ブラッドがのしかかってくる。
でも私の服を脱がせる彼の手は慣れて荒さはなく、それが何故か腹立たしい。
「黙れ」
「無理よ」
腰を持ち上げられ、私は肘をついて体を支えた。脚の間に、ブラッドの膝が差し入れられ、閉じることができなくなる。獣の姿勢だ。彼にしがみつくことも、顔を見ることもできない。
「君のリクエストを聞いてやろう」
「リクエスト?……っ」
右の肩口に、歯を立てられた。その跡を舌が這っていく。
それに気を取られているうち、乳房の先を強く摘まれて体が震える。
快感と痛みの、ぎりぎり痛み寄りの感覚。
「痛くしてほしいんだろう?」
「何、それ……ぁ」
私はさっき、本当にわかりやすい表情をしていたに違いない。
ブラッドが低く笑った。
「面倒な女だ。本当に」
「あ……あ、あ」
ブラッドが性急に押し入ってきた。
今まで触れられているうちに濡れてきているとはいえ、
いつもどろどろに蕩かされてからでも身に余るものを受け入れさせられ、抑えきれない声が上がってしまう。
体が軋むほどの圧迫感に、息が詰まった。
「何も考えるな」
耳元に息がかかり、低い声が脳髄を溶かす。器用な指先が、繋がっている処の近く、敏感な部分に触れる。
スイッチが入ったように私の体の力が抜け、支えられた腰だけが高く上がる形になった。
「いや……」
とろり、と奥から熱いものがこぼれてくる。
自分の体が、呑み込んだブラッドに馴染み、絡み、その精を搾り出そうとしているのがわかる。
「は……く、うぅ」
ブラッドが叩きつけるような動きで私の一番奥を突き上げた。
押し出されるように、咽喉の奥から声が洩れる。
ブラッドの指は私の敏感なところを絶えず責め立て、耳を塞ぎたくなるような水音が聞こえる。
「……痛いほうが好きなのか?」
「ちが……」
首筋に、歯が立てられる。ちりりとした痛みが、すぐに快感にすり替わった。
「嘘だな」
角度が変わり、自分の中の一点が集中的に刺激される。
「やだ、やだぁ……っ」
ブラッドだけが知っている、一番弱いところを何度も突き上げられ、私は恥も外聞もなく泣き叫んだ。
自分の体が急速に昇りつめていく。何かを考えるどころか、声を抑えることもできない。
「いやぁ…っ」
稲妻のような快感が、全身を貫いた。繋がっているあたりから、とろとろと何かがこぼれ出しているのがわかる。
体中が痙攣して、自分の意志で動かない。涙があふれて、シーツに吸われていく。
「……まだだ」
休む間もなく、さらにブラッドが私の胎内を突き上げ続ける。
痙攣が止まらない。快楽を受け止めきれない。気が遠くなりかけた私の上半身を、ブラッドがぐっとのけ反らせた。
息ができない私の唇から、さらに呼吸を奪っていく。
「……!」
ブラッドが何か言ったような気がした。でも、もう私の耳には何の音も届かなかった。