帽子屋の薔薇園にひそやかに設えられた東屋の中は、  
むせ返るような薔薇の匂いに満ちていた。  
部屋にあるのは、何重もの紗でできた天蓋を持った大きな寝台と、  
揺らめく蝋燭の炎。  
寝台では、三つの影が絡み合い、蠢いている。  
ひとりは白と黒の男。ひとりは赤い薔薇のような女。  
そして、ふたりに弄ばれる、金色の髪の少女。  
「……や……もう、やだ……」  
背を寝台に腰掛けたブラッドのはだけたシャツの胸に預け、  
胎内に彼自身を呑み込まされたアリスは、  
泣きすぎて掠れた声で、自らの限界を美貌の姉弟に訴えた。  
白い、成熟しきれていない裸身は色とりどりの絹紐と男の腕に搦め捕られ、  
赤い痣がそこここに刻印されている。  
鮮やかな色合いの絹は少女の両手首を戒め、  
乳房を強調するように巻き付き、  
虹色の蛇が這い回っているようにも見えた。  
はしたなく開くことを強要された脚の間、ベッドの下には、  
女王のドレスを纏ったビバルディが跪き、  
アリスからさらなる快楽を搾り出そうとしている。  
「……可愛いのう。愚弟にはつくづく勿体ないぞ、妾の可愛いアリス」  
「は…ぁぁっ」  
首を力なく横に振った少女の体を、ブラッドが少し揺らした。  
か細い、息を飲むような声を上げて、アリスは軽い絶頂に達する。  
 
「拒絶するな、アリス。……拒まれると、もっと苛めたくなる」  
「そう言うてやるな、ブラッド」  
華やかに笑ったビバルディが、赤く彩った指先を、  
アリスのブラッドを呑まされた部分に伸ばした。  
一番敏感な部分をかすめるように触れられ、  
アリスはびくりと体を震わせる。  
「お前はほんに鞭しか知らぬな。  
女はそれでは蕩けぬと、何度言えばわかるのやら」  
つう、と指先が滑り、アリスの開かれた真っ白な内腿から、  
ちいさな膝までを撫でた。  
ビバルディの指に踊らされるように、アリスの体が震えを大きくする。  
「そんなことはないさ」  
ブラッドは姉に答えながら、アリスの耳朶を軽く咬んだ。  
骨張った指が、豊かとはいえないまでもそれなりの質感を備えた  
乳房を探り、頂を少し強めにつまむ。  
「……っ」  
アリスの体が跳ね、無意識に逃げを打とうとする。  
それを許さず、ブラッドはアリスを押さえつけ、自らを突き上げた。  
悲鳴のような泣き声を、立ち上がって腰を少し折ったビバルディの  
赤い唇が飲み込んでしまう。  
赤の女と黒の男の間で、白い少女がもみくちゃにされている。  
その光景は痛ましいとも、美しいとも見えた。  
 
「…………!」  
声をふさがれ、手も脚も自由にならず、  
逃げ場のなくなった熱に上り詰めたアリスの意識が一気に灼き切れる。強く自身を締めつけられ、ブラッドは少し眉をひそめた。  
こらえる気もなく、欲望を放出する。  
がくっと力を失った細い体から自身を抜取り、  
美しい姉から奪うようにブラッドは少女を後ろから抱きしめる。  
ビバルディはため息をついて、もう一度床に膝をついた。  
赤の中でそれだけが純白のハンカチを取り出し、  
中からこぼれる白濁と、アリス自身の蜜を  
やさしい手つきで拭き清める。  
「全く、女は損よな。中には出してやるなといつも言うておろうに、  
堪え性のない弟じゃ」  
「うるさい」  
意識のないアリスの体を、そうしなければ消えてしまうとばかりに  
強く強く抱きしめたまま、ブラッドは姉をにらみつけた。  
「そろそろ帰る時間だろう、ハートの女王」  
「次の時間帯も夕刻にしてやるが?」  
「帰れよ、姉貴」  
「我が弟ながら、ずるい男じゃの、帽子屋」  
言いながら、ビバルディは立ち上がった。  
もう一度腰を折り、ブラッドの腕の中で気を失ったままの  
アリスの額と頬にやさしいくちづけを落とす。  
「……言うておくが」  
アリスに向けたものとは全く違う、  
厳しいまなざしを弟に向けた女王は、  
情事の名残も残さない冷たい声で告げた。  
「小瓶はまだ砕けてはおらぬぞ、ブラッド」  
「……わかっている。油断はしないさ、姉貴」  
女王と帽子屋は、口にはしない不文律を互いの目だけで確認した。  
あの薬瓶が粉々に砕けてしまわない限り、  
アリスはいつかこの世界から消え去ってしまう危険を  
常に隠し持っている。  
しかし、瓶が完全に砕け散ったとき。  
アリスを、本当にこの世界に繋ぎ止められたとわかったとき。  
帽子屋と女王は、薔薇園以外の場所で、  
本気の潰し合いにかかるだろう。  
この特別な楽園でぎりぎりまで少女を愛おしみながら。  
どちらかが死に、どちらかがアリスを手に入れる。  
帽子屋と女王のゲームは、そうと言い合うこともなく、  
いつのまにかそういうルールに変わってしまっていた。  
 
ハートの女王は深紅のドレスの裾を翻し、帽子屋の薔薇園を出て行く。  
後には、少女と帽子屋と、薔薇の匂いだけが残された。  
 
「アリス……」  
少女から絹の戒めを解くと、かなりの時間抵抗していたせいなのか、  
手首の白い肌に赤い条痕が残っていた。  
その跡に沿って舌を這わせていると、アリスがぼんやりと目を開いた。青い眸がブラッドの姿を映す。  
「……ブラッド……ビバルディ……?」  
同じ色の眸のせいか、こんなときアリスは一瞬  
姉弟を見分けられないことがある。  
それが腹立たしくて、ブラッドはアリスをのけ反らせ、  
噛みつくようにくちづけた。  
「間違えるな。私は、私だ」  
「ブラッド……」  
アリスは掠れたままの声で、身動きできないほどの強さで  
自分を抱いている男の名を呼んだ。  
「そうだ」  
「……わかるわ……ねえ、ブラッド」  
少し震える細い指が、ブラッドの頬に伸びる。  
「……ビバルディは、そんな泣きそうな目でわたしを見ないもの。  
……あなたのその目、好きよ」  
 
ぴしり、と。  
どこかで小さく、ガラスにひびが入る音がする。  
アリスにはその音が、はっきりと聞こえている。  
ブラッドの目に浮かぶ、冷徹な男に似付かわしくない色が、  
アリスの小瓶に亀裂を増やしていく。  
しかし、ブラッドにその音は聞こえない。  
 
 
骨が軋むほどの強さで、決して離さないとばかりに抱きしめる  
男の腕の中、時計の音を刻む胸に耳を押し当てる。  
少女では決してできない表情で、アリスは小さく微笑んだ。  
 
 
おしまい  
 

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