「――わかった。じゃあ後でな」
ピッと電源を切り、滝川はテーブルの上に携帯を置いた。
ソファに腰掛けてそれをじっと眺めていた綾子は、怪訝な顔をした後、ああ、と呟く。
「もしかして、麻衣?」
「ご名答〜。多分そのうちお前のとこにもかかってくるんじゃないか?」
滝川は綾子の隣に腰掛け、テーブルに置いていたアイスコーヒーのグラスを傾けた。
途端、綾子のバッグの中から無機質なメロディが流れ始める。
綾子は「早いわね」と呟きながら携帯を取り出し、通話ボタンを押した。
「もしもし」
『あ、綾子?あたし。麻衣だけど。今いい?』
「いいわよ。なあに、また調査?」
『そうなんだ。これからミーティングするんだけど、すぐ来れる?』
「いいけど、やけに急ぐのねぇ」
『うん。実はさ・・・・・・』
「ゲホッ!」
突然綾子の隣で滝川が大きく咳き込み、綾子も、電話の向こうの麻衣も凍りついたように沈黙する。
『・・・・・・えと、もしかしてデート中だったり、した・・・・・・?』
申し訳なさそうに片手を立てる滝川を睨みつけ、綾子はため息をついた。
「いいのよ。大した相手じゃないから。これから出るわ」
『ごめんね〜。じゃ、また後でね』
「ええ」
綾子が電源を切ると、滝川ははぁ〜とため息をついた。
「・・・・・・ひでぇの」
「あんたが余計なことするからでしょ。さ、とっとと用意して」
立ち上がろうとした綾子の腕を掴み、滝川は強引に座らせた。
「何すんのよ」
「んな急がなくても、ここから事務所まで大してかからんだろ」
「そんなこと言って・・・・・・ちょっと、この手は何」
滝川は綾子の腕を片手で掴んだまま、もう片方の手で綾子のうなじを撫でる。
にやにや笑いながら覆いかぶさってきた滝川を見上げ、綾子は眉間に皺を寄せた。
「ちょ・・・・・・!ん、ふ・・・ッ」
滝川は噛み付くように口付けると、舌先で綾子の歯列をなぞり、舌をさし入れた。
抵抗するように胸を押す綾子の手首を掴み、ソファの背に押し付ける。
「・・・っあ、あんた、いい加減にしないと・・・・・・っ」
なんとか唇を離し、綾子は息を整えながら上気した頬で滝川を睨む。
対する滝川は、睨まれているなど気づいてもいないようなしまりの無い顔で笑った。
「久しぶりに二人っきりになれたんだから、いいだろ・・・・・・?」
「あんたねぇ・・・・・・麻衣に呼ばれてるの忘れたわけ!?」
「終わってから出ても十分間に合うって」
「な・・・・・・何頓珍漢なこと言ってんのよ!」
いつの間にかソファに押し倒されていたことに気づき、
綾子は、嬉々としてのしかかってくる滝川を見上げて抵抗を止めた。
「・・・・・・何でいきなりその気になってんのよ・・・っ」
「大した相手じゃない、なんて言葉は返上してもらわねぇことにはなー」
「ん・・・そんなの、いつものあんたなら気にしないじゃないの・・・・・・」
綾子の襟元を広げようとしていた滝川は、にっこりと笑った。
「まあ、口実なわけだ」
「・・・・・・この破戒僧・・・!」
結局大幅に遅刻してやって来た二人を見る、SPRの視線は様々だったようである。