アーシュラはグラスに傾け、血の色をしたカクテルを一口含んだ。  
 
赤いカクテルを飲み下し微かな吐息を漏らし、肘から指先までを包む黒絹の手袋、その手指の先で  
ロンググラスをゆっくりと揺らした。  
 
ぬめるような漆黒のドレスはその肢体をぴったりと包んでいる。  
高い胸のふくらみの下で自らを抱くように沿わした腕、その二の腕の青白いほどの肌合いが際立つ。  
 
夜会のざわめきの漏れる聞こえるバルコニーにもたれ、自らの想いに沈み込むかのような  
静かな姿は幽玄の趣を醸していた。  
 
二つの月、その月灯りに照らされる艶を増した深紫の髪が夜風に吹かれ揺れる。  
 
広間ではアーシュラが唯一人と誓い愛する夫が、各国より訪れた有名無名の者達と語らっているのだろう。  
さんざめく声が聞こえる。  
 
それを聞くとも無しに聞きながら想う。  
異界からやって来て、彼女の故郷を、この世界を、救った年下の少年のことを。  
 
今日は魔王城でもようされた夜会に臨席する夫に付き添い訪れている。  
 
多忙ではある。  
が、あの戦いの最中と比すればなんと穏やかな日々であることか。  
その穏やかな日々を愛する夫とともに過せることが嬉しい。  
 
あのころの自分もこんな穏やかな日々が、こんなふうに過せる時が来ると思っていただろうか。  
ふと、そんな事を考えてしまう自分に苦笑を浮かべる。  
 
その声々から夫の声を拾い上げるバンピレラの鋭敏な聴覚はその年下の夫の声に潜む影を拾い出して  
整った眉を微かに寄せた。  
 
振り向いて急かされるように夫の下へと向う。  
年下の夫に添うようになってから一層と増したその艶やかさに周囲のざわめきが低くなり、  
返す波のようにその一瞬を打ち消すように高まる。  
 
そんな事にアーシュラは気が付いていなかった。  
そして、彼女がその心を振るわせる声の下へ人ごみを縫って向う歩調は微妙に何時ものしなやかさを  
欠いていることにも。  
 
ざわめきの中心、そこにはアーシュラにとって見慣れた姿があった。  
彼の妻達、九尾の美女、エルフの美女が微笑とともに、その他周囲の取り巻き、情報を引き出そうとする外交官達、  
その他の自らの立ち位置を知らない無知な者達を柔らかくいなしている。  
 
その中心で気弱な笑みを浮かべてグラスをいかにも不器用に支えながら、たたずむ夫の姿を認め  
その表情にも周囲を取り巻く妻達の様子にも取り立てて何かを見出せなかったアーシュラは  
何か腑に落ちないものを感じながらも、取り合えず安堵の吐息を漏らした。  
 
ただ、スフィアだけが何か切なげな、何か後悔に駆られているかのような表情で夫を見つめていた。  
 
 
妻達の間で表立って語られることのない密約に基づき、アーシュラは夫の手を取り周囲の  
視線とざわめきを背にスフィア、フィラをはじめとする他の妻達の硬い視線に送られ夜会を後にする。  
 
時が過ぎ、夜会のざわめきが遠ざかる。  
傍らには夫がいる。  
 
夜の月は中天に差し掛かり、護衛の者達の居並ぶ廊下を夫に寄り添いながら歩く。  
今日はアーシュラの日。アーシュラが夫と過すことを公認された日。  
 
特に目立った事ごとも無く穏やかに過ぎ行く日々が嬉しい。  
そんなことを思いつつ、胸の高鳴りを抑えながらアーシュラは夜のバンピレラの濡れた唇で問うた。  
 
「あの…今日はどうしますか?」  
 
一瞬の間を置き夫は答えた。  
 
「うん、アーシュラの部屋」  
 
夫のいらえに酒精のせいか恥じらいか頬を微かに染めて頷いた。  
 
胸の高鳴りを気取られそうで、少々怯みながら何気ないつもりの会話を交わす。  
こんな時の自分の不器用さにもどかしさを抱きながらも、  
なにか通じ合っていることの嬉しさ、安堵感が支える幸福に浸っていた。  
 
アーシュラは自室への扉を開き、慣れぬ酒と人息れに酔った夫を飾りのない、だが、  
居心地良くしつらえられたソファに導く、詰襟を解く、水の入ったグラスを渡す、  
甲斐甲斐しく手を巡らせる。  
 
ソファに寄り添うようにして腰を下ろし、覗き込むように夫が水を飲む光景を見つめる、  
そのいつも冷ややかな面差しは、満足げな微笑に彩られていた。  
 
「大丈夫ですか?」  
 
柔らかな声で問いかける。  
 
何故かいつもより一層小さく見える少年は微かに頷きかけて思いもよらない問いを投げかけた。  
 
「アーシュラの子供の頃ってどんなふうだったの?」  
 
漠然とした問い掛けに、戸惑いながらも幼かったころの思い出を語る。  
 
父親の話してくれた亡き母の思い出、父親と過した日々、今でも幸せな思い出として胸に  
仕舞い込んだ愛しむべき事々の数々が微笑とともに零れ落ちる。  
 
誰にも、唯一人に肉親でもある父親にも話したことのない想いを語りながら、愛する夫を  
静かに胸に抱き寄せる。  
様々な経験を経るまで気が付かなかった幸せと安らぎを思い出しながら。  
 
思いは零れ落ちる言葉を通り越して、今に至るまでをなぞる。  
 
その後に否応無く流れに、時の流れに巻き込まれて過ごした日々。  
それとても、自らの故郷、愛する者たちが日々を過す国、町、そんな目に映るもの。  
自分がそんな目に入っていながらも、真実見ていなかったものを教えてくれた。  
 
そしてその流れの中で出会った年下の少年、否、この男だった。  
 
ふと、その自分の全てを捧げる男の表情に目を留めたアーシュラは言葉を続けることが  
出来なくなった。  
 
見たことのない微笑の仮面。  
失った何かを取り戻そうと足掻く男の瞳がそこにあった。  
 
異郷に置いてきた家族の姿、果すと誓った約束、もう帰らぬ過ぎし日々。  
この小さな肩にどんな約束達が降り積もっていることか。  
 
そっと頬を寄せる、慰めるように、支えるように。  
何ひとつ、掛ける言葉も問いかける言葉も思い浮かべることも出来ないままに。  
 
自ら望んだ訳ではなく、異界異郷のこの地で一つの世界を否応無く背負わせれて、自らの為でなく  
アーシュラ自身を含む異郷の者達のために悩み苦しんだ、その果てにある今。  
 
その今、ここには彼の望んだ何かはあるのだろうか?  
 
そんなことを思い浮かべて、アーシュラはバンピレラにして有り得ぬ寒気を覚えた。  
夫が遠くへ行ってしまう。  
 
「傍に居ます、傍に…」  
 
その先は声にならなかった、夫の答えを知っていたから。  
睦み合うたびに囁いてくれるあの答えは嘘ではない、でも同時に夫が自分に言い聞かせる  
言葉であることをアーシュラは知っていたから。  
 
だから、言えなかった。  
唯一人と誓う夫の足元に膝を折りしいて夫の唇に濡れ光る深紅の唇を捧げた。  
 
「…」「…」  
 
長いような短いような触れるだけの幼い口付け、再び瞳を閉ざしたままより深く長く唇を重ねる。  
夫の手が大きく開いた白い背中にまわされ彼女を抱き寄せる。  
 
アーシュラももどかしさも露に、ホルターネックドレスを振りほどく。  
もっと深く、もっと確かに重なりたい。  
 
白い肌に蒼く血の道が浮き上がる腕を擦り合わせるように指先を絡める。  
爪で夫の甲に不可思議な呪文を刻む。  
 
「ん…っ………っはぁ…」  
 
甘い息が微かに室内に響いた。  
 
白い嫋やかな腕が年下の夫の首に絡みついて、時に啄ばむように時に深く絡めあうように  
口付けを交わす。  
甘い息を交えながら僅かに開いた深紅の唇から舌先を延ばし絡めあい、愛撫を交わす。  
 
足元には脱ぎ去られた黒のドレスが深い影のようにわだかまる。  
簡素なレースに飾られたガターベルト、スリングベルトに吊り下げられたバックシーム入り  
ストッキング、そして薄絹の黒のショーツのみが飾る白い裸身がにじむような精霊光に  
照らし出される。  
 
「…んっんっ…あっ…」  
 
口付けを交わしながらアーシュラはその繊手で小柄な夫を抱き上げ、ベッドへと向った。  
紗の蓋いを振り払い、年下の夫を気遣いがみて取れる優しい仕草で横たえ、もどかしく  
夫の纏う学生服を、Yシャツを、下着を剥ぎ取っていく。  
 
「………んん…っ……」  
 
その間にも口付けを交わし、あらわになった年下の夫の、咽喉元に、胸に、肩口に、  
淡い所有印を記していく。  
 
今、この年下の夫が抱いている何か、それを忘れさせたい。  
それを……圧倒して蹂躙して征服したい。そうしてあなたを、私のものに。  
 
夫を組み敷いて、その胸に唇を這わせる。  
尖った乳首に唇と舌先を巡らしながら、ベルトに手を掛ける。  
その織手に相応しい細い指先に相応しからぬ夜のバンピレラの力が革のベルトを他愛も無く千切る。  
 
あやすように夫を抱きしめながら学生服のズボンを取り去る。  
優しく、甘く、柔らかく、その美身で夫に絡みつく。  
 
剥ぎ取ったトランクスをベットの脇にほうり投げる。と、何時もアーシュラを蕩けるまで  
愛してくれる夫の男の徴が露になる。  
 
強張った夫の徴に、頬を桜色に染めて怯えたようにゆっくりと口付ける。  
唇は迷いの後に、吐息を漏らし小さな舌先で夫を慈しむように愛撫を始める。  
 
「…は……ぁ…ん……あな…た……んんっ…」  
 
柔らかく弧を描く眉を僅かに寄せ、深紅の瞳を陶然と細め、その小さな紅い唇から舌を伸ばす。  
夫の足を乳房で抱くようにして絡みつき緩やかにその滑らかな肌を擦り付けてながら舌での愛撫。  
夫の徴の先端をなぞり絡める。  
 
愛撫を続けるアーシュラの髪にそっと優しく年下の夫の掌が触れる。  
と、アーシュラはその掌の感触に安心する。  
 
夫が歓んでくれるのが嬉しい。  
今は、ただ今だけでも、私と過すこの瞬間だけでも、その思いを忘れて欲しい。  
尖った牙で夫を傷付けないように男の徴を唇に含み舌先でなぞりあげながら、視線を夫に向けた。  
 
アーシュラはゆっくりと、その舌先と男の徴との間を銀の糸で繋ぎ夫を見上げる。  
その美貌は、貞淑で淫蕩で妖艶で清楚で清純で淫靡で、女の持つ全ての貌をしていた。  
 
黒絹に包まれた手指で夫の徴をなぞりあげ、紅唇で優しく口付ける。  
深紫の髪をそっと指先で払いのけ、紅の瞳を細めながら不器用に懸命に唇を舌をなぞらせる。  
 
バンピレラとしては有り得ざるほどに紅潮した美貌を、そっと伏せて夫を愛おしむ。  
年下の夫の徴を愛撫しながら、その強張りが硬さを増し、脈動するのを感じて、それに答えて  
アーシュラは自身の女が潤みを増すのを感じていた。  
 
ゆっくりと乳房を夫の腿に擦る付ける。  
 
「…ん…ん……ふっ…んぁ…」  
 
夫の徴を含んだ濡れた唇から、途切れ途切れの吐息が漏れる。  
そっと夫が身を起こし、アーシュラの尖った耳に触れる。  
 
アーシュラは夫の無言の求めに応じて、ゆっくりと身起こした。  
そのまま、手の導くまま夫の胸に肌を甘い吐息を染み込ませるよう、尖った乳首の先で肌を  
くすぐるように、肌を微かに擦り合わせながら起き上がる。  
 
そのアーシュラの形をなぞるようにして、夫の掌が肩をなぞり、乳房をなぞり、滑らかな背を  
なぞる。  
 
そうして鼻先を擦り合わせるように、吐息を交じり合う近さで見つめ合う。  
無言のまま軽く口付けを交わす。  
夫の手が、掌が更に誘う、その誘いのままに更に伸び上がる。  
 
尖った乳首に優しい口付けが降る。  
 
「あ……ん…」  
 
思わず甘い吐息が漏れてしまう。  
白い滑らかな背をなぞる掌は更に誘う。その誘いのままに更に伸び上がる。  
 
「あっ…ふ…あっ……ん…」  
 
精霊光の影が落ちる小さな臍の窪みにも優しい口付けと悪戯な舌の愛撫。  
アーシュラはその深紫の長い髪を揺らして微かな喘ぎを漏らしながら身をくねらせて応えてしまう。  
 
黒のガーターベルトとストッキングな狭間の丸い双球をなぞる掌は更に誘う。  
僅かな逡巡の後、夫の肩を黒絹の手で支えて膝立ちになる。  
 
そうしてアーシュラは唯一人と誓う夫に、恥丘の淡い茂みとその下の微かにほころぶ女の花弁を捧げる。  
夫の熱のこもった吐息が茂みを微かに揺らす。  
 
「あっ………あぁ……」  
 
羞恥、歓び、恐れ、そのどれでもない何か。  
その何かが判る寸前に夫の手に引き寄せられ、潤み始めた女の芯に夫の唇が触れた。  
 
「は…っ……あっぁ…ん…んあっ………」  
 
アーシュラは長い髪でその羞恥と歓びに彩られた美貌を隠し、白い咽喉をしならせて  
女の芯から全身を貫く歓びに堪えきれぬ声を漏らした。  
 
「んっ…あ…ん…ふ…ぁっ……ん……」  
 
アーシュラは夫を優しく支えながら、そして夫の手に引き締まった臀部を優しく支えられながら、  
歓びの声を漏らし続けていた。  
 
女の芯の隅々まで優しく舌先でなぞられる。  
鼻先で淡い茂みをかき回される。  
女の芽を蓋いの上から押すように舌先が突付く。  
 
「ぁあ…はぁ…う…んん……あなた…あっぁっ…ん…」  
 
黒絹の手袋に包まれた手指が夫の肩を離れ、梳くように優しく夫の髪に絡める。  
夫の唇が敏感な女の芽をついばむように挟み込み吸い上げた。  
 
「はぁ…ああっぁあぁああっ!」  
 
ストッキングに繋がるスリングベルトの内側を通した夫の手がアーシュラの女の丸みを支えをていた手  
から零れ落ちるようにアーシュラは夫に覆いかぶさるように崩れ落ちた。  
 
「あ…んぁ…はぁ…ん…」  
 
アーシュラは夫の両膝の上に座り込みながら、夫の肩口に顔を伏せ余韻に喘ぎを漏らす。  
その熱すら冷めないまま肩に手を置き緩く夫を横たると、アーシュラは腰を浮かせた。  
 
夫の徴に黒絹の長手袋に包まれた手指を差し伸べ、しなやかに引き締まった細腰に纏った  
黒のガーターベルトと、それに繋がるストッキング、その狭間にある潤った女の芯に導いた。  
 
「あなた……あっあっ…んん…ぁぁ…」  
 
この年下の少年の、夫の形になった女の芯で、包み込み迎え入れながらアーシュラは慎ましやかな声をあげた。  
あまりに深い歓びに酔ったアーシュラは、自分の全部をこの年下の夫の視線に晒してしまったことに  
気が付いていなかった。  
 
白い肌を飾る、黒の長手袋、ガーターベルト、ストッキングとスリングベルト。  
その娼婦にも似た装いを裏切って、唯一人と誓う夫を正面から見つめるアーシュラの貌には、捧げる愛と  
慈しみと、労わりと、そして罪の匂いがあった。  
 
そして、その背には彼のために陽の光に焼いた黒い翼が大きく広がってアーシュラの歓びの声と  
ともに緩やかに羽ばたいていた。  
 
「ん…ぁ…ぁはあ、ん…ぁな…た…」  
 
夫に満たされて、自分が柔らかくなっていくのをアーシュラは感じていた。  
下から掬い上げるように夫の掌が乳房を揉みしだく。  
 
掌の中で乳房が弾み、乳首を指先の挟み込まれて強く捻り上げられる。  
痛みと交じり合った歓びに切羽詰った声が挙がる。  
 
「…んんー…っ…あ…あぁ…んは…ぁ…」  
 
ゆっくりと躯をよじるように動かし、女の芯を満たす夫に絡みつく。  
天を見上げて切れ切れの細く高い喘ぎが放ちながら、躯を揺らす。  
背から伸びた黒の翼が揺れる裸身の合わせて緩く羽ばたきながら甘い女の微風を周囲に送り出す。  
 
「あ…っ…は…ん…っん…あっ…ぁ…はっああっ…」  
 
薄く汗の浮き始めた裸身の動きは女の芯を貫く少年を中心として、次第に早まる。  
それとともに歓びの喘ぎは切羽詰った調子へと移り変わっていく。  
 
黒の絹で飾った裸身は横たわる夫のへと伏せていく。  
歓びの喘ぎを漏らす濡れた紅い唇、夫の掌中で淫靡にその形を変えた乳房、その手指の間から  
こぼれた尖った乳首。  
 
その全てが年下の少年の視線に晒される。  
 
夫の手がそれに答えるように黒い翼を指先でなぞり上げられる  
一方の手は黒の装飾が強調する白い臀の丸みに指の形ままの窪みを作る。  
 
「あっぁぁ…んん…ぁは…あぁあぁっ…」  
 
艶めく声は一層高まり息を繋ぐ間すら惜しむように細く長く繋がりはじめる。  
その時を知っていたかのような夫の突き上げに女の深奥を満たされて、アーシュラを絶頂へ駆け上がる。  
 
「…んぁあっ!あっ!は!ぁああぁあああー!」  
 
夫の半身に身を伏せて、絶頂の余韻に喘ぎながら背から伸びた黒の翼で夫と自分を世界から  
隔てるようにして覆う。  
 
「ん…はぁ…う…ん……あなた…んぅ………あぁぁ…」  
 
精霊光すらも拒む暗黒の中で夫と自身の息遣いだけに満たされた世界の中で、アーシュラは  
夫に乳首を咥え吸い上げられて、少年の髪に頬を擦り付けながら甘い声をあげた。  
 
年下の少年の熱にたじろいぐ間に天地が逆となる。  
組み敷いて居たはずが組み敷かれてしまった。  
 
ふわりと甘い女の香りを撒き散らしながらアーシュラの長い深紫の髪が広がる。  
 
絹のシーツの上で、肘までを包む黒絹、細腰を飾るガーター、長い脚を包むストッキングが  
飾る美身が誘いとも羞恥とも取れる無意識の媚態にくねる。  
 
歓びの頂に行き着いた余韻を湛える影にひたされた半貌、長い睫の影から深紅の瞳が  
今夜の月のように濡れた光を放つ。  
甘い吐息が、歓びの声が、赤い唇から漏れる。  
 
張りを増した乳房が、胸の谷間に引き締まった腹に、柔らかな影を落とす。  
 
年下の少年の手指が軽く乳房をなぞり、彼女から微かな溜息を引き出す。  
下から持ち上げるようにして掌で乳房を覆い、手指が乳房を荒々しく搾るように揉みしだく。  
 
「ん…っあ…」  
 
この年下の夫にだけ許すアーシュラの女の柔らかさと弾力が、膨らみの中に沈み込んだ手指の周囲に  
影となって明かされる。  
 
「は…ぁあっ…」  
 
尖った乳首が指先でついと撫ぜ上げられる。  
指先で押された敏感な突起は傾ぎながら甘い歓びを伝えてくる。  
頂上まで辿りおえた指が離れるとゆり戻し、乳房の頂にゆれる影を落とした。  
 
白い咽喉を仰け反らせて赤い唇を微かに開いて甘い吐息を漏らす。  
乳房を愛撫する少年の頭を抱き、その髪にしなやかな黒絹に包まれた手指を絡める。  
 
硬く尖った乳首、その先端に口付けされ、きゅうっと搾るように揉みしだかれる。  
乳房は自在に形を変え、不可思議な影を落とす。  
 
静かな動きで夫自身が女の芯の奥を擦り上げるようにして、再び深く満たす。  
 
先ほどの絶頂で夫の愛撫に鋭敏すぎるほどになっているアーシュラを優しく気遣うような  
緩やかなその動きに、なぜか切なさを感じながら高く細く歓びの声を奏ではじめていた。  
 
…  
 
何度目の絶頂なのか。  
女の芯を満たされるたびに絶頂に行き着いてしまう。  
 
「あぁーっ!、あ、んっ、あ…なたっ、はぁ、んっ、んっあぁあーっ!」  
 
夫の熱い肌に灼かれ、アーシュラは自分が柔らかく蕩けて年下の夫以外の世界がぼんやりと  
遠ざかってしまったように感じいた、その中で、彼女を奏でる触れ合う夫の肌、掌、指先、唇、  
そして女の芯を満たす夫自身だけがはっきり感じ取れる。  
 
『ああ…蕩ける…』  
 
アーシュラは立て続けの絶頂に合間にそんなことを思った。  
 
柔らかく蕩けた彼女の全身で女の芯だけが、彼女を満たし続ける夫に自ら絡みつき、時に苦痛にも  
似た甘い歓びを全身にもたらす。  
そして、夫の愛撫の全てに全身で応えてしまう。  
 
「あ…くぅ…あっあっ」  
 
彼女の奥から少年の男が退く。  
絡みつくアーシュラの花弁がほころび、女の芯の奥から掻き出された歓びの蜜が溢れ出る。  
白絹のシーツをつま先で掻き回し、白い咽喉を仰け反らせて、途切れ途切れの喘ぎが漏れる。  
 
「あーっああぁあーっ!」  
 
再び奥まで満たされる。  
敏感な芽も擦りあげられ、女の芯を満たす夫自身に歓びの蜜を飛沫かせ何度目かの絶頂を迎える。  
 
「はっ、んっ、あぁあぁぁぁあぁあーーーっっ!」  
 
そして一拍遅れて女の芯に夫の熱い白い血が勢いよく注ぎこまれるのを感じて、更にその先の頂に  
上り詰め、アーシュラは夫を乗せたまま弓なりに背をそらせ一際高く歓びの声をあげた。  
 
「あっあぁ、ん…は…ん、あな…た…あぁ…」  
 
アーシュラは女の最奥を満たす夫になおも絡みつく女の芯が伝える歓びに、冷たい血の流れる躯の奥に  
注ぎ込まれた熱のもたらす充足感に、喘ぎを漏らし美身を震わせながら年下の夫をそっと抱きしめた。  
 
……  
 
どのくらいそうしていたのか。  
乳房に包み込んでいた夫の掌が、きゅうと乳房を優しく揉みしだいた。  
 
「あっ…ん…」  
 
全身が敏感になっているアーシュラの女の芯は、その甘い愛撫に応えて包み込んでいる夫の徴に  
絡み付いてしまう。  
 
その時、乳房に顔を埋めていた夫の声が聞こえた。  
 
「その、ごめんアーシュラ、まだ…」  
 
乳房を揉みしだく力が増し、乳首に口付けられ愛咬みされて、敏感になってしまった全身に  
乳房から乳首から甘い歓びが再び広がり始めた。  
 
「えっ?!あっ!ぁあっ…ん、あな…た…あぁ…」  
 
再び女の芯の中で熱さを増し始めた夫を感じながら、アーシュラの驚きの声は甘い声に変わっていった。  
再び甘い歓びの声が響き渡るまで、さほどの時はかからなかった。  
 
 
愛する年下の夫の熱は、「黒陽」と二つ名を称される彼女をしてバンピレラの力の制御を失わせしめ、  
アーシュラは夜のバンピレラの魅了の力を夫に注ぐ。  
それゆえに夫は更に優しく荒々しく彼女を求め、彼女を絶え間なく絶頂に行き着かせる。  
 
その連鎖はアーシュラが半ば気を失うまで続いた。  
 
アーシュラは、眠る夫の顔に魅入っていた。  
押し殺した苦悶の表情を浮かべる年下の夫を優しく抱きしめた。  
静かに熱を放つ夫を、その乳房で、その白い繊手で、翼で柔らかく抱きしめ、微笑を浮かべた。  
 
愛、優しさ、慈しみ、信頼、赦し、その全ての善きもの。  
限りなく静かな微笑はそれらを含んでいた。  
 
そしてその地上に有り得ざる美貌は涙に濡れていた。  
声は漏らさない、この涙を知られてはならない。  
 
 
アーシュラは自らも戦い、そしてまたその指示により幾多の血を流さしめてきた。  
その事は誰よりも自身が知っている。  
 
それは罪なのか、罪でないのかはわからない。  
だが、苦しかった。  
 
死地、それが自らの指し示す場所。  
そこに赴く者達、それは自分が愛し自分を愛してくれる者達。  
 
そんなことに何時まで耐え切れるだろうか、誰からの赦しも得ないままに?  
でも、あなたが私に赦しを与えてくれました。  
 
 
深紅の瞳から透明な涙が頬をつたう。  
 
 
でも…でも、誰があなたをに赦しを与えるのですか?  
わたしにはあなたを赦す資格はありません、あなたに赦されたのだから  
 
 
ここに住まう魔族人族の、そしてわたしの、信頼が、願いが、祈りが、そして愛が、  
あなたに、あなたが愛しあなたを愛する者達を率いさせ、あなたが愛する者をして死に至らしめる。  
 
わたしの愛は、剣の愛。  
あなたを、あなたが愛する者達の血に塗れさせる。  
 
この罪だけは知られてはならない、この想いだけは知られてはならない。  
この罪は赦されてはいけない。  
 
でも、この願いは叶わない。  
この年下の夫は知らずとも、もう赦しているのだから。  
 
夫が胸の奥に刻み込んだ約束、それが彼を苛む。  
名も無き多くの者達が、愛する人々に誓っただろう約束。  
その約束を消し去ってしまいたい。  
 
だが、それはこの魔王領での日々を忘却し、自分のもとを去ることを意味する。  
そして、アーシュラは、彼は絶対に忘れないことを痛いほど知っていた。  
 
アーシュラの胸は切なさに満たされていた。  
その切なさは初恋の切なさと同じものだったものだった。  
 
心のどこかで叶わぬこと望みながら、それでも、焦がれずにはいられない。  
 
アーシュラは、異界より訪れ、今は夫たる異界より来た年下の少年へ抱く  
初めての愛と恋心に胸を焦がしていた。  
 

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