アーシュラは自室の扉を開いた。
青白いとすら見えるその美貌は淡く桜色に色づいていた。
「ご…」
言葉の途中でその嫋かな細腰を抱きしめられてしまった。
言葉を続けることが出来なかった。
息を飲み高鳴る動悸を感じながら跪き、年下の、いや、少年とすら言える夫を抱きしめた。
胸の奥に湧き上がる熱いものを抑えてて、夫の抱擁を受け入れる。
「あぁ…」
自分の口から漏れる密やかな溜息が自分の耳に届いた。
ついばむような口付けを交わし、紗の覆いで囲われた寝台へ向う。
数歩の距離が永遠とも思える。
「んっ…あ…ん…ちゅっ…はぁ…ん…」
薄い紗の覆いの中で寝台に腰をかけ、しなやかに首をしならせて幾度も口付けを交わす。
服の上から夫の手が肩、二の腕、腰、彼女の柔らかな女の曲線をなぞる。
年下の夫は、そっと耳元で囁いた。
「アーシュラの全部が見たい」
息を詰めて夫の目を見ると、彼が招き寄せる精霊の光の中で彼の瞳はあの時と同じ色を湛えていた。
一瞬目を閉じ、寝台の脇に立つと身にまとう衣服をゆっくりと脱ぎ去っていく。
やがてぼんやりとした精霊光の中、アーシュラの非の打ち所が無いほどの美しい裸身が浮かび上がった。
乳房と女の部分を手で隠したその姿はビーナスの誕生のようだった。
「翼も」
一瞬、何か言いたげに唇を微かに開いたバンピレラ・ビューティは、微かな吐息と共に
黒い翼を背中から拡げた。
アーシュラはじっと見つめる夫の視線を避けるように、その美しい横顔をみせていた。
「アーシュラ」
手を差し伸べて名を呼ぶ夫に応じてアーシュラは恥じらいながらそっと彼によりそうに隣に腰を下ろした。
白い艶やかな背中から黒い翼が広がる。
裸身を抱くように覆った翼を手の甲で優しく撫でられる。
そのたびに声にならない喘ぎが漏れてしまう。
年下の夫に、そっと黒い翼を手に取られ優しくほお擦りされその美身を震わせる。
「僕のために焼いてくれた翼…」
翼に優しく口付けされる、声にならないあえぎが我知らず漏れ出る。
幾度も口付けされ指先で優しくなぞられ、うなじにキスが降り注ぎ、何時しかその腕は彼女の整った膨らみへと向った。
乳房が熱い掌で覆われ、触れるか触れないかの微妙なタッチで乳首を愛撫する。
「…はぁっ…」
微かなあえぎをもらしながら、背後より抱きしめる夫の腕にすがりつく。
耳の内側で苦しいほどの心臓の音が響く。
「剛志様、剛志さ、あっあっ」
許しを求めるような、甘えるようなそんな声が口をついて出てしまう。
気が付くとすべらかなシーツの上に横たえられていた。
照らす精霊光の影になって読み取れない夫の様子に戸惑いながら
柔らかくしなやかにその手を差し伸べ夫の首へとまわす。
唇が重なり、舌で愛撫を交わす。
夫の左腕が彼女の背に回される。
彼女が心の底から愛し、そして「傍にいてほしい」と願った少年の腕に抱かれている、そのことが彼女を昂ぶらせていた。
喜び、恐れ、恥じらい、アーシュラはその全てが入り混じった何かに突き動かされて
その全てを受け入れながら、抱擁を受け入れた。
そっと優しい掌が差し伸べられ頬を包まれる。
血の冷たいはずのバンピレラ・ビューティーは沸き立つ血の熱さに酔いながら掌に身を任せた。
雪のような肌をうっすらと桜色に染めた吸血公女は年下の夫に全てを明かしていった。
その赤い小さな唇からはわななくようなつぶやきが漏れた。
「ご、剛士様………あ、あなた」
再び唇を深く合わせる。
蕩けるような舌の愛撫を交わして、陶然としたアーシュラをしばし優しく見つめ、
髪を優しく梳き上げた少年は、アーシュラを組み敷いて更に深く口付ける。
自分の尖った牙で彼を傷つけまいと気遣いおずおずと彼の舌を受け入れる。
夫の舌はそれを知ってか知らずか、激しく彼女の舌を愛撫する。
『ずるい…』もどかしさがそんな思いを抱かせる。
「はぁっ…」銀色の糸を引いて舌が離れ、覗き込むように見つめられる。
心のどこかで、とりどりの色合いの火花が散っているのを感じながら、
いや、感じてしまってアーシュラはどうしようもなく女である自分を思い知らされていた。。
熱い掌がさらりと薄く染まった頬を撫でる。
見つめられたまま、顔が近づく。
優しい唇を待ったが、行過ぎた唇は尖った耳に向った。
唇が深紫の髪からのぞく尖った耳の先を柔らかく咥え、熱い吐息が耳朶を打つ。
自分の鼓動の音をかき消すような、少年の吐息を聞きながら、彼の背中に白い手が回された。
バンピレラの尖った耳の先が軽く優しく甘噛みされる。
目を閉じ、すがりつく場所を探すように手がさ迷う。
少年の熱い肌でたわんだ乳房の頂上、硬く尖った乳首で年下の夫の鼓動を感じてしまい、
小さな喜びの波が躯を揺さぶる。
「あなた、んっ…」
目を開いて、口付けをせがむ。
優しく応じて、深く優しく口付けてくれる。
嬉しい、こんなに優しく、荒々しく求めてくれる。
こんなに近くに居てくれることが嬉しい。
そして、こんなにも心地よい。
許されている、安心する、甘えさせてくれる。
その悦びに女の芯に蜜が溢れてくるの感じた。
白い咽喉元を強く吸われる、我知らずあえぎが漏れる。
「ああ…」
鎖骨のくぼみに舌が這う。
「…う…ん…」
手が胸にのび、乳房を揉みしだかれ、乳首を優しく荒々しく口中に含まる。
「あっあっ…あぁ…」
小さな唇を僅かに開いてから喜びの息を漏らす。
異界から来た年下の少年を夫としたその時から、女になってからもう幾度も思い知ったはずなのに。
なのに何時も思い知らされてしまう、女になるというのはこういうことなのだと。
もう夫の指が、唇が舌が触れていないところなぞ、自分の躯にはないだろう。
でも、その愛撫に慣れることは決してない。
引き締まった腹部に、窪んだ臍にも、わき腹にも、キスが降り注ぐ。
引き締まった、だが、女らしい丸みを帯びた尻を手でなぞられ、内腿を手の甲でさすり上げられる。
そのまま、息づく女の部分は手を触れないまま指先で微かに触れながらふっくらした丘を覆う深紫の淡い茂みを
かき回す。
「う…ん、あっあっ、はあっ、あな…た…ああ」
光沢のある絹のシーツを握り締めて喜びの声をかみこらえようとするが、留めようもなく漏れ出てしまう。
そして喜びの蜜もとどめようもなく漏れでて、女の芯からあふれ出ていまう。
彼が招き寄せる精霊達の灯す明かりに照らされ、点々と記された所有印が浮かび上がる。
少年とは言えないことを知ってしまった男の、熱い掌に、指先の愛撫に身を捩って、応えてしまう。
もう、彼の熱い掌、唇、舌でどこを愛撫されているのかも、判らない。
彼が欲しい。自分の全部を彼で満たして欲しい。
今は、今だけは彼が自分だけのものになって欲しい。
それなのに、気がつくと彼は身を引き剥がして、彼女を見つめていた。
乳房の間から少年が見上げ、囁く。
「アーシュラ?」
両膝に手を掛けて、問いかける夫の眼差しに恥じらいながらも頷いて自ら白く嫋かな両足を開いた。
自分の全部を彼唯一人に捧げる、捧げたい、彼が求めてくれるから。
しっとりと露を含んだ女の芯に彼の唇が、触れてしまう。
微かに感じる彼の息遣いが、恐れなのか期待なのか自分でも判らない震えを全身にもたらす。
「あーっ!」
彼の唇が触れてからは、もうただ…
舌先で女の芽を隠している覆いを取り除けられてしまう。
ゆっくりと舌先が女の芽を転がし、舌の裏側でなぞられる。
「あっ、うっん、ああっあぁーっ」
愛撫を待ち受けるように微かに開いた合わせ目をなぞるように舌が下り、
蜜を溢れさせている女の芯をふさぐように動きを止める。
「はぁっ、あっあっ、く…うっん…」
微かな精霊光に照らし出されるとピンクの女の芯はたっぷりと蜜と唾液で濡れそぼっていた。
女の襞が指先でくつろげらると溢れた蜜が、つーっと白い尻の谷間へ流れ落ちていく。
襞の隅々まで、舌全体を使ってねっとりと舐めあげると、恥丘と腿の合間の窪みを強く吸われる。
「あぁぁぁぁっ、っはぁ、くぅ…ん」
舌先で再度、敏感な女の芽を愛撫すると唇で挟み込み、同時に舌先くすぐるように愛撫されてしまう。
敏感な突起の全部を愛撫され。アーシュラは絶頂へと達する。
「あっあっあーーーっ!」
薄く全身に汗を浮かせて荒い息をつきながら恍惚の余韻にたゆたおうとする。
が、舌先は微かに震える女の芯にゆるりと滑り込んでいく。
「だっあっ、あなた…っあっあっ、はぁっ」
眉を寄せ目元に微かに涙が浮かべ、視線を中空にさ迷わせる。
憎らしいほど彼女の女を知った舌が女の芯を嬲る。
鼻先で優しく女の芽をくすぐりながらの愛撫、時折溢れる蜜を吸われ唾液とカクテルして流し込まれる。
何度も何度もその愛撫で絶頂に達してしまう。
「はぁっ…ああ…あなた…」
ゆっくりと舌が女の芯を優しく揺さぶるようにかき回し、飛沫いた蜜を吸い上げられる。
背筋を這い登る快感に喘ぎが漏れる。
アーシュラは絶頂の合間に汗で濡れ光る、硬く尖った乳首が頂上で震える乳房の間から潤んだ瞳に
切ないほどの願いを込めて、その一言を懇願する。
「あっあっ…はぁ…う…ぁん…おねがぁ…い…あぁ」
夫と視線を絡ませ、瞳で再度懇願する。
夫は無言のままだった。
と、大きく広げられた腿、その女の中心、敏感な芽、を胸で腹でこすりあげながら、
少年はずり上がり、そのままアーシュラの芯を貫いた。
「ああぁぁぁぁぁぁっっ!」
熱い男で芯を満たされ、赤い唇から悦びの声が上がる。
乳房の間に顔を埋めた夫が何事かを囁く、それの囁きがアーシュラを一気に絶頂に導く。
「あ…なたっ、ああぁあぁっはぁっあぁ!!」
それから彼自身に満たされ、何度も何度も喜びの頂に行き着いて、
幾度も熱い肌に熱い掌に熱い舌に、肌を乳房を乳首を敏感な芽を炙られ、
女の芯を焼かれ、熱い飛沫を冷たい血の流れる躯の中心に浴び、半ば気を失ってしまった。
気がつくと、眠る年下の夫の腕に抱きすくめられていた。
眠る夫の肩口に顔を埋め、思わずつぶやきを漏らす。
「…ちゃんと聞かせて欲しいのに…」
彼女が求め願う一言は恍惚の最中にあるときに囁かれるのが常だった。
『アーシュラ、愛してる。ずっと傍に居て』
乳房に目をやる。
所有印が点々と記させている、きっと全身にあるだろう。
でも、バンピレラの自分は目が覚めたころには無くなっているだろう。
バンピレラゆえの回復力によって。
幾人もの妻を持つ彼がもう一人の寵妃フィラと夜を共にした朝、フィラの襟元からのぞく彼がつけた印が
見えてしまったとき、アーシュラは嫉妬に身を焦がした。
そして、自分にも消えない痕をつけて欲しいと願った。
いや、こうして女の喜びを教えられてしまった自分には彼が付けた消えない痕が残っているのかも知れない。
それなら、それなら自分だけのあなたにしてしまいたい。
自分でも判らない、判りたくない何か胸の奥を焼くのを感じてしまう。
彼の首筋に目をやる。
アーシュラは尖った牙が、口元に覘いている事に気がついていなかった。
ここに牙を突きたて、血を啜って、彼を自分の自分だけのものにしてしまいたい、そんな欲求が込み上げる。
でも…そうしてしまうと、彼は彼ではなくなってしまう。
彼の肩口から静かに身を起こし眠る彼の顔を見つめる。
彼の寝顔は苦しみの表情を浮かべていた。
いつも眠る彼は、何かに苦しんでいる。
そんな寝顔を見つめながら、無言で問いかけていた。
私では駄目なのですか?
私ではあなたの苦しみの悲しみの幾分かでも分かち合えないのですか?
傍に居ます。
それがわたしの望み。
私はあなたが帰る、安らげる場所にになりたいのです。
胸を焼く痛みにに耐えながら、唯一人と誓い許す男の苦しみに歪む顔に
魅入っていた。
その瞳の色は、女という魔物の色をしていた。