フィラ・マレルに与えられた部屋は大魔城内でも特に豪奢で、
内装も最高級品、ベッドは天蓋付のお姫様ベッドである。
それもそのはず。非公式滞在とはいえ、一国のお姫サマなのである。
内輪では格式ばった所の少ない魔王領でも他国の王族相手では
それ相応の見得を張らなければいけない。
剛士君のプライベート空間が本人の居心地が良いように質素な和室で
あることから、外国からの賓客用ゲストルームで暮らすフィラは
大魔城でもっとも広い部屋で暮らす人物である。
「さて、私個人としては現状に不満はないものの、コレバーンの王女と
してはそろそろ次のステップに進んでもらわないと困るのだが、
どう思う?」
唐突なフィラの発言に侍従長の眉間に皺が寄る。
「どういう意味ですかな。殿下?」
「なに、今はまだ人族大同盟と言っても実質ランバルト単独で
戦線を維持しているが、このままではコレバーン軍と魔王領軍が
本格的な戦闘状態に突入するのも時間の問題だろう。
我が君は私の事を尊重してくれているし、コレバーンの事も悪い
ようにはしないだろうが、双方の衝突で死傷者が増えてくれば
魔王領内での私への風当りも強くなろうというもの。
ここは一つ、既成事実を作っておいた方がよかろう。」
頬を朱に染めるフィラと対照的に侍従長の顔が青ざめる。
「そ、それはつまり・・・。」
「うむ。夜這いじゃ!」