俺は夜空を見上げて友人のことを考えていた。殺しても死なない奴だと思っていたに…。
目尻が熱くなった。
星ひとつない、陰気な空が熱く滲んだ。
後ろでかすかに、砂利を踏みしめる音がした。
「……甲斐君」
「ケイちゃん…?」
ケイは美しい女性だった。すっと通った鼻筋に切れ長の目がややきついが、そのせいもあって、笑ったときに綻ぶ子供っぽい口元がやたら可愛く見えた。
「甲斐君…」とケイは俺の隣に腰を下ろす。いい匂いがした。風呂なんて入れないのに、どうして女の子からはこんなにいい匂いがするんだろう。俺は顔を背け、空を仰いだ。「金田君のこと、考えてたんでしょ?」
「え?」意外にあっさりそう口にしたケイに俺は驚いた。「ケイちゃん…もしかして…もう、ふっきれちゃった?」
「慣れてるの…そういうの」どこかで耳にした言葉をつぶやくケイの瞳から、長いまつげを濡らし、涙がこぼれ落ちた。そして俺の胸へ倒れこんで静かに泣いた。俺は少しだけ躊躇してから、啜り泣くケイの頭を撫でる。
(何で死んじまうんだよ…金田)
「甲斐君…」ケイが顔を上げ、俺を見つめる。唇が近づき、俺たちは口付けをした。
ケイの熱い舌が俺の口の中を舐め回し、俺も、ケイの粒のそろった歯列を割って柔らかなぬめりの中へ侵入していく。
頭の芯が、熱く痺れてくる。
「んはぁ…あん…はあはあ」
「んんっああはあ…んつ」
散々舐め回し、ようやく互いに唇を離す。唾液がねばっとした糸を引く。ケイの目が涙で潤っていた。
「甲斐君って…し、したことある?」
「ん?えーと…それってもしかして…えっちのこと」
頬を赤らめたケイが、こくり…と小さく頷いた。
「あるよ…一応」
「金田君は…」
「ええ?」
「…どう、だったのかしら?」
今聞くか?そんな答えにくいこと…。俺がため息を吐く。ケイに嘘を言うのは気が引けた。
「童貞だったと思う?アイツがさァ…」
「ふふ、思わないわ」
ケイは悲しそうに笑った。
「だよね…はは」
ほら、気まずくなったじゃん。
突然、ケイが俺に背を向け立ち上がり、上着を脱ぐ。暗やみの中、陶器みたいに白い肌が浮き上がった。俺は我慢できず、彼女を後ろから抱き締める。柔らかい身体がびくっと震えた。 いい匂い。
「ケイちゃん、抱いてほしいの?」
俺は、ケイの大きな胸を隠している両腕を掴み、首筋に口付けた。彼女が抵抗することは無かった。