教室の掃除が終わると、深谷しな子は簡単にクラスの友達に挨拶を済ませて、
まだわずかに日中の活気がたゆたっている放課後の教室を飛び出して行った。
目指す相手に気付かれないように、さりげなく教室に入っていく。
探している人物はいつもと同じ場所に座っていて、ぼんやりと窓の外を見つめていた。
恋愛漫画の一場面のようなその光景に、しな子は一瞬声をかけるのをためらったが、
軽くせきばらいすると意を決して呼びかける。
「槍溝さん」
窓の近くの席で買える支度をしていた槍溝愛は、呼びかけにゆっくりとふりむく。
「んあ?」
西日に照らされて、陰影が濃く映し出された愛の顔が妙に大人っぽく見えて、
しな子はなんとなく照れてしまう。
「あ…槍溝さん、何してたの?」
そのせいか、一瞬言葉を詰まらせてしまったが、愛はそれに気付く事もなく答える。
「ん、なんとなく…外を見てたの」
「外?」
そう言って再び窓に目を向ける愛につられてしな子も外を見たが、
雲が広がるばかりで特に何がある訳でもなかった。
それでも、愛と同じ景色を見ている事に、ちょっとだけ嬉しさを感じる。
「……」
ふと気配を感じて振り向くと、愛が自分の顔を真っ直ぐ見据えていた。
「な、何?」
「可愛いな、と思って」
その視線と同じ、あまりにもまっすぐな言葉にしな子の胸は勢いよく踊り始める。
「や、やだ、槍溝さん…そんなみえみえのお世辞」
「そうでもないんだけど」
ほとんど聞き取れない位の小さな声で言うと、しな子が何か言おうとする前に立ち上がる。
「帰りましょ? 外見てるのもそろそろ飽きてきちゃった」
「あ…うん」
(いっつも…はぐらかされちゃうのよね)
慌てて愛を追いかけながら、しな子はそんな事を考える。
しかしそれが決して嫌いでは無い事も自覚して、愛の背中に向かって一人笑いかけた。
「今日ね、槍溝さんの家に遊びに行っていい?」
帰り道も半分ほど来た所で、しな子は今日こそ言おう、
とタイミングを測っていた言葉を口にする。
しな子と愛は、まだお互いの家に遊びに行った事はない。
それは元々クラスが違うと言う事もあるし、
しな子があまり自分の家に呼びたがらないと言う事もあったが、
とにかく、二人の逢瀬は今まで学校の中だけだった。
その関係から一歩進みたくて、思いきって尋ねてみると、愛は唇に指を当てて軽く考え込む。
「あ、ダメだったら別にいいんだけど…」
その仕種を否定的な物だと思ったしな子は慌てて弁解するが、
愛の返事は予想を裏切る物だった。
「んー…良かったら、泊まりに来ない? 明日土曜日で休みだし、
今日からお父さんとお母さん、旅行に出かけていないのよ」
「…いいの?」
「ええ」
望んだ以上の展開に、小躍りしそうになるしな子。
「あ、あの…待っててね。かばん置いて支度したら、すぐに行くから!」
「え…ええ」
しな子は鼻息も荒くそう告げると、自分の家目指して一目散に走り出した。
その勢いに気圧されたのか、愛はそれ以上何も言えずに後ろ姿を見送る事しか出来なかった。
愛が自宅に着いて30分ほど過ぎた頃、チャイムが鳴ってしな子が来た事を知らせる。
「いらっしゃい」
「えへへ…こんにちは」
しな子はよほど急いで来たのか、まだ肩で息をしながら愛の顔を見て照れたように笑いかける。
「それじゃ、上がって」
促されたしな子が玄関に入ろうとした時、秋風がしな子の身体を通りすぎる。
この季節、しかも既に夜の方が近い時間帯に汗をかいていたしな子はたまらずくしゃみをしてしまう。
「お風呂わいてるけど、入る?」
愛は二階の自分の部屋にしな子を案内しながら、声にかすかに気遣う様子を乗せて尋ねる。
「え…」
「着替えとか、持ってきたんでしょう?」
「う、うん…でも…」
初めて訪ねる人の家で、いきなり風呂を借りるのは抵抗があるらしく、
しな子は控えめに遠慮しようとするが、愛は構わず続ける。
「そうと決まれば、善は急げね」
一人で結論づけると、渋るしな子の背中を押して浴室へと向かう。
「はい、これタオル」
愛はタオルを手渡すと、いきなり服を脱ぎ始める。
「え、あの…まさか、槍溝さんも…」
「何?」
胸の辺りまで服を持ち上げた所で愛の手が止まる。
淡い緑色のブラジャーがわずかに覗いて、しな子は凝視しそうになって慌てて目線を戻す。
「その…一緒に…入るの?」
「だめ?」
「…ううん…」
愛の巧みな聞き返し方に、しな子は結局頷く事しかできなかった。
先に浴室に入ったしな子は、愛に裸を見られるのが恥ずかしくて、
手早く湯を浴びるとすぐに浴槽につかる。
ほどなく、扉が開いて愛が姿を現す。
まだ湯気も少ない浴室は、愛の裸身をほとんど遮らずにしな子の瞳に映し出す。
しな子は愛に気付かれないように、素早く上から下まで愛の身体を観察する。
まだまだ大きくなって行く途中とはいえ、
はっきりと存在を主張し始めている胸の膨らみや、そこから腰へとつながっていく身体のラインが、
しな子には自分よりも柔らかな、大人の女性の物に感じられる。
更に視線を落とすと、自分の家だからか、
タオルで前を隠す事もしていない愛の股間が目に入る。
「あ…」
しな子が何かに気付いたように小さく声をあげる。
「ん?」
「槍溝さん、もう生えてるんだ…」
愛は椅子に腰掛けると、うらやましそうにため息をつくしな子に笑いかける。
「こんなの、深谷さんもすぐに生えるわよ。それに、生えたって良い事があるわけでもなし」
「でも…」
「あれ、もう来たんでしょ?」
「うん…」
「だったら大丈夫よ。それに」
意味ありげに一度言葉を切ると、真剣な表情を作って続ける。
「エッチしてると毛の成長が早くなるって雑誌に載ってたわよ」
途端にしな子の顔が真っ赤に染まり、顔を半分浴槽に沈めてしまう。
「あ、照れた」
面白そうに笑う愛に、はじめはすねたように睨みつけていたしな子も
やがて我慢出来なくなって、つられて笑い出す。
「交代しましょ」
ひとしきり笑った後、愛は手早く自分の身体を洗うと、
浴槽のへりにもたれかかってこちらを見ているしな子に告げる。
しな子は頷くと、浴槽から上がって愛と場所を変わる。
愛は浴槽に入るふりをして、しな子が座ったのを見ると、背後に回りこんで身体を押しつける。
「ひゃっ! 槍溝さん、な…なに?」
反射的に身体をすくませるしな子の反応を面白がるように愛は更に密着させながら、
スポンジと石鹸を手に取る。
(! 槍溝さん、背中、当たってる…!)
しな子は温かい肌の他に、少し違う感触の物を感じて、それが愛の乳首だと判ると、
突然顔が火を吹いたように熱くなってしまう。
「洗ってあげる」
「い、いいわよ、自分で洗えるから…きゃっ」
しな子は半分以上本気で愛から逃れようとしたが、狭い浴室で暴れる訳にもいかず、
結局愛の言いなりになってしまう。
それでも、どうしても恥ずかしさがぬぐえないしな子は身体を小さく縮こまらせるが、
それはかえって愛に背中を洗いやすくさせる事になってしまう。
「そんなに緊張しないでよ。悪い事してるみたいじゃない」
愛がそう言いつつ、優しく洗い始めると、ようやくしな子は少しだけ緊張を緩める。
「そういえばね」
愛は手を止めることなく、先日拓也に行わせた罰ゲームの話を始める。
拓也を途中で見失ってしまった事、買ってきた下着が到底拓也の選ばなさそうな物であった事、
それらを話すとしな子はうらやましそうにため息をつく。
「いいなぁ…あたしも見たかったなぁ、それ」
「ごめんね。深谷さんまで居たら、いくら拓也君でも絶対やってくれないと思ったから」
「うん…そんな感じよね…しょうがない、か。でも、後でその下着見せてね」
「ええ。それにしても…アレは絶対共犯者が居たわね」
「共犯者?」
「だって、私ずっと見張ってたのに見失っちゃたし、
それなのに下着はちゃんと、それもすっごいの買ってきてるんだから」
あまりに力説する愛に、しな子は思わず噴出してしまう。
「んあ?」
「な、なんでもない」
「そう…ま、いいわ。はい、次腕ね」
意外なほどあっさり愛は引き下がり、しな子の腕を洗い始める。
さっきの会話で緊張もほぐれたのか、しな子は軽く目を閉じて愛が洗うのに身を任せていたが、
やがて愛がスポンジを使わず、手に直接石鹸をつけて擦っているのに気がつく。
(でも…気持ちいいから、もう少しだけ黙ってようかな)
しな子がうっとりとしてしまうほど、愛の洗い方は情感に溢れていた。
掌を押し付けて泡を伸ばして、指先で擦りこむ様に腕全体を這いまわしていく。
少しずつ、快楽になる一歩手前のやわやわとした刺激に、
しな子はいつのまにかすっかり虜になってしまっていた。
愛は手首まで洗うと一度肩の方へ戻って、二の腕の内側から腋の下の、
特に刺激に弱い場所を触り始める。
「ん…」
しな子の口から軽い吐息が漏れる。愛はその事に満足を覚えたが、
それ以上本格的に快感を与える事はせず、
簡単に洗い終わるとすぐに手首から先へと移動してしまう。
力無く開いていたしな子の手を取ると、手の甲から指先まで、優しく、丹念に洗う。
じわじわと押し寄せる快感の波に、しな子の呼吸は大きく、深くなっていく。
下腹部が熱を帯び始めるのがわかって、愛に気付かれないように膝をすりあわせる。
(もっと…指、触って欲しいな…)
もどかしい愛の指に耐えかねたように、しな子は自ら指を動かして求め始めるが、
再び愛は逃げるように指を引いて、反対側の腕へと行ってしまう。
ようやく焦らされている事に気が付いたしな子だったが、
自分からそれを告げるのはまだ恥ずかしく、愛の思惑に素直に乗ってしまうのもしゃくだったので、
この場は我慢を続ける事にした。
愛はそんなしな子の忍耐を試すように、指先を集中して愛撫し始める。
両手でしな子の手を挟みこむと、爪と指腹を同時に撫で上げる。
「……!」
さっきの倍以上の快感がしな子の腕を駆け上る。
手のほうを振り向きたかったが、振り向いた先で愛がこちらを見ていると思ったしな子は、
顔をそむけて必死に耐える。
そうすると自分の手に何をされているのか全く判らなくなってしまい、
余計に自らの快楽を煽る事になってしまう。
掌に指を押し当てながら、もう片方の手で指先をしごきたてる。
ひねりを加えながら上下する指先に、しな子は思わず声を上げそうになってしまい、
とっさにごまかす。
「や…槍溝さん」
「何?」
「いつも…そんな風に洗ってるの?」
「そんな訳ないじゃない」
「!」
あまりにも正直な愛の答えに言葉を失うしな子。
「今日はもう、あなたを愛する一心で」
愛が本気で言っているのか否か、顔をそむけているしな子には判らない。
それでも、夕刻の教室の中での言葉と、
今の言葉が混ざり合って、しな子の心を暖かく満たしていく。
「それじゃ…前も、洗うわね」
だから、愛がそう言った時、しな子はほとんどためらわずに頷いていた。
愛はしな子の足の間で両膝立ちになってしな子と向き合う。
「槍溝さん…」
想いが昂ぶったのか、しな子は瞳を潤ませて愛に顔を近づけていく。
愛はそれを逆らわずに受け入れて、唇を重ねる。
「ん…」
しな子の方から舌を伸ばして愛の唇に触れさせると、愛も口を開いて応じる。
すぐに舌が絡み合いだし、しな子はぎこちないながらも一生懸命動かして愛を求める。
決して短くはない時間、二人はキスを続けていたが、
愛が顔を離してもしな子はまだ物足りなそうに愛を見る。
「まだ…キスしたいの?」
「………うん」
しな子が照れてうつむいてしまうと思っていた愛は、
予想外の返事に面食らいながらも、しな子を優しく諭す。
「でも…だめよ。身体洗わないと」
愛はスポンジを手に取ると、しな子の身体を泡だらけにしていく。
首筋から鎖骨へと、少しずつ洗う手を下に降ろして行き、まだ固さの方が強い胸に触れる。
「ぅ…あ…」
スポンジで片方の胸を擦りながら、もう片方の胸も掌で押し付けるように洗いだす。
掌の真中にしな子の乳首が当たり、そこを中心に円を描くように掌を動かすと、
だんだん硬さを帯びてくるのが伝わってくる。
愛がしな子の顔を見上げると、しな子はもう欲情しているのを隠そうとせず、
物欲しそうに愛の顔を見つめている。
「気持ちいい…の?」
しな子の顔を見ている内に自分も興奮して来た愛は、声をかすれさせながら尋ねる。
「うん…泡で滑って、いつもと違う…感じ…」
「じゃあ…これは?」
愛はすっかり硬くなったしな子の乳首をつまむと、指先で擦り上げる。
「やっ……ん、…っ……」
しな子は気持ち良さそうに声を上げて愛に続けるよう促すが、
愛は数回擦るとすぐになだらかな丘を下ってしまう。
腹部へ辿りつくと、肌触りを楽しむようにわき腹から身体の中心へと手を滑らせる。
へその周りを人差し指だけでなぞると、しな子はそこが弱いのか、
踵を浮かせて身体をのけぞらせる。
「っ、ねぇ、槍溝…さん…もう…」
「もう…こんなに…なってるのね」
愛が指先をスリットに潜りこませると、熱い液体が指にまとわりつく。
「だって…槍溝さんに、触られてるって、そう考えると…どんどん、熱くなって…」
(…ま、いいか)
愛は軽く笑うと、しな子の膣に指を差し込む。
「やっ、あっ……」
散々焦らされていたしな子は、愛が数回指を動かしただけで切なげに喘ぎ、
限界が近い事を愛に伝える。
「やり…みぞ、さん、あたし…も、だ、め…!」
しな子は愛の肩を掴むと、大きく身体を痙攣させて絶頂を迎える。
倒れないように支えてやりながら、愛はさりげなくしな子の身体を抱き締めていた。
「結局、最後までしちゃったわね」
愛は浴槽に浸かりながら、身体を流しているしな子に話しかける。
「…槍溝さん、最初からそのつもりだったんじゃない?」
「だって…深谷さん、こんなに感じやすいとは思わなかったんだもの」
図星をつかれたしな子は悔しそうに黙り込んでしまう。
(今度こそ…今度こそ、あたしが主導権握るんだから)
しな子は決心も固く愛の顔を見つめる。
「深谷さん?」
愛は自分の顔を見つめたまま動こうとしないしな子を、のぼせたのかと思って心配する。
「…え? あ、なんでもない。あたし、もう出るね」
しかし、しな子はそう言うと勢い良く浴槽から上がって、さっさと風呂場から出て行ってしまった。
愛はしな子が怒っているのかと思ったが、妙に張りきっている様子を感じて、
不思議そうに首を傾げた。