竹中七海は放課後、人気のない廊下を歩いていた。
授業が終わってから、少し時間が経っている。
クラブ活動もないため、学校内にはほとんど生徒の姿はなかった。
七海は図書室で今しがた借りた本を抱えている。
最近興味が出てきて読み始めた推理小説ものだ。
終業とともに図書室に向かい、本を借りるのが習慣になってきていた。
(早く帰って読もうっと)
階段を登り、自分たちの教室のある階の一つ下の階まで来て、ふと足が止まった。
(あれ?深谷さん?)
廊下の先に見えたのは、見知ったクラスメートの姿だった。
そのまま廊下の奥へと歩いていく。
廊下は突き当たりで少し曲がっており、そこで彼女の姿は七海には見えなくなった。
彼女の向かった先には、社会科の資料室があるだけのはずだった。
(でも、今日は社会の授業なんてなかったし・・・)
そもそも、こんな時間に果たして何の用事があるというのだろう。
これはミステリーだ。
もしかしたら、何かの事件が起こっているのかもしれない。
昨晩読んだ推理小説の主人公の姿が頭をよぎった。
七海は廊下を歩き始めた。
後をつけるなんて、と後ろめたい気もしたが、それよりも好奇心が勝った。
というよりも、何か起こっていたら、という期待もあった。
もしかしたら、推理小説の主人公に自分を重ね合わせていたのかもしれない。
七海は本を抱えながら、廊下を歩き始めた。
(さて、と・・・)
廊下の突き当たりについた七海は、その先にある社会科資料室に目を向けた。
この階には5年生の教室もある。
しかし、資料室との教室との間には、いくつかの空き教室がはさまれている。
また、階段やトイレもないから、普段から人のあまりいないところだ。
七海自身もここに来たことは、日直の時に資料を取りに来たことが一度あるだけだった。
とは言え、突き当たりで消えた以上、資料室以外に行く場所はない。
(うーん・・・そもそも、本当に深谷さんだったのかなあ・・・?)
とは言え、服装といい身長や髪型といい、それは先刻まで同じ教室で授業を受けていた深谷しな子と同じだった。
資料室前の廊下は、電気が落とされていた。
日当たりも悪いせいか、薄暗くてとても日が出ているとは思えなかった。
それが余計に七海の不安を煽る。
資料室の前で悩むことしばし。
――ガタッ
「ひっ・・・」
資料室の中で、何かが動いた音がした。
思わず七海は小さな声で悲鳴をあげてしまった。
どうやら中に何かがいるらしい。
ごくり、とつばを飲み込むと、七海は資料室のドアへと近づく。
一歩近づくごとに、心音が高鳴るのが自分でわかった。
(か、鍵がかかってたら、諦めよう・・・)
この期に及んで、そんなことを考える七海だったが、勇気を出して取っ手に手をかけた。
そして、わずかに力を加えてみる。
(開いてる・・・!)
スライド式のドアが少しだけ開いた。
幸い音はほとんど出なかった。
七海はドアの取っ手を手にしたまま、一瞬固まってしまった。
不意に、自分の背中から、ガラガラっとドアの開く音が聞こえてきた。
五年生の教室から誰か出てきたのであろうか。
びっくりした七海は、そのままドアを開けると、素早く資料室内に飛び込み、ドアを閉めた。
少しの間呼吸を整えると、改めて周りを見る。
電気はついておらず、室内は薄暗いままだ。
七海はそろそろと奥へ向かって歩き始める。
資料室は意外に広く、普通の教室二つ分ほどの広さがある。
その間を書架が何列も並び、ところどころに壁掛け式の地図などが置かれている。
滅多に使われないせいか、きちんと整理された状態ではある。
(誰もいないのかな・・・?)
と思ったその時、資料室の奥から声が聞こえた。
七海の心拍数が一気に跳ね上がる。
ゆっくりと歩くと、その声は徐々に徐々にはっきりしてくる。
「・・・あっ・・・や・・・」
「・・・はぁ・・・んっ・・・」
どうやら声の主は二人いるらしい。
はたして何をしているのか、七海には想像もつかなかった。
だが、自分がその声に、不思議に興奮しているのは感じていた。
七海は書架の陰からそっと盗み見て、そして驚きのあまり、そのまま硬直してしまった。
(えっ!?)
女子生徒が二人、抱き合ってキスをしている。
七海はそれだけでも衝撃的だったが、さらに驚いたのは二人とも七海の知っている生徒だったことだ。
一人は深谷しな子、もう一人は槍溝愛。
その二人がお互いの体を強く抱き合い、キスをしている。
「ん・・・はぁっ」
「・・・んんっ・・・」
しな子と愛は互いの舌を絡み合わせている。
互いの舌をなめあうように絡ませていたかと思うと、今度は舌を口の中に引き入れ吸う。
キスといえば、唇と唇を重ねるだけ。
その程度の認識しかない七海にとって、目の前で二人の繰り広げるディープキスは、ショックが大きすぎた。
艶めかしい動きはしかし、七海の目を捕らえて離さない。
やがて二人は名残惜しそうに唇を離した。
舌と舌の間を、二人の唾液が糸のように結ぶ。
「キス、上手になったのかしら」
愛がしな子に言う。
「槍溝さんは、そうだと、思う」
しな子は顔を上気させながら言う。
「すごく・・・気持ちよかった」
「そう、良かった」
互いに微笑みながら、もう一度キスを交わす。
再び舌が絡み合う。
そして、愛がしな子のブラウスのボタンを外し始めた。
「・・・んっ・・・やぁっ・・・」
(わっ・・・!)
七海の驚きを無視して、愛はしな子のボタンを一つずつ外していく。
しな子も手を伸ばし、愛のブラウスのボタンを外そうとするのだが、キスの気持ちよさのせいか、なかなかうまくいかない。
(エッチなことをするんだ・・・)
七海の思考がようやくそのことを理解する。
とうとう愛はしな子のブラウスの上の方のボタンを外し、白い肌を露出させてしまう。
(あれが、女の子の体・・・)
女子の裸を見るのが初めて、と言うと多少ウソになる。
体育の着替えの時など、意図せずして見てしまうことはあった。
しかしそれは七海に多少の罪悪感をもたらすものではあっても、特に興味を引くようなものではなかった。
だが、今改めて見るしな子の肌は、七海に異性への興味を抱かせるに十分だった。
七海がしな子の肌に見とれていると、しな子もようやく愛のボタンを外し、その肌を露出させる。
ブラウスの影から、淡いピンクのブラジャーがちらりと覗く。
「いいなぁ・・・槍溝さんのブラ、可愛くて」
「あら、深谷さんのも可愛いわよ」
そう言って愛は、しな子のブラウスを少しずらした。
パステルカラーのチェックのブラジャーがあらわになる。
愛はブラジャーの上から、そっと胸に手を触れた。
「そうかなぁ・・・なんか子どもっぽくないかなぁ・・・」
「そんなことないわ。女の子っぽくて素敵だと思う」
愛の指先がさりげなくしな子の胸で動く。
「それに・・・問題は中身よ」
と言うと、愛の手がブラをずらした。
ブラの下から、しな子の乳首があらわになる。
(!)
まだ発展途上とは言え、わずかに丸みを帯びた胸。
その上でちょこんとピンク色の突起が自己主張をしている。
初めて生で見る女子の胸は、七海にとっては衝撃的過ぎた。
七海が自分の身体の異変に気づいたのは、その時だった。
いつからだろうか、自分のペニスが硬く大きくなっている。
(あれ?ど、どうしたんだろう?)
七海のペニスはトランクス越しに半ズボンを押し上げ、自己主張をしている。
おしっこを我慢しているときに大きくなってしまうことはあった。
だが、今は別に尿意があるわけではない。
なんだろう、と思いながらも、今はそれよりも目の前の二人の動きの方が気になった。
愛はしな子のブラを外すと、双方の胸を完全に露出させる。
「ここはとっても可愛いわよ」
「やだ・・・あっ・・・」
愛の指先が巧みに動き、しな子の乳首を刺激する。
続いて、愛の唇が吸い付いた。
「きゃっ・・・はぁっ・・・んぅっ!」
吸いながら、時々舌で軽くなめ上げる。
快楽が全身に走り、しな子の体がその度ごとに震えた。
「んっ・・・あぁっ・・・」
さらに愛は手を動かして、もう片方の乳首を刺激する。
舌で舐めながら、同じように指で軽くなでる。
そうかと思うと、唇で吸い上げ、同時に指で軽く乳首をつまむ。
口と指を巧みにシンクロさせ、左右の乳首に刺激を与えた。
「あぁぁ・・・あんっ・・・ふぁっ・・・」
しな子は書架にもたれかかり、殆ど立っていられない状態だった。
愛はその状況を確認すると、もう片方の手をスカートの中に潜り込ませた。
「あら」
愛が意外そうな声を出す。
「もう湿ってる」
しな子の顔が途端に真っ赤に染まる。
愛はそれを見ると、しな子が何か言う前に、スカートの中の手を動かした。
「そ、そんな・・・あぁっ!」
七海には見えなかったが、中ではパンティをずらした愛の指が、しな子のスリットに進入していた。
中指の先にしな子の愛液を絡ませると、そのまま中へと指を挿入する。
「んんっ・・・あっ・・・ふぁっ・・・」
愛の指が動くたびに、しな子が声を上げ、体を震わせる。
その間も乳首への愛撫は止めず、むしろ激しさを増している。
「あぁっ・・・あぅっ・・・!」
しな子の体が反り返り、声がひときわ大きくなる。
「ふふっ・・・いきそう?」
オーガズムへの予感を感じた愛が、しな子へと問い掛ける。
「うっ・・・ぅん・・・っきそう・・・いきそうなのっ!」
「じゃあ、いっちゃいなさい」
愛はスカートの中の手を器用に開くと、中指を埋めたまま、親指でしな子のクリトリスを探り当て、刺激した。
「やぁっ・・・!」
しな子が首を左右に激しく振るが、愛は動きを止めず、なおも刺激する。
敏感なところを全て刺激され、しな子の体が一気に昇りつめる。
「んぅっ!はぁんっ!・・・あぁぁぁ!」
ひときわ大きな声を上げて、しな子はオーガズムに達した。
体が大きく仰け反り、やがてぐったりと書架に倒れかかる。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
しなこはそのまま床に座り込みそうになってしまう。
愛は手をしな子の腰に回し、なんとか支えた。
槍溝にもたれかかりながら、息を整える。
やがてしな子が口を開いた。
「・・・また私だけ気持ちよくされちゃった・・・」
「そう?」
「だって・・・」
「でも、気持ちよさそうな顔してる深谷さん見てると、私も嬉しいのよね」
「えっ・・・?」
愛の表情は普段と殆ど変わらないが、わずかに微笑んでるようにも見えた。
「私ってやっぱりSなのかしら」
「S・・・?」
言葉の意味のわからないしな子が、不思議そうな顔をする。
七海はその光景を呆然と見ていた。
エッチなことをしていた、と言うのは解かる。
しかし、
(気持ちいいって、どういう意味なんだろう?)
(いくって、どこに行くんだろう?)
(槍溝さんはスカートの下で何やってたんだろう?)
(キスってどんな感じなんだろう?)
といった疑問が浮かんでは消えていった。
「ところで、どうだった?」
話を変えるように、愛がしな子に話し掛けた。
「どうって・・・」
しな子は恥ずかしさのせいか、顔を赤くしながらうつむいてしまう。
「・・・気持ちよかった」
「そう、良かった・・・気持ちよかったの」
と、愛はそこでちらりと視線を書架に向けた。
書架越しに七海の目がある。
(見られたっ・・・!?でも、そんな・・・)
七海は真正面から愛の視線を受けてしまう。
愛が視線を向けたのは一瞬だけで、すぐに目をそらした。
だが、七海は背筋がひやりとした。
七海は資料室を出るべく、できるだけ早く、静かに歩き始めた。