榎木拓也の様子がおかしい。
中西亜由子はベッドの中で、ここしばらく感じていた疑問を考えてみた。
心ここにあらずといった感じで歩いている事もしばしばだ。
そうかと思うと、妙にそわそわしていたりもする。
さらに放課後もふらっとどこかへいなくなってしまう。
どうやら放課後に原因がありそうだ、と考え出したのは数日前からだ。
拓也の様子がおかしいのも、放課後どこかへいなくなるのも、夏休みが明けてから起こった変化だからだ。
よし、明日の放課後、後をつけてみよう・・・
亜由子はひそかにそう決意すると、眠りについた。
翌日の放課後、亜由子は授業が終わるとすぐに拓也のいる教室へと向かった。
まだ拓也はゴンたちと教室にいた。
大半の生徒が帰り支度を終えて下校しようとしている。
その様子を廊下からうかがう亜由子。
「拓也、一緒に帰らないか」
「先生に仕事頼まれちゃって・・・ごめんねゴンちゃん」
「そっかー。俺も手伝おうか」
「い、いいよ、すぐ終わるから」
ゴンの申し出に拓也は少し焦った感じで返事をした。
幸い、ゴンは怪しむ事もなく納得したようだった。
「わかった、じゃあ頑張れよ」
「うん、じゃあね」
ゴンを見送った拓也はほっとした様子を見せると、続いて教室を出た。
(やっぱり怪しいわ・・・何か隠し事でもしてるみたい)
亜由子は拓也の少し後を追跡し始めた。
下校時間の廊下は生徒であふれ返っており、しかも拓也は早歩きで人の間を縫うようにして歩く。
亜由子は階段を下り、一階の下駄箱についた時点で、拓也の姿を見失ってしまった。
下駄箱は校舎の端にあるから、校舎内は考えにくい。
考えられるのは校庭か、反対側にある校舎裏か。
亜由子は上履きを靴に履き替えると、校舎から少し出て校庭を見渡す。
下校中の生徒がたくさんいるが、その中に拓也の姿は見当たらなかった。
すぐ後をつけていたのだから、校庭を越えて校門まで行ったとは考えにくい。
(っていうことは校舎裏?でも、何でかしら・・・?)
頭の中に疑問が浮かんだが、亜由子はすぐに決断した。
(そうよ、行くだけ行ってみればいいんだわ)
亜由子はきびすを返すと、校舎裏へと向かった。
校舎裏は日中にもかかわらず、校舎の影に隠れて少し薄暗かった。
亜由子はめったに来ない場所を歩いていた。
(でも・・・ここは焼却炉と予備の倉庫くらいしかないはずなのに・・・)
焼却炉のあたりにも拓也の姿は見当たらなかった。
そして学校の一番隅にある倉庫の前にたどり着く。
位置が不便なせいか、運動会の時くらいしか用のない倉庫だ。
校舎からは大きな木にさえぎられており死角となっている。
木の反対側はコンクリートの壁にさえぎられている。
来たはいいものの、拓也の姿が見つからず亜由子は途方にくれてしまっていた。
引き返そうと思ったその時、
――さんっ――
かすかにだが、拓也の声が聞こえたような気がした。
(倉庫の中?でもカギがかかってるし・・・あ、確か窓があったはず!)
亜由子は倉庫と壁との僅かな間に入ると、窓を探し始めた。
しかし、窓は物にふさがれて見ることは出来なかった。
さらに進んで、入り口の反対側についた亜由子は、その窓から中を覗いてみた。
その目に飛び込んできたのは、拓也と深谷しな子が抱き合ってキスをしている光景だった。
(えっ、榎木君!?・・・と深谷さん!?)
亜由子は驚きのあまり、声すら出せずにいた。
亜由子が驚いている間に、二人は舌を絡めてのディープキスを始めた。
(キス、してる・・・えっ、舌が・・・やだ・・・)
キスといえば唇が触れ合うだけのフレンチキスしか知らなかった亜由子には、その光景を衝撃的だった。
拓也もしな子も、技術的にはまだまだぎこちない。
けれども、お互いに熱心に舌を絡ませあい、吸ったりしている。
なまじテクニックを知らないだけに、ストレートにお互いのしたいキスをぶつけ合っている。
結果としてそれが、更なる快感を生んでいるようだった。
どちらかというと、しな子がややリードし、拓也はそれに一生懸命に対応すると言う感じだったが。
キスを続けるうちに、二人とも頬が心なしか赤くなってくる。
その頃には亜由子も、最初に感じた嫌悪感よりも不思議な興奮の方が高まってきていた。
(なんでだろう・・・わたし、体があったかい・・・)
それは亜由子が初めて経験する感覚だった。
意識せぬ間に、亜由子の手がそっと唇に触れていた。
普段なら絶対しないはずなのに、なぜだかわからないが、亜由子は軽く舌を出してその指先をなめてみた。
「あっ・・・!」
不思議な感覚が体中に広がる。
舌と指から、同時に電流が走ったかのようだった。
(やだ・・・なんだかエッチな感じがする・・・でも、止まらない・・・)
戸惑いながら、指先を何回かなめてみる。
息も少しずつ上がってきているのを、自分でも感じ始めていた。
やがて倉庫の中の二人は、お互いの身体に手を這わせ愛撫を始めた。
拓也の手がためらいがちに、半そでのブラウスの上から、しな子のまだ小さな胸に重ねられる。
しな子は一瞬ビクッと反応すると、拓也にキスをしながらズボンの周りを触り始める。
(おっぱい、さわってる・・・)
最初に感じたショックはもう和らいでいるはずだった。
亜由子はいつでもその場を離れることができるはずだった。
しかし、好奇心とそれを上回る興奮のせいで、亜由子はその場を動けずにいた。
(エッチなこと、いけないことしてるはずなのに・・・)
拓也の手が、今度はブラウスの裾から中へと忍びこみ、直接しな子の胸を触り始めた。
舌でなめていたのと反対の手が今度は胸に伸びようとしていた。
その瞬間、亜由子の手よりも先に、何者かの手が胸を触った。
「レズセクハラ」
「きゃっ!」
いつのまにか後ろに槍溝愛がいた。
それ以上声が出ないように、左手で亜由子の口をふさぐ。
「声を出しちゃだめよ、中の二人に聞こえちゃうから」
そう言いながら、右手で亜由子の胸を優しくなでる。
それは本当にただ服の上を指が這った程度の愛撫だったが、亜由子には十分だった。
指が少し動くごとに、亜由子はびくっと身体を振るわせる。
(かわいい・・・)
しばらくして、愛は左手を離すと亜由子を振り返らせ、向き合った。
「ど・・・どうして・・・」
「かわいいから」
「そうじゃなくて・・・んっ!?」
亜由子は反論しようとしたが、その前に唇を何かにふさがれてしまった。
それがキスだとわかるのに、数秒かかった。
時間にすればわずかなのだろうが、亜由子にはとても長い時間に思えた。
やがて、愛が唇を離す。
「・・・どうしてここにいるの?」
「じゃあ、どうしてあなたはここにいるの?」
「そ、それは・・・」
「じゃあ、いいじゃない。お互いさまってことで」
「・・・」
亜由子はそういうものかしら、と思ったが口には出さずにいた。
「それより、中を見るんじゃないの?」
促されて亜由子が中を見てみると、すでにしな子はブラウスのボタンをはずし、拓也がブラをずらそうとしている所だった。
「深谷さん、ブラしてるんだ・・・」
「あなたもした方がいいわよ」
愛が中を覗きながら言う。
「でも、わたし、胸大きくないし・・・」
「すぐに大きくなるわ。知ってる?女の子のおっぱいってね、触られると大きくなるのよ」
「えっ?」
亜由子が聞き返すのと同時に、愛の手が亜由子の胸に触れる。
「こういう風にすると大きくなるのよ」
愛の手はゆっくりと優しく、亜由子の胸を揉んだ。
円を描くようななだらかな動き。
「ほら、中を見てみて。深谷さんも同じようにされてるわ」
ちらっと見ると、拓也に胸を愛撫されるしな子の姿が目に映った。
(わたしも同じようにエッチな事されてるんだ・・・)
「目をそらしちゃだめよ」
そういうと愛は、亜由子にキスをする。
今度はフレンチキスではなかった。
愛のやわらかい唇の間から舌が出てきて、亜由子の唇を僅かになめる。
亜由子は振りほどこうとしたが、力が入らず愛になすがままにされてしまっている。
(んっ・・・また、変な気持ちになってきちゃった・・・)
「目をそらしちゃだめよ」
倉庫の中では、しな子もまた同じようにキスをされ、胸を触られている。
(深谷さんもおんなじことされてるんだ・・・)
愛の舌が亜由子の唇を割って、口の中に入ろうとする。
抵抗する事もできず、その舌を迎え入れる。
舌は口の中を優しく動き回る。
「んっ・・・はぁっ・・・」
その間も胸への愛撫は止まらない。
「どう?」
唇をほんの少し離すと、愛が尋ねた。
「あっ・・・」
亜由子は名残惜しそうに唇を半開きにしながら、うるんだ瞳で愛を見つめる。
「どうって・・・わからない・・・変な感じなの」
「でも、嫌じゃないでしょう?」
亜由子はこくりと頷いた。
「それはね、気持ちいいってことなのよ」
愛はそう言うと、亜由子の髪を優しくなでる。
「もっと気持ちよくなってみる?」
亜由子は恥ずかしそうに、こくりと頷いた。
(かわいい・・・)
愛は口に出さずに、再び亜由子への愛撫を始めた。
唇を当てると、先程よりももっと情熱的にキスをする。
舌を絡めたり、歯の上を這わせたり、口中を舌が動き回る。
その一方で亜由子のブラウスの裾から手を入れると、すっかり硬くなった乳首を指で軽くさわる。
「あっ・・・!」
「女の子はね、気持ちよくなるとここがこういう風に硬くなるのよ」
何度かトントンとさわると、親指と人差し指で軽くつまむ。
「んっ!」
愛の唇にふさがれ、声にならない声がこぼれる。
「ここはとっても気持ちいいの」
指は乳首を軽く触り、つまみを繰り返す。
そのたびに亜由子は声をもらしてしまう。
亜由子は既に、初めて味わうこの快感の虜になってしまっていた。
「大分気持ちよくなってきたみたいね・・・そろそろこっちに行ってみようかしら」
愛はそう呟くと、右手を亜由子のスカートの中に入れ、下着の上を這わせた。
「軽く足を開いてみて・・・そう」
言われるまま、足を開く亜由子。
愛の手が亜由子のそこに触れた。
「やっ・・・そんなとこきたないっ・・・」
「そんなことないわよ。ここは女の子にとって、一番大事な場所なんだから」
パンティをずらすと、愛は亜由子の入り口に軽く触れる。
そこは既に、こぼれださんばかりに蜜があふれていた。
「あっ・・・やだぁ・・・」
「女の子はね気持ちよくなると、ここがこんな風に濡れてくるのよ。経験ない?」
「・・・しっ、知らない・・・」
亜由子はとっさにそう答えたが嘘だった。
夜寝る前、拓也のことを考えたりした時に、同じようになった事がある。
その時はそれがエッチなことだとは気付かなかったけれど。
「そう、じゃあ覚えておいて」
そう言いながら、愛は入り口のあたりを指を往復させる。
「ここに男の子のおちんちんが入るの。あんな風になったおちんちんが」
愛はそう言うと、倉庫の中に視線を向ける。
つられて亜由子が覗いた先には、勃起した拓也のペニスがあった。
「!」
「女の子が気持ちよくなるとこうなるみたいに、男の子はああいう風におちんちんが大きくなるの」
「あんなに大きいのが・・・」
「大丈夫よ。そういう作りになってるんだから」
「でも・・・」
「ほら、深谷さんだって入ったでしょ」
驚く亜由子の目の前で、拓也はそのペニスをしな子に深々と挿入した。
「やっ・・・痛そう・・・」
「初めわね。でも、だんだん気持ちよくなるわ。彼女みたいに」
言いながら愛は、空いた手でするりと亜由子のパンティを太ももまでずらしてしまう。
「やっ・・・」
「大切な場所だから、指でするのはやめておくわ。その代わり・・・」
愛の指が陰唇をつつーっとすべり、亜由子のクリトリスに触れる。
「あんっ!」
「女の子が一番気持ちよくなれるところを触ってあげる」
「あっ・・・あはぁっ・・・」
愛は指に亜由子の愛液を絡めると、ぬるぬるになった指でクリトリスをなで上げる。
「はぁ・・・あふっ・・・」
「気持ちいいんでしょう」
「わ、わかんない・・・あんっ・・・!」
円を描くように、あるいは軽くつまんだりと巧みに愛は亜由子を責める。
「あっ・・・な、なんか・・・なんか、へ、変・・・はぁん・・・」
「いっちゃうかな?」
「はっ・・・なにか、なにか来るの」
「それがいくっていうことよ。ほら、中の二人ももうそろそろいきそうよ。すごく気持ちよさそうでしょう」
僅かに開いた目で見ると、拓也としな子の様子が飛び込んでくる。
拓也は必死で腰を動かし、しな子は拓也が動くたびに激しく身体を震わせ、声をあげている。
それが亜由子の快感をさらに刺激する。
「あうっ・・・はん・・・やぁ、く、来るのぉ」
「いいわよ、榎木君たちと一緒にいっちゃいなさい」
「んぁ、はぁ・・・あ、あ、あぁーーーーー!!」
倉庫の中の拓也が、しな子のお腹に射精するのと同時に、亜由子は生まれて初めてのエクスタシーに達していた。
あまりに強い快感に、身体を震わせながら、亜由子は愛にもたれかかった。
「ちょっとやりすぎちゃったかしら」
愛は亜由子を抱きとめると、髪をなでながら話しかける。
はぁはぁと息を整えている亜由子は、返事が出来ない。
「でも、気持ちよかったでしょ」
「・・・」
今度は息のせいではなく、その問いに答えられない亜由子。
恥ずかしさのあまり、顔がさっきよりも一層紅潮している。
「さ、そろそろ行きましょう」
その様子を見ながら、愛はマイペースに言った。
「早くしないと、二人が倉庫から出てきちゃうわ。こんなところ見られたくはないでしょう」
亜由子はもう一度頬を赤らめながら、慌ててパンティを履きなおす。
「なんか、湿ってて気持ち悪い・・・」
「早く帰って履き替えないと、風邪引くわよ」
そして二人は倉庫から歩き始めた。
「あんな感じ、初めてだった・・・」
少しして亜由子は口を開いた。
「そう。もうやだ?」
「よく、わからないけど・・・でも、ちょっといいかなって・・・」
「それでいいのよ。人間ってエッチな動物なんだから」
ストレートに言い放つ愛。
「好きな男の子にしてもらうと、もっと気持ちよくなれるわよ」
しばらく間を置いて、亜由子が返事をした。
「うん・・・でも、槍溝さんにもまた、その・・・して、ほしいの・・・」
「えっ・・・」
さすがの愛もびっくりした。
と、同時に、しな子に続いて、亜由子もいけない世界に引きずりこみかけている事に気付いたのだが、後の祭りであった。
(ま、でもなんとかなるか・・・)
愛は隣を歩く亜由子の髪を、軽くなでた。
一方その頃、仲良く歩く二人の姿を見て、絶句する熊手の姿があった。
「あ、あ、亜由子さん・・・まさか槍溝なんかに!!」
しばし硬直のあまり動けなかった熊手だが、しばらくして、
「ちきしょー!これも全部榎木のやつのせいだ!あの野郎、覚えてろよ!」
と叫んで走り去っていった。
後日、拓也にとばっちりが来るのだが、それはまた別の話である。
(完)