教室には西日が差し込み、長く伸びる影は夜へバトンを渡そうとその面積を増していく。
ほとんど人も居なくなった校舎の、誰も居ない教室の中に、声をひそめるように話す二人の少女がいた。
「それで、槍溝さんも、最後までしちゃったの?」
身を乗り出すようにして、おさげの少女が問い詰める。
槍溝と呼ばれた少女は、机にひじをついて真正面からその少女を見返して答える。
「それが、ダメだったのよ。入れてもらう前に、榎木君気持ち良くなりすぎちゃったみたいで」
そう言って軽くため息をつくと、表情をわずかに曇らせる。
二人の少女-槍溝愛と深谷しな子は、ある夏の日を境に急速にその中を深め、
放課後は大抵、こうして一緒にいるようになっていた。
「そうだったの・・・」
「そうなのよ。だから、あなたの方がちょっと先に行ってるってこと」
先、と言われてしな子は少し優越感を感じたが、それを顔に出さないように努力しながら続ける。
「そっか・・・ね、気持ち良くなりすぎちゃったって、前戯が上手って事?」
まだまだ知識の乏しいしな子が、好奇心まるだしで尋ねると、
それに愛は意味ありげな笑みを浮かべて答える。
「さあ、どうかしらね・・・深谷さん、試してみる?」
愛の問いにしな子は直接は答えず、愛の手に自分の手を重ねながら、目線を外して呟く。
「う〜ん・・・あたしもね、ちょっと、練習したいな、って思ってたの」
「決まりね。じゃ、早速・・・」
しな子にキスをしようとした愛は、何かを思い出すと、近づけた顔を急停止させる。
「そうだ深谷さん、キスは、もうすませた?」
「え、ええ・・・夏に、一緒に・・・」
「そういえば、あなたの方が先に榎木君とキスしたんだったわね。羨ましくて悔しいわ」
思い出した気恥ずかしさから、顔を赤らめてうつむくしな子に、愛は率直な感想をぶつけ、
しな子の顎を指でつまんで持ち上げると、そっと、触れるか触れないかのキスをする。
「ん・・・」
しな子は目を閉じて愛を待ちうけるが、愛はすぐに唇を離してしまう。
肩透かしを食ったしな子は目を開けると、不満そうに頬を膨らませる。
「そんな顔しないの。こうやって、焦らすのもやり方のひとつなのよ」
そう言ってしな子の鼻を小さくつつくと、再びしな子と唇を重ねる。
「んっ、・・・」
二人の唇に、拓也の時とは違う、柔らかな感触が伝わってくる。
それが心地よくて、しな子は愛に身を任せて唇に意識を集中する。
しばらく、二人とも、彫刻のように動かず、ただ唇を合わせていただけだったが、
やがて、愛は口を少し開くと、しな子の唇を舌で舐め上げる。
「!」
驚いて、思わず顔を離すしな子。自分の唇に手をやると、微かに愛の唾液が触れる。
「そんなに驚かなくてもいいじゃない。ちょっとショックだわ」
そんな事を微塵も感じさせない表情で愛が言う。
「だ、だって・・・いきなりだったから。・・・今の、ディープキスっていうやつ?」
「ええ。今月号に載ってたから」
愛が名前を出した雑誌は、過激な性体験が売り物のティーンズの少女向けの雑誌で、
しな子も初めて拓也とする事になる前に、何度も読んで予習をしていた。
「槍溝さんも、あれ読んでるんだ」
自分と同じ本を読んでいる、その事がしな子に一層の親近感を抱かせる。
「ええ、意外?」
「ううん、そうじゃなくって、ちょっと嬉しいな、って」
「そう・・・あたしもよ」
えっ、と聞き返そうとしたしな子に再びキスで機先を制すると、再び舌先を伸ばす。
(今、槍溝さん、あたしもって・・・あたしも嬉しいって)
愛が言った事を反芻しながら、今度は逆らわず愛の舌を受け入れる。
愛の舌は、まだ、動き方を探るようなぎこちなさで、しな子の口腔を舐めまわす。
(・・・・・・)
初めて感じる異物感からか、目を硬く閉じて、身体中に力が入ってしまっている
しな子の歯に触れると、愛は舌先で押し開けるように優しくつつく。
と同時に、重ねていた手をそっと絡み合わせてやると、
少しずつしな子の身体から力が抜けていく。
愛は少し身体を傾けると、改めてしな子の口腔に舌を入れていく。
「ふ・・・・・・ん・・・」
くぐもった声を出しながら、しな子は目を閉じて、自分の中を侵食していく愛の舌に意識を集中する。
そのうち、徐々に動かし方が判ってきた愛の舌が、誘うようにしな子の舌を絡め取ると、
しな子もそれに応じて、ゆっくりと舌を動かし始める。
「ん・・・、んんっ・・・」
一秒ごとに新しい快感を与えてくる自らの舌に、身体が耐えかねたように身体を震わす。
ほとんど無意識のうちに、しな子は愛の手をぎゅっと強く握り、残った手も愛の手を掴む。
少ししな子の掴み方が強かったのか、愛は顔をしかめたが、
それでも舌の動きを止める事は無く、それどころかより深く、
しな子の舌の根元を吸い上げるようにきつく唇を塞いで、激しいキスを始める。
ようやく愛が唇を離すと、もう混ざり合ってどちらのものかも判らない唾液が、
名残惜しそうに糸を引く。
うっすらと目を開いたしな子の瞳は焦点が定まっておらず、
赤く上気した頬は愛の手に穏やかな温もりを伝えてくる。
「どうだった?」
快楽の余韻に浸っているしな子に、愛は、相変わらずほとんど同じ表情のまま尋ねる。
「ぅ・・・ぁ?」
しな子は答えようとしたが、頭の中にもやがかかったようになっているのと、
舌が上手く回らないので全く返事にならない。
「深谷さん、大丈夫?」
愛がそう言うと、ようやく頭を軽く振って我にかえる。
「どうって・・・すごい、気持ち良かった
・・・気持ちいい、しか頭の中になくなっちゃうくらい。槍溝さんは?」
「気持ち良かったわよ。そう見えない?」
(全然見えないんだけど・・・)
顔にも口調にも変化の無い愛に、返答に窮したしな子の目に、愛の唇がうっすらと光って見える。
それが自分たちの唾液だと気がついた時、何故かしな子はくすり、と笑っていた。
「どうしたの?」
いぶかしげに尋ねる愛。
「ううん、なんでもない」
「ふーん?・・・ま、いいわ。それじゃ、続きしましょうか」
愛はしな子の前にしゃがみこむと、手でしな子のスカートをつまんで持ち上げる。
「きゃっ・・・ちょっ、ちょっと、恥ずかしい・・・」
「照れない照れない。ほほう・・・これが榎木君のが入った所なのね」
いやに小説がかった口調で愛が言うと、しな子は裾を押さえてそれ以上見られまいとするが、
愛はそれより早くしな子の股間に頭を潜らせる。
キスだけで充分に感じていたしな子は、もううっすらと下着を湿らせていた。
それに気付いた愛は、指先でそっと擦ってみる。
「ん・・・」
「ね、やっぱり、初めては痛かった?」
下着越しに形をなぞり、少し指で入り口をつついてみながら尋ねる。
「あ・・・っ・・・う、うん・・・物凄い、痛かった・・・死んじゃうかと思ったもん」
「ふーん・・・気持ち良くはならなかったの?
漫画とかだと、痛いのは最初だけ、とか良く書いてあるわよね」
「ん・・・・・・あんっ・・・・・・ううん、痛いだけだったわ。
終わった後も、2日くらいずっと痛かったし」
「そう・・・それじゃ、まだ指入れても痛いかしら」
独り言のように呟くと、しな子の下着の横から指を差し込む。
指の腹をしな子の膣口にあてがうと、ぴちゃ、と音がして大量の愛液がまとわりつく。
「でも、これだけ濡れているし・・・深谷さん、痛かったら言ってね」
「うっ、ん・・・つっ・・・」
愛が少しずつ指を奥に進めていくと、しな子は眉をしかめたものの、
それ以上拒否するそぶりも見せず、愛の指を受け入れて行く。
中指を半分ほど埋めたところで、軽く上下に揺すってみる。
「んんっ・・・・・・あ、・・・そ、れ・・・」
拓也の物が入っていた時とは、痛みも全く違うし、太さが違う分だけ余裕も生まれ、
愛の指の動きを敏感に感じ取る事が出来る。
それは同時に、しな子に自分の中の性感帯を開発させる事にもなり、
しな子は愛の指が動く都度、新しい官能を呼び覚まされて声を上げる。
「っふ・・・ぁ、そこ・・・そ、こ、いい、の・・・」
愛も、しな子が自分の指先で感じている事に興奮して、少しずつ指の動きを大きくしていく。
「もう少し、奥まで指入れるわね」
「え・・・? いや、あっ・・・んっ」
遂に完全に根元まで指を入れてしまうと、強烈な締めつけ感が愛の指を襲う。
見ると、しな子の腰は微かに震え、もう少しで絶頂を迎える準備を始めている。
と、突然、愛の耳に何かの物音が聞こえてきた。
何の音か確認する為にしな子の口を塞ぐと、廊下の方に目をやる。
突然愛撫を中断されたしな子は切なそうに愛を見るが、
愛の目線を見て自分もそちらに意識を集中する。
しな子が耳をすますと、コツ、コツ、と誰かが歩いてくる音が聞こえてくる。
おそらく、校舎内に人が残っていないか確認に来た巡回の教師だろう。
「ど、どうしよう?」
愛に口を塞がれたまましな子がもごもごとしゃべる。
「大丈夫よ。教室に入ってくるかどうかも判らないし、
もし来ても机の下に潜ってれば、いちいち確認なんてしないわよ」
そう言うと、しな子の手を引っ張って机の下に潜りこむ。
「どうしてそんなに落ちついていられるの?」
しな子はさっきまでの興奮はとうに消え、見つかった時の恐怖感で心臓が激しく音を立てている。
「焦ったってなんにもいい事は無いから。人生なんて、なるようにしかならないものなのよ」
もともと、愛はしな子のクラスの少女と較べても、雰囲気などは群を抜いて大人びていたが、
「人生」などと言う言葉を聞いて改めてしな子は愛の顔を見つめなおす。
「どうしたの?」
「ん、槍溝さんって、大人だなぁって・・・」
「あなたのここに較べたら、まだまだ子供なんだけどね」
そう言うと、再びしな子の膣へ指先を埋めて行く。
「ちょっと、何も今しなくたって・・・先生来ちゃうったら」
抗議するしな子だが、教師に聞こえてしまう事を怖れて小声の為に愛を止める事は出来ない。
「いいからいいから。あ、声出ないようにしてね」
「そんな・・・、あっ、ん・・・んんっ・・・」
しな子は両手で自分の口を塞ぐが、それでもかすかに声は漏れてしまう。
愛は、さっきまでとは違い、深く、ゆっくりな動きでしな子を責める。
少しずつ大きくなってきた足音は、突然止むと、代わりにガラガラという、扉を開ける音に変わる。
(どうしよう、もうそこまで来てる・・・)
しかし愛の耳にもその音は聞こえているはずなのに、指は動きを止めるどころか、
しな子に声をあげさせようと中で次々と角度を変えていく。
「っ・・・あっ・・・ん、ふっ・・・」
だんだんと声の間隔が短くなってきたしな子は、手の甲を噛んで声を漏らさないように必死に耐える。
再びガラガラと音がすると、足音がこちらに向かってくる。
(つぎ、この教室だわ・・・んっ、やっ、やだ・・・でも、もう、我慢、出来ない・・・)
自分の心臓の音と溢れ出ている蜜の音、教師の歩く足音が、
耳のすぐそばでしているかのように大きく響く。
自分の中で暴れまわる愛の指先が、そのまましな子の脳へつき抜けそうな快楽をもたらしてくる。
「んふっ、んんっ、・・・ん、ん、・・・っ!」
教師の足音が自分たちの教室の扉の前で止まる。
(もう、だめ・・・バレちゃう・・・)
しかし、教師は扉の前でしばらく止まっていたが、結局開けることなく再び歩き出す。
(助かった・・・のね)
一瞬、緊張が緩んだしな子の、愛はその瞬間を見逃さずに激しく指をくねらせる。
「これで、イきなさい」
「やっ、ぅ、だめ、ん、んんんんー!」
完全に虚をつかれたしな子は、一度引きかけた波を呼び覚まされて、
容易に、しかもより高い快感へ導かれてしまう。
二、三度、大きく身体を揺らすと、足を突っ張らせて絶頂に達する。
更に、愛が役目を終えた指先を抜こうとすると、
「いや、いや、槍溝さん、お願い、見ないで・・・見ないで!」
快楽と緊張が最高潮に達したしな子は、ついにお漏らしを始めてしまう。
勢い良く溢れ出た小水は、みるみるうちにしな子の足元に水溜りを作っていく。
しな子には永遠にも感じる長い時間、放出は続いていたが、
ようやく音が小さくなっていくと、それに被せるように声を上げて泣き始めた。
愛は一瞬、しな子の突然の放尿に何が起こったのか判らなかったが、
ようやく事態を呑みこむととりあえず机の下から這いだす。
しな子の後に回りこんで、立たせようとするが、しな子は羞恥のあまり、顔を伏せていやいやをするばかりだ。
愛はとりあえずその場を離れると、雑巾を持ってきてしな子が作った水溜りを拭き取り始める。
一通り拭き終わっても、しな子はまだ泣き止まず、頑なに顔を伏せたままだ。
「深谷さん」
愛は優しく、あやすように語りかける。
「あのね、別にそんなに恥ずかしい事でもないのよ。
女の子はあんまり気持ち良すぎると、そうなる事があるって。しかも結構そうなる子いるみたいよ」
しな子を安心させる為に、自分が知っている事を誇張して話す愛。
「・・・ひっく、でも、恥ずかしいもん」
しな子はそれを聞いてもまだ顔を上げなかったが、泣き声はだんだん小さくなっていった。
やがて、小さく、ほとんど聞き取れない位の声でポツリと言う。
「こんな、小さい子みたいに、お、お漏らし・・・しちゃって、しかも、それを槍溝さんに見られて」
「あたしは別に気にしてないわよ。あの時の深谷さんの顔、ちょっと可愛かったし」
「・・・本当?」
すこし顔を上げて、目だけを愛に向けながらしな子は聞く。
「本当よ。だから、ね。立とう?」
しな子はこっくりと頷くと、よろよろと立ちあがる。
その拍子に、しな子の太腿を小水と愛液が伝って行くが、
愛は用意していたティッシュで素早く拭きとってやる。
丁寧に他の汚れた場所も拭きとると、下着を持ち上げて穿かせてやる。
しな子はその間何も言わず愛に身を任せていたが、穿かせ終わった愛が立ちあがると
恥ずかしそうにお礼を言う。
「あ、あの・・・ありがと」
「うん。さ、帰りましょうか」
愛はいかにも手馴れた感じで教室の扉から顔を出して誰も居ない事を確認すると、
しな子を手招きして校舎を出る為に歩き始めた。
二人は一言も話さず歩いてきたが、校門を出た所でしな子が口を開いた。
「あ、あの、槍溝さん」
「ん?」
「その・・・なんでもない」
しな子は何かを言おうとしたが、
何を言っても結局墓穴を掘るような気がして結局何も言えずに口を閉ざす。
愛はそんなしな子を見ても何も言わなかったが、やがて、思い出したように口を開く。
「あ、やっぱりさっきの話だけど」
「!!」
しな子は一瞬で頭に血が上って何も考えられなくなり、その場に立ち止まってしまう。
「せっかくだから、気にする事にしようかしら」
「そうすれば、深谷さんあたしの言う事なんでも聞いてくれそうだものね」
「〜〜!」
耳まで赤くして愛の肩をポカポカ叩くしな子。
「冗談よ、冗談」
そう愛は言ったが、しな子は直感で、自分が致命的な弱みを握られてしまった事を確信していた。
「ね、今度は、榎木君も呼んで3人でしようか」
「・・・嫌っていってもダメなんでしょう?」
「あら、それじゃあたしが脅迫してるみたいじゃない。
嫌なら別にいいんだけど、深谷さんの事は一生胸に刻んで生きていくわ」
「・・・それを脅迫って言うんじゃない!」
「まあ、どっちでもいいんだけど、どうする? 3人じゃ嫌?」
「・・・・・・嫌じゃない」
少しの沈黙の後、しな子は小さい声で愛の提案を飲んだ。
愛の言い方は確かに脅迫めいていたが、提案はそれほど嫌なものでもなかった。
しな子の中に、拓也を独り占めしたい、という欲求は確かにあったが、
それ以上に、どうやらさっきまでの愛の指の動きを身体が覚えてしまったようなのだ。
だから、愛の3人で、との言葉を聞いたとき、下腹部にむず痒い感覚が広がって行くのを感じていた。
(あたし、どんどんエッチになっていっちゃう・・・槍溝さんは平気なのかな?)
その疑問は是非とも聞いてみたかったが、愛が答えてくれる筈も無いので口に出す事はしなかった。
「決まりね。そう言う事で、作戦立てておくわ。それじゃ、また明日。さよなら」
しな子の内心を知ってか知らずか、
いつもと変わらぬ口調で言うと愛はさっさと自分の家に向けて歩き始めた。
「あ、・・・さよなら」
だんだんと小さくなって行く愛の後姿を、しな子は何故なのか自分でも良く解らないままずっと見送っていた。