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「On your mark!」
呼吸を合わせる。
「Get set!」
体がばねになる。
「Go!」
ばねの力を解き放ってやる。飛び込み台に掛けた指がフックになり、体が
はじかれるように前に飛び出す。瞬時に迫ってきた水面が破れ、手から頭、
胸から腰、脚からつま先へと水に包まれていく様子が目に見えるようにわかる。
(いける)
水面に出てひとかきしたときには、予感が確信に変わっていた。ここ数日、
それまでゆっくりと戻っていた調子が急角度でよくなってきていた。さっき
の4本目もよかったが今度はずば抜けている。スランプの時には邪魔ば
かりしていた水が、今は自分を先へ先へと送り出してくれる。
あっという間にプールの端まで到達する。ターンも決まった。自分でも切れ
のよいターンだとわかる。
(今日はいけるわ)
スパートまで失速することなくあっという間にゴールがきた。水面から顔を
出してコーチを見る。
「かおりちゃんすごいわ!自己ベストまで0.1秒じゃない」
そう聞いて思わずガッツポーズが出た。
(味の助君やったよ)
このことを今すぐにでも知らせてあげたい。一番つらいときに、横に居て
くれた初めて好きになった少年を思い出して、少女は少し顔を赤らめた。
練習中に彼のことを考えてはいけないと思っても、時折少年の笑顔が頭に
浮かんで困ることが何度もあった。(練習中だけは)と直ぐに彼のことを
頭の中からおいはらうが、メンタル面に影響がでているのかそういうとき
にはいい結果が出ることが多かった。一度だけ着替えているときに彼と
ベッドの中で愛を交わしたことを思い出してうろたえたことがある。恥ず
かしい部分が熱く潤むのが自分でもわかった。
プール脇のはしごを上ると、鍛え上げられたしなやかな体を包む水着を
ざっと水が流れ落ちる。屋内プールの中にいる男子が彼女の体に視線を
送った。
「そこの君、練習中に勝手に入らないで!」
コーチの声が響く。ふと顔を向けると入り口に向かって何か言っている。
入り口から男子が一人はいってきたところだった。
(味の助君!)
せっかく彼のイメージを追い払ったと思ったら今度は本人である。
(やだ、応援に来てくれたの?どうしよう、困るわ)
と頭では考えていても頬が勝手に緩んで胸がどきどきしてしまう。愛しい
人登場ですっかりメロメロになりかけたときに、入り口から入ってきたもう
一人を見て体が凍りついた。
(萌乃香)
困ったような、自信なげな様子で入り口付近に立っていた夏服の少女が
屋内プールに眼を泳がす。そしてかおりの方に気づくと。つと眼を伏せた。
やがて味の助のほうを見ると、おずおずと歩いて彼の後を追う。
かおりは胸騒ぎがした。萌乃香には申し訳ないと思っている。彼女の気
持ちにうすうす感づいていながら、幼馴染を横から泥棒猫のようにさらって
しまったのだ。だが、その申し訳なさとは別に嫌な胸騒ぎがするのは、
萌乃香のすまなさそうな表情だ。萌乃香にはすまなさそうな顔をする必要は
ないはずだ。
「かおりちゃん」
声をかけられてはっとした。直ぐ横に少年が来ている。
「味の助君…練習見に来てくれたの?」
練習は見に来ない約束だった。彼の仕事の脚を引っ張る真似はしたくな
かったし、周りの人の目を気にする気持ちもある。いつのまにか少年の
後ろに萌乃香が来ていた。かおりのことをよわよわしく見つめている。
(萌乃香、どうしてそんな眼をするの)
胸をかき乱されるかおりの気持ちを察することもせず、少年が真顔で手に
持っていたものを差し出した。
「かおりちゃん、これ、かおりちゃんのために作ったんだ。元気が出るよ。」
それはホットドッグだった。大ぶりのウインナーソーセージをパンではさん
でいる。
「あ、ありがとね」
どぎまぎしながら受け取った。
「平山さん、練習中よ。なにしているの!」
コーチが叱責する声が聞こえた。あたりまえだ、運動中に食事などして
いいはずが無い。だが、かおりはそのホットドッグの匂いに抗え切れなかった。
「今、食べていい?」
「うん」
おずおずと、ホットドッグを口に運ぶ。太目のソーセージだ。歯ごたえの
ある皮を噛み切ると、ぴゅっと肉汁が飛び散って顔にかる。ぷりっとした
感触といっしょに口の中においしさが広がった。
「ああ、おいしい」
陶然とした表情で少女が言葉を漏らす。もう一口食べると、今度も肉汁が
飛び散った。
「ああ」
その場にぺたんと座り込んでしまった少女のもとに、萌乃香がやってきた。
「味の助君と二人で作ったの」
「…二人で?」
「うん。かおりのために作ったの」
「わたしのために…」
「元気になってほしかったの」
「萌乃香、わたし…わたし…」
いつのまにか、二人はささやくような声で言葉を交わしている。水着の
少女のほうは目に涙を溜めてで座り込んでおり、夏服の少女も悲しげな
目で相手を見つめている。奇妙な光景に注意のために歩いてきた
コーチを含めてプール中が黙ったまま注目していた。
「ね、おいしい?」
「うん、すごく」
聞かれたかおりが答える。
「いいな…わたしも…食べたいな」
そう萌乃香が漏らすが、かおりは黙って三口目を口にする。
「ね、わたしにも少しいい?」
もういちどそうたずねると、
「えと、だめ。味の助君にもらったんだもん」
とかおりが答える。
「わたしにも、味の助君のちょうだい」
ささやくように哀願する萌乃香。
「だ、だめ。わわたしのだもん」
「だって、お汁こぼしてるじゃない」
そういうと、おどおどするかおりの手を取って萌乃香がホットドッグに
顔をよせる。ウィンナーに舌を伸ばしてたれた肉汁をつつと舐めあげる。
「だめぇ」
そういってホットドッグを引き寄せるかおり。
「あん、ごめんなさい。でも、こんなにしちゃだめよ。お汁がおいしいん
だから」
そういうと、今度は萌乃香がかおりの顔をぺろりと舐めた。
「きゃ、何するの」
思わず目を瞑る水着の少女。
「おいしい…お汁…おいしい」
「ああ、だめ、味の助君のお汁返して」
萌乃香のたくらみに気づいたかおりが舌を伸ばしてかおりの舌から肉汁を
奪い返そうとする。
「あん、かおり、意地悪しないでわたしに頂戴」
「だめよ、萌乃香にだってあげない」
そういうと舌を追いかける。二人の舌が中でちろちろと絡み合う。いまや
プールサイドではホットドッグをはさんで美少女二人がレズビアンまがい
のキスを演じている。
「ん、ん…あん、意地悪。」
そうささやいて萌乃香がホットドッグをくわえると、かおりが負けじと横から
ハーモニカのようにくわえる。プール中が無言でこのシーンを見つめてい
た。ほとんどの男子は固くなった股間を隠すことすら思い及ばず、中には
びくっと体を震わせて射精してしまうものまで居た。少女たちも息を飲んで
見つめていたが、大多数の少女は競泳水着を固くなった乳首が押し上げ
ていた。無意識にもじもじと脚をすり合わせる子もいる。コーチすら、股間を
きゅいきゅいと繰り返し締めながら二人に見入っていた。
ただ一人、天才料理人と呼ばれる少年だけがその場に場違いな明るい
笑顔で笑っていた。
天才料理少年味の助 エロパロ(完)