一通り舌を這わせると、少年は今度こそ我慢できなくなってきた。ゆっくり体を起こし、彼女の体を開いたまま這い上がる。少女が手を離した。顔をそむけて眼を瞑り、性感に耐えて大きく息をする彼女にささやく。
「かおりちゃん、はじめるからね」
眼を瞑ったまま少女はうなずいた。
股間で起立するものをつかむと、少女の入り口あたりに当てる。その感触で彼女が体を固くする。一二度入り口がわからずにもたついたが、やがてここだと思われる柔らかい部分があった。ゆっくりと押し込むと少年の肉棒が柔らかい肉に包まれた
「んん!」
少女が耐えるような声を漏らす。少年のほうもはじめて感じる肉の柔らかさにかっと熱くなった。まだ入っているのは頭の部分だけだ。ゆっくりと進めると、きつい抵抗があった。ここが処女膜なのだろう。
「かおりちゃん、痛かったら言ってね。止めるから」
「ううん、止めないで。我慢するから。最後までお願い」
やはり横を向いたまま少女が応える。
「わかった。じゃ、いくね」
そう言って息を吸い込むと少年はゆっくりと腰を推し進めた。少年のものが少女の体の奥に進む。抵抗が強くなる。少女が身を硬くし、シーツを握り締める。そしてついに裂けるような感触があって急に肉棒が少女の体に入りきった。
「あ!!!」
少女が痛みに体を硬くし、横に向けていた顔をたまらず前に戻した。眼を大きく見開いて少年を見ている
「かおりちゃん、大丈夫?」
「あ、あ」
少年に貫かれた少女は少し声を失っていた。その部分が痛みでじんじんする。
「味の助君」
「痛くない?」
「痛いけど、大丈夫」
シーツを握り締めていた手を少年の首に回し、引き寄せる。おずおずと、日焼けした脚を彼の脚に絡めつける。
(味の助君と、ひとつになった)
そう思っただけでくらくらした。痛みもあるが、今、ひとつになっているということが信じられなくもある。しかし、間違いなく自分は彼の腕のなかで貫かれている。
「うれしい」
「?」
「私、味の助君に抱かれてる」
顔を赤らめてつぶやく少女。少年が唇を吸うと、舌をあそばせるように絡めてきた。
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唇を吸いながら、少年は自分の下半身に与えられる初めての感覚に頭を焼かれそうだった。
(すごい)
彼の肉棒は彼女の膣肉に入り込んでいるが、その部分がぎゅっと締め上げられていた。
(これが女の子)
水着の跡もまぶしいかわいい女の子が自分に日に焼けた四肢を絡め、口付けを交わしながら男の部分を締め付けている。そう考えるだけでくらくらした。腕の中の女の子はびっくりするくらい肩幅が広く、抱きしめた感触はこちらが萎縮するほどたくましい。それなのに、赤らめた顔はかわいくて食べてしまいたいほどだ。そのギャップも少年の胸をゆさぶる。
「かおりちゃん、動くよ」
上体を少し起こしてささやく。こくりとうなずく彼女。
なれない体勢で何とか腰を一振りした。
「つっ!」
思わず顔をしかめて声を漏らす彼女。
「痛い?」
「うん。でも、大丈夫。続けて」
目の端に涙をにじませてそう微笑む彼女。
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大丈夫、といわれてもう一度腰を動かす。自分のものが彼女の熱い肉の中を出入りする。息が詰まるほど生々しい感触だった。彼女の肉は彼のものをしっかり咥えている。入るときには嫌がるように抵抗し、出て行くときには離すまいとするかのように強くつかむ。
初めて与えられる感触に少年は舞い上がった。自分の体の下では痛みに顔をしかめた少女が突き上げるたびに声を漏らしている。時折眼を見開くと、困ったように微笑み、唇を重ねる。次第に肉棒から与えられる感覚が腰を包み始めた。彼女の小さく揺れる胸が一層興奮をかきたてた。
(外に出さなきゃ)
甘い痺れに支配される直前、彼は少女から自分のものを抜き去った。ほとんど同時に射精が始まる。
びゅるっぴゅっぴゅっと痙攣的に精液が飛び出した。腹の上に出すつもりだったが、勢いあまった精液は、胸の白いふくらみや日焼けした愛らしい顔までとんだ。
「あふ、あっ」
いきなり抜き取られて声をあげた少女が、今度は生暖かい液体をかけられて戸惑った声を上げた。
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「ごめん、よごしちゃった」
慌てて体を伸ばしてベッドサイドのティッシュをとる少年に、上気した顔で少女が微笑む
「いいの、味の助君赤ちゃんの心配してくれたのね、ありがとう」
「う、うん」
いきなり赤ちゃんなどと言われて少年がどぎまぎする。
「男の子ってこんなのが出てくるんだ」
頬にかかった精液を人差し指で軽くぬぐって見つめる少女。ティッシュをつかんで戻ってきた少年が慌ててその指をぬぐう。
「汚いよ」
「そんなことないよ。それに味の助君もぉ…お口でしてくれたし」
小さな声で言って真っ赤になる。
「う、うん」
決まり悪そうに返事をして、少年が顔にかかった精液をやさしくぬぐってやる。顔から首筋、胸へとぬぐう。ティッシュが乳首に触れて、彼女がピクリと動いた。二人がちらりと目を合わせる。
「えっち」
「ごめん」
くすくすと笑う少女の体を少年が拭いていった。
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体についた精液を吹いてもらいながら、少女は何回も体がはねるのをとめられなかった。やさしさが伝わってくるような手つきだけに、胸のふくらみや、そのいただきに触れられると気持ちごと震えてしまう。彼に裸をさらしているのが恥ずかしかったが、逆に彼だけに今、何も隠さない自分のすべてをさらしているという幸福感を胸の片隅に感じる。ようやく彼が体を拭き終わった。目が合う。
それが合図だったみたいに腕を伸ばして彼の首に抱きつく。まるで「おあずけ」を解かれた犬みたいだ、と思った。
(うれしい)
一度抱かれただけでまるで少年のものになったような気がする。少年はやさしいからきっと少女を縛るようなことを言わないだろう。でも、そう思い込むだけで甘い拘束感に満たされた。
(何か言って)
甘い言葉をかけてほしい。やさしく何かをささやいてほしい。甘い言葉。今、目を見つめられて(好きだよ)などと言われたら体中が融けて流れてしまうかもしれない。
(融けてしまいたい)
「味の助君」
「うん」
「だまってちゃやだ。何か言ってぇ」
耳元でささやいた。甘いこことを言ってほしかった。少し間を置いて少年が応える。
「えと、気持ちよかったよ」
少しの間、反応できなかった。気持ちよかった…。自分が?
(私のあそこのことだ)
かぁっと頭に血が上る。
(恥ずかしい)
「やだ、やだ。もっとロマンチックなこと言ってくれなきゃやだ」
体をゆすり、抱きついたまま、いやいやをする。
「ご、ごめん。」
彼が顔を赤くする。少年はほんとうに悪かったと思っているようだ。嘘がつけない人だ。それがうれしい。他愛もないことでまた幸せな気持ちになれた。やさしいことを言ってほしかったが、それはまたあとにとっておこうと思った。ケーキだってあとから食べたほうが楽しい。それに、セックスがよかった、と言われたのは正直いってうれしかった。
「ね、ほんとに気持ちよかった?」
恥ずかしいのを我慢して聞いてみる。
「う、うん」
「えへへ。恥ずかしいけどうれしいなぁ」
うれしさと恥ずかしさで体中が熱くなった。すりすりと体を寄せた。自分の中にこんな甘えん坊がいたとは今日まで知らなかった。
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「えと、味の助君?」
「う、うん」
「あの、また?」
「う、うん。ごめん」
(困ったなぁ)
先ほどから抱きついた股間のあたりに熱いものがあたっている。困るも何も原因は彼女にある。健康的に日焼けした少女に体を絡み付けられて耳元で甘い言葉をささやかれるうちに、当然のように少年のモノはみるみる力を取り戻してきた。やや腰を引き気味にしているとはいえ、密着した少女の股間のあたりに容赦なく熱いものがタッチしてくる。
「えと、もいっかい…したい?」
「うん」
それまで押されぎみだった少年がぎゅっと少女を抱きしめる
「あ、」
抱きしめられて吐息が漏れた。抱きしめられることがこれほど甘美だということもはじめて知った。はっきりと意思を表示してとまらなくなったのか、少年が少女のうなじにキスをする。
「あん」
軽い電気が流れるような甘美感が戻ってきた。うなじから首筋、鎖骨へとキスをされる。なすがままに愛されるという無力感が少女を甘く包む。
「あふ」
乳首を吸われて声が漏れる。二度、三度と甘く吸い立てられ、胸をやさしく愛撫されてからだがはねた。
「ね、まって。今日は沁みるから」
あ、というような表情をして少年がこちらを見上げる。そしてばつの悪そうな顔になった。
「ごめん」
「ううん」
少年が思いとどまってくれたことがうれしくて、キスをする。
「ごめんね。今日は痛いからだめだけど。慣れたら、いつでもしていいよ」
「え」
少年の顔がかっと赤くなる。
「味の助くんは、いつでも私を自由にしていいんだよ」
そうささやく少女も恥ずかしさで心臓が破裂しそうに脈打っている。
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「今日は沁みちゃって…させてあげられないから」
そういって少女が味の少年を押し返す。体勢を入れ替えて仰向けの少年の胸の上に頭をあずける。
「あっ」
少年が声を漏らした。少女の手のひらに熱いその部分が収まっている。
「かおりちゃん、汚いよ」
「ううん、平気よ」
羞恥でまともに目をあわせられない。胸に顔をうずめたまま応える。
「ごめんね。本当は…お口でしてあげたいんだけど。まだ、ちょっとね」
声がかすれた。手触りはべたべたしている。少年の精液と少女の愛液と、そして破瓜の血がまだ残っていた。手のひらの中のものはびっくりするほど硬い。貫かれたときに硬いとは感じていたが、実際に手にとって見るとそれは焼けるように熱く、鉄のように硬いと思えた。やさしげな少年がこんなものを隠し持っているとはとても信じられない。だが、間違いなくこれに少女は自分の処女を捧げたのだ。
「かおりちゃん…あふ」
恐る恐るさすってみると少年の体がはねた。自然と形を確かめるような手つきになる。
(ああ、私恥ずかしい)
時々少年の声に混じって少女の声が漏れる。
「ね、痛くない?」
「うん。大丈夫」
「…気持ちいい?」
「うん。すごく」
少年の手が少女の背中に回される。やさしく背中をさすられて少女がうっとりした声を出した。
(感じてくれてるんだ)
うれしかった。恥ずかしくもあったが、好きな男の子を気持ちよくしてあげているということがうれしかった。
「ね、どんな風にすると、気持ちいいのかな」
思い切って聞いてみる。心臓が破裂しそうだ。
「う、うん。そんな風にさすられると、あっ。頭のほうも、あうっ」
少しずつ、どこがいいのか教えてもらいながら優しくさすりつづける。やがて少年の声が変わってきた。
「あ、かおりちゃん…、あ、出る!」
手の中で焼けた棒がびくびくとはねたかと思うと、少年が腰を痙攣させるように震わせた。
「あうっ」
「あん」
勢いよく出た精液が水着の後もまぶしい少女の背中にかかった。。
二人とも、そのまま息を荒くして横になっていた。
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いつの間にか暗くなりかけていた。しばらく黙っていたが、やがていっしょにシャワーを浴びた。あまりぐずぐずしているわけにもいかない。シャワールームの中で、また彼が触ってくるかと思ったが、彼のほうも恥ずかしそうにしていたのでちょっとうれしかった。そう感じている自分も変におかしかった。
幸い、着るものはだいぶ乾いていた。妙な話だが、裸を見られたことより干していた下着を見られたことのほうが恥ずかしかった。
「味の助君」
「何?」
「今日はありがとう」
自然に言葉が出た。
「ううん、僕も、うれしかった」
二人とも顔を赤くして微笑む。最後にもう一度だけキスして表に出る。少年は近くまで送ってくれると言ってくれた。まだ雨が降っている。傘を取り出そうとしてちょっと考え、彼の差した傘の下に入る。腕を絡めた。
「濡れちゃうよ」
腕を絡められた少年がどぎまぎした様子で言う。
「もう濡れてるもん」
二人とも小さな声で笑う。体をよせて歩きながら小さな声で話した。
「私ね、ほんとはあんな泣き虫じゃないよ」
「え、そうなんだ。意外な秘密を見たと思ってたのに」
「やだ、意地悪」
「わっ!」
体をくねらせた少女に少年がおされて水溜りに足を入れてしまう。二人して笑った。
二人ともとても幸せだった。二人ともこんなに高揚した気持ちは初めてだった。雨の振る街すら明るく見えた。だから、二人のことを泣きながら見つめている少女がいることに気づかなかった。
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その日、店休日にしたのは偶然だった。彼女の助の家は小さな洋食屋だ。定休日を作ることができるほどの余裕はない。商店街のイベントのための話し合いに呼び出されて引っ張り出されて店を閉めざるを得なかったのだ。
一人息子の味の助は
「商店会の会長さんもひどいよ。話し合いなら午前中にやっちゃえばいいのに。」
と不満そうだったが、そういうわけにもいかない。商店街には魚屋のように早朝から忙しい店もある。定食屋は昼忙しいし、不況で夜遅くまで開けている店もある。
(あの子もそのうちわかってくれるわ)
親一人子一人で何とかここまでやってきた。とは言え、商店街の人たちの助けがなかったらとうの昔に二人して路頭に迷っていただろう。彼女は料理があまり得意ではなかったから、息子が調理場に立つまでの間、さしておいしくもない料理にお金を払って食べてくれた商店街の人たちにはお礼をしてもし切れないと思っていた。そういう気持ちはまだ中学生の息子にはわからないらしい。だが、あまり心配していなかった。幸い、やさしい子に育っている。そのうちわかってくれるだろう。
考え事をしていたせいで店の前に人影があることに気づいたのは、すぐそこまで来てからだった。
(あらいけない、お客さんだわ。お詫びしなくちゃ)
そう思ってすぐに気づいた。お客ではない。息子のガールフレンドの萌乃香だった。
「萌乃香ちゃん、どうしたの」
そう声をかけて初めて少女も気がついたように、はっとした顔でこちらを向いた。泣いていた。どきりとする。
「おばさん、私」
そういったっきり、少女は声を殺して泣いた。二人とも傘を差したまま、雨の中でたっていた。
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「散らかっててごめんなさい。暖かい飲み物入れるから少し待っててね。」
少女をいすに腰掛けさせると、味の助の母親はキッチンに入っていった。
(味の助に食卓の上をきれいにするように言わないとだめね)
一人息子は最近めっきりと表情が変わってきた。厨房に立つときもそうだが、家の中にいてもいつも料理のことを考えているようだった。店を閉めたあともキッチンであれこれ夜遅くまで研究しているようだった。それはいいのだが、いつもの間にか食卓の上が所狭しと調味料や何かで埋まってしまっている。これには閉口した。
味の助はどこかの厨房で下働きをやったわけではない。なし崩しに家業の手伝いをやるうちに厨房に立つようになったのだ。だから、後片付けなどに時々粗が見えたりする。これまでは親の贔屓目でそれも多めに見ていたが、彼の将来を真剣に考えればどうやらそうはいかない時期にきたようだ。
「さ、お待たせ。熱いから気をつけて。」
紅茶をいれたカップを少女の前に置きながら話し掛けてみた。
「ありがとうございます。」
弱々しい声で礼を言ってから少女が紅茶をすする。
「ね、何かあったんでしょ。」
なるべくやさしく話し掛けた。この年頃の少女が一人で雨の中で泣いている理由というと、それほど深刻でない限り恋だの喧嘩だのだろう。そうならば別に聞き出すこともないのだが、ひょっとしてもっと大変なことかもしれない。
「無理に話すことはないけど、話すと楽になるものよ。おばさんでよかったら聞いてあげるからいつでもいらっしゃい。」
話してもらえるとは思っていなかったのだが、意外にもうつむいたまま少女が話し始めた。
「味の助君に彼女がいたんです」
(え!)
危うく声をあげるところだった。彼女がいるとすればそれは目の前の萌乃香だと思っていたのだ。
(違う子がいたなんて)
「私、私、味の助君が好きだったのに…」
そういって泣き出す少女にかける言葉が見つからなかった。
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机に向かって教科書を広げても何も頭に入らなかった。あの日、幼馴染の味の助の店に遊びに行った。いつもは開店中は遠慮しているのだが、結局友達のかおりのことを相談することに決めると居ても立ってもいられなくなったのだ。だが、なぜか店は閉まっていた。
不思議に思って近づこうとすると、中から味の助が出てきた。声をかけようとした直前、中からもう一人出てきた。ショックだった。中から出てきたのは健康的に日焼けした少女だ。かおりだった。かおりは微笑みながら味の助の腕に自分の腕を絡めると、二人とも相合傘で歩いていってしまった。
恋愛経験のない萌乃香でも、二人の間に何があるのかぐらい想像がついた。そして打ちのめされた。もう何日もたっているのに、いまだにショックから抜けきれなかった。
(私バカだ)
彼が好きだと正直に認めるのが遅すぎた。告白するのが遅すぎた。もっと素直でうじうじしない子だったらこんなバカな目にあうこともなかったろう。そう思った。
(どうしよう)
味の助の母親はやさしくしてくれた。
「これで終わったわけじゃないのよ」
そういってくれた。
「二人が結婚するわけじゃないんだから」
結婚といわれてびくりとしたが、確かに結婚したくてもできない歳だ。でも、味の助の横にいて腕を組むのは自分でありたかった。なにもかも遅すぎた。
「ね、やけになっちゃだめよ」
そうも言ってくれた。こくり、とうなずいただけだった。
「やけになっちゃだめよ」
おばさんはそういってくれた。やさしい人だ。私のことを応援してくれている。
やけになっちゃだめなんだ。
やけ…
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恋に破れると言うことがこれほどつらいなどと思っても見なかった。
(胸が痛い)
胸が痛むなど、たとえ話だと思っていた。まさか本当に自分の胸が痛むとは。失恋しただけで心臓が悪くなるなんてことがあるのだろうか。
(味の助君)
いつもいっしょに歩いていた幼馴染が手も届かないほど遠くに感じる。このままお別れなんていやだと思った。やっと彼が好きだとわかったのに。初めて恋をしたのに。このまま別れるなどひどすぎる。
いろいろなことを思い出した。お菓子やサンドイッチを作って食べてもらったことがある。彼には到底及ばなくて恥ずかしかったけど、それでも食べてもらうとうれしかった。今考えれば、あのころから自分は彼が好きだった。
(やさしかったな)
一所懸命作ってもぱさぱさだったり、べちゃべちゃだったり。そのたびに、
「萌乃香は下手だなぁ」
決まって困ったような、それでいて飛び切りやさしい顔でそう言ってくれた。一度だってそれがひどい言葉だなどと思ったことは無い。とてもうれしかった。
(私バカだ)
これでお別れだなんてひどすぎる。一度くらいおいしいものを食べてさせてあげたかった。ひとつくらい思い出があったっていいはずだ。
思い出…