葵はその朝、手早く朝食の用意を済ませると雅には所用で出掛けて昼は戻らないつもりだと伝え、電車を乗り継いで街に出掛けた。  
薫と顔を合わせずにすんだ事は何よりも葵をほっとさせた。昨晩の浴室での出来事があった後でどんな顔をして薫と向き合って良いのか判らなかったのだ。  
 昨晩の事は何かの間違いなのだ。きっと薫も反省してくれているに違いない。もう忘れよう。そう心に決める葵だった。  
 それにしても自分もだいぶ世間に慣れてきたものだと思う。  
薫と再会した頃には一人で電車に乗る事も出来なかったのに、今ではこうして自分だけで幾つかの路線を乗り継いで遠出が出来るまでになったのだ。  
 駅で降りると、おぼろげな記憶を頼りに周囲を見回しながら歩いてゆく。  
 「確か、この辺りに……あっ……」  
 大通りから一本中に入ったその道は人の往来もぐっと少なく、車も時折通り過ぎるだけだ。以前、街に買い物に出かけた時にこの道に迷い込んでしまった事があったのだ。  
そんな道路の脇に立っている電柱に葵が捜している場所の看板が掲げられていた。産婦人科である。葵の記憶は間違ってはいなかった。  
 勿論、葵にかかり付けの産婦人科医がある訳も無い。実家になり雅になり相談すれば桜庭の威光で名の通った医者を呼ぶことも勿論可能だが、葵にはこの秘密を誰にも打ち明けるつもりは無かった。  
只の産婦人科ならば館の近くにも幾つかあったが、病院の門を潜る時に何処の誰かに見られぬとも限らない。そうした考えもあって葵はここまで脚を伸ばして来たのだ。  
 人通りの少ない往来から更に一本入った道は如何にも寂れていた。車一台が通ることもかなり難儀するような狭さだ。  
看板の矢印に従って脚を進める葵も、本当にこんな所に病院があるのかどうか確信が持てなくなってきている。  
もう少し捜してみて、それでも見つからないようであれば他の病院を捜してみようと思った瞬間だった。  
 気を付けていなければ思わず見逃すところだった。恐らく住居と医院が一緒になった年季の入った建物の庭先に薄汚れた看板が立っていた。  
風雨に曝され、日に焼けて色褪せたその看板には確かに産婦人科の文字がうっすらと確認出来た。  
 流石に葵も建物の様子を見て戸惑わざるを得なかったが、折角此処まできたのだからと自分に言い聞かせ、周囲に人の目が無い事を確認してからその門を潜った。  
 曇りガラスで出来た扉を開けると、そこは待合室だった。だが、そこには診察を待つ女性の姿は無く、受付の小さな窓にも白いカーテンが掛かっている。今日は休診日なのだろうか。  
 奥に向かって声を掛けたものかどうか迷っている葵の機先を制するように、彼女の背後から声がした。  
 「何か用かね、お嬢さん」  
 いきなり声を掛けられて葵は飛び上がった。思わず上げそうになってしまった悲鳴を喉の奥に押し込むとゆっくりと振り返った。そこには鶴を思わせるような痩身の老人が佇んでいた。  
 野良仕事の途中なのか、頭には麦藁帽子を被り、首にはタオルを掛けている。ランニングから突き出た腕は枯れ枝のように細く、葵の細腕でもポキリと折れてしまいそうな程だ。  
 その姿は不安に慄く葵をほっと和ませてくれた。だが、なぜこんな老人が産婦人科にいるのだろうか。  
 「あの、診察を受けたくてこちらにお邪魔したのですが、誰もいらっしゃらないのでどうしたものかと……」  
 「いやあ、失敬失敬!」  
 闊達に老人は笑うと、傍若無人に診察室の扉を開けて奥に消えていった。医者を呼んできてくれるのだろうか。葵は暫くそこで待つことにした。  
 数分もすると、診察室の奥から足音が聞こえてきた。葵がそちらに顔を向けると、先刻の老人が白衣姿で立っていた。彼が医者だったのだ。  
 
 「あっ……先程は失礼しました。まさか先生とは露知らず……」  
 「なに、失礼をしたのはこっちじゃよ。週末は客も少なくてな、ちょいと暇潰しに庭弄りをしておった所じゃ」  
 気取らない気さくな老人の振る舞いに葵の緊張がほぐれてゆく。  
 「診察に来たんじゃったな? はて、お嬢さんは初めて見る顔じゃのう……こちらは初めてだね?」  
 「は、はい。保険証も持ってきてあります」  
 葵は手に提げた鞄から保険証を取り出すと、老人に渡した。  
 「ふむふむ……桜庭葵さん、か。良い名前じゃの。むむっ……随分と若いのう。きっちり紬の着物なんぞ着こなしておるからもうちょっと上かと思ったわい」  
 葵はあらためて頭を下げた。  
 「いつまでもこんな所で立ち話もなんじゃな。続きは診察室で聞こうとしようかの」  
 老人が診察室の扉を開けて葵を招き入れた。何の疑いも抱かずに室内に導かれる葵。  
 「さ、そこにお掛けなされ」  
 老人の勧めるままに葵は椅子に座る。  
 「おおっと! 大変じゃわい! 庭弄りの途中だった。水を出しっ放しじゃ。葵さん、ちょっと待ってておくれよ。すぐに戻るからのう」  
 慌てた様子で再び部屋を出て行く老人の姿に、葵は思わず微笑んだ。久し振りの笑顔だった。  
 
 部屋を出た老人は何故か庭に向かおうとはせずに、足音を忍ばせて別の部屋に入っていった。その中でなにやらゴソゴソとしていたかと思うと、再び足音を立てないように廊下に出てきた。  
そして待合室の扉を開けると表に「休診日」の札を掛けて、内側から鍵を閉めた。振り返った老人の顔には、葵の前で見せていた柔和な笑顔は何処かに消し飛び、口元は狡猾な獣のように唇を吊り上げている。  
 (ふふふふふふ、久し振りの上玉じゃわい。一週間も患者が来ないかと思えばこんな別嬪が飛び込んでくる。これだから産婦人科は辞められんのじゃ)  
 邪悪な笑みを湛えながら、老人は久し振りの獲物をどういたぶろうかとの期待に胸を膨らませていた。これが産婦人科の役得というものだ。  
世間の男どもの目には羨ましい職業に映るようだが、何が羨ましいものか。患者は美人だけではないのだ。  
オマンコが付いている限りはどんな醜女でも妊娠する可能性があるのだ。おまけにアソコの匂いときたら酷いものだ。中には鼻が曲がるかと思う女さえいる。どんな美女でもアソコが臭ければ百年の恋も醒めるというものだ。  
 匂いだけではない。オマンコにも美しいものと醜いもの、気品があるものと下品なものの差が歴然としてある。しかもその絶対数は圧倒的に後者の方が多い。  
美人が素晴らしいオマンコを持っているとも限らなければ、醜女が目の覚めるような素晴らしいモノを持っている場合もある。  
しかし両方を兼ね備えた女というのはほんの一摘みに過ぎない。老医はこれまでの五十年の経歴で1万人近い女性の性器を診てきたが、未だに記憶に残る女というのは片手でも余るぐらいだ。  
 だが目の前のこの美少女と呼んでも差し支えの無い女性は、今までの雌豚どもとは明らかに違うものを感じさせた。  
育ちの良さが伺える所作。滲み出す気品。親に厳しく躾けられたのだろう、同年代の小娘どもとでは比べ物にならない女性としての品格がこの美少女にはあった。  
待ち侘びた獲物が懐に飛び込んできた幸運に老医は頬を緩めた。  
 胸の高鳴りを覚えるのは一体、何時以来だろうか。老医は嬉々として診察室に戻っていった。  
 
 「今日は一体どうしたんじゃね?」  
 再び柔和な笑みを浮かべた仮面を被った老人は葵に尋ねた。  
 「……」  
 何処から話したものか。何処まで話したものか。心の中で繰り広げられる押し問答に、葵は戸惑った。  
 そんな葵をニコニコと見つめる老人の視線は如何にも暖かく、患者が自ら話す時期を待つ寛容な医者の姿を完璧に演じきっていた。  
 単刀直入に要点だけを言おう。葵は決意した。  
 「あの……妊娠、しているかどうかを調べたいのですが……」  
 恥じらいながら切り出し葵の姿に、老人は心の中で欣喜雀躍した。  
 「ふむ。性交は何時あったのかね?」  
 医療に携る者に相応しい野卑な覗き根性を微塵も感じさせない冷静で事務的な口調に葵もついつい答えてしまう。  
 「一昨日……いえ、昨日の明け方でした……」  
 呼び起こしたくもない陵辱の記憶の糸を手繰り寄せる葵。老医は机の上のノートパソコンに慣れた手付きで入力してゆく。  
古びた建物とくたびれた老医とノートパソコンの組み合わせの妙に葵は少し可笑しくなった。  
 「なるほど。二十四時間とちょっと経過しておるのう。それで彼は葵さんの中に何回射精したのかね?」  
 あけすけな物言いに葵は答えに詰まった。  
 「四回……か、五回だった……と思います」  
 実際のところ一体何回あの男が自分の胎内に精を放ったのか、正確な回数は葵には判りかねた。  
 「いやいや、それはまたお盛んな。若いというのは良い事じゃのう、はははははは」  
 頬を染め恥じ入る葵。これが愛する人との愛の営みの結果なら、老人が言うようにどんなにか良かったことだろう。  
だが、自分は犯されて、穢されて、ここにやって来たのだ。  
 「全部、直にですかな?」  
 「……はい……」  
 「全く避妊の意志は無かったんじゃね?」  
 自分にはあった。だが犯される葵には選択の余地は無かったのだ。仕方なくこくりと肯く。  
 「ふむふむ……ちょっと立ち入った事を訊くようじゃがの、葵さんがバージンでなくなったのはどれ位前のことかね?  
 いや、どれぐらい前にバージンを失ったかによって妊娠の確率が随分と変わるんでのう」  
 全くの口から出任せだった。老人は葵の秘められた性生活の全てを暴くつもりなのだ。  
 「き……昨日、ですっ……」  
 言葉を縛り出して俯いてしまう葵。  
 「ほほっ。それはめでたい事じゃ。葵さんも昨日、大人の女性の仲間入りをしたという訳じゃのう」  
 なにがめでたいものか。心の中で涙を流す葵。  
 「しかし……」  
 「……?」  
 言いよどむ老人の様子に不安を掻きたてられる葵。  
 「極めて妊娠しやすい状況じゃのう……  
バージンを失った直後に数回の射精……話だけを聞いている限りではまず間違いなく出来ておるじゃろう」  
 「そんなっ……」  
 (くくくくっ、ホントに何も知らぬネンネじゃのう。容易く騙されおったわい)  
 一方、死刑でも宣告されたかのような衝撃を受けた葵は狼狽を隠しきれないでいた。  
 
 「それでは胸を診てみようかの」  
 「む、胸、ですか……」  
 「うむ。ご婦人の体の変化はオッパイに如実に出るものじゃ。殊に妊娠ともなれば尚更の事じゃよ」  
 そう言われては、葵としても拒む訳にもいかなかった。着物の帯を緩め、腕を袖から抜いて上半身を露わにする。  
飾り気は無いものの、上品な素材をふんだんに使った高級なブラジャーはシルクの光沢に輝いていた。  
背中のホックを外すとフルカップのブラジャーに押さえつけられていた葵の膨らみがタプンとまろび出た。  
 (うひひひひ、なんという美乳じゃ!近頃流行の大きいだけの垂れ乳には無い気品があるわい。  
それにも増して乳首の初々しいことよ。昨日までバージンだったというのもまんざら嘘でも無さそうじゃの!)  
 逸る心を必死に押し留めて、聴診器を葵の胸に当てて心音を聴く老人。  
 「ふむ……ふむふむ……なるほど……」  
 こんな聴診器で妊娠しているかどうかなど判るものか。老人は心の中で嘯きながらそれらしいフリをして葵の乳房の柔らかさを確かめる。  
 「それじゃあちょっと失礼」  
 老人は聴診器を白衣の胸ポケットに仕舞うと、皺くちゃの掌で葵の乳房を撫で回した。  
しかもそれだけでは飽き足りないのか、下から掬い上げるようにして乳房の重量感を楽しみ、乳首を捏ねくり回して散々に弄ぶ。  
 「おやおや、随分と敏感なようじゃのう」  
 老人に言われて葵は自分の乳首が勃起している事に気付かされた。頬が羞恥の色に染まった。  
 「はははは、感度が良いのは女性としては幸せな事じゃよ。これだけ綺麗で感じ易いオッパイじゃ。彼も悦んで揉んでくれるじゃろう?」  
 葵の脳裏に昨日の浴室での出来事が浮かび上がった。はい、ともいいえ、とも答えられずに頬を染めて俯く葵。  
老医はそれを肯定と受け取ったようだ。相変わらず柔和な笑みを浮かべた顔でうんうんと肯いている。  
 老人が葵の膨らみの感触を堪能し尽くす頃には、雪白に肌はほんのりとピンク色に染まり、乳房の谷間にはうっすらと汗を掻いていた。  
 「ううむ……何とも言えんのう……」  
 散々乳房を弄ばれて何も判らないでは堪ったものではないが、葵は専門家の言葉を信じきっていた。  
 「決め手に欠けるのう……そうじゃ、葵さん。オシッコを採ってみようかの。検尿じゃ」  
 「あ、あの……」  
 葵はブラジャーに膨らみを収めながら老医に訴えた。  
 「今すぐに出るかどうかはちょっと……」  
 「ううむ……ならばコレを使うしかないかのう」  
 老人は後ろを向いて背後の引き出しの中を漁っている。振り返った老医に手には一本の透明な管が握られていた。  
 「それは?」  
 「導尿カテーテルじゃ。これをオシッコの穴に差し込めば、ほんのちょっとしかオシッコが膀胱に堪っていなくてもチョロチョロと出てくるんじゃよ」  
 老医の言葉を聞き終わる前に葵は答えていた。  
 「だ、大丈夫です! 出ると思います!」  
 「うむ、それなら結構じゃよ」  
 内心の落胆を隠して老人は平静を装った。是非ともこの美少女にカテーテルを使って見たかった。だがそれならそれで別の愉しみようもある。老医はあっさりと気を取り直した。  
 葵はいそいそとはだけた着物を着直そうとした。  
 「ああ、そのままで構わんよ」  
 「?」  
 葵の手が止まった。  
 そういうと老医は立ち上がり、壁の戸棚から白い物を取り出してきた。  
 
 「ついでにコレに着替えて貰おうかの」  
 拡げられたそれは向こう側が透けてしまいそうな薄っぺらいバスローブのような白衣だった。ちゃんとクリーニングはされているようだ。糊のきいた襟がパリッとしている。  
 「着替える場所が無くて悪いのう。そこの衝立の向こうで我慢して貰おうかの。トイレは廊下を出て右の突き当たりじゃ」  
 白衣を手渡された葵は、もう老医の言うとおりにするしかないのだと胆を括っていた。  
 「それでは失礼します」  
 丁寧に一礼した葵が衝立の向こうに消えると、老人はノートパソコンを開いて隠していたウィンドウを開いた。  
そこには帯を緩めて着物を脱ぐ女性の姿が映っていた。葵だ。衝立の向こうの様子がライブでパソコンの液晶画面で確認できるのだ。  
 画質が荒い点を除けば、カメラの位置やアングルには何の問題も無かった。  
老人が試行錯誤を重ねてコレだけの環境を整えたのだ。キーボード上で老医が指を動かすとカメラのアングルが次々と入れ替わった。  
隠しカメラは一台だけではなく何台も仕掛けられているのだ。老人はベストアングルを見つけ出すとウィンドウを液晶画面の上でフル表示した。  
 折りしも画面は丁度葵が着物を脱いで下着姿になっているところだった。脱いだ着物を丁寧に折り畳むと、葵は渡した白衣を下着の上からそのまま羽織ろうとしている。  
 「言い忘れましたがのう、葵さん」  
 「はい?」  
 「下着も全部脱いでから白衣は着るんじゃよ」  
 老人の言葉があまりにもタイミングが合い過ぎていたのか、思わず周囲を見回す葵。勿論素人に見つけられるような場所にカメラを隠すような愚を老医が冒す筈も無かった。  
 「はっ、はいっ!」  
 慌てて羽織りかけた白衣を脱ぎ、ブラジャーをもう一度外す。桜色に染まった美乳が再び姿を現し、ノートパソコンのハードディスクにその美しいフォルムが記録されてゆく。  
 (ひひひ、お次はパンティーじゃのう)  
 カメラのレンズが葵の下半身を捉えた。葵が腰を屈めて下着を脱ぐシーンが画面に大写しになった。  
 (ひひひ、黒いモジャモジャが見えるぞみえるぞ、くくくくくくっ)  
 陰になった葵の股間に黒い繁みがちらりと覗いたのを老人の目は見逃さなかった。  
 (幾ら隠しても無駄じゃて。どう足掻いても、後でワシの目の前でパックリと股をおっぴろげる事になるのじゃからな)  
 薄い白衣だけを身にまとった葵が廊下に消えてゆくのを見ながら老人はニタリと笑った。  
 
 トイレの個室に入った瞬間、葵は自分が部屋を間違えたのだと思った。慌てて廊下に飛び出し、他の入り口を捜してみる。だが、診察室を出て右の方にはこの場所しか無かった。  
 「あ、あの……」  
 遠慮がちに診察室の中の老医に声を掛ける。  
 「トイレが見当たらないのですが……」  
 「そんな筈は無かろう」  
 よっこらせという掛け声で立ち上がった老医が廊下に顔を出した。  
 「ほれ、そこの中じゃ」  
 「でも……」  
 葵が戸惑うのも無理は無い。確かに其処はトイレだったのだが、中には男性の小便様の背の高い便器がポツンとあるだけなのだ。  
 「はははは、そう言えば説明不足じゃったのう。臨月も間近になってくると、用を足すために便器を跨いでしゃがむのも妊婦にとっては重労働なんじゃよ。  
そこで此処では男性用の便器で立って用を足して貰っておるのじゃ」  
 男性のように立って用を足す。自分のそんな姿を思い浮かべただけで葵は卒倒しそうになった。  
 「男の人が立小便をする爽快感を味わえたと言って喜ぶ患者さんもおるぐらいじゃよ。  
葵さんがそんな体になるのは早くても半年以上も後じゃが、予行演習と思ってしてみなされ。ほれ、これが検尿用のコップじゃ」  
 コップを手渡された葵はふらつく足取りでトイレへと消えていった。  
 
 老医はいそいそと診察室のノートパソコンの前に戻った。当然の如く、あのトイレにも隠しカメラが仕掛けられているのだ。  
診察の前に庭に戻ると見せ掛けて老人が入った小部屋は、医院内の盗撮システムを統括するモニタールームだったのだ。  
しかし、いつ来るかも判らぬ患者の為に常にカメラをスタンバイさせておくのは経費が掛かりすぎた。そこで自分好みの間者が来た時にだけ席を一旦外し、盗撮の準備を整えるのだ。  
 パソコンの画面ではトイレを俯瞰するアングルのカメラの映像が映っていた。落ち着き無くキョロキョロと周囲を見回しながら便器に近付く葵。 覚悟を決めたようだ。  
葵は白衣の前をはだけると男性用の便器を抱え込むようにして膝を拡げ、丁度具合のいい場所に設置してある手摺りを掴むとようやく腰を落ち着けた。  
 老人の指がキーボードの上を滑ると、画面いっぱいに葵の漆黒のジャングルがアップになって映し出される。  
黒々と艶やかに輝く葵の恥毛の一本一本が数えられそうな位だ。肌が抜けるように白いだけに陰毛の黒さが際立つ。  
 画面が急に白くなった。検尿用のコップが葵の草叢を隠したのだ。老人は舌打ちをしながら他のアングルを捜す。  
一体何処にカメラが仕掛けてあるのか、モニターの画像は大股を開いて便器を抱え込んだ葵の股間を真下から捉えていた。  
 まさかそんな所にカメラがあるとは知る由も無い葵はがに股でバランスを取っている。前の方は紙コップで隠されてはいるものの、すぐその後ろには無防備なアヌスがその佇まいをカメラのレンズに曝しているのだ。  
 毛深いアヌスだった。縮れてもつれ合う和毛の隙間から小さく窄まった菊紋が覗けた。  
 肛皺の彫りは深い。ふっくらと盛り上がる肛門の中心から放射線状に均等な間隔で刻まれた皺。醜い捩れも疣もない。綺麗な肛門だ。久方振りに目にした美肛に老医はニンマリと頬を歪めた。  
   
 (こんな格好でおしっこなんて……無理……)  
 だが諦めてしまえば葵を待っているのはあの導尿カテーテルだ。あんな物を使われて採尿されるぐらいなら立って用を足す方がまだマシだった。  
 勿論、桜庭家の令嬢ともあろう葵が立って用を足した経験などあろう筈もない。  
 それでも葵は男性用の便器に抱きつくようにして跨いだ。踏ん張りの利かない姿勢を補助する為だろうか、しかるべき位置に手摺りがちゃんと付いている。  
葵は片手でソレを掴むともう片方の手で持った紙コップを股間にあてがった。  
 老医には出ると言い切ってトイレに入ったものの、切迫する尿意はない。ヒップをもぞもぞさせながら尿意が高まるのを待つものの、一向にその気配は無い。  
 
 「大丈夫かのう、葵さん?」  
 トイレの外から老医の声が聞こえた。  
 「はっ、はいっ、大丈夫ですッ」  
 慌てて答える葵。  
 「あんまり遅いんで心配になってのう。気分でも悪くしておるんじゃないかと思っての」  
 「ご、ご心配をお掛けしました。大丈夫です」  
 大丈夫ではない。老人に声を掛けられた所為で徐々に高まりつつあった尿意は何処かに霧散していた。  
 「無理をせんでもいいんじゃよ。いざとなればカテーテルがあるでな」  
 その一言が葵の利尿を促したのか。或いは細い管の先を尿管に差し込まれる恐怖が失禁を誘ったのか。  
 「あっ……」  
 股間から噴き出したゆばりが紙コップの底を叩いた。排尿の様子こそ観察できなかったものの、華の乙女なら聞かれただけで死んでしまいたくなるような放尿の音の一部始終は老医の耳に届いている。  
生まれて初めての立小便の恥じらいに頬を染めた葵の表情さえもが別のカメラに捉えられている。  
ジョボジョボという音が段々小さくなってきて、最後の一滴がピチャンと音を立てて落ちた。葵は下半身をブルッと震わせると放尿を終えた。  
 尿の入った紙コップを近くの台の上の置き、備え付けられたトイレットペーパーを引き出すと、それを丁寧に折り畳む。  
腰を落として尻の間から手を入れると、前の方から肛門に向けて陰毛を濡らした小便を何度も拭った。勿論、こんな排泄の後始末のやり方までもがカメラの餌食だ。  
 
 葵は小便でなみなみに満たした紙コップを手に診察室に戻る。  
 「……遅くなりまして申し訳ありませんでした……」  
 葵は尿がなかなか出なくて時間を掛けてしまった事を詫びた。  
 「おほっ、こりゃまた濃いのを搾り出したのう。わははははははははは。よし、これは後で検査に回しておこう。  
さて、後は内診で確かめてみようかの。葵さん、今度はそこの椅子に座って貰えるかのう」  
 採尿に時間を掛けてしまった引け目故に、老医の言葉には逆らえなかった。葵は老医が指し示す歯医者にでもあるような変わった椅子に腰を下ろした。  
 「それじゃあちょっとゴメンよ」  
 老人の穏やかな口調は葵の警戒心を完全に骨抜きにしていた。それ故に、葵は老人が自分の四肢を完全に椅子に拘束してしまうのを何の疑いも無く黙って見ていた。  
 「あ、あの、先生。これから一体何を……」  
 「内診じゃよ、内診。葵さんの大事な所をちょっと覗かせて貰うよ」  
 「ッ!!」  
 ようやくこんな椅子に座らされて四肢を固定された意味が判った。  
 「こっ、困りますッ!!先生っ、これを外して下さいッ!!」  
 今更慌てたところでどうにもならなかった。ガッチリと固定された手足は微動だにせず、モーターの力で葵の体は椅子と一緒にせり上がってゆく。  
 「初めて内診台に乗る患者さんには酷く暴れる人もいるのでのう。悪いとは思ったがちょっと我慢して貰うよ」  
 「嫌ッ!嫌ですッ、先生ッ、降ろして下さいッ!!」  
 葵の叫びも虚しく椅子が仰向けに倒れてゆく。殆ど仰向けに近い状態まで倒れた所で椅子の動きが止まった。躯を強張らせて身構える葵。  
 ウィー……  
 軽やかなモーターの音とは裏腹に、恐ろしく強い力で下肢が割り裂かれてゆく。  
 「駄目ッ、駄目ですっ、困りますッ、先生っ、先生ッ!!」  
 必死で膝を閉じ合わせようとするが、無情な機械は葵の意志などお構いなしに電気の力でスムーズに彼女の下半身を押し広げて行く。  
 「痛くなったら言うんじゃよ」  
 必死な葵の形相など何処吹く風といった様子で、のんびりとしたポーズを崩さない老医。葵の制止がないのをいい事にどんどん股を拡げてゆく内診台。  
 「ほう、柔らかいお股の関節じゃのう。これならどんな体位でも楽にこなせるじゃろうて。ふふふふふ、男を悦ばせる為に生まれてきたような躯じゃな」  
 老医の言葉の端々にいやらしい内面が徐々に滲み出して来ている。まるで解剖されるカエルのように内股を拡げられた葵は背筋を凍りつかせた。  
 「さあて。いよいよ葵さんのお道具を診させて貰うよ」  
 老医はそう言うと、葵の白衣を左右に開いた。葵の恥部が医療用の明るいライトの元に露わになった。  
 「嫌ああああああああああッ!! 見ないでえええええええッ!!」  
 葵の悲鳴が寂れた産婦人科の診察室にこだました。  
 
 「ほっほっほっ。まだ若いというのに三十路の年増も真っ青なお毛ヶじゃのう。ウンコの穴まで生えておる。ワシの頭にも分けて欲しいのう、かっかっかっかっ……」  
 老人は禿げ上がった自分の頭を掌でピタピタと叩きながら豪快に笑った。  
 コンプレックスをグサリと突き刺す老人の一言に葵は頭を振った。  
 「ふふふふふ、恥ずかしがる事はないぞい。古来日本では『毛深い女は情け深い』と言われて男達の間では珍重されたものじゃよ」  
 老人の言葉は葵にとって何の慰めにもならない。既に葵も観念したのか、今は力無くシクシクと啜り泣くだけだった。  
 「初潮が来たのは何歳の時じゃね?」  
 「じゅっ、、十一歳の時です……」  
 「ほう、今時の娘にしては遅い方じゃのう」  
 ここまでされても葵はまだ老医を信じているのか、彼の質問にも正確に答える。葵の秘められたる下半身の記憶がノートパソコンに記録されてゆく。  
 「下の毛が生え始めたのはいくつぐらいだったかね」  
 「じっ、十三歳の頃っ……ですっ……」  
 しゃくりあげながらもなんとか答える。  
 「下の毛を手入れした事は?」  
 「……ありません……」  
 次々に暴かれてゆく葵の下半身の人生。  
 「マスターベーションはひと月に何回ぐらいかね」  
 「……マスター?」  
 「ふふふふふ、カマトトぶらんでもいいわい。自慰、オナニー、マン擦りの事じゃて」  
 「っ……」  
 流石に葵も言いよどんだ。  
 「マスターベーションの回数は妊娠のしやすさと重大な関係があるのじゃ。正直に答えなさい」  
 「……いっ、一回だけです……」  
 「一回? 本当かね? それはまた随分と慎ましいのう。  
葵さんぐらいの年頃の娘さんなら平均してひと月に十五回ぐらいのマスターベーションをしているもんじゃがのう……本当に一回だけかね?」」  
 同年代の平均的な自慰の回数を聞かされて、葵はほんの少し安心した。  
 「……すいません、本当は……七回か八回ぐらいだと思います……」  
 「……これ、嘘は良くないぞ、葵さん。正直に答えないと診断の結果が狂う事にもなるからのう」  
 「すっ、すいません……」  
 「ひと月に七〜八回かね。お盛んじゃのう。葵さんは顔に似合わず淫乱な性質じゃな」  
 「……?」  
 同年代の女性の平均よりもオナニーの回数の少ない自分がどうして淫乱なのだろうか。いぶかしまずにいれない葵。  
 「ふふふふ、本当のデータは月二〜三回ぐらいが平均的な回数じゃ。葵さんのオナニーの回数はその二倍から三倍といった所じゃのう」  
 老人の手練手管にまんまと騙されたのだ。屈辱と羞恥に頬を染める葵。  
 「ほっほっほっ、こうでもしなければ誰も本当の事を言わんからのう。昔からワシが使っておる手じゃて。かっかっかっかっ……」  
 大きな口を開けて高笑いする老人。  
 「さて、マスターベーションの仕方について訊こうかのう。自分でする時には何処が一番気持ち良いのかね?」  
 さっきの質問以上に答えにくい問い掛けだった。  
 「言いたくないならそれでも結構。躯に直接訊くという手もあるしのう」  
 
 老医はそう呟きながら、背後のキャビネットから茶色の薬瓶を取り出して葵の目の前にかざした。  
 「これは即効性の媚薬じゃ。判るかの? つまりオマンコをしたくなるお薬という事じゃ。  
コイツを葵さんの股座にぶっ掛けると、あんたはオマンコがうずうずして気が狂いそうになり、居ても立ってもいられなくなる。その状態で片手だけを自由にしてやるのじゃ。  
すると女とは悲しい生き物じゃ、いつも自分で弄っている所に手が伸びてゆくのを止める事が出来ん。どうかね。そんな方法で訊いて欲しいかね?」  
 激しく左右に頭を振る葵。  
 「それではもう一度訊くぞい。オナニーで一番感じるのは何処じゃね?」  
 媚薬を使われるのは真っ平ごめんだが、かと言って何処が自分の一番感じる所なのか葵は判断しかねた。  
 薫の布団にくるまって、彼の匂いに包まれながらするオナニーが葵のお気に入りだった。よく弄るのは胸の先端だった。  
下半身の方は恐怖と後ろめたさが先に立ってしまい、せいぜいがパンティーの上からスリットをなぞるのが関の山だったのだ。  
 しかし、今日の明け方の浴室での出来事はこれまでの葵のオナニーライフを根底から覆すような凄まじいものだった。  
クリトリスの裏側の部分に水流が当たった時の、躯が舞い上がるような高揚感。クリトリスを弄るのも気持ち良いのは確かだが、やはりあの感覚が忘れられなかった。  
 散々迷ったあげく、葵は告白することに決めた。  
 「あの……口では説明し辛いのですが……ク、クリトリスの裏側の辺りが……一番気持ち良いような気がします……」  
 消え入るような小さな声で言ってしまった後で葵は俯いてしまった。  
 「ほう、Gスポットかね。ほっほっほっ、可愛い顔をしていても女は女じゃのう。セックスなんて知りませんという風に見えても随分とえげつない場所を弄っちょるわい」  
 老人の言葉に、葵は自分がはしたない事を口走ってしまったのだと気付かされて恥じ入った。  
 「さあて、問診は此処までじゃ。それじゃあ葵さんのお道具の中身を拝見しようかのう」  
 老人が葵の股間の前に陣取った。鼠蹊部の筋を引き攣らせながら葵は観念した。たった四十八時間の間にそれまでは見も知らぬ男二人に自分の股座の様子を開陳しようなどとは一昨日まで考えた事も無かったのだ。  
 「ふふふ、毛深い女は嫁にするなら大歓迎じゃが、患者としてはちと困るのう。こうも濃くては診察にも支障が出てくるわい」  
 彼女の劣等感をジクジクと苛む老医の言葉。葵は申し訳なさそうに項垂れるばかりであった。  
 「ほうっ! 人の三倍もオナニーはするわ、うら若いのにGスポットが感じると抜かすからどれだけ崩れたオマンコかと思うておったが……こりゃあ見事なもんじゃわい。さすがに二日前まで処女だっただけの事はあるのお」  
 そんな部分を褒められても嬉しくもなんとも無い。むしろそうしてあからさまに己の生殖器官を批評される恥ずかしさに穴があったら入りたいとさえ葵は思った。  
 「だが此処の良し悪しは外からだけでは判らんからのう。五十年もの間、飽きるほどオマンコを見てきたワシが言うのじゃから間違いないて。  
どんなに美人でも心根が卑しければ、最初のうちこそチヤホヤされようが、いずれは男共にそっぽを向かれてしまう。  
オマンコも一緒じゃ。裏ビデオに出演してオマンコをおっぴろげるAV嬢ならそれだけでもよかろうて。じゃがのう、どんなに造りが綺麗でも結局は中に挿れた時にどれだけ男を悦ばせる事が出来るかがオマンコの全てじゃよ」  
 オマンコ・オマンコ・オマンコと連呼されて、葵はそれが女性器の事を指すのだとようやく合点が行った。何だか良く判らない女性器哲学を聞かされる葵の背筋が総毛だった。  
 「どれ、葵さんの持ち物の性能はどうかね。見掛け倒しでなければ良いがのう」  
 老医は薄いゴム手袋を両手に嵌めると葵の陰唇をその指先で摘んだ。  
 「ふむ、モチモチとしていながらしっとりと吸い付くような肌理の細かさ。肉付きも厚くてふっくらした土手高。上物じゃな」  
 
 まるで料理を評するが如き老人の口調に、耳を塞ぎたくなる葵。だが、彼女の手は椅子の肘掛にガッチリと固定されていて動く余地は無い。  
 「どれ、肝心の中身はどうじゃな……ほうっ……」  
 陰唇を寛げて内側を覗き込むと、五十年のキャリアを持つ流石の老医も感嘆の溜息を漏らしたきり、黙りこくってしまった。  
丁寧に折り畳まれた薄い肉襞が幾重にも膣孔を取り巻いている。非の打ち所の無いシンメトリー。高貴な気品と清楚な色香を漂わせる肉の芸術。美しい桜色の肉で織られた薔薇だ。  
 鮮やかなサーモンピンクの膣肉が目に飛び込んでくる。  
処女か、若しくはまだ余り使い込まれていないヴァギナの瑞々しい色艶は男のペニスに馴染んでしまった性器には決して真似の出来ない透明感を滲ませている。  
 (これ程のオマンコ……五年、いや、十年に一度診られるかどうかの上物じゃて!!)  
 老医は左手で陰唇をVの字に寛げながら、右手の手袋を口を使って外した。これだけ極上のオマンコを見せられ直に触れるなというのは酷な話だった。  
 肉裂の上端には細長い莢に包まれた雌芯が鎮座している。  
 「葵さん、ここはもう剥けておるのかな?」  
 老医の指先で包皮の上から肉芽をツンツンと小突かれると、思わず葵は腰を浮かせてしまう。  
 「あふうっ……わっ、判りませんッ……」  
 老人の指がクリクリと肉芽を転がす。ガクガクと腰を震わせて仰け反る葵。  
 「恥垢が溜まっておるかもしれんからのう。念の為に綺麗にしておこうかの」  
 老医は手馴れた指先で葵のクリトリスの包皮をクルリと剥き上げた。  
 「ほう。しっかりと剥け癖が付いておる。お豆の直径は……」  
 老医は傍に置いてあったノギスを手にするとその先で葵の女芯を挟んだ。冷たい金属製の計測器具を剥き出しの感覚器官に押し当てられて葵は仰け反った。  
 「ひあッ!?」  
 「直径は3ミリ。うほほほほ、随分と初心いお豆じゃのう」  
 老医が期待していた恥垢の付着は無い。  
 「ココは彼氏に舐めて綺麗にしてもらったのかね?」  
 「ちっ、違ッ……」  
 頭を振って否定する葵。断じて、断じて彼氏などではない。  
 「それにしては綺麗なもんじゃ。毎晩風呂で皮を剥いて指で洗っておるのかな?」  
 早朝の出来事が脳裏に甦る。葵は黒髪を振り乱して必死に否定した。  
 「おや、皮の裏側にちょっと恥垢が溜まっておるな。ついでに洗浄しておこうかの」  
 老医は手にした綿棒の先にに消毒用のアルコールを含ませるとクリトリスの根元をほじり始めた。  
 「ひうっ……沁みますッ……」  
 「ほっほっほっ、暫くの我慢じゃ」  
 包皮を捲り返して裏側の恥垢を丹念にこそぎ取る。  
 「葵さんも大人の女の仲間入りをしたからにはココの身だしなみにも気をつかわんとな。ほれ、これで一丁上がりじゃ」  
 老医は立ち上がりながら、綺麗に磨き上げられた肉真珠をピンと小指で弾く。  
 「っ!!」  
 
 声も上げられずに仰け反る葵。  
 「ほっほっほっ、すまんすまん」  
 そう老医は言い残して席を離れた。白い下腹を波打たせてゼイゼイと荒い息を吐く葵。呼吸を整える暇もなく老医が戻ってきた。両手で何かを持っている。  
 「さて、葵さん。これを見なされ」  
 葵は老人が傍らに乗せた物に視線を向けた。白いアクリル製の台座の上にニョキニョキと様々な長さと太さのピンク色の円柱が突き出している。  
どれも先端は丸く、円柱の表面には蚯蚓がのたくったような奇妙な紋様が浮き出ている。  
 「……?……」  
 「彼氏の持ち物はどれぐらいの大きさだったかね?」  
 葵はもう一度老医の持ってきた物を見た。  
 「っ!!」  
 それは男性の生殖器だった。細くて短いのから太くて長いモノまで、様々な模造ペニスが林立しているのだ。  
カァッと頬が灼けた。頭がクラクラするのと同時に、葵はある事に気が付いて愕然とした。  
 無い。無いのだ。  
 ニョキニョキと並び立つペニスの中でも最も大きいモノでさえ、彼のペニスには遠く及ばない。  
それどころか彼に比べれば一回り小さいと感じた薫のモノでさえ、標本の中でも最大のモノより一回り以上も大きいのだ。  
 最大の模造ペニスの根元には3Lの文字が掘り込まれている。一体じぶんはどれだけ桁外れのモノで処女を散らされたのか。今更ながらに膝頭が震えた。  
 「あ、あの……これより大きいサイズというのは……」  
 恐る恐る尋ねた葵に老医はにべもなく答える。  
 「コレよりもかね?」  
 老人が指先で摘み上げたペニスを見て葵が頷く。  
 「コレより大きいモノとなると、日本人ではまずお目にかかれんじゃろうて。ん? なにかな? 葵さんの彼氏は毛唐か黒んぼかの?」  
 如何にも戦争を体験した世代の物言いに葵は眉をひそめながら首を左右に振った。  
 「ふむ、それ程大きなモノだったかね、わっはっはっはっ……」  
 大笑いをする老医。だが葵はそんな事さえも気に掛けている余裕が無かった。葵が見た事のあるたった二本のペニスの両方が両方とも規格外の大きさだったのだ。  
葵は自分の見たモノが何かの幻だったのではないのかと疑いさえした。いや、間違いない。間違いない筈だ。脳裏に浮かんだ二本のペニスが葵の頭の中でグルグルと回転していた。  
 一方、老医の方では葵の証言を戯言だと決め付けていた。恐らくは処女の恐怖心が相手のペニスを実際以上に巨大に見せかけたに違いない。暗い褥でチラと垣間見ただけなら尚更だ。  
 「さて、今度はもっと奥を診ようかのう」  
 物思いに耽る葵を余所に、老医はしわがれた中指を彼女の膣にインサートした。  
 「はうッ!!」  
 不意を突かれた葵が悶絶する。  
 「ぬっ、抜いて下さいッ、先生ッ……」  
 涙目になって葵が懇願する。  
 「ふっふっふっ、ぶっとい彼氏のチンポに比べたらこんな爺の指一本ぐらいどうと言う事もないじゃろう?」  
 膣内を指でグリグリと捏ね繰りまわされると葵は何も喋れなくなってしまう。ただ腰を震わせて老医の触診に耐えるばかりだ。  
 
 「おほっ、随分とお湿りが多いのう。オッパイもオマンコも感度良好じゃわい……これこれ、爺の指を締め付けるなとオマンコに行って聞かせんかい。  
食いしん坊なオマンコじゃの。彼氏のぶっといオチンチンと枯れ枝みたいな爺の指を間違えて食いついてきよるわ。  
釣りで言えば入れ食いと言う状態じゃな。葵さん、家に帰ったら彼氏にたらふく食わせてもらうんじゃぞ。オマンコはだいぶ飢えておるようじゃからのう、わっはっはっはっはっ」  
 締め付けているつもりも無いのに、勝手に肛門括約筋が膣を絞るのだ。本当に自分は飢えているのか。ペニスを咥え込みたくてウズウズしているのか。絶望感が葵の心に暗雲のように広がってゆく。  
 「どれ、葵さんの一番感じる場所は此処で間違いなかったかの?」  
 膣内で鉤状に曲げられた老医の指が膣の天井の一部を引っ掻いた。  
 「くはッ!!」  
 ヘッドレストに後頭部をのめり込ませて葵が悶絶した。椅子がギシギシと軋みを上げるが葵の四肢はびくともしない。  
 「ほっほっほっほっ、コリコリしてきたわい。潮を吹いても良いんじゃぞ。彼氏に潮は吹かせてもらったのか?ん?ん?」  
 訊かれたところで、葵はひぃひぃと喘ぐばかりで答えられる状況ではない。  
 「うら若き身空を余り我慢させておくのも酷じゃのう。どれ、爺のテクニックで昇天させてやるわい」  
 内側からは中指でGスポットを擦られ、外側からは親指の腹でクリトリスを揉み潰されながら転がされる。両面同時愛撫の曝された葵の腰がガクガクと震えている。  
全身を汗みどろにして仰け反る肢体。葵が躯を震わせるたびにたわわな胸の膨らみの頂点で尖る乳首がプルプルと揺れた。  
 薄手の白衣はベッタリと素肌に張り付き、染み込んだ汗が布地を透かせた。もっとも秘匿するべき女の恥部はもとより曝け出されている。  
上気してボウッと桜色に染まる肌が濡れた布地一枚を張り付かせているのは、むしろ全裸でいるよりも鮮烈なエロティシズムを喚起した。  
 「往く時は往くと言うのじゃぞ。葵さんがどれぐらいの刺激で昇天するのかも妊娠しているかどうかを判断するのに重要な点じゃからの」  
 全くの出鱈目を葵の耳に吹き込んで女が気をやる瞬間をその唇で告げさせようというのだ。  
 葵は老医の言葉を理解しているのかいないのか、只ひたすらに自由を制限された身体を精一杯に揺さぶっているだけだ。  
 老医の指の動きが一段と激しさを増した。  
 「〜ッ!!〜ッ!!〜ッ!!」  
 クイクイとはしたなく腰を突き出してしまう葵。  
 「おほっ、なんという締め付けじゃ。こんな可愛い顔をしよってとんでもない名器じゃわい!」  
 老人が感嘆の声を上げた。  
 「せっ、先生ッ、駄目ッ、往きッ……往きますッ、往きますうっ!!往きッ……!!!」  
 腰を虚空に突き出して葵は絶頂の瞬間を告げた。熱いゆばりのような愛液が老医の皺々の掌に勢い良く噴き出す。  
 「ほう、生きが良いわい」   
 都合三度、老医の手の中に愛液を迸らせた葵は四肢を突っ張らせて痙攣した。老医の中指をこれでもかとギリギリと締め上げる。  
 糸の切れた操り人形のように葵の尻がストンと椅子の上に落ちるのと同時に老医の指を咥えていた肉の締め付けもふわりと緩んだ。  
 老医はしとどに濡れた中指をチュポンと引き抜くと、ヌラヌラと愛液に塗れたそれを、半開きで余韻の熱い吐息を漏らす葵の唇に捻じ込んだ。口に挿れられたモノを反射的にチュウチュウと吸ってしまう葵。  
 「大往生じゃったのう。良い往きっぷりじゃわい。どれ、自分の愛液の味はどうじゃな?ん?」  
 葵は力無く頷く。  
 「そうか、美味いか美味いか、くわっはっはっはっはっはっはっはっ……」  
 朦朧とする葵の意識の中で老医の高笑いがこだました。  
 

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